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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第二章

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第六十七話  追憶令嬢13歳

ごきげんよう。レティシア・ルーンですわ。

ステイ学園の2年生です。


野外訓練も無事に終わり、宿題の反省文を提出しました。

私の反省文を読んだエメル先生より考えが足りないことと周囲への警戒を怠っていたことを指摘されました。三人で行動しなかったことばかり書いてましたわ。書き直しはいらず、補講はしなくていいそうです。私の落ちこぼれへの道がどんどん進んでいきますわ。

落ち込むよりも前を向く方が大事ですわ。落ち込んだと言えば私は思い出しました。

まだ授業まで時間があるので、5年1組の教室に来ています。

周りの視線を感じますが気にしません。2年の私が来るのは物珍しいですから仕方ありません。


そっと教室を覗き込むと探し人はいません。まだ登校されてないんでしょうか。


「ルーン嬢?」


呼ばれた声に振り返るとそこにはお会いしたかったサイラス・グランド様がいました。リオのお友達で、私にとっては頼りになる先輩ですわ。今日は運がいい日ですわ。


「訓練お疲れ様。リオならまだ来てないけど」


微笑む顔に笑みを浮かべて礼をします。


「ありがとうございます。おはようございます。グランド様にお会いしたく伺いました」

「お、俺?」


グランド様が困った顔をしています。やはり面会依頼を出すべきだったでしょうか。次からはきちんとしましょう。


「先触れもなく申し訳ありません。グランド様のお時間があるときで構いません。いつでも構いませんのでお時間を作っていただけると」

「いや。今でも大丈夫だよ。どうしたの?」


謝罪の言葉はそっと遮られ、困った顔がいつもの穏やかなお顔に変わりました。


「ありがとうございます。リオの慰め方を教えてくださいませ」

「は?」

「落ち込んだ時、どうすればいいかわからなくて…。どうして笑ってますの!?」


噴き出す音の次に聞こえたのは笑い声。グランド様が突然お腹を抱えて笑いはじめました。


「ごめん。怒らないで、バカにしてないから。怒った顔しないの。公爵令嬢でしょ?」


うっかりエイベルにするように睨んでしまいましたわ。公爵令嬢たるものいつでも優雅であれですわ。そして弱気な令嬢も睨んではいけませんわ。まだ野外訓練の感覚が抜けてませんのね。令嬢モードで武装して笑みを浮かべて礼をします。


「失礼しました」


笑っているグランド様に穏やかな様子を崩さずに見つめます。


「リオの傍にいてあげなよ。それでリオは元気になるから」

「なりませんでしたわ。それは私ではなくグランド様だからだと」

「ありえないから。いつもみたいに大好きって伝えて抱きつけばすぐ復活すると思うよ」


楽しそうに笑うお顔で話している言葉はすでに効果のなかったものばかり。私には無邪気さも可愛らしさもありません。そこまでお伝えするのは恥ずかしいですわ。令嬢は自分の価値を高めてこそで、欠点を自分から教えることはほぼありません。


「駄目でしたわ」


笑いが止まると驚いた顔で見られました。私ができなかったことがそこまで珍しいのでしょうか。


「駄目だったの!?じゃあリオの目を見て褒め殺しにしてみて」


それはまだしたことがありません。ですが


「褒め殺しですか?」

「効果抜群だから。あとは、用がなくても会いに来てあげてよ」

「邪魔ではありません?」

「絶対にない。会いたかったって言えば機嫌良くなるよ。今回みたいな課外授業の後は特に。信じてないな。試してみて。俺に教わったのは内緒だよ。丁度いい」


グランド様が悪戯っぽい笑みをしました。

肩に手が置かれ、クルリと体の向きを反転させられ、強い力で背中を押されました。紳士らしくない行動に驚き、頭が動くよりも先にバランスが崩れて、転びそうになり痛みに目を閉じました。

公爵令嬢が転ぶなんて醜態ですわ。


「大丈夫か?」


痛みはなく、ふわりと何かに包まれており目を開けるとリオに抱きとめられています。

転ぶのは優雅でありません。醜態をさらさずにすみ、思わずふぅっと安堵の息が漏れました。


「ありがとうございます」

「サイラス!!」


リオが冷たい声で涼し気な顔でグランド様を睨んでますわ。物凄く機嫌悪いです。私も負けずにグランド様に抗議の視線を向けるといつもの笑みを返されました。そしてリオに睨まれているのにグランド様は視線を私に向けて訴えてきます。リオに睨まれても動揺しないなんて流石ですわ。私なら逃げ出したいですわ。

私から視線を逸らさないグランド様にため息を我慢してリオのシャツを引っ張って、背伸びをして銀の瞳を見つめます。


「会いたかった」

「は?」

「会いたかったんです」

「なにかあった?」


私を探るように見るリオに嫌な予感がします。これ駄目ですよ。疑われてますわ。グランド様に視線を向けるとそのまま続けてと言われました。リオに報告するようなこともなく、特に用もないのですが、


「リオ兄様にお会いしたく、」

「俺に?」


グランド様が頷いてと言ってきます。


「はい」

「そっか。俺も会えて嬉しいよ。ありがとな」


銀の瞳が細められて優しく笑うリオの機嫌が直りましたわ。状況はよくわかりませんが、さすがグランド様ですわ。リオの機嫌を取るのもグランド様にとっては簡単なんですわね。確かに色んな方法を提示してくださいましたわ。もしかしたらグランド様にとってはいつものことなんですかね。


「朝早くにごめんなさい。もう戻りますわ」

「送る」

「いえ、お気持ちだけで」


リオの腕から抜け出し、礼をしようとすると頭にポンと手が置かれました。


「シア、訓練お疲れ様。無事でよかったよ」


頭を優しく撫でる手に安堵したのは一瞬でした。訓練という恐ろしい言葉に忘れていた現実が……。

成績が……。


「シア?どうした?」


撫でる手が止まり、怪訝そうな顔で覗き込まれます。放心してる場合ではないので、令嬢モードの笑みを浮かべ礼をします。


「なんでもありません。そろそろ授業に遅れるので失礼します」


リオに疑われてます。グランド様、笑ってるなら助けてくださいませ。視線を逸らされたのは駄目ですわ。もう撤退ですわ。


「送る」

「生徒会役員が授業に遅れるのはいけませんわ。お気持ちだけで結構ですわ。では」


強引ですが仕方ないですわ。お説教される前に優雅に急いで教室に向かいましょう。

教室に入ると可愛らしく笑うハンナとステラに挨拶され、力が抜けました。相変わらず変な設計図に夢中なセリア。変わらない光景に笑みがこぼれました。朝から疲れましたわ。





放課後はアナ達のところに向かいます。学園内には生徒も多いので目立たないように気配を消して人の少ない道を選んで向かいます。

もうすぐ試験ですがアナ達なら大丈夫だと思います。


「レティ様!!」


1年3組の扉を開けて教室の中に入るとアナに抱きつかれます。アナは小柄なのでしっかり受け止められますよ。

抱きつかれるのはエディで慣れてます。最近はエディの身長がどんどん伸びて行くのが切ないですわ。4歳も離れていますのにいつまで私のほうが大きくいられるのでしょうか。


「アナ、久しぶりですね」

「はい。会えて嬉しい」

「私もです」

「アナ、ずるい。レティシア様独占」

「えへへ」


明るいアナを羨ましそうに見ているお淑やかなリナの頭を撫でると頬を染めてはにかんだ笑みが可愛いです。可愛いは癒しですわ。私にはないものなので余計に思うのかもしれませんわ。人は無い物ねだりをする生き物ですわ。


「女子ずるい。レティ様、教えて欲しいところがあるんです」

「わかりましたわ。アナ、座ってください。始めましょう」


羨ましそうに見るロンに笑みを浮かべていつも通りお勉強を始めましょう。

最初は単語の意味もわからなかったのに、よくここまで。後輩達は飲み込みも早く向上心もあり将来有望です。

将来、殿下のためにスカウトしようかしら。

しませんわ!!危ないですわ。生前の習慣が・・。気をつけないといけませんわ。いつになったら体から抜けますのよ。私は王家と関わりません。腹黒も変態も嫌ですわ。


「あれ?ルーン嬢?」


3組に私をルーン嬢と呼ぶ方はいないはずです。ルーンの瞳の色は有名なので上位貴族なら私がルーンと気づくのは当然ですが平民や下位貴族は知りませんわ。呼ばれた声に視線を向けると1年生にしては大柄な体に綺麗な茶色の瞳。見覚えがないですが目元が誰かに似ている気がしますわ。


「ノア・グランドです。兄がお世話になってます」

「いえ」


礼をしたのはグランド様の弟君?

綺麗な瞳の色の理由がわかりましたわ。

上位貴族のグランド伯爵家が3組ですか?それは許されますの?


「ルーン嬢、素直なんですね。煩わしいのが面倒で3組に、上が優秀で俺は三男だから気楽なんです」



笑っている顔はお兄様のサイラス・グランド様に似ていますわ。とりあえず、グランド伯爵子息で間違えないようですわ。


「素敵な考えですね。羨ましいですわ」


目の前の驚いた顔に私はうっかり本音を零したことに気付いて慌てて淑女の笑みを浮かべてごまかしました。


「え…?ルーン嬢はどうしてこちらに?」

「お勉強のお手伝いですわ」

「ルーン嬢自ら?」

「はい。先輩ですから」

「俺もご一緒しても?」


誘われる言葉に断る理由はありませんが念のため笑みを浮かべて忠告をします。


「構いませんが意地悪はしないでくださいませ」

「そんなことしませんよ」


私を見つめ返す瞳には嘘はなさそうです。それでも念の為、


「この件は広めないでくださいね。アナ達に迷惑をかけてしまいますので」

「わかりました。貴族のしがらみですね。兄と紛らわしいのでノアで構いませんよ」

「わかりましたわ。ノア様」


お勉強仲間にノア様が加わりました。

教えるのはいいんですが、ノア様の解いてる問題が試験範囲より先なのはどうしてでしょうか……。

質問されることが試験と関係ないんですが…。

武術や戦術の質問は不得手です。私は王国の騎士の特性なんて知りませんわ。

後輩に負けないように私もしっかりと勉強しないといけません。

エイベルの部屋には戦術の本が多いので借りに行きますか?エイベルの部屋の資料を読み漁ればノア様の質問にも余裕で答えられますか?多少のイレギュラーではありますが、私にとって癒しの後輩達との勉強会です。この時間が近い未来に壊されるなんて思いもしませんでしたわ。そして、予想外な質問ばかりする後輩が物凄くマイペースな方だと知ることも。


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