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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第二章

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第六十六話 後編 追憶令嬢13歳

ごきげんよう。レティシア・ルーンですわ。


私は野外訓練中です。

クラム様が先生に猪を差し入れに行っている間に食事の用意をしています。

全ての料理が出来上がる頃にはクラム様達が帰ってきましたわ。

気持ち良く食べる姿を眺めながら大量に作った串焼きがほとんどなくなりました。青空の下で食べる食事は美味しいですが胃袋の容量は変わりません。食べる量が少ないと言うエイベルの言葉は流します。

まだ余りはありますが、朝食分は狩りに行ったほうが良さそうですわ。


食事を終えたクラム様は大柄な体を大の字にして目を閉じました。ぐっすり眠る姿は子供のようでつい笑みがこぼれますわ。


「ニコル様、クラム様をお任せしても?」

「うん。いってらっしゃい。狩りはクラムが起きたら僕らが行くよ」

「鳥か兔でお願いできます?」

「うん。分かった。任せてよ」


ニコル様がいれば安心ですね。二人も狩りができるとは知りませんでしたわ。

食後の運動も兼ねて果物や草を探しに行きましょう。

護身用の弓と剣と袋を持って出発します。無言で付いてくるエイベルは気にしません。

高い木の果物を弓で落として収穫します。香草を見つけて採集していると、冷たい風に気付いて顔を上げると綺麗な夕焼け空が広がっています。

夢中になっていたことに反省して、採集したものを袋に詰めて急いで帰らないといけません。

足早に進むと気配がして視線を向けると、白い何かが・・。

ゾクリと寒気が走り、手が震えています。


「無理ですわ」

「おい、どうした?え?ちょ、待て、離れろ、頼むから」


近付いてくる長いものに、肩に置かれる手、ギュっと抱きつく。また死んじゃう。


「落ちつけ、顔、真っ青!?」

「死んじゃう、だめ、りおにいさま、さわっちゃだめ」

「蛇なら弓で一発だろうが。必死に首振るなら逃げればいい。わかった、俺がなんとかするから、離れろ、邪魔だ」

「だめ、しんじゃう、」


銀の瞳が閉じられ倒れるのは、


「だめか。仕方ない。風の刃よ切り裂け、

ほら。もう近づいてこない。大丈夫だから、泣くなよ、どうしたんだよ」



「すいません。お邪魔しました」

「違うから!!勘違い、邪魔じゃないから。ここにいて。マールに言うなよ」

「泣いて、抱き合う二人を見たら。さすがに、ねぇ?」

「お前は放心してないで正気に戻れ」

「レティシア嬢の頬をつねらないでください」

「レティシア、大丈夫だから、怖かったな」

「う、しんじゃう」

「死なないから、もう大丈夫だよ」

「いない?」

「いない、いない」

「レティシア!?」


視界が真っ暗に…。






目を開けると真っ暗な空が見え、知らない景色に慌てて起き上がる。

左腕に見慣れた腕輪。拘束具はつけられていません。

周囲を見ると、紺色の髪を見つける。蜂蜜色がないことにほっとしながらも、警戒は緩めません。思考を止めたら終わりです。監禁・・?

紺色の髪の男が振り返り見覚えのある明るい笑顔のクラム様を見て、強張った体の力が抜けました。


「起きたか。大丈夫か?」

「クラム様?」

「おう。疲れて寝落ちした」


ようやく頭が動き出して、野外訓練中だと思い出しました。ニコル様も近づいてきたので、二人に頭を下げます。


「ごめんなさい」

「気にしないで。気分はどう?」

「大丈夫です。私はどうして…」

「疲れてたんだよ。食事にしようよ」

「何から何まですみません」

「お昼はレティシア嬢が作ってくれたからお互い様だよ」

「ありがとうございます」


ニコル様が伸ばす手を取って立ち上がり火の側に座り、渡されたスープに口をつけると体が温まります。焼いてあるお肉を一切れと果物を食べました。

ニコル様達は兎を捌けたんですね。知りませんでしたわ。


「レティシア、元気になったな」


クラム様の笑顔はなぜか安心します。


「お世話になりました」

「たまには令嬢らしくていいと思うぜ」

「令嬢らしく、守られ役もいいよね。むさ苦しい男と違っているだけで華やかになるから」


気にしなくていいと冗談を言うニコル様とクラム様は優しいです。それでも甘えてはいけません。


「ありがとうございます。明日はしっかり働きますわ」

「ほどほどでいいよ」

「私はたくさん休みましたので火の番をします」

「クラムも昼寝してたから、気にしないで」

「レティシアは体力がないから最後な。俺、ニコル、レティシアの順で」

「ニコル様。きちんと起こして、交代してくださいね」

「わかったよ。片付けも終わったし休もうか」


片付けも終えたので、火の番をクラム様にお願いして寝袋に入ります。

外の外気を遮断し温度調整された結界のおかげでテントは必要ありません。満天の星空が美しく、ずっと眺めていたいですが、早く眠らないといけないので目を閉じます。

外で眠るなんて生前の私にはありえない光景ですわ。







眩しい光に目を開け、辺りを見渡し首を傾げる。

起き上がると火が目に入り、ようやく現実を思い出しました。解いてある髪をリボンで結んで、座っているニコル様に近づきます。


「ニコル様、交代しますわ」

「ありがとう、よろしくね」


笑顔のニコル様に起こしてくれなかったことを文句を言うことはしません。

私は今回も二人に甘えてばかりでしたわ。寝ずの番もきっとクラム様とニコル様の二人で回すつもりだったんでしょう。ただでさえ足手まといなのに。

お勉強したのに役立たずですわ。薪を投げ入れると激しく燃える炎を見ながらぼんやりと時間が経つのを待ちます。


「落ち込んでるのか?」

「エイベル、起きましたの?」

「あぁ」


昨日の記憶は途中からありません。それでも最後に一緒にいたのはエイベルです。たぶん運んでくれたんでしょう。


「ありがとうございました」

「気にするな」


横に座るエイベルも綺麗な瞳に整った顔立ちをしています。


「軽口を叩かなければ素敵なのに残念ですね」

「おま!?まぁいいや、元気になってよかったよ」


すぐに眉間に皺が寄るところは残念ですが今は私的はやめましょう。


「ありがとうございます。4年前も貴方に助けてもらって、今回も。なかなか成長しませんわ」

「苦手なものの一つや二つは誰にでもあるから気にするな。ちゃんと成長してるよ」


エイベルの頭の撫で方は乱暴ですが、元気がでます。淑女の髪を乱れるほど乱暴に撫でるのは紳士としてはいけませんが、リオよりも大きく固い手は嫌いではありません。


「監督生になれたら稽古をつけてくれますか?」

「許可が出ればな」

「約束ですわ」

「妹弟子の頼みだから仕方ない」


今日のエイベルは優しいです。迷惑そうな顔で即お断りされると思っていましたわ。

頭に置かれたエイベルの手がなくなりました。隣に座っていたエイベルが立ち上がるとクラム様が起きてきました。


「おはよう」

「クラム様、おはようございます。ニコル様はしばらく寝かせてあげてください。朝ご飯の用意をするのでニコル様をお願いできますか?」

「大丈夫そうだな。気をつけろよ」

「はい。行ってきますわ」


まだ眠そうなクラム様に元気に手を振って弓を持って出発です。

鳥を一匹ほど飼って、捌いて帰り朝ご飯の用意を始めました。料理が終わる頃にはニコル様も起きられました。4人で朝ご飯を食べました。

クラム様が体を動かしたいと言うのでエイベルが付き合っていました。羨ましいですが私は体力がないので参加しません。ニコル様とぼんやりと二人の様子を眺めていました。

お昼には集合しないといけないのに訓練に夢中な二人をニコル様が華麗に止めました。監督生見習いってニコル様でしたっけ?でも今回はエイベルにもお世話になったので突っ込むのはやめましょう。

クラム様とニコル様の後について集合場所を目指していると気配がしました。

振り返って足を止めると熊がいました。

弓矢を構えて心臓を狙って放ちます。狙い通りに刺さりバタンと倒れましたがまだ油断をしてはいけません。


「クラム様、魔法で燃やしてもらえませんか?」


立ち止まったクラム様が振り向いて驚いた顔をしました。


「燃やす?いいけど、熊!?」

「命を奪うのはいけませんが、熊は危険なので討伐しないといけませんわ。捌けませんし、持って帰るには重たいです。他の獣が寄ってきても大変ですので」

「クラムに処理させるのはいいんだけど、熊を見つけた時に一言教えて欲しかったかな」

「気づいたら、弓に手が」

「バカ?」


隣の呆れる声の主をじっと睨みます。自分だって剣に手を当てていたのを私は知ってますわよ。


「エイベルだって、気づいてたのに?」

「俺はいいんだ。お前はチームで行動している意味をわかってんのか?」

「すみませんでした」

「わかればいい」


偉そうなエイベルに頭を下げます。物凄く悔しいですが今回は仕方ありません。私がエイベルと話している間にクラム様が魔法で熊の亡骸を燃やして弔ってくれましたわ。

そして、野外訓練は幕を閉じました。

学園に戻ると私はエメル先生に呼び出され、反省文の宿題が出ました。呼び出されたのは私だけでした。

品行方正、成績優秀を目指しているのに大丈夫でしょうか。

今期の武術の成績が心配でなりません。留年なんてことになったら恐ろしいです。

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