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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第二章

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第六十六話 前編 追憶令嬢13歳

ごきげんよう。レティシア・ルーンですわ。

ステイ学園の2年生です。



1泊2日の野外訓練のため王都の外れにある森にいます。

2年生の武術の授業ですが、安全のため王宮騎士団が護衛として配置されています。賊や外敵の排除、緊急時以外は王宮騎士団は動きません。

2年生は3人一組でチームを組み、監視役として監督生見習いが一人随行します。

私達は授業ですが監督生見習いは監督生試験の一つです。

主体は2年生ですが、サポートし無事に演習を終えられるように導くのが監督生の試験内容です。

監督生見習いは私達には関与しないので当日まで誰が担当するかはわかりません。

道具は自分達で学校にある備品から選びます。

野外授業の話は一年生最後の短期休みの前に教えられたのできちんと勉強しました。動物の捌き方も、山での生活もきちんと教わってきましたよ。

森籠りも2回目ですので、リオに魔石をもらい準備万端です。リオにもいくつかアドバイスをもらいました。

女生徒には特別に連絡用魔石が与えられています。

起動させれば騎士団が駆けつけてくれます。男性ばかりなので間違いがおきないようにとのことです。必要ありませんが規則なのでポケットに入れてあります。リオにも必ず持ち歩くように厳しく言われました。セリアのポシェットも忘れないようにとも。

先生方も近くにテントを張り水晶で様子を見ているそうです。ずっと監視されているので羽目を外さないようにということですね。何はともあれ楽しみです。


メンバーはクラム様とニコル様と一緒なので何も心配はいりません。先生の話も終わり、監督生見習いが振り分けられ解散になりました。

問題なのは監督生見習いです。


「エイベルが監督生って・・・。サポート期待できませんわ」


落胆のため息をつくと呆れた顔で見られています。呆れた顔をしたいのは私ですわよ。

監督生の試験は武術に優秀な生徒が受けています。もしかしたら強くなる秘訣等教えていただけたらと淡い期待がありました。私の知り合いの監督生のグランド様もリオも強いですから。

私の期待を返して欲しいですわ。


「お前・・。俺以外が監督生だったら一日中猫を被らないとだろ?むしろ感謝して欲しいんだけど」


猫ってなんですか?そんなことより現状を認識できずに偉そうな事を言うエイベルに呆れますわ。


「森で何もできない方に何を感謝しろと?」

「もう狩りもできるし、鳥も捌ける。魚だって釣れるよ。火おこしだって」


堂々と言うエイベルの言葉に感動し、目頭が熱くなりました。ポンコツだったのに・・。


「成長しましたのね。私、泣けてきましたわ」

「4年前の俺と一緒にするな。お前はあんまり変わらないけどな」

「私だって鳥は捌けますわ。リオと練習しましたわ。猪と熊は無理ですが」

「お前は何を目指すんだよ。誰が猪と熊を捌けるんだよ!?」

「打倒エイベルですわ。リオはなんでも捌けますわよ」


「二人ともそろそろいいですか?移動したいんだけど」


ニコル様の声に周りを見ると気付いたら人がいません。


「打倒エイベルなのに仲良いよな」

「クラム黙ろうか。ビアード様よろしくお願いしますね」


ニコル様とクラム様が二人で内緒話をしています。そしてニコル様がエイベルに向かって頭を下げました。


「少しはスワンの態度を見習えないのか?」


偉そうなエイベルを睨みつけます。敬意を払って欲しいならもっと成長なさいませ。殿下の表情が読み取れないなんてありえませんわ。あんなに説明したのにバカにした顔で見られるだけで時間の無駄に終わりましたわ。


「うるさいですわ。エイベルには敬意はいりません」

「おまえ」

()()()()


ニコル様の低い声にゾクリと寒気がして頭を下げます。


「ごめんなさい」

「わかればいいよ」


最近、ニコル様が黒さを隠さなくなりました。貴族の殿方は基本腹黒なんですの!?

クラム様とエイベルは違いますが。これ以上は怒らせないように足を進めましょう。まずは眠る場所探しですわ。


「地形的に洞窟はなさそうですね」


ニコル様と話しながら水の気配を探ります。休むなら水場の近くが最適ですわ。

水の気配を辿って歩くと澄んだ湖を見つけました。

湖から少し離れた所に平坦な砂場があります。指を差してニコル様とクラム様に提案すると頷きました。


荷物を置いて、魔法陣とリオの魔石を配置して、大きい風の結界を作ります。これで安心ですわ。荷物整理を始めましょう。

荷物の中から袋と弓と剣を取り出します。


「私は食べ物を探してくるのでクラム様は薪を集めてもらっていいですか?」

「一人で平気か?」

「大丈夫です。ニコル様は水の確保をお願いします。行ってきますね」

「気を付けてな」


二人に手を振って出発すると呆れた顔のエイベルが付いて来ました。


「お前、一人で行くのかよ?」

「二人の前で鳥を捌くのは躊躇(ためら)いますわ。二人は血に見慣れてないでしょ?昔の誰かみたいに」


以前、エイベルは動物を捌く光景を青い顔で見ていました。悪戯っぽく笑いかけると眉間に皺が寄りました。


「それでも危ないだろうが」


森での単独行動は厳禁です。でもたぶん付いてくるってわかってましたもの。


「エイベルがいますもの。大丈夫ですわ。これは違反ですか?」

「大丈夫だろうけど」

「では出発ですわ!!」


苦笑するエイベルに明るく笑いかけて足を進めます。監督生見習いの監視を利用してはいけないとは言われてませんもの。

歩きながら果物や薬草を採集して袋の中に。

風を感じて空を見上げると鳥を見つけました。弓を構えて心臓を狙って矢を放つと空から落ちてきました。もう一本、矢を放って地面に落下する前に木に張りつけに。

空から落ちる鳥が地面に直撃すればせっかくのお肉が台無しですわ。私は綺麗な鳥の捌き方しか知りませんので。

もう一匹見つけたので同じように仕留めます。私は武術は苦手ですが弓だけは人並みだと思います。

仕留めた鳥の羽を剥ぎ、血抜きをします。血抜きをしている間に採集をします。血抜きが終わったので捌きます。

捌き終わってから私は自分のうっかりに気付きました。

クラム様を連れてくれば良かったです。後で見ているポンコツに振り返ります。


「エイベル、どうしよう……」


視線で先を促されます。

私の目の前には大量の肉があります。そして袋の中は採集したもので満杯です。


「せっかく捌いたのに、こんなに一度に持てません。往復しますから見ててくれますか?命を無駄にするのはいけませんわ」

「バカ?」


一度に持てる量を失念してましたわ。狩りをする時はは護衛騎士も配置されていたので・・。ほとんど自分で荷物を運びません。でも偉そうなエイベルの物言いはイラッとしますわ。


「うるさいですわ」

「なんで俺がお前に同行してるんだよ?」


呆れる声でバカにしたような視線を向けられ、視線を逸らします。


「何かあったら危ないから」

「お前を一人で行かせる選択肢は?」

「すみませんでした」


今回はエイベルが正しいので頭を下げます。ため息が聞こえて顔を上げると苦笑してます。


「俺が運ぶよ」

「いいんですか?」

「俺の役目はお前達が安全に演習を終えられるようにすることだから」


ありがたい提案に笑みを浮かべます。力のあるエイベルなら一人でも全部運べますわ。


「ありがとうございます。お兄様と一緒で心強いですわ」

「調子がいいな。手のかかる妹を持つと苦労するよ」

「お互い様ですわ」

「さっさと行くぞ」


素っ気なく言うエイベルに肉の運搬はお任せしました。紳士ではありませんが、エイベルは実は優しい所があります。今はエイベルに甘えましょう。

感謝をこめてエイベルの成長に賞賛を送ると、足早に歩いていくので走って追いかけました。単独行動は駄目なのに置いて行くってありえませんわ。エイベルの成長を認めましたが取り消しますわ。やはりポンコツでしたわ。


結界に戻るとニコル様が笑顔で迎えてくれました。


「ただいま戻りましたわ」

「おかえり」

「クラム様は?」

「まだ戻ってこない」

「遅いですわね」

「僕が見て来るよ」

「わかりましたわ。お願いしますわ」


ニコル様が剣を持って出て行きました。

エイベルが運んでくれた肉を並べ、自分の荷物も降ろします。

薪がないと何もできないのでませんので休憩しましょう。

ゴロンと仰向けに寝転がり空を見ると、青くて美しい空に白い雲が泳いでいます。今日はきっと星空が綺麗ですね。

エイベルの呆れた視線は気にしません。空気も美味しく湖が近くにある所為か心が落ち着きますわ。水の魔導士は水の近くを好みます。ルーン領はフラン王国で一番水場の多い場所です。美しい湖や泉は観光名所の一つです。


人の気配に起き上がります。結界の中からクラム様達が帰って来たのが見えたんですがありえない物が見えました。

乱れた髪を結い直して結界から出ると見間違えではありません。


「おかえりなさい。それは?」


猪を抱えた清々しい顔のクラム様・・。


「しとめた」

「一人で?」

「おう!!」


どうしましょう。狩りは危険なので一人でしてはいけません。

頼んだ薪は?戸惑いを隠せずこの中で一番頼りになる方に視線を向けます。


「ニコル様?」

「一応注意したから大丈夫。もちろん薪も集めてきたよ」


苦笑している教育係のニコル様が許しているなら私は口を挟みません。クラム様のことはニコル様にお任せしますわ。


「お二人は猪を解体できます?」

「できない」


どうして捌けないものを狩ってしまったんですか!?いえ、考えはそれぞれですわ。

後を振り向き、瞳だけは美しいポンコツを見つめます。私はまだまだ備えが足りませんでしたわ。


「エイベル、やっぱり猪の解体も覚えないといけませんでしたわ…。解体できます?」

「できない」

「仕方ないですわ。先生に差し入れしましょう。クラム様、残念ですがよろしいですか?」

「先生のテントに持っていけばいいのか?」

「お願いします。ニコル様も一緒に行ってくださいますか?」

「わかったよ。行ってくる」

「ありがとうございます。お気をつけて」


ニコル様にクラム様はお任せします。もしも先生からお咎めがあっても自業自得です。

二人を見送り預かった薪や枝を広げて作業を始めます。ナイフで枝を削り肉を指す串を作っているとエイベルが私の手許を凝視しています。

今はやることが多いので気にしませんわ。

三人ともたくさん食べるので大量に串を作らないといけません。

今回は調味料も持ってきました。肉に串を勢い良く突き刺しているとまた視線が。


「エイベル、お腹空きましたの?まだできませんが、非常食を分けましょうか?」

「いや、違う。お前、なんでもない」


空腹を訴えているわけではありませんでした。気にせず作業を続けます。下味をつけてから焼き上げる予定です。次にニコル様が用意した水でスープを作ります。

結界の中でも火が使えるって、どうしてなんでしょうか?

気にしてはいけません。快適で安全な魔法陣を教えてくれたリオに感謝ですわ。風の一族は風の魔法に詳しいですわ。


「手際よくなったな」


火を起こして焼き上がりを待っていると、もう一人の風の一族の声に顔を上げ、自慢気に微笑みます。


「練習しました」

「お前は何を目指してるんだよ!?」

「将来、どこでも生きていけるように。目指すは辺境伯に嫁いでも苦労しないようにですわ」

「お前、婚約者いるだろ?」


呆れた顔に手を伸ばして頬を思いっきり引っ張ります。私に頬を掴まれるなんて修行が足りませんわ。


「将来、何があるかわかりませんわ」

「あんなに溺愛してるのに。気の毒に」

「貴族令嬢の務めですもの」

「お前のことじゃない!!」


訳のわからないことを言うエイベル。頬を摘まむ指を離してそっと首に手を伸ばしても避けもしません。


「エイベル、油断しすぎですわ。ここで私が手に力をこめれば貴方は死にますわよ」

「無理だろう」


断言するエイベルの首から手を解き、腕を掴み体術をかけようとするとビクともしませんでした。笑った顔が悔しくて非常食の甘いチョコを口の中に入れると嫌そうな顔をしました。

エイベルの余裕が崩せたことにスッキリしたので二人が戻ってくるまでに他の食事の準備をすませましょう。

男性三人分の量は多いから大変ですわ。

エイベルと二人だった頃が懐かしいですね。

でもすぐに顔に出る所は変わりません。脳筋なのは相変わらず。

もう少し頼もしくなればいいんですが。せっかく二人きりですし、殿下の顔の見分け方講座でも開きましょうか。

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