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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第二章

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第六十二話 後編 追憶令嬢13歳

ごきげんよう。レティシア・ルーンですわ。

ステイ学園一年生です。


今日は武術大会二日目です。

昨日の試合ですが私とエイベルが場外になった後、ニコル様が私が落とした魔石を爆発させて、エイベル達の宝を壊してくれました。

私達の宝は奪われましたが、ニコル様の機転で両者失格。

勝てませんでしたが、負けもしなかった。奇跡ですわ。

エイベルに全く敵わなかったのは悔しいですが・・。

そして保健室で治療を受けた後にリオに物凄く怒られました。

エイベルの隙を作るために、受け止めていた剣を捨てたことを。エイベルが剣を引いてくれなければ肩がザックリと斬れていたと。

武術大会は刃落とししてない剣を使っているのを忘れていたわけではありませんよ。でも命に危険のあることはしない規則です。エイベルは規則を守るので平気だと信じてましたって言い訳をすると物凄くお説教が長くなるので我慢しました。生徒会にリオが呼ばれたためにお説教は途中で終わりました。初めて多忙なリオと呼び出してくれた殿下に感謝しましたわ。


その後はクラム様とニコル様と一緒に武術大会の観戦を楽しみました。

優勝は最終学年のターナー伯爵子息が率いるチームでしたわ。剣も魔法も迫力あり、私達が戦ったら瞬殺されたでしょう。情けないですが相手が後輩思いのエイベル達で良かったですわ。私達相手に魔法はいらないと温存してたんでしょうが。

でもエイベル、油断大敵ですわよ。私はエイベルに敵わなかったですが、結果的には引き分けなので良いこととしましょう。敗戦にはカウントしませんよ。ようやく連敗記録が止まりましたわ!!


今日は個人戦です。

試合を見るのも勉強になります。予選から見学したかったんですが、足が傷だらけになった私に顔を真っ青にしたシエルの説得に時間がかかってしまいました。リオの試合を見たいとお願いしたら本戦が終わったら休むことを約束に許してくれました。令嬢が傷だらけになることはないので仕方ありませんね。今世はシエルに心配をかけてばかりですわ。

食事をすませ、支度を整えて観覧席に向かっていると声を掛けられ足を止めます。


「ルーン公爵令嬢、よろしいかしら?」

「ごきげんよう。申しわけありません。後日にしていただけますか?」

「すぐすみます」


背が高く堀の深い顔立ちに豊満な体を持つ上級生は見覚えのない令嬢です。気が強く、頑固そうな物言いに、最初の試合を見ることは諦めます。

私に声を掛けた令嬢の後ろに3人ほどいるのは取り巻きですか?制服には紋章がついていないので爵位がわかりません。荒い所作から私よりも家格が低いのも名門貴族令嬢でないのはわかりますが…。

廊下で立ち止まる私達に視線が集まっています。まぁ視線が集まっているなら乱暴なことはされないでしょう。学園ではマナー違反の令嬢に突っ込みを入れるのはやめます。気にするだけ無駄ですもの。気弱な令嬢設定の為よわよわしい笑み浮かべます。


「こちらでよければ構いません。ご用件は?」

「貴方、デール様のことはどう思っていますの!?」


強い口調で話しかけてきたのはスミス様のファンの方達ですか。敵意の籠った視線を受けて、非常識な方かもしれませんとは言えませんし・・。武門の名家なら、


「いずれ殿下をお守りするにふさわしい方だと存じます」

「あとは?」


あとですか?殿下をお守りするにふさわしくなってほしい以外に何も思いませんが。常識を身に付けてほしい?公爵子息として相応しい振舞いを?怖いお顔の令嬢にはどれも言えませんわね。

目を吊り上げている令嬢の視線によわよわしく笑みを浮かべながら、当たり障りのない言葉を伝えましょうか。


「恥ずかしながらお名前や噂は聞いたことがありますが、お会いしたことがありません。見ず知らずの方の印象をお伝えすることはできません」

「見ず知らず!?」

「スミス様をですって!?」

「見たことがない!?」


信じられないと言われても事実です。公爵子息なので名前は知っていましたが。そしてスミス公爵に似た顔立ちだったので、偶然顔と名前が一致しただけです。スミス公爵と面識がなければお顔も知りませんでしたわ。


「あまり記憶にありません」

「マール様とスミス様のやり取りの時に近くにいたのでは?」


令嬢がいなかったのにどうしてその場にいたという情報が知られているんでしょうか。まぁ貴族は情報戦ですものね。人目を集めていましたので、誰かから聞いたのでしょう。知られて困る情報ではありませんわ。


「申しわけありません。記憶にありませんわ」


知らないフリが一番ですわ。その場にいても会話に乱入してませんもの。あとは皆様は勝手に妄想するので放置するしかありません。私の言葉なんて聞いてくださいませんし。

スミス様の魅力を知らない私に批難の言葉を掛けていますが、学年も派閥も違えば知らなくて当然ですわよ。ルーン公爵家はお付き合いする貴族は多いですけど、一度も顔を合わせない必要のない方の情報を頭に入れたりしませんわ。貴族名鑑に載るのは成人貴族のみですし。耳に入る噂はあっても真偽は確かめません。美しい瞳の持ち主でも、私の周りには美しい瞳はありふれているのでわざわざ見に行く必要もありません。イケメンにも興味はありません。スミス様の魅力を語られていますが何一つ興味が持てませんわ。

強い口調で熱弁する令嬢達に昔のステラのようなよわよわしい表情を作りながら受け流します。令嬢達は非効率なことが好きですわね。


「スミス様に声を掛けられたらどうします?」

「私は婚約者のいる身です。婚約者を裏切るようなことはできません」

「マール様とスミス様、どちらを応援されますの?」


目の前の令嬢達はおバカなんでしょうか?友人であっても名目上は婚約者を優先させるものですよ。悩むのは生家の嫡男と婚約者の手合わせの時にどちらの肩を持つかですけど。私は幼いエディの応援をしますわ。殿下、淑女教育課程を見直したほうが良いのではありませんか?


「マール様ですわ」

「マール様がお好き?スミス様よりも?」

「もちろんですわ。スミス様のことは存じませんが私にとってはマール様が一番であることは変わりませんわ」


早く試合を見に行きたいのに中々解放されませんわ。初戦はすでに終わっているでしょう。クラム様の試合に間に合いませんわ。

スミス様のファンなら、スミス様に興味がないことをアピールすれば引いてくれますか?でも全く興味がないと言えば気分を悪くしますか?令嬢の心は未知ですわ。家の利にならないことのためにここまで熱心に動けるのはある意味すごいですわ。令嬢のスミス様とリオを比べる言葉に全てリオを選ぶという不毛なやり取りを続けます。


「わかりましたわ。あなたがスミス様を慕っているなら考えがありましたが、」


ようやく満足されたみたいです。

そのお考えは怖くて知りたくありません。公爵令嬢は安易に頭を下げませんがここは平等の学園ですわ。解放されるために頭を下げましょう。


「ご心配をおかけして申しわけありません。スミス様には貧相な私よりも先輩方のような美しいご令嬢のほうがお似合いだと思いますわ。私の名前を出したのもお美しい先輩方を嫉妬させるための戯れだと思いますわ」

「まぁ!!」


令嬢達の吊り上がった目が下がりました。目の前の令嬢達を賞賛し、いかに私よりもお似合いか語っていると一人の令嬢が微笑み、ピリピリと緊張していた空気も和らぎはじめました。令嬢の価値は高めてこそですが今はお休みです。弱気な令嬢モードで敵にならないように受け流すことを最近覚えました。相手の目的を知ることがポイントですのよ。そしてきっと今なら私の希望は聞いてもらえそうですわ。


「お友達の応援に行きたいので、失礼させていただいても?」

「えぇ。邪魔してごめんなさいね」

「いえ。失礼します」


上機嫌な笑みを浮かべた令嬢達の声音が優しいものに変わり、ようやく解放されたので礼をして去ります。足早に観覧席に行くと黒髪を見つけて驚きました。セリアの隣に座ります。


「セリアが武術大会を観戦するとは思いませんでしたわ」

「遅かったわね。何か閃くかもしれないし」

「セリアらしい。昨日はありがとう。ステラ達も」

「さすがに、旗を振って応援はね……。近くで見てるのが恥ずかしいわ」

「時々二人には驚かされますわ。途中で帰りたくなります?」

「レティの試合は最後まで見るわよ。昨日も面白かったわ。リオ様なんて、レティが吹き飛んだのを見て慌てて会場に向かったわ。慌てるリオ様なんて見ものよね。スワン様の機転も中々。あの状況でレティの様子を見ながら、戦闘してたなんて将来有望ね。躊躇いもなく爆発させたのも」


リオには心配かけたんでしょう。物凄く怒られましたから。楽しそうに話すセリアはやはりニコル様を気に入っています。気になるのは、


「クラム様は?」

「カーチス様はまだまだね。もう少し強くならないとつまらないわ。ほら、負けたわ」


応援するつもりはないですが、クラム様はセリアが好きなのに全く相手にされていません。クラム様も格好良いと思うんですが。上級生相手にひるまずに立ち向かう姿は素敵ですが負けてしまいましたね。クラム様の試合をもっと見たかったのに、残念ですわ。まさか令嬢達に捕まるなんて予想外でしたわ。会場には令嬢は来ていないと油断してましたわ。


「1年生が3回戦までいくだけですごいですわ。私は1回戦さえ勝てる気がしませんわ」

「適材適所よ。リオ様とビアード様は楽勝ね。二人が決勝まで当たらないのが残念。決勝まで残れるかは怪しいけど。上級生は強いから」

「年齢、体格、経験の差は大きいですね」


セリアは武術ができないのに、解説は適切です。時々ズレていますが・・。聞いていて勉強になります。

武術大会を観戦しているのは男子生徒ばかりです。令嬢達の姿はほとんどありません。

剣を取り戦う姿は格好良いのに勿体無いですわ。

エイベルは自分よりも大柄の先輩相手に楽勝です。私との試合はやはり遊ばれてたんですね。わかっていてもこの実力差が切ないですわ。


「レティ、もうすぐリオ様の試合だけど控え室に行かないの?」

「邪魔になりますわ」

「終わったら迎えに行ってあげなさいよ」

「必要ですか?」

「抱きついて、お疲れ様、勝って良かったくらい言ってあげて。流石に気の毒だわ」

「わかりましたわ」


最後の言葉は聞こえませんでした。セリアがリオのことを話すのは珍しいです。リオの試合を見るのは初めてです。

リオが出てきたので手を振ると笑顔で振り返してくれました。

緊張してる感じはなく、余裕のある顔です。

審判の合図で試合が始まるとリオが詠唱してますわ。リオは普段は無詠唱で魔法を使います。長い詠唱をするのは初めて見ましたわ。

ん?

詠唱が途中なのに、すでに風が起こってますわ。

相手のデール・スミス公爵令息が思いっきり転びました。

そのまま風がスミス様を拘束して、剣を吹き飛ばしました。

リオの詠唱が終わる前に全てが片付いてます。剣が場外になりリオの勝利です。

瞬殺ですわ。最終学年でこんな試合・・。審判の判定を聞いてリオが礼をして立ち去り、スミス様は固まり会場中が微妙な空気に襲われています。

私が見た試合の中では最速だったと思いますわ。

まさか詠唱しているフリをして全てを魔法を使うなんて・・。


「レティ、試合終わったわよ。行ってきなさい」

「瞬殺ですわ。これ労う必要あります?まだクラム様の方が労いたい気持ちが沸きますわ。行ってきます。そんな目で見ないでくださいませ」


セリアにじっと見つめられました。セリアの圧力に負けて、席を立ちます。セリアとリオは分かり合っているのできっと何かあるんでしょう。控え室を目指すと濃紺の髪を見つけて足早に進みます。リオの背中に抱きつくと体が前に傾きました。


「うぉ!!シア、抱きつくのはいいけど気配消して近づくのやめて。うっかり怪我させそうだから」

「お疲れ様です。勝ってよかったですわ」

「ありがとな。楽勝って言ったろ?」

「瞬殺すぎて驚きましたわ」

「マール!!お前、さっきの!!」


怒号に驚いてリオから手を放すと、リオの手が伸び腰を抱かれて胸に顔を埋めさせられる。

顔を上げて視線を向けると真っ赤なお顔で目を吊り上げているスミス様。

嫌な予感に逃げたいですがリオの手が頭に伸びて胸に顔を埋めさせられる。見るなってことですか?そして逞しい腕に抱きしめられており逃げられません。私は気弱な令嬢です。大人しく怖がったフリをしてましょう。


「スミス様、俺の至福の時間を邪魔しないでいただきたいんですが」


リオ、その言葉はどうかと思いますわよ。


「お前さっきの、戦い方は」

「大会規定に違反してませんよ。俺は武術が苦手なので得意な魔法を使うしか勝算はなかったんです。この試合、俺の婚約者に勝利を捧げると約束したので無様な姿は見せられず。おかげで婚約者もご満悦です。もし試合に不満なら運営のほうに言ってください。運営側からの提示があったら再戦を受けましょう。次も試合があるので失礼しますね。俺の婚約者に手を出したら地獄への片道切符を贈りますのでご了承ください」


体がゾクリとして寒気に襲われます。この感じは怒ってますわ。そっと顔を見ると冷たい瞳で涼し気な笑み・・。殺気がにじみ出ており、鳥肌が・・。

スミス様もリオに怯えてきっと黙ってるんでしょう。


「シア、行くよ」


リオに腰を抱かれたまま足を進めますが、この雰囲気どうすれば・・。

セリア、声をかけるタイミングを絶対間違えましたわ。


「寒い?」

「いえ。お疲れ様でしたわ」


リオの殺気が収まりましたが、まだ怖いですわ。これは撤退しましょう。


「わざわざありがとな」

「リオ、そろそろ試合ですわね。邪魔してごめんなさい。ほどほどに頑張ってくださいね」

「あぁ。もうすぐ負けると思うけど」

「怪我だけ気を付けてくださいね。リオ兄様の心のままに」

「わかった。シアも気を付けてな。また後で」


リオに礼をして観覧席に戻るとクラム様とニコル様がいました。セリアはいませんでした。

その後、リオは1勝し準々決勝でグランド様に負けました。

試合の終わったリオは怖い雰囲気はなくなり、隣に座って解説をしてくれました。上級生の戦いは動きが速く目で追えないので非常にありがたく勉強になりました。

エイベルは準決勝でターナー伯爵令息に敗れました。

今回の優勝は最終学年のターナー伯爵令息でした。さすが伯父様の子。

決勝戦は見応えのある試合と評価されましたが、私の中で一番はお母様とターナー伯爵の全く目視できなかった戦いです。

なんと、ベスト8にターナー伯爵の弟子が3人も入りました。凄いですわ!!

ターナー伯爵家が更に有名になりますね。でもエイベルはターナー伯爵家よりビアード公爵家に含まれますの?


こうして武術大会は幕を閉じました。

私は勝てませんでしたが、誰も大きな怪我することなく終わってよかったですわ。

そして何も問題を起こすことがなく終わって何よりですわ。

リオの様子ももとに戻って一安心です。

リオにはお祝いもこめてうちの料理長自慢のチョコのお菓子の詰め合わせを贈ると笑顔で食べていました。穏やかなお顔でお菓子を食べる姿をお茶を飲みながら眺め、もうお説教はないだろうとほっとしたのは内緒ですわ。

来年こそはエイベルに勝ちたいですわ。

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