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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第二章

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第六十二話 中編 追憶令嬢13歳

ごきげんよう。レティシア・ルーンですわ。

ステイ学園一年生です。



「シア!!起きて、シア!!」

「うん?おはようございます。あと、少しだけ」

「寝るな、起きろ、もう初戦始まる」


賑やかな声に目を開けると銀の瞳がありました。


「りお兄様?、なんで?しえるは?」

「呼ばれたんだよ。シエルは本戦中は控え室に入れない。口開けて」


首を傾げると口の中に何か甘い物が入れられました。これはチョコですわ。広がる甘みに頬が緩み飲み込むと唇にチョコが押し当てられます。拒むのはお行儀が悪いので口に入れ、ゆっくりと咀嚼して飲み込むとまたチョコが。

抗議の視線をリオに向けるとリオの手が止まりお茶を渡されました。

冷たいお茶で喉を潤すと頭にポンと手が置かれました。


「予選突破おめでとう」


リオの言葉に首を傾げて、周りを見渡すと訓練着の生徒ばかり。ようやく頭が働き、武術大会中だと思い出しました。リオがここにいるのは私が熟睡したため・・・。寝顔を曝すのは淑女としてあるまじき行為ですし、納得しましたわ。淑女らしからぬ姿であるお顔を見る権利があるのは・・。名目上は婚約者なら問題にはなりません。腕を枕にして眠る私にクラム様達は声を掛けられなかったのでしょう。


「ありがとうございます」

「ニコル、クラム、もう大丈夫だ。世話をかける。俺は行くから後は任せた。シア、もう控室で寝るなよ」


私の乱れた髪をいつの間にか結い直し、優しく笑ったリオが手を振って去って行きました。礼をしてリオを見送るニコル様とクラム様が顔を上げました。

心配そうなクラム様と苦笑しているニコル様に、私はやらかしたので謝罪するしかありませんわ。ぼんやりしていたつもり寝てしまうなんて・・・。


「大丈夫か?」

「まさか熟睡してるとは思わなかったよ」

「ご心配おかけしました。回復しました」

「くじ運ないのかな。運が良かったのか、はい」


苦笑しているニコル様に渡されたのはトーナメント表です。

対戦相手に見慣れた名前を見つけて勢いよく立ち上がります。


「エイベル、屈服させますわ!!」

「よかったね」

「エイベルは風ですが、あとのお二人の属性はなんでしょうか?」

「水と地」

「厄介ですね。でも負けませんわ!!」


苦笑気味のニコル様に私と同じで闘志を燃やすクラム様による作戦会議を始めました。

控え室にいたエイベルに挑戦的な笑みを浮かべると、バカにしたような笑みを向けられました。絶対に屈服させます。目指せ、初勝利ですわ!!


本戦は宝取りです。

各チームの本陣に宝、大きい球が置かれます。この宝を奪われたり壊されたら負けです。

大きい球は非常に脆いため叩いただけで壊れるそうです。

勝利条件は自陣の宝を守り相手の宝を奪うこと。

その条件が達成されなければ失格です。

選手は剣か本人が場外に出ても失格。一人でも残り宝を手に入れれば勝利です。もちろん殺しは禁止です。


本戦前に準備時間があります。

準備時間は敵チームは背中を向けているのでその間に罠を仕掛けるのも許されてます。

ただこの時に敵の宝から半径1メートルの敵陣に細工をするのは禁止。

魔道具は禁止ですが自分で作った魔石と魔法陣の持ち込みは許されます。

ニコル様に血を提供してもらい水流爆弾をたくさん用意しました。

もちろんクラム様にも魔石と魔法陣をたくさん作ってもらいました。会場に罠を仕掛けますが後攻で準備するチームは先攻チームの罠を発動したり触るのは禁止です。


私達の出番になりました。

競技場の中心に三人で整列します。審判の先生の言葉に礼をします。

目の前に立つのはエイベルを含めて大柄で鍛えられた筋肉がついている選手ばかりです。エイベル以外は見覚えがなく、瞳の色が薄い。魔力の保有量はあまり多くないかもしれません。魔法ではなく武術で勝ち上がるタイプでしょうか。


「ハンデいるか?」

「いりませんわ」

「そうか」


握手を交わす時にエイベルの手をギュっと握りますが、余裕のある顔に気合が入りましたわ。

ニコル様が物言いたげに私を見ていますが気付かないフリをします。勝負に情けは無用ですわ。手加減されて勝っても嬉しくありません。負けず嫌いなエイベルが簡単に勝たせてくれるとも思いませんが。


さて準備を始めましょう。私達が先攻というか、エイベル達は事前準備はいらないそうです。

ニコル様が宝の大きい球を水の結界で覆っているので、周囲に水流爆弾を配置します。

次に私とクラム様は会場の至るところに魔法陣入りの魔石を仕掛けます。

爆発したり火や煙がでたり激流に流されたり、種類豊富ですわ。

蹴れば発動する仕掛けになっているので私でも使えます。

図書室で魔法の勉強をしていてよかったですわ。無属性でも魔石と魔法陣を使えば魔法は発動します。手間ではありますが、使える手段が増えるのは心強いことです。

準備時間も終わりました。


お互いが宝の前に立ち、審判の笛の合図とともに試合開始です。

ニコル様に守りをお願いします。

まずは情報収集です。

弓を構えて敵陣の宝を狙って矢を放つ。私の放った10本の矢は剣で叩き落とされました。

わざわざ剣で落とすなら結界は使ってません。それに魔法を使わないなら、武術で責める気満々でしょうか。脳筋らしく。

エイベルの口角が上がり、嫌な予感がします。


「ニコル様、水の壁作ってください」


ニコル様が頷いて本陣の前に風を通さない水の壁を作りました。

壁の奥では大きい竜巻が発生しています。凄まじい風の音と魔力をたっぷりこめた大きな竜巻に仕掛けた罠がどんどん飛ばされていきます。

絶対に単純なエイベルが考えた策ではありませんわ。宝が竜巻に巻き込まれれば壊れるので、本陣まで襲ってくることはないでしょう。それをしたら救いようのないおバカですわ。

大きな竜巻の動きは遅いので避けられますわ。竜巻から生まれる風も問題ありません。


「ニコル様、水の壁は解除してもらって大丈夫です。私は宝を取りに行って参ります」

「レティシア嬢、これ持ってって、予備。様子を見て起動させるから」


ニコル様に渡された袋の中には魔石。予備を持っていたとは知りませんでしたわ。流石ニコル様です。


「ありがとうございます。ここは二人にお願いします。竜巻に紛れて先輩方が近づいてきますわ」


会場を見渡すと人影を見つけて指差します。


「ニコル様、あそこの起動させてください」


運よく先輩の足元にあった爆弾が爆発しました。

申し訳ありませんが、怪我してくださると助かります。大柄な先輩相手に真っ向勝負で太刀打ちできないのはわかっています。それでも隙をつくる可能性を探すのを諦めません。思考を止めれば終わりですもの。

この風では弓は使えません。でも動かなければ負けますわ。


「魔力に余裕があれば遠隔操作の魔石、ランダムに発動させてください。うまくいけば当たりますし、敵の隙をつけますわ。私、行ってきますね」

「俺が行こうか?」

「相手は強敵、クラム様はニコル様と宝を守ってください。正規の勝負なら私に勝算はありません。でも瞬発力だけならこの中で私が一番ですから」


ケイトの真似をして悪戯っぽく笑います。ここはセリアの真似をしたウインクの方がクラム様にはいいでしょうか?パチンとウインクをすると噴き出して笑われた理由はわかりません。


「気を付けて」

「行ってこい」

「私がいても気にせず起動させてください。避けますから。敵も躱して宝に一直線です!!」



宝を手に入れればいいのです。無理に敵を倒さなくても。

二人に手を振り、駆け出します。

竜巻の軌道を読みながら、矢で宝を狙いますが剣の弾く音がするので叩き落されてます。

たぶん本陣に残っているのは一人でしょう。

竜巻を通りすぎ、敵陣に近づき石の陰に隠れます。敵陣の宝の守り役はエイベルですね。

風魔法の使い手を守りに使うなんて、私達はなめられてるんでしょうか?余計なことは考えてはいけません。もしも油断されているならチャンスですわ。

あの位置なら場外も狙えます。邪魔になる弓は置いて、剣を抜いて跳びかかると難なく受け止められましたわ。

場外に吹き飛ばすのは無理でしたわ。

振り下ろされる剣を受け止めます。剣は相変わらず重いですが、クラム様ほどじゃないですわ。


「やっぱりお前がきたか」

「私達の渾身の魔石達を」

「絡め手で仕掛けてくるとはな。小賢しくなったな」

「お兄様には敵いませんわ。妹弟子の努力をあんな木っ端みじんに酷い」

「その設定気に入ってんな」

「健気な妹弟子の努力を両手を広げて受け止めてくださると信じてましたのに」

「続けるのか?人の話を聞かないのは変わんないな。兄として妹には強くなって欲しいだろ?」

「私は甘えたいお年頃ですのよ」

「保護者に甘えればいいだろう」


このままではまずいですわ。エイベルに勝てる気がしませんし場外も厳しいです。剣にも声にも余裕があるエイベルは遊んでます。エイベルが本気になったら悔しいですがこんなに長くは戦えない。

でも負けるのは嫌ですわ。勝てなくても……。

宝の近くに魔石を幾つか落とします。ニコル様が気付いてくれれば、最悪は…。

エイベルに落としたものを足で蹴飛ばされます。注意を私に向けるように通じませんが、ふんわりとしたエイミー様がお手本の笑みを浮かべて、じっと見つめ剣を受けます。


「うちは教育が厳しいので両親に甘えるなど不可能ですわ。お兄様」

「マールに甘えればいいだろ。お前を甘やかすとか殺されるよ」

「リオはそんなことしませんわ。兄弟子として弟弟子を可愛がってるだけですわ。お兄様、甘やかしてくださいな」


リオの名前にエイベルの余裕のある顔の眉間に皺が寄りました。そっと魔石を落とします。足元の魔石を宝の近くに蹴る。エイベルと軽口を叩きながら、動揺する話題を選びながら宝から離れるように誘導します。


「嘘だろ?剣で攻撃してくるやつを受け止めるのも甘やかすのも不可能だ」

「手ぶらでしたらいいんですの?」

「は?」


笑みを浮かべて、振り下ろされた剣を受け止めていた剣を手放す。私に向かう刃先を慌てて止めて生まれた隙にエイベルの腰に抱きつき、水の魔石を投げる。魔石から水流が生まれ、私とエイベルを押し出す。思ったよりもエイベルの体が重く場外まで届かないことに悩むと爆風が起き、勢いよく吹きとばされました。

ニコル様ありがとうございます!!近くの魔石の爆発に巻き込まれ、めでたく二人で場外ですわ。吹き飛ぶ体に目を閉じる。受け身をとるためにエイベルを放せば風魔法で逃げられるのは避けたいですもの。エイベルはまだ二人では飛べないはず。腰を抱く腕を放さないように必死にしがみつき、痛みに備えて目を閉じる。


「どけ!!」


イライラした声といつまで経っても襲ってこない痛みに目を開けると汚れた服が視界に飛び込む。ポタポタと全身から水滴が落ちています。冷たい体に顔に当たっている温もりにくっつくと力が抜ける。疲れましたわ。懐かしい感覚がするような。


「どけ!!」


怒号に驚き顔を上げると、エイベルがいました。

そういえば落馬した時もこんなことがあったような・・。エイベルに抱き着いて下敷きにしてましたわね。痛みがなかったのはエイベルが庇ってくれましたのね。珍しい気遣いに小さく笑って、背中に回している手を解き、体を起こそうと地面を手で押し体を持ち上げると、ツルッと滑り体勢が崩れエイベルのお腹にゴツンとぶつかりました。


「痛い」


エイベルをまた潰しました。そして鍛えられた筋肉は固くて痛い。


「もういい」


呆れた声と共に脇に手が差し込まれ、ふわりと体が浮いてエイベルの上から横に降ろされました。

軽々持ち上がりますのね。

起き上がったエイベルに手を伸ばされたので掴んで起き上がります。


「こんなの見られたら、殺される」


呟くエイベルに首を横に振ります。


「試合は終わりです。この状況で攻撃しませんわよ」

「遊びすぎたな。まさか場外狙うとはな。強くなったな。ずぶ濡れか」

「仲間ですわね。まだまだエイベルには勝てませんわ。いつか勝てそうですか?」

「お前に負けたら終わりだ」


エイベルの失礼な言葉に睨みつけると大きな手が頭の上に落ち、乱暴に撫でられました。髪を乱されていますが、今は淑女はお休みですわ。

紳士としてあるまじき行為ですがお互いさまです。それに、


「庇ってくれてありがとう」

「兄弟子だからな」


笑っているエイベルに笑い返します。


「お兄様、今度は勝ちを譲ってくださいね」

「それはできない相談だ」


エイベルと普通に話すの久々ですわ。ターナー伯爵家にいた頃が懐かしいですわ。


「そろそろいいか?」

「げ!?マール!?なんで?」

「観戦してたから。お疲れ様。残念だったな」


近付いてきたリオが上着を脱いで肩にかけてくれました。寒かったのでありがたいですわ。


「ありがとう。やっぱり負けましたのね。エイベルを場外にすれば勝機があったと思ったんですが」

「両者失格だよ。クラム達には荷が重かった」

「さすが先輩方。残念ですわ」

「シアが世話になった。次の試合の邪魔になるから移動するよ」


リオの手が肩と膝の裏に伸ばされ、自然な動作で抱き上げられました。


「りお、自分で歩けます」

「足、怪我してるだろ?保健室行くよ。服を乾かすのは校則違反だから我慢して」


風に包まれ水滴が吹きとばされました。服を乾かしてくれたエイベルにお礼を言おうとするとすでにいませんでした。遠くに見える背中に声を掛けます。


「エイベル。ありがとうございます」


リオに抱えられ保健室に行きました。

足が擦り傷だらけですが、魔法を使うほどではないそうです。

私の武術大会はこれで終わりです。

不甲斐ない結果になってしまいましたわ。

さて、治療が終わったのに待っているリオの視線に嫌な予感がするのは私だけでしょうか。


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