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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第二章

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第六十二話 前編  追憶令嬢13歳

ごきげんよう。レティシア・ルーンですわ。

ステイ学園一年生です。13歳の公爵令嬢です。


ステイ学園の大行事である武術大会の日を迎えました。

武術大会は騎士を目指す生徒にとっては大事な行事です。武術大会の成績により将来の選択肢が広がるそうです。この日のために必死に技を磨く生徒もいるそうです。

私もこの日に向けてきちんと準備をしましたわ。

大会には幾つか規定があります。持ち込んでいいのは武器と自分達が用意した物だけです。

セリアのポシェットとリオから贈られたブローチは大会の規定違反なので外しています。腕輪とペンダントは規定に引っかからないとリオが断言したのでつけたままです。


武術大会は二日間行われます。

初日の団体戦は三人一組。お昼までに訓練の森に隠された宝を3つ集めて競技場で待つクロード殿下にお渡しすれば予選突破です。

準備運動も終えてまだ時間があるので控え室で待機しています。

椅子に座ってクラム様と話していると生徒会の腕章をつけたリオが近づいて来ました。団体戦は参加しないと聞いていますがお仕事でしょうか?


「シア、これだけ渡したくて。お守りのお礼に」


リオが私の手を取って手の上に深い青色のリボンを置きました。青いリボンには銀糸で繊細な刺繍が。リオの好きなルーン領の花で染めたリボンに、繊細な刺繍はマールのお抱え針子でしょうか。マール公爵領は一番国外の物が流通している場所であり流行を生み出す場所です。

リオにお守りの魔石を渡しましたがこんなに高価な物を返されると恐縮しています。それでもルーン領のものを気に入ってもらえていることが嬉しく笑みがこぼれますわ。


「ありがとうございます。大事にしますわ」

「結ぼうか?」

「落としたくないので、」


リボンをシエルに預けようとすると結んである髪が解かれて、リオが櫛で梳いています。慣れた手つきで髪を結ばれ手元のリボンはすでにリオの手の中にあります。


「落としたらまた贈るよ。いくらでも用意するから安心してよ。うん。俺の見立てに間違いはない。似合ってるよ。ニコル、クラム、シアを頼むよ」


櫛を常備しているリオに突っ込みはいれませんわ。

頭の上から満足そうな声が聞こえます。ニコル様とクラム様がリオに礼をしました。


「お任せください。牽制ご苦労様です」

「はい。精一杯頑張ります」

「期待してるよ。頑張って」


リオは優しく笑って颯爽と去って行きました。


「相変わらずの溺愛だね。この光景に周りが戦意喪失するといいけど、そんな様子はないね」

「そろそろ移動しようぜ」


やる気に満ち溢れているクラム様の明るい笑みに微笑み返して立ち上がり会場に向かいます。

会場は訓練の森です。

訓練の森に宝、参加証が隠されています。

この参加証を正午までに三つ集めて競技場に持っていけば予選通過です。

森の様子は競技場の水鏡に映されます。監視のための魔法具が森には配置されてます。


競技開始のアナウンスがされたので、スタート地点から全力で駆け出します。

潰し合いに巻き込まれないように人の気配のないところに急ぎます。

予選は宝探しと言われていますが、敵の潰し合いや宝の奪い合い等殺し以外ならなんでもありです。私は武術大会を見学したことがないのでこの話を聞いて驚きました。武術大会について詳しく教えてくれたリオとグランド様に感謝しておりますよ。

クラム様は不満気味ですが逃げるが勝ちです。

先輩方に狙われたら勝ち目はありません。誰とも会わずに、宝を見つけられるかがポイントのニコル様と考えた隠れ鬼作戦ですわ。さすがにスタートと同時に飛び出した力のない一年生を追いかけてくるチームもないでしょうし。

ある程度進みましたし、人の気配もないので足を止めます。後を走っていたクラム様が首を傾げました。


「人の気配がないからこのあたりなら安全でしょうか」

「レティシア嬢が言うなら大丈夫だね」

「こんなところに宝あるのか?」

「宝は森全体にあるからきっとあるよ。壊れるのも見越して多めに用意してあるはずだ。ほらクラム、あそこ!!」

「木の上だな。登るか?」


ニコル様が指さした先、大樹の枝に宝が吊るしてありますわ。蔓で落ちないように宝を固定しているようですが、あの高さなら簡単ですわ。


「ニコル様、私が落としますから水の魔法で受け止めてくれます?」

「レティシアが登るのか?」


クラム様のわくわくした顔に首を横に振る。あんな高い木に登って落ちたら笑えませんわ。それに登っている間に攻撃される可能性もありますもの。風魔法で襲われたら真っ逆さまです。怪我する危険があることは避けるべきですわ。


「登りませんわ。私が唯一人並みにできることですわ」


パチンとウインクするとニコル様が頷きました。残念そうなお顔のクラム様にはお願いをしましょう。


「範囲は?」

「この辺りに水のクッションをお願いします。クラム様、もし落下点がズレたら頑張って受け止めてくださいね」

「任せろ!!」


役目ができたことに、嬉しそうに笑った素直なクラム様に笑みが溢れます。

ニコル様が水でクッションを作ったのを確認して、風の流れを読みながら弓矢を放つ。蔓に当たるはずの矢からパチンと音が鳴り、蔓に弾かれる。もう一本放つと宝を固定する蔓に突き刺さる。今度は弾かれませんわ。もう一本弓矢を放つと蔓が切れて宝が落下し、ふわりとニコル様の作ったクッションの上に落ちました。宝である掌サイズの球は氷で覆われてます。


「簡単には取らせてくれないね」

「人の気配が近づいてきますわ。移動しましょう」

「俺が持つよ」

「ありがとうございます」


クラム様に宝を預けて人の気配がない場所を目指して移動します。

ゴールの競技場から離れてますがまだ時間があるので大丈夫です。所々から大きい音や煙が立ち上がり皆様、戦闘してますのね。絶対に巻き込まれたくありませんわ。


「ニコル様…」

「そうだね。それが一番かな」


溶かすために火を使いたいですが煙が出るので人に見つかる危険があります。ニコル様も同じ考えのようですわ。


「クラム様、お願いできますか?」


クラム様は火の属性を持っています。火の魔法は温度変化もできるそうです。リオに教わるまで知りませんでしたわ。

クラム様が魔法を使い、両手の温度をあげて氷を溶かしていきます。時間がかかりそうなので、クラム様はニコル様にお願いして私は近くを散策しましょう。

訓練の森は広いのでこんなに奥まで足を運ぶのは初めてです。水の気配を感じて足を進めると池を見つけました。

池の中心に宝が浮いてます。

風魔法は使えたら簡単ですが無い物ねだりは時間の無駄ですわ。

水面硬化はまだニコル様には難しいですし、私が使うわけにはいきません。ありのままの水を使う魔法は簡単ですが、自然に変化をもたらす、形や温度を変える魔法は難易度が上がります。ベンの言うようにありのままが、一番という精霊の思し召しかしら?

そろそろクラム様達の所に戻りましょう。

二人を見つけると、笑顔で手を振るニコル様に疲れた顔のクラム様が座っていました。ニコル様の手には青い球が、


「おかえり、終わったよ」

「お疲れ様です。クラム様魔力は大丈夫ですか?」

「集中して疲れただけだ」

「少し休みます?宝は見つけましたが……」


クラム様が勢い良く立ち上がり、明るく笑いました。先ほどまでの疲れた顔が嘘のように元気な様子に思わず笑みがこぼれました。


「行くか!!」


意気揚々と進もうとするクラム様をニコル様が止めました。池の上の宝のことを説明するとクラム様とニコル様が二人で顔を合わせて頷きました。他を探すのではなく、池の上の宝に興味を持たれたので、二人を連れて池まで移動します。

クラム様がじっと宝が浮いている池を見ています。


「池の上か。先生方も考えるね」


訓練の森についてリオからいくつか忠告を受けています。

一つは水について。水の中は水魔法の使い手にとって一番有利な場所、そして罠も仕掛け放題。魔法を使えない設定の私も簡単な魔法しか使えないニコル様も狙われたら終わりですわ。リオのいない所では絶対に泳がないと約束してます。水の中には解除の忘れた罠が残っていることもあり危険だそうです。クラム様が飛び込まないように、


「泳ぐのは駄目ですよ。罠が仕掛けられているかもしれません」

「ここは僕達に任せてよ」


クラム様が盾を叩き、池の上に落としました。うっかりではなく故意に。クラム様の行動に驚くとニコル様がクラム様の隣に片膝をついて座り、池に手をいれました。止めないニコル様にも驚きましたがおかしなことが起きています。

クラム様の重い盾は水の中に沈むはずなのに、浮いています。特別な素材なんでしょうか?


「クラム、いいよ!!」


クラム様が盾の上にそっと乗り、ニコル様が池の水を操り波をおこすと、上手にクラム様が波乗りしてますわ。そして軽々と宝を手に取り帰ってきました。

盾で波乗りできるんですか!?盾で波乗りができるなら海も渡れるでしょうか。これは素晴らしい発見ですわ!!


「お疲れ、クラム」

「凄いですわ!!」

「空が飛びたくて練習したんだ。盾ならいつも持ってるから、役に立つかと思って」

「レティシア嬢は危ないからやらないでね。まさかクラムのバカが役に立つとは予想外」

「素晴らしい特技ですわ!!私にも教えてくださいませ」

「ありがとな!!」

「調子に乗るから誉めないで。これできるのクラムだけだから。レティシア嬢、落ち着いて!!そろそろ行こうか」


クラム様は発想の天才でしょうか。盾は常に持ち歩きませんけど。興奮する私の肩をニコル様が宥めるように叩きました。バコンと大きな音が響き、視線を向けると近くから煙が見えます。戦闘してますのね。興奮している場合ではありませんわ。淑女らしく、心を落ち着け人の気配に注意しながら、足を進めます。

ブクブクと音がするので、近づくと底なし沼を見つけました。沼の上には浮遊している宝がありますが・・。

リオの忠告にありました。

底なし沼は触ってはいけません。底なし沼は落ちれば魔法なしでは上がれず、足を取られれば、一瞬で沼に取り込まれ救助がくるまで待つしかありません。


「宝を射貫くのは傷がつくから無しですよね?盾乗り?も危険ですわ」

「あきらめようか。この感じだとまだまだありそうだよ」

「ですわね」


ここは諦めましょう。宝はたくさん隠してあるので、一生懸命探せば見つけやすいものもあるとリオが言ってました。素早い判断と見極めが宝探しのポイントとグランド様も。

先程からずっと水場に宝が隠されていました。もしかするとまた…。

人気のない場所を探しながら水の気配を探り足を進めると小さい泉がありました。

泉に近づき、そっと手を入れて目を閉じます。水の中なら不純物の気配がするのでたぶん沈んでますわ。泉の奥深くにありそうなのでニコル様の魔法では届きません。

肩を叩かれ、我に返るとクラム様が心配そうな顔をしています。


「レティシア、疲れたか?」


勘違いされてますわ。首を横に降り笑みを浮かべます。


「大丈夫ですよ。勘なんですが、この泉に宝が沈んでる気がしますわ」

「どうしようか?」

「水、蒸発させるか?これくらいなら俺余裕」

「音が発生するから、回収したらすぐ逃げようか」

「いいんですか?勘ですよ」

「女性の勘は鋭いからね。駄目なら次を探せばいい。クラム、魔力あり余ってるしね」

「おう!!」


クラム様が詠唱を始めたので慌ててニコル様と一緒に距離を取りました。長い詠唱なので大技でしょう。詠唱は長い程、難易度が高く広範囲の魔法が生まれます。一年生では習いません。

こんな大技を教えるなんて流石リオですわ。クラム様が赤い光に包まれているので音に備えて耳を塞ぐ。眩しい光に目を閉じ、しばらくすると肩を叩かれて目を開けます。

クラム様が黒い球を掲げてます。顔に疲労の色はなく、誇らしげな顔に全力で称賛を送ります。


「凄いですわ!!」

「レティシア嬢、落ち着いて。ここを離れよう」


ニコル様に肩を叩かれて、現実を思い出す。選手の潰し合いに巻き込まれるかもしれませんわ。


「失礼しました。お疲れさまです」

「女の勘のおかげだ。競技場を目指すか?」

「正規のルートは危険ですよね?待ち伏せされてるかもしれません」

「遠回りして、観客席から行く?」

「名案ですわ。禁止とは言われてませんし、入れて貰えなければまた考えましょう。時間もありますし」

「レティシア嬢、気配読みながらいける?」

「お任せを。走る距離が長くなりますが平気ですか?」

「一番体力のないお前が走り切れば大丈夫だよ」

「そうでしたわ。時間もないし頑張って走りましょう!!」


私は気配を読むのは人並みに得意ですわ。伯父様達にきちんと鍛えていただきました。

選手達は一番距離の近い森から競技場に一直線のルートを選んでいるのでスタート地点に近づくほど人の気配は減っていきます。

人に会わないように隠れ、戦闘に巻き込まれないように静かに走ると競技場が見えてきました。

観覧する生徒が使う扉に着きました。入場口に生徒会の腕章をつけている生徒に参加証をみせて、微笑みかけます。凝視する顔に笑顔のまま「よろしくて?」と小首を傾げると。勢いよく頷いたのでお礼を伝えて中に入りました。最大の難関突破ですわ。

観覧席に通じる道は人が多いので、殺気の気配だけ気をつけながら気配を消して進みます。私達を見て驚く生徒は気付かないフリをします。外に通じる扉を通り、人が賑わう観覧席に入るとさらに視線が集まります。階段を下り、お行儀悪いですが競技場に繋がる壁を飛び越えてゴールですわ。

生徒会長の殿下の所に向かい、宝を確認していただき予選突破ですわ。

殿下がお疲れ様と微笑んでくれたのでお礼を言いたいですが、息切れが・・・。

ニコル様が対応してくれましたが、クロード殿下が気遣うような笑みを浮かべて私の様子を見ています。心配されているのわかっていますが、話す余力がありません。クロード殿下の顔を見つめて、心配いりませんと笑みを浮かべて礼をすると突破したチームが近づいて来ました。殿下は対応するために立ち去りましたわ。


「大丈夫?」

「疲れましたわ」

「午後までに体力回復するのか?」

「休めば大丈夫ですわ」

「レティシア嬢、体力ないもんね。でも予選突破できたね」


苦笑するニコル様と嬉しそうに笑うクラム様に微笑み返します。盛大に喜びたいですが、息切れが収まりません。

周りを見渡すと上級生ばっかりで、エイベルも予選突破してます。

クラスメイトのカーソン様達もいましたわ。一年生は二組だけでしょうか?ようやく息が整い観客席を見るとセリアを見つけました。隣にはハンナとステラ、ブレア様とサリア様も見に来てくださったんですね。令嬢は観戦しないので目立ってますわ。応援してくれてるだろうお友達に笑顔で手を振ると、セリアが首を横に振り、嗜められました。

予選突破してよかったですわ。体力を回復するためにニコル様に言われて控え室に行きましょう。

嬉しそうなクラム様がニコル様にうるさいと頭を叩かれてましたが、蹲ってないので加減されているでしょう。

午後も頑張りますわ。

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