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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第二章

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第五十九話 追憶令嬢12歳

おはようございます。レティシア・ルーンです。

平穏な生活を目指す公爵令嬢ですわ。


早朝という面会には非常識な時間です。

それでも緊急を要するのでリオに面会依頼を出しました。

事情説明のためにリオの部屋に訪問しています。


説明の途中でリオのお茶を飲む手が止まりカップを置きました。説明が終わると固ってしまい動きません。今回は最終兵器があるのでお説教はないと信じています。

お茶を飲みながらリオが戻ってくるまで待ちましょう。シエルが淹れたお茶を楽しみましょう。お昼休みにステラに会いに行き味方を増やそう同盟の作戦会議しましょうか。


「気弱な令嬢設定どうなってんの?」


呆れた声に顔を上げるとリオがお茶を飲んでます。


「前々から無理を感じていました。路線変更したほうがいいですか?」

「気弱以前に淑女として駄目だろう。なんで廊下で喧嘩したんだよ。しかも殿下に咎められるなんて…」

「反省してますわ。うっかり設定を忘れてましたわ。殿下はそこまで怒っていなかったのでたぶん大丈夫だと信じたいですわ」


リオが額に手を当てて頭を抱えました。もう起こってしまったことを後悔しても仕方ありませんわ。お母様に怒られるのは怖いですがそれは帰宅した時に考えます。時間は有限ですわ。それよりも私の味方を増やそう計画の方が大事ですわ。


「グレイ伯爵家に手を回すのはいいけどさ」


リオが手を回してくれるなら何も心配いりませんわ。私は動かなくても大丈夫ですわ。急ぎでルーン公爵家の料理長自慢のチョコケーキを届けさせたおかげですわね。チョコケーキを口に入れ馴染みの味に笑みを深めてお礼を伝えます。


「ありがとうございます」

「味方を増やそう同盟ってなんだよ。グレイ嬢とシアは立場が違うだろ。何するの?」


いつもは頼りになるリオ兄様に丸投げしてましたわ。でも私のことなのできちんと考えました。そして私の前を歩いていた平民の生徒達の話を聞いて閃きましたわ。名案ですのよ。


「慈善活動をしますわ」

「慈善活動って例えば?」


人の役に立てば感謝もされてイメージアップというものになるそうですわ。

さすらいの人助けが趣味の旅人は一部の少女の憧れ。ダンがよく言ってましたわ。人手が欲しいと、


「草むしりや奉仕活動から始めようかと」

「却下。社交をこなして、品行方正で優しい令嬢やってれば、味方は勝手に増えるよ。レート嬢やリール嬢みたいに」


顔を上げたリオに一刀両断されました。


「高度すぎますわ」

「高度って、淑女の嗜みだろ?」


あのお二人の人気は人徳。平凡な私には真似できませんわ。それに私は優しくできませんもの。人に優しいのも才能だと思いますわ。リオは才能に恵まれています。持っている者は持たない者がそれを成し遂げようとすることがいかに難しいか気付かないのです。

お茶を一口飲んでふぅっと息をつきます。


「リオにはわからないと思いますがあのお二人は別格ですわ。私にはあのお二人レベルは無理です。私みたいな、にわか公爵令嬢には難しいですの。でも最近は握手してくださいと言われるようになりましたので多少は成功しているのでしょうか?」

「は?」


目を見張っているリオは珍しいですわ。考えるには糖分が必要ですよね。チョコケーキを一口切り分け、リオの口の中に入れます。


「サインや魔法陣を書くのは怖いのでお断りしてますよ。握手だけでも喜んでいただけるので」


チョコケーキを飲み込んだのにいつもの笑顔がありません。私の成果を喜んでくれないのは残念ですわ。色んな方々に笑顔で握手を求められるので嫌われてないはずですわ。


「は?どこで?」

「廊下や図書室ですわ」

「なんで?」

「わかりませんわ。人の価値観はそれぞれです。推し量るなど」

「シエル!!説明」


私の言葉を遮り、リオに視線を向けられ突然の命令を受けたシエルが礼をしました。


「握手を求めるのはお嬢様とリオ様に憧れる方々です。良縁や恋愛成就の願掛けです」


願掛け?


「ライ嬢との件は?」

「お嬢様がグレイ様を助けた説七割、ライ様とグレイ様の仲を権力で引き裂いた説三割。好戦的なお嬢様の様子に疑問を持たれてる方々と応援される方と様々です。殿下とのことは噂になっておりません」


シエル、命じてないのにどうして情報収集してますの?

リオがお礼を言うとシエルは礼をして控えました。シエルは優秀なので、リオが頼りにするのも仕方ありませんわ。

リオが無言でチョコケーキを食べ始めました。


「レティシア、部屋で寝込もうか。昨日は熱で頭がおかしかった。まだ朝だし今から倒れても間に合う。廊下で喧嘩なんて立派な醜聞だ。これは見過ごせない」


やはり?

わかってましたよ。現実逃避して、なかったことにしようとしましたが。

でもリオの顔が怒ってないのが救いですわ。さすがチョコケーキ効果ですわ。料理長に感謝ですわ。

ですが今日はやりたいことがありますし、何よりも


「ステラが気にします」

「一言伝えておくよ」

「仮病のフリなんてできませんわ」

「シエルに面会謝絶にさせる。3日間部屋で謹慎してろ。今回は迂闊すぎだ」

「3日ですか?お父様になんて言えば、またエディが」

「定期報告には隠してやるよ。今回の件を知ったら叔母上がまずいだろうな。シエルわかってるな?」


定期報告ってもしかしてリオも書いてますの?お父様に知られないのはありがたいですわ。お母様のお説教を回避できるなら構いませんわ。


「仕方ありません。これで最後にしてくださいね」

「運んでやるから、寝たフリしてて」


本当に仮病を?シエルが反対しないことにも驚きですわ。


「仕方ない。これやるよ」


リオが苦笑しながら取り出したのは古い表紙の本です。見覚えのある文字に笑みを浮かべて受け取ります。カトリーヌお姉様のくださった読めない本と同じ文字。きっと辞書ですわ。これでようやく読めますわ!!


「部屋で翻訳するくらいは許すよ。翻訳したら俺にも見せて」

「ありがとうございます!!」

「4日目の朝に迎えにいく。翻訳に集中して食事は疎かにするなよ。これからは自分の行動考えろ。シエル、苦労かけるな」

「いえ。こちらこそいつもお嬢様がすみません。」

「さっさと辞書はシエルに渡して、倒れたフリして」

「倒れたフリなんてできません」

「目を閉じて眠っていればいい」


早く寮に帰って翻訳をしたいのでリオに言われた通りにしました。

リオに抱きあげられたまま寮の自室のベッドに寝かされました。男子禁制なのに、どうしてリオが運べたかはわかりません。生徒会役員だからでしょうか。

細かいことは気にするのはやめましょう。世の中は知らないほうが幸せなことばかりです。非常識な貴族が多いことは知りたくありませんでしたわ。

古びた魔導書を広げて、翻訳するのに集中します。

3日間はあっという間に過ぎましたわ。

自己謹慎?の期間が過ぎましたが、翻訳が終わりません。

単語を繋げても全く意味がわかりません。暗記するほど睨み合いしたのに・・・。

辞書にない単語も多数あります。血族魔法についてのなにかということしかわかりません。

もう少し謹慎して本と向き合いたいですが、リオが迎えにくるのでこの生活も終わりです。


制服を着ていつもより遅い時間に寮を出るとリオが待っていました。

仮病なのに心配するフリをするリオの言葉に感謝を告げて歩き出します。周囲に聞こえない声で翻訳が終わらず資料が足りないと囁くとまた新たに取り寄せてくれると微笑むので甘えましょう。

教室に向かう前に1年2組のステラに会いに行きます。私が目をかけるならステラへのやっかみは減ると思います。しかもリオが一緒なら牽制としてさらに効果は増します。レオ様の時のことは反省しているのできちんと許可は取りましたよ。

教室に入ると授業の用意をしているステラに笑顔を浮かべて近づきます。生徒の視線が集まるのはいつものことなので気にしません。


「ステラ、おはようございます」

「レティシア様、お体は大丈夫ですか?」


心配そうな顔のステラに良心が痛みます。私は嘘つきですわ。それでも心配を吹きとばせるようにクラム様をお手本にした笑みを浮かべます。


「大丈夫ですわ。心配かけてごめんなさい」

「いえ、お元気になられて良かったです」

「ありがとうございます。また会いに来ますわ。今度お昼にお誘いしてもいいかしら?」

「はい!!光栄です」


声を弾ませて嬉しそうに笑うステラが可愛いですわ。


「シア、そろそろ行こう。グレイ嬢、シアを頼むよ。シアの友達なら歓迎するよ。じゃあ」


リオに促されて授業に遅れないように礼をしたステラに別れを告げて教室に向かいます。

視線も集めていますし牽制としては十分です。


「リオ、ありがとうございます」

「構わない。気弱な令嬢設定だろ?俺に任せてよ」

「続けますのね。頑張りますわ」


リオに頼もしい笑みを浮かべられ腰を抱かれました。

いつも以上に令嬢達の悲鳴が響いていますわ。賑やかでうるさいですが令嬢モードで顔に出さないように

笑みを浮かべて足を進めます。リオと親しく見せるのも必要な事ですから。

教室に入るとリオに「黙ってて」と耳元で囁かれました。ブレア様の悲鳴が聞こえたのは反応しませんわよ。リオが私をエスコートしたまま近づいていくのは、マートン様と一緒にいるライ様の所です。


「ライ令嬢、少しいい?」


エセ紳士モードのリオが令嬢受けする笑顔を浮かべてライ様に声を掛けました。


「はい。もちろんです」


いつも私に向ける吊り上がっている目は下がり、頬を染めてうっとりとしたライ様がリオを見つめています。挨拶を忘れてますわと突っ込んだりしません。


「熱に朦朧とした俺の婚約者の相手をしてくれてありがとう。朦朧としたレティシアは可愛いけど、突拍子もないこと話すから驚いたろ?迷惑かけたね。優しい君が相手をしてくれて助かったよ」

「そんな、」


笑みを浮かべたままのリオに見つめられてライ様の顔がさらに赤くなりました。


「俺の大事な婚約者がクラスメイトに恵まれて有り難いよ。あの日のことは水に流して、これからもクラスメイトとしてレティシアをよろしく頼むな」

「はい」



ライ様はリオの空気に呑まれてただ相槌打つだけで、思考する余裕はありません。あの件は気にしないって証言されていることには気づきませんのね。そしてリオの仲介とはいえ仲直りしたことになりますわ。貴族として外見を利用し空気を支配するのは嗜みの一つですが、相手の思考を奪うのはやりすぎだと思います。年端もいかないライ様にリオがやってることは最低ですわ。成人貴族相手でしたら何も思いませんが。


「君のような心優しい令嬢がレティシアのクラスメイトで安心したよ。病み上がりで迷惑かけたらごめんな」

「そんな、お気になさらないでください」


リオにイチコロされているライ様の茶番をぼんやりと眺めながら、いつも賑やかな二人に視線をそっと向けるとマートン様達も顔が真っ赤でリオの空気に呑まれていました。ライ様はともかく上位貴族のマートン侯爵家のご令嬢がそれはまずいですわよ。確かにリオは容姿端麗ですが・・。でもマートン様にはまだ婚約者がいないので殿方に見惚れても問題ありませんね。婚約者以外に見惚れれば醜聞ですけど。

リオはいつの世も罪な人ですわ。節度があるなら気にしません。


「ありがとう。じゃあ俺は失礼するよ。シア、行くよ」


気付いたらお話は終わっていました。エセ紳士モードが抜けないリオにエスコートされてセリア達のもとに誘導されました。

セリアがリオを呆れた目で見てます。物凄く気持ちはわかります。


「リオ様、流石ですね。これでこの件はもう終わり」

「病み上がりで不安定だから気を付けてやって。シア、わかってるな?」


笑みを浮かべているのにリオの笑っていない銀の瞳にじっと見つめられ忠告されています。自分の行動をきちんと考えろと。


「かしこまりました。ありがとうございます」


礼をすると頭に手がポンと置かれ、そっと額に口づけ落とされました。


「名残惜しいけど、俺はこれで。無理するなよ。風邪が移ったらシアが看病してくれな」


仮病ですから移りませんが気弱な令嬢設定ですのでよわよわしい笑みを浮かべて頷きます。


「わかりましたわ。いってらっしゃいませ」

「またな。放課後迎えに来るよ」


放課後?そんな予定はないんですが・・。

まぁ気にするのはやめて去って行くリオの背中を見送ります。興奮したブレア様の相手はしません。悲鳴なんて聞こえませんわ。

セリアやクラム様とニコル様に頭を下げます。


「心配かけてごめんなさい」

「次は気をつけてね。迂闊すぎよ」

「確かに軽率だったね」


ため息をつくセリアに苦笑するニコル様。

たぶん仮病って見つかっていますわ。クラム様だけが明るい笑みで回復を祝ってくれました。

想像はしてましたがクラム様だけが心配してくれましたわ。

とりあえず気弱な令嬢設定は続行です。無理があると思いますがリオが大丈夫と言うなら信じます。味方を増やそう作戦を具体的に考えないといけませんわ。


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