第五十八話 追憶令嬢12歳
ごきげんよう。レティシア・ルーンですわ。
平穏な生活を目指す公爵令嬢ですわ。
リオに物騒な魔方陣と魔石を贈られました。
魔法学の先生に謝罪すると一瞬虚ろな目をしましたが苦笑して許してくれました。問題ばかり起こす私に先生方は優しく生前は知りませんでしたがこの学園は心の広い先生ばかりですわ。
生前は日直以外で職員室に顔を出すことありませんでした。
せっかく用意してもらいましたが物騒な魔法陣は使わないように部屋に保管していると授業の前にシエルに手渡されました。そして授業ではセリアが素敵な笑顔で魔方陣を使った結界を。使わなければお説教と呟かれたので、背に腹はかえられずに結界の中で見学しました。魔法陣の上に魔石を置くと結界が作られます。安全な魔法陣を用意してリオの魔石を置いたら反応しませんでした。セリアが言うにはリオが書いた魔法陣にしか反応しないように魔石にも魔法陣が組み込まれているらしいです。よくわかりませんがリオの魔法陣を使うしかないという現状に恐ろしくてたまりません。
さすがにリオの非常識に怯え魔法で攻撃されることはなくなりましたわ。これが不幸中の幸いということでしょうか?まぁ攻撃さえされなければ普通の結界ですもの。気にするのはやめましょう。
図書室を目指して歩いていますが今日も違和感のある視線を感じます。私に向けられる視線は敵意に溢れたものか珍獣に向けるようなものですわ。リオに向けられる熱の籠ったうっとりした視線、カトリーヌお姉様に向けられる羨望の視線、公爵家は各々視線を集めていますが私に向けられるものは特別ですわ。まさか自分が珍獣のように見られるような日が来るとは思いませんでした。珍獣はセリアに教わった言葉で珍しい動物のことですよ。
魔力を持たない公爵令嬢は異質な存在ですから仕方ありません。
ずっと視線を感じていますが見つめ返すと逃げてしまうご令嬢。
私が怖いのでしょうか?敵か味方かわからないのは不便ですわ。
今日は距離が近いので声をかけてみましょうか。
「どうされました?」
足を止めて振り向くと小柄な令嬢がキョロキョロと周りを見渡します。見覚えのない令嬢ですわ。
「貴方ですわ」
怖がらせないように穏やかに微笑んで見つめると首を傾げました。
「わたし?」
「はい」
頷くと目を丸くして驚いた顔をして固まりました。声を掛けたのは間違いだったでしょうか?慈愛に満ちたように見える笑みを浮かべて微笑もうとすると令嬢の頬がほのかに染まり唇から吐息が溢れ、色素の薄い茶色の瞳と目が合いました。
「あの、私、ルーン様にずっと、お礼が言いたくて。でも、声がかけられなくて……」
お礼?
下を向き視線を彷徨わせながら、小さな声で言葉をつまらせて話す仕草は、私の目指す気弱な令嬢ですわ。これが本物ですわね。気の強い令嬢が多いのでお手本になるような方は初めて出会いましたわ。
意識して優しい笑みを浮かべて静かに相づちをうちます。
「申し遅れました。私、グレイ伯爵家ステラ・グレイと申します。――伯爵家なのに魔力ないんです。魔力測定から周りの目線やいろんなことが怖くて―。今までいたお友達も――。でも公爵家でも魔力の適性がなくても凛としてるルーン様を見て生きる気力が湧いたんです。魔力なくても、いいんだって。生きてていいんだって。貴方に憧れて―」
グレイ様が口にする小さい声の言葉を拾うと相当苦労されたんでしょう。魔力絶対主義を掲げる貴族も多く無属性への差別は酷いもの。多忙で姿を見せない大神殿の神官を纏める大神官様が無属性の小娘のために定期的に信仰心の確認のためありがたい講話の時間を取っています。招待を受けているのは私だけなのですが、エディも同席させています。精霊の前では身分はないため、私は単なる小娘、エディは小僧だそうですわ。大神官様の貴重な時間を戴くお礼にルーンの聖水と寄付金を納めます。変わった方ですがってそんな話は必要ありませんね。
目の前の止まらない感謝の言葉に私の胸が痛みます。
ごめんなさい。自作自演なんです。
私利私欲のために、義務を放棄した貴方の想像とは正反対の令嬢ですとは口には出せません。そして無属性設定を利用して社交をこなしています。
私は嘘つきで、利を優先にする酷い公爵令嬢です。周囲の言葉に傷つきませんが、やはり私の無属性でお母様が悪く言われているのはわかっていても胸が痛くなります。傷つく権利はないのでルーン公爵令嬢らしく向き合うだけですが。
でも、酷い私でもどんな言葉が欲しいかはわかります。
生きることを投げ出したくなる気持ちも。
無属性設定は自分のためにしたことで、覚悟はしていても…。
リオ達が受け入れてくれてくれるのは救いでしたもの。私の大事な人は誰も私を否定しませんでした。悲しませても、誰も離れていきませんでした。そして、今も忌避せず受け入れてくれる人がいます。
「グレイ様、魔力適性なしだと理不尽な言いがかりを受けますものね。頑張りましたわね」
「ルーン様」
私がリオ達からもらった優しさを分けてあげられたらいいのに。
彼女が理不尽に傷つけられないように力になれればいいのに。子供だった彼女が生きる力を失くすほどの絶望―。
茶色の瞳からポロポロと涙が溢れだしました。これは彼女の傷でしょう。酷い嘘つきの公爵令嬢にもできることがあります。
「泣かないでくださいませ。せっかくのかわいいお顔が台無しですわ。レティシアで構いませんわ。ステラ様とお呼びしても?」
「レティシア様」
涙が止まらずシエルからハンカチを受け取り、溢れる涙を優しく拭く。魔力を持たない貴族への差別はなくならないでしょう。それでも一人でないことは力になります。私を背中に庇って爽やかな笑みで魔力絶対主義者を論破したリオ、難しい理論を並べて気力を奪いバカにしたセリア、理不尽な言葉を聞き流したあとは私を慰めるように抱きつき優しい言葉をくれるエドワード、一緒に立ち向かう存在が頼りになり、寄り添ってくれる存在がありがたいものだと知りましたわ。
「理不尽なことをたくさん言われると思いますが一緒に頑張りましょう。ね?」
ステラ様の涙は止まらず、嗚咽が聞こえますが廊下にいるので視線を集めています。淑女は感情を見せることも人前で泣き顔を見せることも許されません。泣き顔が見えないようにそっと手を伸ばし、私の胸に顔を埋めさせリオの真似をして優しく頭を撫でます。これで誰だかわかりませんわ。しばらくすると嗚咽が聞こえなくなりました。
「私なんかがご一緒してもいいのでしょうか」
腕の中の小さい声に笑みを浮かべて顔を覗き込む。
「大歓迎ですわ。私はお友達が少ないのでお友達になってくれると嬉しいわ」
「レティシア様」
瞳が潤み止まった涙がさらに溢れます。
号泣ですわ。もうこれは待つしかありません。どれだけ時間が経ったかわかりません。でも泣かせてくれる腕のありがたみも号泣するとスッキリすることを知っている私は時間が過ぎるのを待つだけ。私達を見ている生徒達が余計なことを言わないように笑顔で圧力をかけながら。
しばらくして嗚咽が止まりました。ゆっくりと腕を離して顔を覗き込みます。目元は赤いですが涙は止まりました。レート公爵夫人の真似をして茶目っ気のある笑顔を浮かべて首を傾げる。
「スッキリしました?」
恥ずかしそうに頷くステラ様の顔を見て今は私も淑女はお休みしますわ。ハンカチで涙の痕を拭いてクラム様を真似して明るく話しかけます。クラム様はリオには敵いませんが慰め上手ですのよ。リオの真似はできません。
「よかったですわ。ステラ様、次に話すときは笑ってくれたら嬉しいわ」
「はい。レティシア様。…できればステラって呼んでほしいです」
「大歓迎ですわ。ステラ」
頬を染めてはにかんで笑った顔が可愛いらしく生前ルメラ様にイチコロされた殿下達の気持ちがわかりますわ。生前はイチコロの脅威を知りませんでしたわ。
「ステラ!!」
聞き覚えのある声がして溜め息を飲み込みます。足早にいつものように目を吊り上げたミーナ・ライ伯爵令嬢が近寄ってきます。アリッサ・マートン侯爵令嬢の取り巻きでいつも私に魔法攻撃を仕掛ける令嬢の一人ですわ。
「ルーン様、ステラに何をしたんですか!!」
睨んでいるお顔に笑みを浮かべて挨拶をします。どんな時も挨拶をするのは貴族の嗜みです。平等の学園でも貴族であることには変わりません。
「ごきげんよう。お話しただけですわ」
「貴方が泣かせたんですか!?」
よく響く声で話すライ様。挨拶も返せないとはマートン様、取り巻きの教育はきちんとしてくださいな。
私が泣かせたかどうかは難しい判断です。
状況を確認する前に人を責めることは軽率ですわ。幼いエディは一度教えればきちんと覚えましたわ。
どんな理由でも、平等の学園でも、伯爵家が公爵家に攻撃するなら手回しと覚悟が必要です。手回しは貴族の嗜みですわ。
「ミーナ様、やめてください。レティシア様は悪くないです」
「ステラのくせに口答えしないで!!」
パドマ様にそっくりな高慢な態度で蔑みの視線をステラに向けるライ様。
ライ伯爵家もグレイ伯爵家も家格は変わりません。上位貴族に含まれていない伯爵家に差はありません。
ステラが唇をキュッと結んで悲しそうに目を伏せました。
態度の変わったお友達ってまさか…。
「公爵家が伯爵家をいじめるなんて最低ですわ!!」
堂々と私を糾弾するライ様はハンナをいじめてましたわ。今もハンナに対して酷い言葉を言っているのを知っています。私は許せませんがハンナが望まないから報復してないだけです。言葉以上の嫌がらせをするなら容赦は致しませんが。庇護すべき平民に手を出すのは貴族の恥ですもの。
念の為確認しましょう。本人の望んでないことはしてはいけません。
「ステラ、ライ様は貴方にとってどんな方ですか?」
表情が暗いステラは顔を上げません。袖を握る手は震えています。
記憶を遡ります。必死に思い出してパドマ様の取り巻きを思い出します。
パドマ様は同派閥しか傍に置きません。そして取り巻きの中心は同派閥の上位貴族。マートン様も昔からあの取り巻きの中にいましたわね。マートン侯爵家も選民意識が強い。でも取り巻きに上位貴族はいません。同じ年齢で力のない伯爵家。中立派閥の令嬢は取り巻きを作りません。たぶんステラとライ様は取り巻き仲間?
魔力がないからマートン様に切り捨てられた。同派閥の家格の高い令嬢に切り捨てられたら社交界での居場所はなくなりますわ。ステラを見たことのない理由がわかりましたわ。
平等の学園らしくお相手しましょう。
ステラを背に庇って睨んでいるライ様に笑みを浮かべて見つめ返す。
「ここは学園です。今はお互い身分を忘れましょう。ステラのくせにってどういう意味か教えてくださいませ?」
「この子は何をやっても駄目。私が面倒見てあげてるのよ」
無礼講とは言いましたが敬語をやめるとは思いませんでしたわ。まぁ非常識な方とは知っているので気にしませんわ。どうしてこんなに上から目線で話されるかは理解に苦しみますが。
「ステラに頼まれてですか?」
「ステラは気が弱いのよ。何も言わないわ」
気が弱いの意味を勘違いしてませんか……?思考の読み合いは貴族の嗜みで言葉を口にしないやり取りも珍しくありませんが、
「ステラの言葉を聞くつもりがありますの?」
「聞くほどの価値が?」
悪意のないサラリと言った言葉に淑女の仮面が落ちそうになりました。
取り巻きは高位の令嬢に庇護してもらう代わりに頼まれ事をします。役に立たない令嬢を取り巻きにする物好きはいませんわ。
マートン様に頼まれる用事をステラに押し付けてたんでしょうか?
ステラに向ける蔑んだ視線も気に入りません。これをお友達とは認めませんわ。
「ステラ、ごめんなさい。辛かったら耳を塞いでね」
振り返ってステラに優しく微笑みかけ、ライ様に向き直ります。
徹底的に叩き潰してさしあげますわ。
「聞くほどの価値とは?」
「家格も教養も全てが劣る。魔力のない存在さえ許されない恥ずかしい貴族の言葉に耳を傾ける必要があるの?」
「その言葉をステラに言ったんですの?」
「それがなにか?」
サラリという言葉に一瞬だけ眉を顰めて慌てて笑みを浮かべ直します。
考えていることも最低です。価値観は自由ですが、言葉にするなんて愚かすぎますわ。
もしも子供の頃に無属性設定を受けてセリアに言われたら絶望する自信がありますわ。魔力継承が義務の貴族として生まれ育てば―。蔑む気持ちは理解はできても、それを一番傷ついている当人に伝えるなんて―。許せませんわ。
「自分が面倒みたとは片腹痛いですわ。貴方の言葉にどれだけステラの心が傷ついたかわかります?不安な時に傍に寄り添いもせずに、言葉で攻撃をして庇護するフリとは人として軽蔑しますわ。お勉強に教えてあげますわ。家格ですがライ伯爵家もグレイ伯爵家も優劣はありませんわ」
「うちのが方が大きいわよ!!」
貴族は上位貴族とその他の貴族で別れます。陛下は全ての国民を寵愛されますが貴族として目に掛けるのは上位貴族だけですわ。フラン王国の貴族として王家に認められれば上位貴族入りします。それができていないのは名ばかりの貴族です。
だから殿下の婚約者候補のお茶会にも王族の生誕祭にも招かれません。招かれるようにもっと頑張ってくださいませという王家からの無言の圧力です。フラン王国では王族に認められることが一番名誉なことです。アリア様に教えていただいたことなので、ここまで彼女が気づいているかはわかりませんが。上位貴族でない名ばかりの貴族のほとんどは派閥に属し上位貴族の傘下に入っています。上位貴族の推薦のもと国王陛下に謁見し認められれば上位貴族入りです。
「生家の立ち位置は正しく理解したほうが懸命かと?
教養?貴方達の言葉に傷ついても、歯を食いしばってここに立っているステラのほうが教養も貴族としても優れていると思いますわ。試験結果だけが全てではありませんわ。殿下がフラン王国の貴族令嬢として認めるのは貴方ではなくステラのほうでしょう」
クロード殿下は視野が広く寛容な心の持ち主。努力する方を見捨てることはありません。魔力がなくても貴族らしく振舞うなら微笑んでくださいますわ。私の愛する国民として相応しいと。そして上位貴族でなくても相応しい能力があるなら側近に欲しいと言う能力主義なところもあります。これは国王陛下夫妻には内緒です。殿下はいつもさらにフラン王国が豊かになるようにと考えているお方でしたわ。
「魔力のないできそこない!!公爵家の恥さらし!!」
言葉が通じないのはパドマ様の取り巻きの特徴ですか?
貴族として嘆かわしいですわ。でも上位貴族ではないだけマシですかね。この方が王族の前に立つなら申し訳なさで見ていられませんわ。アリア様もお嫌いでしょうし。
とりあえず、成績優秀、品行方正に過ごしていて良かったです。
リオ、ほどほど作戦止めてくださりありがとうございました。
「私はルーン公爵令嬢として後ろめたいことはありません。恥さらしなどと一度も思ったこともありませんわ」
「あら?周りが本当にそんなこと思っていると」
「価値観はそれぞれですわ。ですが私はルーン公爵家に恥じないように努めてます」
時々令嬢らしくないことを、している自覚はありますが。
ルーン公爵家に恥じない行動してますもの。…たぶん。お父様には一度だけ怒られましたがロキの件以外はお叱りを受けていませんもの。
「いつも守れられてばかりのくせに。貴方のせいでどれだけ不幸になった人がいたかご存じ?」
キンキンとした声で叫ぶ姿に何度目かわからないため息を飲み込みます。
責任転嫁もパドマ様そっくりですわ。
自業自得ですから。
私は一度も撒餌を仕掛けていません。全て巻き込まれただけですわ。
ルーン公爵家が動いたことは申し訳ありませんが、貴族の世界を理解できていなかった方々の浅はかさゆえですわ。学園であっても力のある貴族は貴族の教育も任されています。王族の目を汚す見込みのないものを見えないものにするのも務めですから。
王族の心を曇らせず、願いを叶えるのが臣下の務めです。害しかない貴族の排除は仕方のないことですわ。
「ミーナ様、レティシア様の所為で不幸になった方なんていませんわ」
「うるさいわよ。ステラ。貴方だってその一人よ」
「レティシア様がいたから今の私がいます」
「それがよ。従順な貴方がルーン嬢に関わったせいでおかしくなったのよ」
「違います」
思考を巡られていると背中から出てきたステラが言い返してますわ。気が弱くても言い返すことはあるんですのね。
「賑やかだけど、何事かな?」
聞き覚えのある声に驚き頭を下げます。廊下で騒いでいるのもいけませんでしたわ。
クロード殿下の前なんて醜態ですわ。
「頭をあげて。口上はいらないから楽にして」
ゆっくりと頭を上げると目の合ったクロード殿下は感情の読めない穏やかな笑みを浮かべています。
「申しわけありませんでした。お耳汚しを」
「殿下、ルーン様が!!」
私の声を遮ったライ様の抗議の声を上げる非常識さに睨みそうになるのを我慢し静かな声で忠告を。
「控えなさい。不敬ですわ」
「これは私が介入する必要がある?」
遅かったですわ。向けられるクロード殿下の笑顔にゾクリと寒気がしました。
自分でなんとかするので、不機嫌にならないでくださいませ。
こんなことに殿下を巻き込むなんて機嫌を損ねるのは当然です。
「不要ですわ。私達の意見の相違です。申しわけありませんでした。このようなことは二度とないように致します。学園とはいえ淑女として貴族として恥ずかしい振舞いをしたこと深く反省しております。ライ様?」
優雅な笑みを浮かべてライ様に頭を下げるように脅しても殿下に見惚れていて動きません。口を開こうとするので、自然に見えるように意識して殿下とライ様の間に体を挟み、余計な言葉を封じます。
「殿下、申しわけありません。ライ様は体調不良で保健室にお連れしますわ。どうかお許しくださいませ」
令嬢モードの笑みを浮かべて金の瞳と見つめ合います。探られるようにじっくりと見つめられていますが視線を逸らさず、背中に冷たい汗が流れる感覚だけが時の流れを教えてくれます。どれだけの時が経ったかわかりませんが、殿下の弧を描きながら結ばれていた唇がそっと開き、
「あぁ。平等な学園とはいえ、マナーには気を付けてね」
「申し訳ありませんでした」
殿下にマナーを注意されたのは初めてですわ。この場で収めてくださることに感謝し深く頭を下げようとするとエイベルを見つけました。視線を送って殿下を連れて行って下さいませ!!と念じると頷いたので大丈夫ですわ。エイベルでさえ視線でやりとりできますのに。丁寧に謝罪を述べて深く頭を下げるとエイベルが殿下に声を掛け生徒会に戻って行きました。本当に用があって殿下を呼びに来たみたいですわ。
エイベルに一応感謝をこめてセリアのマネをしてウインクしたら嫌そうな目で見られました。最近のエイベルは反応がつまりませんわ。
クロード殿下達が去るとライ様が無言で去って行きましたわ。無礼な方ですが、殿下からお叱りを受けたので学んでくれるといいですわ。
後ろにいるステラに向き直ります。廊下で喧嘩など、しかも殿下に咎められるという醜態をステラを巻き込みました。そして非常識の塊が動き出すかもしれませんわ。
「ステラ、ごめんねなさい。もしライ伯爵家やマートン侯爵家から嫌がらせを受けたら教えてください」
「そんな」
ブンブンと首を横に振るステラに遠慮させるわけにはいきません。
「いいえ。今回は私の軽率な行動が貴方を巻き込みましたわ。令嬢らしくなく感情的になりましたわ。殿下にお叱りを受けさせたのも私の浅はかさですわ」
「不謹慎でも嬉しかったです。私のために。私の味方なんて家族しかいないと思っていました」
泣き笑いを浮かべるステラの手を握ります。優しい方ですわ。
家族だけでも味方ならよかったですわ。パドマ公爵家の派閥の中で選民意識に巻き込まれずに生き抜くのは過ごしづらいでしょう。無属性の令嬢を見捨てず、寄り添うグレイ伯爵家はいいかもしれませんわね。
調べてみようかしら。ご兄弟に悪い感じがなければクロード殿下の側近候補に進言。
まずは、って違いますわ。今は私と殿下は無関係です。側近探しはエディのです。
殿下の忠臣集めの癖を治さないといけません。王家と関わりたくないのに体に染みついた行動が・・。
今は、私のことですわ。
ふざけているように明るい声で笑いかけます。
「なら一緒に味方作りを頑張りましょう。私は嫌われ者ですのよ」
「私はレティシア様大好きですわ」
「ありがとうございます。光栄ですわ。目立っていますので移動しましょう。もし嫌がらせされたら教えてくださいませ。私個人で報復してあげますわ」
「お気持ちだけで十分ですわ」
ステラに首を横に振られきっぱりとお断りされました。
あとでリオに相談しましょう。権力は使いたくないんですがグレイ伯爵家に圧力をかけられないように手回しが必要かもしれませんわ。
時間も遅いのでステラと一緒に寮に戻ろうとするとクラム様に会いました。
ステラは第二寮なのでクラム様に頼んで送ってもらいました。私はシエルが控えているので一人でも問題ありません。
殿下に咎められたことが噂にならないことを祈りましょう。
リオのお説教を受けないようにルーンに急ぎの使いを出しました。
できることはやりましたし、今日はもう休みましょう。




