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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第二章

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第五十六話 追憶令嬢12歳

ごきげんよう。レティシア・ルーンですわ。

平穏な生活を目指す公爵令嬢です。


試験も終わり武術の授業を受けています。

これから木剣で手合わせをします。

二人一組の訓練はニコル様がいつも付き合ってくれます。辺りを見渡しても菫色の髪色は見当たりません。ニコル様が見当たらないのでクラム様を探しましょうか。


「ルーン嬢」


赤い瞳の細身の子息に声を掛けられました。誰でしたっけ?うちのクラスメイトで赤い瞳を持つのは、


「カーソン様?」


頷くので当たりですわ。思い出しました!!

フィル・カーソン伯爵令息ですわ。カーソン伯爵家は武術の名門。上位貴族でも武門貴族は社交にはあまり顔を出さないので記憶にありませんでしたわ。


「ルーン嬢、よければお相手をお願いできますか?」


カーソン様に声を掛けられたのは初めてです。身体は華奢ですが、武門名家なら筋肉はしっかりついているでしょうか?

ニコル様もいませんし、落ちこぼれの私の相手をしてくださる方は貴重ですわ。武術は経験です。ありがたい機会に笑み浮かべて礼をします。


「光栄ですわ。よろしくお願いします」


カーソン様の顔が赤くなり固まりました。


「カーソン様?」


「大丈夫。先生、俺達から始めてもいいですか!!」


カーソン様が元気に手を挙げ先生を呼びました。固まってたのは気のせいでしたわ。

手合わせは先生の監督のもと行います。

エメル先生が来ましたわ。


「カーソンとルーン?珍しい組み合わせだね。じゃあ始めようか」


お互いに剣を持って礼をします。

エメル先生の合図が終わった途端に踏み込まれ攻撃されます。

動きは速いですが、目で追えますわ。剣はクラム様ほど重たくない。受け止めた剣を跳ね返して脇を狙うと軽々と受け止められましたわ。私の剣は軽いのはわかってますわ。どんな時も優雅に、余裕を見せるのは大事ですわ。余裕のない表情はいけません。カーソン様の剣を受け止めながら余裕のあるお顔に挑戦的な笑みを浮かべて見返します。息を飲んだ音に、足払いをかけますが失敗しましたわ。

足払いの成功率は壊滅的です。カーソン様は細身なのに全くよろけず、ただ蹴飛ばしただけでしたわ。力のない私の足払いは筋肉がしっかりついてる方には力不足です。

後ろに跳んで剣を躱します。

砂埃を立てて目くらまししたいですが、固い土なので無理ですわ。

防戦一方ですわ。

カーソン様の攻撃を躱し続けます。

伯父様の修行のおかげで攻撃は躱せますが、攻めの渾身の一手が見つかりません。

時間制限があればいいですが、手合わせにはありません。

速さで翻弄?カーソン様相手に無理ですわ。

攻撃が決まらないのはストレスだと騎士様が言ってましたわ。

きっと防戦を続けてストレスをためれば隙がでますわ。

ここは耐えるしかありません。余裕を見せつけるために笑みを浮かべて剣を受け止めます。笑みを浮かべたままカーソン様の一撃を躱す。カーソン様が草に足を取られバランスが崩れたので思いっきり足払いをかけます。バランスが崩れ地面に倒れこみましたわ。

成功ですわ!!やりましたわ。伯父様!!喜んでいる場合ではありませんわ。

チャンスですわ。カーソン様の剣に力一杯剣を振り下ろすと手が解け剣が飛びました。


「そこまで」


勝ちました!!初めて勝ちましたわ!!

人生で初めてですわ!!


「カーソン、気持ちはわかるが見惚れるか悔しがるかどちらかにしようか」

「伯父様やりましたわ!!私、初勝利ですわ!!」

「おめでとう。ルーンも落ち着こうか。はい、深呼吸して」


この感動を伝えたいのに。うん?

聞き覚えのある声がしましたわ。辺りを見渡すとニコル様がいましたわ。手を振ると首を横に振りルーン公爵令嬢と言ってますわ。

そうでした。ここは学園です。優雅にあれですね。

こんなに子供のように喜ぶのはマナー違反ですわ。

深呼吸して令嬢モードで武装しようとしますが、顔が笑いそうになるのを必死で我慢です。なんとか穏やかな笑みを作れましたわ。

穏やかな笑みを浮かべたままエメル先生に礼をします。


「失礼いたしました」

「意外に早く戻ってきたね。カーソンも落ち着いたか」

「すみませんでした」

「まだ若いから仕方ない。いい試合だったよ。手合わせで足払いをかけるとは中々見ものだったよ。

カーソンの攻めは良かったよ。集中力が課題だ。令嬢相手に油断があったかな?ルーンは防戦一方の中よく諦めずに耐えた。躱すのはうまいが、攻撃が弱い。自分に合った攻め方を考えなさい。1年生にしては、いい試合だったよ。これからも励みなさい」


エメル先生の言葉に礼をして、他の生徒の手合わせを見に行く背中を見送ります。

そして目の前の相手に向き直ります。


「カーソン様ありがとうございました」


左手を差し出します。

試合の後に握手するのはターナー伯爵家だけですか?握られる気配はありません。


「いや、あの…」


頬を染めて言い淀むのは、負けた相手に握手は屈辱的ですかね?

確かにボロ負けしたのに偉そうな顔のエイベルに手を伸ばされたら振り払いたくなりますわ。


「ごめんなさい。失礼しましたわ」

「そんなことない」


手を戻そうとすると勢い良く両手で握られました。顔は赤いですが嫌そうな顔ではありません。

私も両手で握り返すべきせばいいのでしょうか?両手で握手する文化なのかしら。

突然カーソン様が倒れこみ、手が解放されました。


「フィル!!抜け駆け禁止だ!!」

「カーソン様、大丈夫ですか!?」


地面に蹲る姿に驚き近づこうとすると大柄な子息がカーソン様と私の間に入りました。


「ルーン嬢、気にしないでください。フィルは元気です。先ほどの試合素晴らしかったです。是非俺とも手合わせをお願いします」


大丈夫なんですのね。名前で呼ぶほどカーソン様と親しいなら心配はいりませんね。

落ちこぼれで剣が苦手な私に声をかけてもらえるの嬉しいですわ。

初勝利を決めましたし、今日は良い日ですわ。


「ありがとうございます。私でよろしければ是非」


肩をポンと叩かれ振り向くとニコル様でした。


「レティシア嬢、嬉しいのもご機嫌なのもわかるけど、満面の笑みはやめようか」


嗜める顔のニコル様の言葉に首を傾げます。


「ニコル様?」

「うん。無自覚だよね。ごめんね。レティシア嬢は体力が無いから手合わせは次回で。手合わせしたいならクラムが物足りないみたいだから相手してあげてよ」

「呼んだか?」


髪を見出した明るい笑顔のカーチス様が近づいて来ましたわ。


「クラム、彼が一戦してくれるって」

「本当か!?」

「ちょ、待て、カーチス、俺は?」

「クラムの相手ありがとね。行ってらっしゃい」


ニコル様が手を振り目の前にいた子息はクラム様に引きずられていきました。どなたでしたっけ…?

手合わせできないのは残念ですが構いませんわ。


「ニコル様、私、初勝利しましたの。剣苦手ですのに」

「おめでとう。その話はリオ様にしてあげて。きっと一番に話を聞きたかったと思うよ」


笑顔で祝福してくれるニコル様。ですがニコル様にしては珍しく勘違いしてます。


「リオにはこの感動はわかりませんわ」

「一緒に修行してきたんでしょ?レティシア嬢の頑張りを一番近くで見てたんだから、この感動を分かち合いたいと思うよ」


私が一番修行をしたのはターナー伯爵家に滞在した時です。一番一緒に訓練していたのは、偉そうな顔の…


「一番、傍で…。リオよりエイベルの方が多いですわね」

「ビアード様は屈服させたい相手でしょ?屈服させたい相手に自分の情報を漏らすのは駄目だろう」


ニコル様の言葉に納得しましたわ。常に世の中は情報戦です。それは戦いの世界も同じです。

打倒エイベルですもの!!


「確かに。わかりましたわ。」

「納得してくれて良かったよ。」


ニコル様が安堵の顔を浮かべました。このお顔はクラム様を嗜めたあとに時々されますが、


「可愛いけど、たちが悪いよね。レティシア嬢は」

「失礼ですわね」

「ほら、もう授業終わるから移動しよう。先生の所に戻るよ。カーソンは疲れてるから休ませてあげて。気にしないで」

「わかりましたわ」


ニコル様の言葉に頷き集合場所を目指して歩きます。

今日の授業はこれで終わりです。

初勝利です。

私、誰かに勝てるなんて思ってませんでしたわ。

ちゃんと修行の成果ありましたわ。

努力は報われる。無駄な経験はありません。

初めて伯父様の言葉の意味がわかりましたわ。これからも強くなれるように頑張りましょう。


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