第五十一話 追憶令嬢12歳
ごきげんよう。レティシア・ルーンですわ。
将来の平穏な生活を夢見る公爵令嬢ですわ。
ターナー伯爵家に滞在しています。
早速修行に行き詰っております。
矢が矢が全然的にあたらず、掠りもしませんの。
伯父様は忙しいので今日は護衛騎士と練習しています。
止まっている的なら余裕ですわ。
早打ちでも真ん中に命中できますわよ。闇雲にやるのはよくないと言われ膝を抱えて反省会をしています。
「行き詰ってるな。大丈夫?」
聞き覚えのある声に膝に埋めていた顔を上げます。
「お先真っ暗ですわ」
苦笑したリオが慰めるように頭を撫でながら、私の弓を手に取ります。
「仕方ないな。シア、見てて」
リオが弓を構えて弓矢を放つとシュッと勢いのある矢が的の中心に吸い込まれ見事に命中させました。
「矢の速さが一定じゃないのはわかるか?」
どういうことですか?首を横に降ると、よく見ててと言われ、今度は先程よりもゆっくりした速度の弓矢が放たれました。
「リオ、もう一本お願いします」
リオが放った矢をよく観察するとリオの言っていたことがわかりました。矢の速さは一定ではありませんわ。近距離と遠距離だと…。計算が違ってましたわ。
的の動きだけでなく距離感も大切なんですわ。
立ち上がり、リオから弓を受け取り構えます。
「的を出してもらっていいですか?」
護衛騎士が頷いたので、距離感も意識して弓矢を放ちます。
当たりましたわ!!
10本中3本も命中しました。
「大丈夫そうだな。じゃあ俺は戻るよ。またな」
「リオありがとうございます!!」
リオが笑みを浮かべて手を振って去っていきました。真っ暗の世界に光が差しましたわ。
笑い声が聞こえて振り向くと伯母様がいました。
「流石ね。リオが騎士を目指さないのが残念。あの子のセンスはターナー伯爵家の血を感じるわ」
「センスですか?」
「ええ。武術は努力と経験が全てよ。でもセンスがあると成長の早さが違うわ。
貴方のお母様は天才だったわ。私が必死に練習して身に付けたものを、見ただけでできるんだもの。努力と経験で補えるけど、凡人は努力家の天才には敵わないのよ」
お母様はやはり凄いんですね。でも伯母様も強いです。頑張れば伯母様みたいになれるんでしょうか……。
「センスがなくても努力と経験…」
「レティシアもセンスは悪くないわ。12歳の令嬢で弓を10本命中させる子なんて中々いないわ。
貴方のお母様は動いてる的を狙うのは得意だけど、止まってる的に当てるのは下手だったのよ。変なところで集中力がなくって…。興味があることには天才なのに。どんなことでも集中して取り組める貴方はすごいわ。これからの成長が楽しみよ」
「伯母様、私も頑張れば強くなれますか?」
「もちろんよ。ローゼの娘で私達の姪ですもの。貴方が望むなら徹底的に鍛えてあげるわ。
いつかエイベルやリオにも1本とれるように頑張りましょうね」
「がんばります」
「落ち込んでるかと心配したけど、大丈夫そうで安心したわ」
「ありがとうございます」
明るく笑う伯母様が魔法で的を出してくれたので訓練を再開します。目指せ10本的中ですわ。
今日は6本が限界でした。
それでも的に当たるだけでも奇跡ですわ!!
木剣の訓練は攻め方の勉強です。
護衛騎士は私には攻撃してきません。それなのに私がどんなに考えて剣を振っても、難なく軽々と受け止められてしまいます。
予測のつかない攻撃か伯父様みたいに圧倒させる技量があればいいのですが…。
「ルーン様、休憩しましょう。集中力が乱れてます」
「申しわけありません」
礼をして剣を片付け座って休憩します。
水筒を渡されたのでお礼を言って受け取り喉を潤す。訓練中はシエルの付き添いはありません。水分補給を忘れがちなので、よく注意を受けます。次は忘れないようにしましょう。
「全然1本とれませんわ。どうすればいいのでしょうか」
「以前よりは剣筋がしっかりしてますよ。力がないので、軽く簡単に振り払えます。速さを武器にしたらよろしいかと」
「速さですか?」
「力がある体の大きい者の剣は重いので、一撃必殺向きです。カーチス様はこのタイプですね。マール様は華奢なので、剣の重さはありませんが身軽なため速さで翻弄して隙を見つけて急所を狙います。訓練を積むのもいいですが他者の戦い方を見学するのも勉強になります。ここには色んな戦い方をする者がいるので、剣筋を読む訓練もできますよ。どんな経験も無駄なことは一つもありません」
「ありがとうございます」
空き時間に見学させてもらいましょう。
私の戦い方を見つけないといけませんわ。伯母様や護衛騎士の方の言葉に気持ちが軽くなりましたわ。
いずれは落ちこぼれ脱却したいですわ。武術の成績は優秀評価をもらえなかったので…。
時が経つのが早く今日で最後の日になります。
護身術は3種類覚えましたわ!!
弓は8本が最高記録でした。悔しいです。
剣は上達しませんでした。誰からも1本とれませんでした。
次回こそは……。
最後に伯父様が訓練を見てくれました。
「上達したね。まだまだ経験不足だから騎士達から1本もとれないのは仕方ない。焦らず励みなさい」
「ありがとうございます。伯父様、訓練は学園ですることを許してもらえますか?」
「先生の許可があるなら構わないよ。剣は魔法なし。弓はいいだろう。体術は許可しない。手合わせでなく訓練でリオに見てもらう分には構わない」
これで学園でも訓練できますわ。訓練は全て伯父様の指示に従う約束です。お母様は忙しいのでお願いできません。
「わかりました。ありがとうございます」
「リオ、わかっているな」
「はい。承知しております」
「お前なら大丈夫だろうな。危機管理が欠如しているからしっかり見て上げなさい」
「わかりました」
伯父様とリオの視線が突き刺さりました。失礼なこと言われている気がしますが…。気のせいですよね。リオはどこでも頼りにされるんですね。さすがリオ兄様です。
「今季の訓練はここまでだ」
「叔父上、最後に一戦お相手いただけませんか?」
「ハンデは?」
「いりません」
「まだ勝たせないよ」
「よろしくお願いします」
「レティシアは護衛騎士の傍で離れてなさい。結界を」
護衛騎士につれられて歩いています。リオ達から遠く離れました。リオの濃紺の髪色をかろうじで認識できます。
こんなに離れたらほとんど見えません。
「どうぞ」
凝視している私に護衛騎士が望遠鏡を渡してくれました。ありがたく受け取ります。風の結界で覆われましたがこんなに離れてるのに、必要ですか?
「中から出ないでくださいね」
「わかりました」
リオの訓練を見るのは初めてです。
砂埃が待ってます。
望遠鏡を覗いても動きが速くて全然追えませんわ。
これが速さで翻弄するということなんでしょうか?
お母様の一戦も凄かったですが…。砂埃しか見えません。
私の周りの結界が消えましたわ。
「ルーン様、終わりましたよ」
「全然目で追えませんでした」
「仕方ありません。風使いの戦いですから」
あれが普通なんですか?護衛騎士と共にリオ達の傍に行きました。
「ありがとうございました。」
「その実力なら今からでも騎士団に入れるだろう」
「叔父上に一本取れるようになったら考えます」
「まだまだ勝ちは譲らないよ」
「精進致します」
「楽しみにしてるよ。さてそろそろ準備しなさい」
砂埃まみれのリオと伯父様が親しそうに話しているのを眺めてましたが、伯父様に言われ、急いで帰る準備をしました。
急がないと家に着くのが朝になってしまいますわ。
時間が足りないですわ。
もっと修行したかったですわ。
帰りはリオと一緒に帰りました。馬車の中でリオの膝を枕に眠りました。時々目を覚ますと頭を撫でられ寝かしつけられ懐かしい記憶が蘇りました。
ルーン公爵邸に着いたのは朝でしたが、ゆっくり眠ったお陰で体は楽でした。
エディの相手をして、お父様の命令で夜会に参加し慌ただしい日が戻ってきました。今回は一週間だけなので前のように恐ろしい容姿磨きがなかったのが救いですわ。




