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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第二章

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第四十六話  追憶令嬢12歳

ごきげんよう。レティシア・ルーンですわ。

平穏な生活を夢見るステイ学園一年生です。


リオには忠告されましたが、気になってラウルのことを調べました。

貴族社会は情報戦なので、調べたくらいでは友情は壊れませんわ。

知られたくない情報は上手に隠すのも貴族の嗜みですわよ。

脱貴族を目指してるのに、体には貴族のあり方がしみ込んでいるのが切ないですが・・。今はルーン公爵令嬢なので仕方ありませんわ。


ラウルは祖父、母、妹の4人家族です。

家は農家ですが貧しくて生活が苦しいため仕送りをするためにラウルは学園でお金を稼いでいます。学園には貧しい生徒のために学園内の仕事の斡旋があります。主席のラウルには奨励金もありますがほとんどを家族に仕送りしてるいみたいですわ。

ラウルが望めばうちで家族ごと雇ってさしあげますが、余計なお世話ですね。

平民で魔力のないラウルは一部の方々に目をつけられいます。

最近はレオ様が傍にいることで、王子殿下に取り入ったと・・・。

レオ様に関わらなかった方々が言うのは納得できませんわ。

今までお一人だったレオ様に取り入る機会なんていくらでもあったでしょうに。タイミングを逃し、人を羨むなど愚かな方々ですわね。文句を言うならお近づきになれるように動いたほうが有意義ですのに。

ただラウルは品行方正で先生方や良識的な貴族には好かれていますので、そこまで深刻になることは少ないそうです。

セリアの道具をプレゼントしますか?

優しいラウルはきっと使えませんわ。こんな物騒な物を持ち歩かせられませんわ。なにか私にできることはないでしょうか…。



パチン!!ドン!!と大きな魔法が弾かれる音がして顔を上げます。

周囲に砂埃と風の魔力の残り香が漂い、辺りを見渡すといつも落ち着いている先生が走っています。


「ルーン!!」


思考の海に潜っていましたが、私は魔法の授業の見学中でした。

初期魔法の練習は興味が持てずに、ぼんやりしてましたわ。


魔法の授業を見学してるのは武術の授業で、魔法の授業を受けない生徒はレポート提出が課題とされましたので。見学をしてレポートを書かないと減点されてしまいます。

最初は見学だけでしたのに、なぜかレポート提出が義務になりました。

毎回の見学はつまらないですが、読書するわけにも行きませんし、生前三年生までは授業を受け、お父様にも指導を受けましたので上級魔法まで使えます。学園で習うのは中級魔法までです。ルーンに伝わる治癒魔法は上級魔法にあたります。

今日は詠唱をして精霊の力を借りる練習ですわ。掌に水が出したり、的に向かって放ったり個人の資質に合った演習中です。貴族令嬢も自分の身を守るように結界と嗜み程度の魔法は身に付けます。攻撃的な魔法はそこまで殿方達ほどは覚えませんが。私もいざという時は殿下をお守りするために結界魔法は中級魔法まで身に付けてます。攻撃魔法はそこまで強くありませんが、エイベルよりも発動は早かったですわ。

先生が私の前に立ち真剣なお顔で私の肩に手を置いて全身をじっくりと見ていますがどういう状況ですか?

よく見ると周囲の視線も集まっています。


「ルーン大丈夫か!?怪我はないようだね」


しばらくして安堵の顔をした先生の手が離れ、生徒達のほうに向き直りました。


「さて、私は的を狙ってって言ったんだけど、どうして逆方向にいる彼女に魔法が発動したんだろうね。魔法は危険なものだ。人を殺めることもできると話したよね?私は無抵抗な者に魔法を向ける生徒には魔法を教える気はないよ。魔封じして退学にしてもいいと思っている。更生する気があるなら考え直してもいい。彼女に攻撃した二人は放課後、私の所にきなさい。今日の授業はここまでだ。次回も初級魔法の練習をするので基本の詠唱を覚えてくるように。解散だ」


いつも優しい先生の厳しい言葉に礼をして生徒達が散っていきます。残っている生徒からは視線を向けられています。

初級魔法なんてお遊び程度の魔法が的から外れるなんてありますの?


「ルーン」


先生が向き直り真剣な顔で見られています。


「見学するのはいいけど、見学中にぼんやりするのはやめなさい。今日みたいなことが起こらないとも限らないからね。魔法は危険だから」


ぼんやりしてたの気づかれてましたのね…。見学態度もきちんと取り繕わないといけませんね。まさか見られていたとは思いませんでしたわ。頭を下げます。


「申し訳ありませんでした」

「わかればいいよ。風の結界が発動してよかったよ。その魔石のお蔭か。マールは流石だな。ちゃんとマールにお礼を言って魔石を補強してもらいなさい」


先生が私の胸に飾られているブローチにそっと触れました。

結界?

よく見るとブローチに薄く刻まれているのは…魔法陣ですか!?単なる装飾品ではなかったんです……。作ったものを自慢したいというリオにも子供らしさがあるのかと思って微笑ましく感じてましたのに。

でも補強ってリオにお願いしますの?

怒られるので、できれば知られたくないですわ。

魔石は壊れてませんし、見た目も変わりませんので内緒にしましょう!!


「わかりました。ありがとうございます」

「君に怪我がなくて良かったよ。友達が待ってるから行きなさい」

「ありがとうございます。失礼します」


先生の視線の先にはセリア達がいました。

待っててくれたカーチス様とスワン様とセリアのもとに向かうとセリアの腕が伸びてきて抱きしめられました。


「レティ、無事でよかった。なんで、避けなかったのよ!?」

「油断してましたわ」

「バカなの!?」

「セリア泣かないで」

「泣いてないわ」


気丈なセリアの声が濡れてます。

心配かけたみたいですわ。

セリアの背中に腕を回し宥めるようにゆっくりと叩きます。


「ごめんなさい」

「シオン嬢、ルーン嬢もわかってるから落ち着いて。お説教はマール様に任せよう」

「駄目よ。あの男はレティに過保護なわりに激甘なのよ。無事でよかったって甘やかして終わりよ。

基本自分で手回ししてレティの問題を全部解決するからレティの危機感が育たないのよ。わかってないのよ」


セリア?

嫌な予感に襲われ、恐る恐るセリアの顔を見ると、セリアの赤い瞳が据わっています。

これまずいです。こんなセリアを見たことありません。

助けを求めてスワン様を見ると苦笑してため息をついてますが目が怖いです。

スワン様もセリアが怖いんですか・・・?

カーチス様には心配そうな顔で見つめられていますが、セリアの視線が痛い。

スワン様に駄目な子を見るような顔で見つめられてます。


「…。仕方ないね。ルーン嬢、もし君が怪我をしていたら、先生は監督不行き届きで厳罰だったよ。

傷の具合によっては首も飛ぶ。君を害した令嬢達とその実家も潰されるだろうね。すでに令嬢達の未来は終わったも同然だけどそれは自業自得。ルーン嬢は優しいから、そこまでしないでって言っても誰もマール様でさえも君の言葉を聞いてくれないよ。学園内は平等だけど、そんなの表向きだけだよ。責任も言葉も命の重さも違うんだ。ルーン公爵令嬢の君は特に。誰も害したくないんなら、自分の身はしっかり守らなきゃいけないんだ。わかる?」


そんな大事に……。

あんな初級魔法でそんなに大事になりますの?

先生の首が物理的に飛ぶ?お家取りつぶし、路頭に迷う家臣たち……。怨恨。

ルーン公爵家への影響…。

私だけなら構いませんが、恨まれ幼いエディが攫われるかもしれません…。

結界が発動しなければ、恐ろしいことが。私がうっかりしてたばかりに……。


「ニコル、その辺に。ルーン嬢が泣きそうだ」

「やめない。この中では一番は僕が適任だろう」

「スワン様ありがとう。カーチス様もレティを甘やかさないで」

「シオン嬢もニコルも厳しすぎないか」

「大丈夫よ。この子、迂闊で一見弱そうだけど、心は弱くないから。」

「彼女には必要なことだから。クラムの馬鹿は体で止めてるけど、ルーン嬢は言葉で止めるだけだよ」


スワン様の声が頭の中に響き渡る。

私は攫われても運よくリオに助けられました。勘違いの嫉妬でも命を奪おうとする者もいます。ルーンの怨恨を背負うのは嫡男のエドワード。

私の失態がエディが危険に曝す…。頼もしいけどまだ小さい弟に余計なものは背負わせたくありません。将来トンズラする予定でも。


「スワン、ありがとう。後は俺が引き受けるよ」

「リオ様、どうして?」

「先生から連絡を受けた。生徒会案件だしな」

「大事になりますか?」

「殿下の判断だが、大事にしなければ示しがつかないだろう?」

「リオ様、わかってますよね?」

「俺の言いたいことは、ほとんどスワンが言ってくれたから。友達として認めるよ」

「あら?珍しい。貴方の対抗馬になってもいいの?」

「ならないだろう。もしシアに手を出すなら、遠慮なく潰すよ」


セリアの腕が肩にまわって後ろを振り向かされます。

目の前にはリオがいます。

まずいです。

まだ心の準備ができてません。

リオがいるのはどうしてですか!?授業中ではありませんの!?


「レティ、ニコルとクラムって呼んでだって。二人も名前で呼んでもいいわ。愛称は駄目よ」

「マール様に認めていただけるとは思いませんでした」

「リオでいい。これからもシアを頼む」

「お任せください。リオ様。クラム、様はつけろよ。先輩だ」

「わかった。よろしくなレティシア」


呼び方……?明るく笑うカーチス様。

セリアが言ってたのは、


「クラム様?」

「クラムなんかに様はいらないよ。レティシア嬢」

「そろそろ戻った方がいい。先に失礼するよ」


肩を掴まれ、浮遊感に驚くとリオに抱き上げられています。


「え!?リオ、降ろして。自分で歩きます」

「駄目だ。部屋までこのままだ。意味わかるだろ?」


据わった目に見つめられ冷たい汗が流れます。

これきっとバレてますわ。セリアから解放されたのは一安心でももっと恐ろしいものが……。

隠しておきたかったのに。

降ろしてほしいけど言える雰囲気でもありませんわ。

多くの生徒に見られている中で抱きあげられて移動するなんて恥ずかしすぎます。

視線が突き刺さり違う意味で泣きたいですわ。

リオの胸に顔をつけていれば、私ってわからないかもしれませんわ。

銀髪は珍しくありませんし、誰だかわからないことを祈りリオの腕に顔を埋めて隠れましょう。


リオの部屋に着き視線から解放されるとほっとしました。

ソファに降ろされると思いましたが、リオは私を抱き上げたまま腰を下ろしました。

もう抱っこされる年齢ではないんですが……。

顎に指が伸びて顔を上げさせられ、目が据わっているリオの瞳に見つめられます。


「さて、説明してもらおうか」

「詳細を先生から聞いたのでは?」

「シアの口から聞きたい。譲らないから観念して」


これは確実に長いお説教が始まる予感がします。

リオのお説教は心が折れるほど長いので知られたくなかったのに……。

反抗するとさらに長くなりそうなので、ため息を飲み込み覚悟を決めましょう。

据わった目にすでに心が折れそうで下を向き視線を逸らします。


「魔法の授業が暇だったので、ぼんやりしてました。ぼんやりしてたので魔法がこちらに飛んできたのに気づきませんでした」

「それで?」


それで?


「気付いたら先生が駆けつけてくださいました。リオの結界のおかげで無事でした。ありがとうございました」

「そう」

「ごめんなさい。油断してました。まさかここまで嫌われてるとは思わなかったんです」


生徒に物理的に攻撃されるなんて初めての経験です。頭を下げあとはリオのお説教に耐えるしかありませんわ。


「反省してるんならいいよ。次は気を付けて。顔が暗いのは?」


お説教なしですか?ここで油断してはいけませんわ。

リオの手が頬に添えられ顔を上げさせられ銀の瞳に冷たさはありません。


「反省中です。ニコル様に言われたことわかっていませんでした」


迂闊でしたわ。リオの結界がなければ大惨事でしたわ。


「俺はシアに危害を加えるなら、遠慮なく潰すよ。徹底的に」

「やめてください。私のためにリオが手を汚す必要はありません」

「これは俺の問題だから。シアに言われる筋合いはない。泣かれてもやめないよ。シアの願いは全て叶えたいよ。ただ俺の許容範囲外のことまでは叶えられない。ごめんな。嫌ならちゃんと自分で身を守る努力をして。きちんと周りの状況を把握して安全策をとって」


強い口調に意思の強い瞳。リオはいつも私のお願いを聞いてくれますがそれは限度があります。家に影響のあることはできません。いくら身内に甘くても線引きはありますわ。

リオの言葉が段々弱くなり、強さの籠った瞳が翳っていく。


「リオ?」

「俺から離れていかないで。守らせて」

「リオ?」


瞳が暗く、弱い声はあの時と同じです。

たぶん私の声は聞こえてませんわ。

初級魔法とはいえ運が悪ければ死んでいたかもしれません。私が学園で死んだなら生徒会役員としても婚約者としても迷惑がかかります。

相当心配をかけたようですわ。


リオの顔に手を当てて瞳をじっと見つめて、額を合わせます。話を聞かない時のエディに話を聞かせるためによくやります。口を開いてゆっくりと言葉を音にします。


「いなくなりませんわ。リオ兄様、大丈夫ですよ。強くなります。自分もリオも守れるように」


しばらくしてリオの手が私の手の上に重なりました。もう大丈夫ですわ。


「そこは俺に守られててよ」

「譲りませんわ」

「俺も頑張らないとだな」

「負けませんわ」


いつもの調子に戻ったリオに笑いかけるとリオの頬がほのかに染まりはにかんだ笑みが返ってきました。弱気なリオ兄様なんて珍しいものを見ましたわ。

こみあげてくる笑いにリオの頬から手を解き素直に笑うと抱きしめられました。

リオの背に手を回し、落ち着く温もりにほっとします。


「シア、俺はシアに害を加えた奴は許さないよ。隠しても無駄だから。俺の情報網を甘く見るなよ。隠ぺい工作するなら俺に直談判にくるほうが賢明だ。ラウルの件も手を出すなよ」


冷たい声に顔をあげると、寒気がするほど綺麗な笑みを浮かべています。

隠そうとしてたの、どうしてわかりましたの!?

向けられる笑みに恐怖をしてリオの胸に顔を埋めます。リオ、いつから腹黒になったんでしょう・・。

先ほどまでの空気が台無しですわ。


「わかりましたわ」


ゆっくりと髪が梳かれて、リオのされるがままに。そっと顔を上げると怖い笑みではなくいつものお顔に戻っていました。

リオの手がブローチに触れて魔石に魔力を送っています。


「これで大丈夫かな。もう少し大きくていいなら強度あがるんだけど・・。」


恐ろしい言葉に魔力がこれ以上送られないように慌ててリオの手を握ります。大きくなって目立つのも、重たくなるのもごめんですわ。


「私はこれが気に入ってます。リオに初めてもらった手作りですよ」


じっと見つめて首を横に振ると目を逸らされました。握った手に指を絡められ、手の甲にそっと口づけを落とされました。微笑んで遊び始めたリオにほっとします。心配性の従兄が元気になって良かったですわ。


「そんなに気に入ってもらえたなら嬉しいよ。無事で良かったよ。そろそろ戻ろうか」

「自分で歩きますわ」

「駄目だ。今日は俺に運ばれて。心配かけた罰だから」


エセ紳士モードでふざけているリオに心配をかけたのは本当です。それにうっかりまた地雷を踏み抜いてお説教されたらたまりません。静かに頷きリオに従いましょう。

視線を集めることよりもリオのお説教の方が厄介ですもの。

視線や悲鳴はいつものことなので気にしませんわ。

リオを怒らせると厄介なので、自衛と周りの情報収集を頑張ろうと思いますわ。

お説教が少なかったのは奇跡ですもの。

不幸中の幸いというものですわ。

生前よりも物騒な学園生活に頭を抱えたくなりますが、前に進むしかありませんわ。

平穏生活のために頑張りましょう。とりあえず生徒会の事情聴取はリオに話したので呼び出しはないそうです。余計な仕事を増やしたので機嫌が悪くなった殿下にお会いしないですむことに感謝しましょう。

そしてまた迷惑をかけたリオ兄様にはルーンの料理長の自信作のチョコレートを献上しましょう。

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