第四十二話 前編 追憶令嬢12歳
おはようございます。レティシア・ルーンですわ。
未来の平穏な生活のために脱貴族を目指す公爵令嬢ですわ。
とうとう学園の大行事茶会の日を迎えました。
最高学年の令嬢主催のイベントです。
大行事なので二日間行われます。
日時、場所はくじ引きですが、二日目の方が印象に残りやすく有利と言われています。
招待客は先生、上位貴族夫人、生徒。
生徒は抽選で選ばれますが名家の令嬢の茶会は生徒会役員が招かれることが多いです。
茶会は公開されているので、低学年の生徒は見学します。
茶会の見学を義務付けられるのは礼儀作法の授業を選んでいる方だけですが、茶会は女性貴族の嗜みなので多くの貴族令嬢が見学に足を運びます。
主催のおもてなし、招待客のマナーはお手本教材として最適です。
私は生前は招待客として招かれたり、クロード殿下と一緒に見学に回りましたわ。殿方の関係のないイベントでも王族が顔を出さないわけにはいきませんので。
カトリーヌお姉様は一日目の午後に庭園での開催予定です。
青い空が広がり、風が心地よく絶好の茶会日和ですわ。のんびりと窓を眺めている場合ではありません。
実は問題が起きています。
部屋にあるはずの私のバイオリンが見当たりません。
最後に見たのは一昨日です。昨日はお父様の命でエディと夜会に出席して、今朝帰って来たんですが・・。
シエルが探してくれてますが見つかりません。
とりあえず、リオの部屋に保管してあるバイオリンを取りに行きましょう。
私はカトリーヌお姉様の茶会の開催時間の一時間前に行けばいいのでまだ時間に余裕があります。
今年は主催者側の演者なので、茶会の招待客には選ばれませんでしたわ。
パドマ様の茶会に招待されなくて良かったですわ。砂の入ったお茶が出てきそうですわ・・。そしてまた非常識なやり取りを・・。思わずため息がこぼれました。
リオの部屋の扉に手をかけると鍵が開いてます。
殿方は茶会に興味がないので、今日は休養日扱いです。
ノックをして入室許可を受けて入ると書類からリオが顔を上げて迎えてくれました。
「どうした?」
「ごきげんよう、リオ兄様。部屋に置いたバイオリンが見当たりません」
「バイオリンケース開けてみな」
リオの部屋に置いてある予備のバイオリンケースを開けると驚きました。
これ!!
本物です!!予備用のバイオリンではありません。
私のバイオリンはリール公爵夫人から贈られました。それからはお父様にいただいた物は予備用に。
笑っているリオを睨みます。
「探しましたのに、酷いですわ」
「最後の練習の片付けの時に中身をすり替えた。楽器の管理は俺がするって話したろ?」
忘れてましたわ。そういえば、なぜかリオは私の予備のバイオリンをいつも弾いてましたわ。特に気にしませんでしたわ。
「どうしてですか?」
「シアやレート嬢に嫌がらせするために、バイオリンを隠す人間がいるかもしれないだろ?寮なら取りやすいしな」
「私の部屋に誰か入ったんですの?シエルも気づきませんでしたわ」
「荒らさなければわからない。怪我をさせられなくて良かったよ」
「私の予備のバイオリンは?」
「盗まれたんだろうな。うちにあるシア用のバイオリンを送ってもらったから大丈夫。予備には十分だろう。ほら」
リオの視線を受けてリオの侍従からバイオリンケースを渡されます。
伯父様から贈っていただいたバイオリンです。
これでよく覚えた曲を披露してましたわ。調律して軽く弾くと違和感はありません。
「ありがとうございます。バイオリンは予備も持って行った方がいいですか?」
「俺がシアの予備を持ってくよ。令嬢達は俺の持ち物には手を出さないだろうから」
「ごめんなさい」
「シアの所為じゃない。まぁ俺の予想の範囲内だから問題ない」
近付いてきたリオが私の頭を優しい手で撫でながら、涼し気な笑顔を浮かべています。ゾクリと寒気に襲われ、
「リオ、その顔はやめてください」
「ごめん。そろそろ移動しようか」
「リオは直前に来ればいいのでは?」
「暇だし、もう行くよ。一緒に行こう」
「シエルにバイオリンのことを伝えないといけません」
「伝えとく。ほら」
机の上の書類はいいんでしょうか?気にしたらいけまけんわ。
リオの差し出された手をとり会場に向かいます。片手でバイオリンを二つも軽々と持つのは流石ですわ。
視線が集まるのはいつものことです。人が倒れても、しばらくすると起き上がるので気にしません。
会場に着くとすでに準備は終ってます。会場は風魔法の結界で覆われて、砂埃や風避けの対策が整えられています。
メインの主催席と離れた場所に小さいテーブルが幾つも設置され、上には焼き菓子と冷茶とお花が飾られています。
招待客以外の生徒用ですわ。カードも置いてありきめ細かい気配りは流石レート公爵家のご令嬢ですわ。
ピアノが設置してあるので、あそこで演奏するのでしょう。
奥には衝立に仕切られた場所があるので休憩所と荷物置き場みたいです。
カトリーヌお姉様が近づいて来たので礼をします。
カトリーヌお姉様は寮では柔らかく髪を結い上げていますが、学園ではきちんと一つに纏めています。髪の乱れは淑女として許されませんと生前は教えられましたが学園ではそこまで厳しくないようです。各々が好きな髪型を楽しんでいます。私は毎朝シエルが結い上げてくれるのでお任せしています。
「レティシア、いらっしゃい。今日はよろしくお願いしますね」
「はい。頑張ります」
「ありがとう。マール様も引き受けてくれてありがとう」
「いえ、レート嬢の茶会に参加させていただけるなんて光栄です」
「お上手ですこと」
カトリーヌお姉様の美しい笑みにリオが笑い返すと突然腰を抱かれ体が傾きました。
リオの胸に突っ込み不満をこめて見つめると視線を後ろに誘導されました。振り向くとふわふわの髪に花を飾り付けたエイミー様が速足で近づいてきますわ。花がたくさん詰まったバスケットを抱え花の香りとともに現れた姿は絵本の中の妖精のようです。
「レティシア!!」
愛らしいお顔のエイミー様に礼をしようとするとリオに抱き寄せられており礼ができません。
「エイミー、落ち着いてくださいませ」
「カトリーヌ様、レティシアの髪にこのお花を飾ってもいいですか!?お揃いに!!是非!!」
「演奏の邪魔にならないなら構わないわ。マール様の胸にも」
「かしこまりましたわ。ありがとうございます!!」
エイミー様のテンションが高く、カトリーヌお姉様が子供を見るような視線を向けながら笑ってます。
リオはエイミー様のテンションに顔を引きつっています。リオが爽やかな笑顔以外を向けるなんて珍しいですわ。
「レティシア、ここに座って!!」
リオにエスコートされてエイミー様がパンパンと叩かれている椅子に座ります。
正面に立ったエイミー様のバスケットからが甘い香りのする見覚えのない小さい花がたくさん入っています。
図鑑でも見たことがありません。薔薇など見慣れた花も多いですが小ぶりな花は私の記憶にはありません。
「エイミー様このお花は、」
バスケットから顔を上げるとエイミー様の頬が赤く染まりました。うっとりと微笑むお顔に、頭が重くなっています。
「レオ様とラウルが応援にくださいましたの」
エイミー様のうっとり笑うお顔は見惚れるほど可愛らしいですがラウル!?
ラウルもエイミー様とお知り合いになったのですね。レオ様、もしかしてラウルを振り回してませんわよね!?最近は情操教育する時間がありませんでしたわ。
エディの社交デビューとバイオリンの練習に・・・。現実逃避している場合ではありませんわ。この見慣れない花を用意したのラウルですわ。誠実で優しい気遣い上手のラウルは流石ですわ。でもラウルがレオ様と暴走したエイミー様の相手を・・?頭を抱えたくなってきましたわ。すでにずっしりとした重さを感じて、
「リール嬢、飾りすぎでは?」
「ごめんなさい。つい」
隣に立っているリオの声でエイミー様がきょとんとされると次第に頭が軽くなりバスケットの中の花が増えていきました。
頭が重いのは、心の問題ではありませんでしたわ。
頭が軽くなりました。
「マール様はどの花にしますか?」
「シア、選んで」
バスケットを渡されたので会場の雰囲気とエイミー様の髪に飾られる可愛らしいお花を見て桃色と白の薔薇を手に取ります。ほのかな甘い香りの桃色の薔薇に爽やかな香りの白い薔薇。棘の手入れもされておりさすがラウルですわ。バスケットの中の見覚えのあるお花は成功や祝福など幸せな言葉を持つものばかり。用意したのはラウルでもきっとレオ様の思いも詰まってますわ。二人の優しさに笑みがこぼれます。大事に手入れされ、可憐に咲かせた薔薇をリオの胸に丁寧に飾ります。傷一つない色鮮やかな薔薇はルーンの自慢の庭師を思い出させます。二人と知り合ってからは昔よりも花を大事にするようになりました。リオの胸に一番綺麗に見える角度で飾れましたわ。うん。素敵です。きっと朝露が落ちればさらに綺麗に見えるでしょうか、今も十分綺麗ですわ。久しぶりに早朝の庭園の散歩に行きたくなりましたわ。
「ありがとう」
リオの声に我に返って顔を上げると、ほのかに頬が染まっています。リオでも緊張するんですね。珍しい姿につい笑みが零れてしまいましたわ。
「仲が良くて羨ましいわ」
エイミー様にうっとりと見つめられていますわ。エイミー様、もしレオ様がお好きなら私は本気で応援しますよ。エイミー様がレオ様をイチコロしていただければ私には明るい未来が待ってますもの。私とリオはうっとりと見られるような関係では一切ありませんが。とりあえず、レオ様を、
「シア、余計なことするなよ」
リオに知られてお説教は嫌なので、笑顔でごまかしますわ。
ごまかすように満面の笑みを浮かべて見つめるとリオが口元を手で隠して無言になりました。
今日のリオは変ですわ。緊張してるからでしょうか。
いつもは細かく追求しますのに…。深く聞かれないのはありがたいので気にしないことにしましょう。
気を取り直して三人で最後の段取りを確認します。
最初は三人で演奏します。
バイオリンの私達の座る椅子も用意されていますが、最初は立って演奏します。
疲れたら座って良いそうです。座る時の立ち位置も決めるんですね。用意周到なのはさすがカトリーヌお姉様です。カトリーヌお姉様に心の中で称賛を送るとご本人が笑みを浮かべていらっしゃいましたわ。
「お揃いで素敵ね。エイミー、私は周りがなんと言おうと貴方を応援するわ」
「カトリーヌ様!!」
美しいカトリーヌお姉様と可憐なエイミー様が手を握り合い二人の世界に浸られていますわ。私の知る令嬢の中でも五指に入る麗しいお二人の姿は絵になりますわ。私に絵心があればこの光景を描いて一生お金に困らずに脱貴族できましたのに。非常に残念ですわ。
もしかしてと思い隣にいるリオの顔を見上げると驚きました。
頬を染めて見惚れてると思いましたのに、つまらなそうなお顔で冷めた視線を二人に送っています。その視線は令嬢に送るものではないのでやめてください。
今日のリオはおかしいので、袖を引っ張り、首を横に振ります。
「俺がフォローするから心配しないで。シアは好きに演奏して」
肩にポンと手を置かれて優しく微笑まれましたが、言いたいことは伝わってませんわ。
でも冷めた視線をやめたからいいとしましょう。
「マール様はレティシアに夢中ね」
「私もいつか・・」
カトリーヌお姉様が夫人に似た茶目っ気のある笑いを浮かべ、エイミー様は両手を組んでうつろな瞳で自分の世界から帰ってきません。
「招待客はどなたが来るかわかりませんが、私が全て対応します。三人は演奏に集中してくださいね。リール夫人やエイミー達のファン、殿下が来ても問題ありません」
カトリーヌお姉様が一瞬遠くを見つめて優雅に微笑みました。不穏な言葉に私はお客様を見ない方がいいかもしれませんわ。動揺しない自信はありません。
リオが爽やかに笑い返しました。
「さすがですね。わかりました」
「マール様はレティシアをお願いね。エイミーは演奏に集中しすぎると周り見えなくなるから・・」
「おまかせください」
「心強いわ。三人の演奏を期待してます」
優雅な足取りでカトリーヌ様が放れていくと、エイミー様が自分の世界から戻られました。
そろそろ時間ですね。
バイオリンを持って立ち位置につきます。
礼をして、バイオリンを構えるとエイミー様とリオに視線を向けられたのでゆっくりと弾き始めます。
私より上手い二人が合わせてくれます。
時々しか練習していないリオよりバイオリンが下手なことに落ち込んでませんわよ。
リオに余計なことは考えるなと視線を向けられてるので、笑って誤魔化します。
まずは緩やかな控えめの曲、花のワルツを演奏します。
お茶会は最初が肝心。主催の挨拶の邪魔にならないように、招待したお客様の緊張がほぐれるように演奏しますわ。優しい音色が響き、いい感じです。
リオとエイミー様との演奏は気持ちがいいですわ。エイミー様は曲の雰囲気に合せて演奏しているお姿が変わります。ふんわりとした笑みを浮かべて可愛らしいお顔で鍵盤の上に指を躍らせています。
次は妖精のお茶会です。可愛い曲なので女性受け抜群です。
視線を感じますが、きっと皆さまエイミー様を見てますわ。
さすがにお茶会なので歓声や悲鳴は聞こえませんね。
うっかり視線を感じて視界に入れてしまったものに後悔しました。
カトリーヌお姉様のもてなしているお客様は、先生、リール公爵夫人、マール公爵夫人、パドマ公爵夫人、クロード殿下、見覚えのないご令嬢が3人ほど…。
この組み合わせはくじ引きですか!?権力が動いておりませんよね?
カトリーヌお姉様は公爵令嬢として評判の良い方ですが。
先程から殿下の視線を感じているのは気のせいですわ。感情の読めない穏やかな笑みを浮かべて見つめているなんて見間違いですわ。
リオとエイミー様をずっと見ながら演奏しますか?
困惑した視線を送るとリオが苦笑してます。
さすがのリオも予想外ですよね!?カトリーヌお姉さまの予言が当たりましたわ。
エイミー様は全く周りを気にせず楽しそうに演奏してますわ。
頑張って演奏に集中しようとしてると、リオの視線が刺さります。
そっちを見てみろ?
リオの視線を追うと、セリアとカーチス様とスワン様。元気にカーチス様が手を振ってくれてます。まさか応援に来てくれるとは思いませんでしたわ。
手は振り返せませんが、笑ったら気付いてくれますかね。
3人共大好きですわ。
遠め目なので良く見えませんがセリア達が笑ってくれた気がします。
せっかく三人が来てくれたから頑張りますわ。
リオの視線が痛いです。
ほどほどにしろって言われている気がします。
わかりました。ここで頑張りすぎたら最後まで持ちませんものね。
せっかくの幸せな気持ちと気合が台無しですわ。
セリア達のおかげで持ち直し、お茶会も中盤です。
リオに目配せされたので頷きます。次はエイミー様のお一人の曲が続きます。
曲が弾き終わったので、二人で礼をして離れます。
エイミー様が微笑んでいってらっしゃいと見送ってくれた気がしますので静かに礼をしました。
リオと二人で衝立の奥に下がり椅子に座るとシエルがお茶を用意してくれました。
「大丈夫か?」
「少し疲れただけですわ」
「お嬢様、少し召し上がります?お昼ほとんど食べられてませんよね」
心配そうなリオに笑い返すと、シエルの爆弾発言に息を飲みました。
リオが涼し気な笑みを浮かべています。寒気がしますわ。お説教ですか?休みに来たのに、・・。
リオから視線を逸らし、お茶に手を伸ばそうとすると唇に押し当てられているのはチョコです。口を開けると口の中にチョコが入れられ、甘みが広がります。これはリオのお気に入りのチョコですかね。飲み込んでお茶を飲もうとするとまたチョコを口に入れられます。
なんで持ってますの?
ちょっ!?リオに無言でチョコを食べさせられ、シエルは無言で肩をマッサージしてくれています。
リオと笑顔の睨み合いをしますが口の中にチョコが詰め込まていきます。
手持ちのチョコがなくなったのかようやくリオのチョコを持つ手が止まりました。
お茶を飲んで、ふぅっと息を吐きます。
「小言は後だ。もう戻れるか?」
囁かれる声にため息を飲み込みます。やっぱりお説教ありますの…。食欲がなかったんですもの。
今は気にするのをやめましょう。やるべきことに集中しましょう。正直、ここにいるのも怖いですわ。令嬢モードで笑みを浮かべます。
「はい。シエル行ってきますね」
「いってらっしゃいませ」
シエルに見送られ、戻ると次はエイミー様の休憩です。
三人で礼をしてエイミー様が立ち去ります。
リオと頷き合って始めます。
次に演奏するのはルーン領が舞台の曲。水のワルツです。
場が温まっているので、エイミー様の演奏がなくても大丈夫です。
緩やかで難易度の低いですが美しい響きを持つ曲。
リオの音が綺麗なものから明るいものに変わり、え?
テンポが速くなり、リオが遊び始めました。ニヤリと笑うリオに言葉も出ません。
笑ってる場合じゃありませんわ。周りの方々は別に気にしてませんわね。
聴くに堪えない演奏ならすぐにエイミー様が戻ってきますもの。
もうリオの遊びに乗るしか選択肢がありません…。
ここでマイペースに弾いたらおかしい演奏になりますわ。両方が合わせるつもりのない演奏ほど聴くにたえないものはありませんわ。
リオが合わせるって言ってたのに酷い裏切りです。
曲が終わりそうなのにエイミー様が戻ってこられませんわ。
次の曲はピアノがいるんですが・・。リオが恐ろしいテンポで弾いたからでしょうか?
リオは動揺もなく、爽やかな笑みを浮かべています。
曲が終わると、リオがリードで弾き始めました。
予定にない曲ですわ。妖精の悪戯?
懐かしい響きと音色。昔はうまく弾けずに、ゆっくりと弾くリオのリードを追いかけながら練習しました。初めて上手に弾けた夜に伯父様達に披露したら盛大に褒めてくださり、嫌いだった曲が大好きに変わりましたわ。
伯母様は優しく微笑んでおり、目を輝かせるリール公爵夫人は見なかったことにしましょう。
お顔が赤いエイミー様が戻り、礼をしてピアノの演奏が始りました。
あともう少しで終わりです。
お茶会が終わりお客様が席を立ったので、この曲で最後ですわ。最後の演奏が終わり、礼をして終わりです。
「お疲れ様。素敵だったわ。お蔭で大成功よ。一位は私のもの」
カトリーヌお姉様の満足そうな笑みを見て、ほっとしました。
力が抜け体が揺れたのをリオの逞しい腕に支えられながら、そっと椅子に座りました。
「カトリーヌ様、お疲れ様です。楽しかったです。私の茶会は二人に頼もうかしら」
「まだ先のことでしょ。三人共ありがとう」
「お役に立てて光栄です」
「レート嬢、見事な茶会でした」
「ありがとう。後日、お礼はするから今日はゆっくり休んで」
「では、お言葉に甘えて。シア」
立ち上がろうとすると浮遊感がして、リオに抱き上げられています。
悲鳴が聞こえ、ため息を溢して楽しそうな顔を睨みます。
「自分で歩けます。下ろして」
「フラフラだろ?」
「おろしてください。」
「仕方ないな。お先に失礼します」
笑顔のリオと睨み合いしばらくして地面に足が着きましたわ。リオに腰を抱かれて勝手に足が進みます。
一人で歩けますのに心配性ですわ。
挨拶を忘れたので、カトリーヌお姉様達の方を振り向くと苦笑しながら手を振ってくれたので頭を軽く下げてました。
無事にお茶会が終わってよかったですわ。
明日はゆっくり休みましょう。
私はこの後、リオの部屋に連行されお説教を受けながら共に食事をすますことになるとは思ってもみませんでしたわ。
とりあえず、これで身辺に気をつける日は終わりですわ。




