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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第二章

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第四十一話  追憶令嬢12歳

ごきげんよう。レティシア・ルーンですわ。

平穏な生活を夢見る公爵令嬢です。


武術の授業を受けています。

武術の基本は体力と体作りなので訓練場をランニングしています。

私は瞬発力は人並みだと思っていますが、体力がありません。

最後の一周に入りましたが、走っているのは私だけです。

随分前からスワン様が残りの周数を伝えて、カーチス様が明るい笑顔で応援してくれますが、私は手を振る余裕もありません。

公爵家はバケモノ揃いと言われますが、私には同じ授業を受ける皆様の方がバケモノに見えますわ。

ようやく終わり、ゴール地点に着きましたわ。


「お疲れ様。半周歩いて息を整えてから休憩しなさい」


笑顔のエメル先生の言葉に頷きます。話す余裕はありません。すぐには休憩させてくれないんですのね。

令嬢モードは装備不能ですわ。優雅ではありませんが、荒い呼吸を繰り返しながらトボトボとゆっくり歩きます。

明日は久しぶりに筋肉痛ですわ。永遠に続くと思った半周がようやく終わりましたわ。

もう駄目ですわ。

一番近くの木陰に勢い良く座り込みます。お母様にはしたないと怒られますが今は勘弁してくださいませ。


「大丈夫か?」

「クラム、話す余裕ないからそっとしておいてあげて」


気配がするのでカーチス様達が傍に来てくれましたが、顔を上げる気力もありません。

息切れが、全然息が整えられません。久しぶりの感覚ですわ。

ルーン公爵家に帰ってからはあまり修行ができてません。


「今のルーン嬢は官能的でまずくないか?」

「お前のおめでたい頭がまずいけど、そうだね。顔を赤らめて息切れしてる令嬢は、ちょっとねぇ。マール様が怒るかな。クラム、壁」


カーチス様がなぜか私の目の前に立っています。


「気にしないで」


スワン様が可愛らしい笑顔で言うので気にしませんわ。

やっと息が整ってきましたわ。


「ルーン嬢、体力ないんだな」

「お恥ずかしながら。瞬発力以外は人並みにありませんわ」

「これから頑張ればいいんじゃない?僕達はまだまだ成長期だし」

「ありがとうございます。スワン様」


スワン様の笑顔に自然に笑みが零れます。落ち込むよりも頑張りましょう。私の予定は昔ほど詰め込まれていません。茶会さえ終われば武術の練習をする時間を作れますわ。


集合の合図の先生の笛の音が聞こえスワン様の伸ばす手を借りてゆっくりと立ち上がります。授業はまだ始まったばかりでしたわ。


「これから毎回訓練前に走ってもらうから。大変だけど大事なことだから頑張って。

木剣を配るよ。今日は素振りと基本の型を覚えてもらう。王国騎士団の基本の型だからしっかり体に叩き込んで。まずは剣の持ち方を確認するから、剣を持って構えて」


エメル先生の声に首を傾げます。

素振りはできますが、構えるとは?

隣にいるカーチス様の真似をして、剣を突き出してみましょう。

先生が歩いて気になる生徒の握りを指導しています。

先生が私の隣を通りすぎ、大丈夫みたいです。剣の握り方は教わりましたから。剣の指導をしてくれたターナー伯爵家の皆様に感謝ですわ!!


「構えはいいだろう。剣の持ち方も体にしっかり叩き込んでおきなさい」


エメル先生の言葉遣いが不思議です。

私達の緊張を和らげるために、わざと柔らかく話してくださってるのでしょうか・・?


「楽にして。これから先生達で基本の型を見せるからよく見てくださいね。ロベルト先生お願いします。手合わせじゃないですからね」


ロベルト先生とエメル先生が向かい合い剣を合せています。木剣なのに風を切る音がして凄まじい速さの動きが繰り広げられ目で追うのがやっとですわ。


「慣れればできるようになるからね。やってみようか」


エメル先生の言葉に息を飲みます。

無茶ですわ。でも思考を止めれば終わりです。風のような速さの動きを思い浮かべながら体を動かしますが上手くいきません。


「カーチス、基本の型はよくできてるね。皆の前でゆっくりやってみてくれるかな」


カーチス様が前に出て、お手本を見せてくれます。

ゆっくりとした動きなので目で追えます。


「脇をしめようか。足づかいを気を付けて」


カーチス様のお手本を見ながら、エメル先生の助言を頼りに真似しましょう。

武術は見て盗むものですもの。丁寧な指導は期待してはいけませんわ。


「今日はここまでにしようか。先生達はまだここにいるから、練習したい生徒は残っても構わないよ」


一度集合し、礼をして解散。

帰る生徒もいますがもう少し練習したいです。シエルが控えてないので、茶会が終わるまでは一人で残るとリオのお説教が待っています。


「カーチス様、お時間ありますか?」

「大丈夫だ」

「型の練習に付き合っていただけませんか?」

「いいぜ。ニコルどうする?」

「そこで見てるよ。僕、もう覚えたから。ルーン嬢、一度集中してクラムの流れを見てみて。体で覚えるより、頭で覚えた方がわかりやすいと思うよ。クラムは体力があるから、気にせず何度でもやらせていいから」

「ありがとうございます。スワン様、カーチス様、お願いできますか?」


笑顔のスワン様にカーチス様が言いたいことがありそうですが気にしませんわ。

スワン様のアドバイスを参考にスワン様の視線に負けたカーチス様が型を見せてくれます。

カーチス様の動きを集中して見学します。

動作をしたら基本の構えに戻りますのね。上下に振って・・・。

私はただ適当に真似してるだけでしたわ。きちんとした力の加減も必要なんですのね。

うん。覚えましたわ。3度ほどカーチス様の型を見学してようやくイメージがつかめた気がしますわ。


「カーチス様ありがとございます。」

「おう」


明るく笑うカーチス様にお礼を言って立ち上がります。目を閉じて型の流れを頭の中で確認して、息を思いっきり吸って構えます。考えながら、きちんと動きの意味を意識して剣を振っていきます。

一通り終えたのですが凄まじい疲労感に襲われましたわ。

これは疲れますわ。明日も筋肉痛でしょう。息切れが、


「見れるようになったじゃん」

「うん。基本の動きはそれでいいと思うよ」

「ありがとうございます。二人のお蔭ですわ!!」


二人の称賛に笑みが零れます。アドバイスをくれたスワン様とお手本を見せてくれたカーチス様のおかげです。フッと笑う声が聞こえて振り向くとエメル先生でした。


「三人は仲がいいね。これからが楽しみだよ。武術は個人の技能も大事だけど、連携で可能性が広がるからね。後期の武術大会が楽しみだよ」

「エメル、気が早い。そこまで持ちこたえるかわからん」


ロベルト先生の感情のない平坦な声。確かにこのクラスでは悔しいですが私は落ちこぼれですわ。そして令嬢は私だけです。途中で辞退されると思われても仕方ありませんわ。


「差別はいけませんが、ローゼ嬢の娘ですよ」

「なに!?ルーン、手合わせしよう!!」


ロベルト先生が初めて私に関心のある目を向けられました。エメル先生がロベルト先生の肩を掴んでいます。


「やめてください。まだ早いです。これから成長していく子を潰さないでください。残ってるのは君達だけだから、戻りなさい」

「わかりました。先生、ありがとうございました」


興奮しているロベルト先生をエメル先生が捕まえてくれているのに逃げましょう。

先生に礼をして急いでトンズラします。

ロベルト先生との手合わせなんて恐ろしすぎます。

絶対吹き飛ばされます。もしかしたら踏みつぶされるかもしれません。恐ろしい。


「なぁ、ローゼ嬢って誰?」


隣を歩くカーチス様の言葉に驚きました。まさかルーン公爵夫人の名前を知らない方がいるなんて。

フラン王国の年初めに発表される序列で三位以内に入る家はその年最も力があると一目置かれます。そして今年はマール、ルーン、ビアードでした。当主はもちろんその三家の夫人は社交界の中心になりえる人物なので絶対に名前を覚え、社交界で会うたびにご挨拶しないといけない方達です。

他家のことには口を出してはいけないので気にするのはやめましょう。


「お母様の名前ですわ。ローゼ・ルーン。ターナー伯爵家の生まれですわ」

「もしかしてターナー伯爵とも知り合い?」

「伯父様です」

「俺、ターナー伯爵の訓練受けたいんだけど!!」


カーチス様の目がキラキラと輝いています。やっぱり武術がお好きなのかしら…?


「クラム、落ち着いて。それはルーン嬢じゃなくて侯爵閣下に頼むべきだろう?」

「うちの父親はターナー伯爵と折り合いが悪いんだよ」

「力になりたいですが私よりもリオかエイベルに相談したほうがいいと思いますわ。二人のほうが伯父様と親しく定期的に修行に行っていますもの」


社交デビューしてから一度もターナー伯爵家に訪問できてません。ターナー伯爵夫妻には夜会でお会いすることはありましたが、訓練の受け入れについての知識はありません。

伯父様は私よりもリオやエイベルと一緒におり訓練していました。

私は伯母様や騎士の皆様が指導をしてくださったので不満はありませんが仲介できるほどの関係性ではありませんわ。


「なんでその二人が親しいんだ?」

「クラム、なんで覚えてないんだ。ターナー伯爵はビアード公爵の兄君。ターナー伯爵夫人はマール公爵夫人の妹君だ」


さすがスワン様。基本情報をきちんと覚えておりますよね。呆れたお顔のスワン様に悔しそうな顔をするカーチス様。


「親戚か!!ずるい」

「お前にはお前の繋がりがあるだろう。貴族の関係性くらい覚えておけ」

「どうも頭に入らなくて」

「なんで成績いいか謎なんだけど」

「勘。成績落とせば両親がうるさいんだよ。試験さえ終わればさっぱりだ」

「胸を張るな」


スワン様の言葉が雑になり、パコンとカーチス様の頭を叩きました。この二人の掛け合いはテンポが良くて楽しいですわ。

スワン様はカーチス様の保護者のようです。

武術の授業の日の放課後だけはエイミー様との練習はお休みです。その代わり、朝に練習しましたわ。

着替えをすませて、待っていてくれたカーチス様達に寮に送ってもらいながら帰りました。

カーチス様もスワン様も紳士です。

武術の授業は落ちこぼれですが優しいお友達が一緒なので心強いですわ。

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