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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第二章

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第三十九話  追憶令嬢12歳

ごきげんよう。レティシア・ルーンですわ。

将来の平穏生活のために奮闘する公爵令嬢ですが、今世は全然平穏ではありませんわ。


ステイ学園には二大行事があります。

令嬢のための茶会と殿方のための武術大会です。

長期休みの前のフラン王国で最も多くの花が咲き誇る時期に茶会が開かれます。

女性貴族はお茶会を主催します。

フラン王国には諸外国から高貴なお客様が頻繁に訪問します。おもてなしの一つにお茶会があります。

その主催は上位貴族夫人が任されることが多く茶会での失態は致命的なものになることもあります。

そのため学園で慣れさせるためのイベントです。

採点は先生が行いますが、公爵家、侯爵家、上位伯爵家の上位貴族出身の令嬢の採点には名門貴族の夫人が加わります。令嬢相手ではなく高貴な方へのもてなしは緊張感を持つもの。

お茶会に参加するのと主催するのとは勝手が違いますので成人後に令嬢達がきちんと役目を果たせるように学ばせるための場ですわ。

茶会は成績とは別に順位がつけられます。

女生徒には一人一票が配られ、見学して心が惹かれたものに投票します。この投票は義務ではなく自由参加です。

女生徒と審査員の票で順位が決まります。

ここで一位をとるのは名誉なこと、特に上位に入賞しないと上位貴族令嬢は評価が下がるので令嬢達は必死です。

私もいつかは上位を目指さなければいけませんが、主催するのは最終学年の令嬢なので、今の私には関係ありません。先の心配はやめましょう。

最上級生の令嬢達にとって戦いの日の始まりですわ。


放課後に予備のバイオリンを預けるためにリオの部屋に来てます。

学園には演奏室もありますが、施錠できず人目があり、人の目に晒されず安全なリオの部屋で練習させてもらおうかと思います。


「カトリーヌお姉様のお話は受けますか?」

「レート嬢には逆らえないから。それにシアだけだと心配」


カトリーヌお姉様にはリオも敵わないとは……。凄いですわ。

忙しいのに引き受けたの私のためもあるんでしょうか?リオの机の上にはいつも書類の山があります。

目の前で苦笑している頼りになる従兄が一緒なのは心強いですわ。リオが側にいるだけでこんなに違いますのね。自然と笑みがこぼれますわ。


「ありがとう。上手く弾けるか心配ですが」


苦笑していたリオが固まり口元を手で覆いました。

もしかしてリオも心配してるんですか?首を傾げると空いている手がソファを指差し、


「悪い。座って待ってて」


よくわかりませんが言われるままにソファーに座ります。ブツブツ言ってますが聞こえないので気にしませんわ。いつの間にか増えたクッションに手を伸ばすと手触りの良い生地、ギュッと抱きしるとふわふわで柔らかく気持ち良いですわ。リオの部屋に似合わない可愛いらしいクッションに笑いがこみあげます。リオしかいないので淑女はお休みして心のままに笑っているとリオが正面に座りました。


「リール嬢の演奏さえあれば、俺らの演奏がイマイチでも名曲に聞こえるから大丈夫だろう。リール嬢を抑えたレート嬢の勝ち戦だ。俺達は一般票を狙うためのインパクトだろうな」


真面目なお話なので笑うのをやめましょう。


「インパクト?」

「俺とシアの組み合わせは目立つ。一緒に置いておけば一般票が入る。レート嬢は策士だよ。殿下の婚約者になってくれれば言うことないんだけどな。シアは気楽に弾けばいい。俺がシアに合わせるしフォローは任せろ。楽器の管理は俺がする」


とりあえずカトリーヌお姉様が有利なのはわかりました。

よくわかりませんが、頼りになるリオ兄様に任せましょう。優秀なリオの考えにはついていけないので結論さえわかれば構いませんわ。


「わかりましたわ」

「弾く曲は俺がレート嬢達と決めるよ。シアが俺に披露してない得意な曲はある?」


昔から新曲を披露すると褒めて頭を撫でてもらえるのが嬉しくて弾けるようになるたびにリオに聴かせてました。

弾けて当然でも褒めてもらえるのは嬉しいですもの。

私のバイオリンを褒めてくれるのはマール公爵家の皆様だけでしたもの。最近はエディが褒めてくれますが。懐かしい思い出ですわ。

苦痛なお稽古が楽しいなんて知りませんでしたわ。


「ありません。よろしくおねがいします」

「任せろ。後は3時間弾き続けられるかだな」

「初めての持久戦ですわ…」

「ほどほどにな。演奏室で練習するときは誰かに傍にいてもらって。ここで練習してもいいけど。茶会が終わるまでは狙われるだろうから、いつも以上に気を付けて」


令嬢達の足の引っ張り合いに巻き込まれるかもしれませんものね。皆様必死ですから。足の引っ張り合いを上手に躱すのもお勉強ですわ。

リオの侍従が書類を持って帰ってきましたわ。邪魔をしないようにそろそろ行きましょう。


「わかりましたわ。そろそろ失礼しますわ」

「気を付けて。まっすぐ寮に帰るんだよ」

「わかりましたわ。リオもお仕事ほどほどにしてくださいね。いつでもお手伝いしますので、何かありましたら」

「ありがとう。じゃあな」


笑顔で手を振るリオに礼をして立ち去りました。

今更ですが、リオは私が訪問するといつもここにいますが生徒会どうしてるんですか?

書類に囲まれているので、仕事をしてるのはわかりますが…。

まぁいいですわ。寮に戻って久々にバイオリンの練習をしましょうか。


前方にはふわふわの髪の見覚えのある可愛らしい顔立ちのご令嬢。リール公爵夫人によく似たお顔立ちのエイミー・リール公爵令嬢です。

ふわふわの髪に大きな瞳に愛らしい顔立ちは殿方が夢中になっても仕方ないですわ。

笑みを浮かべて礼をします。


「ごきげんよう。リール様」

「ごきげんよう。ルーン様。これから時間はあるかしら?よければ一緒に演奏しませんか?」


小鳥のさえずりのような声音に可愛らしい笑みにうっとりしそうになりますわ。こんなに可愛らしい方に誘われたら断れません。

どうすればこんなに愛らしい笑顔を作れるんでしょうか…。


「光栄です」

「音楽室に行きましょう」

「シエル、音楽室にバイオリンを」

「かしこまりましたわ。お嬢様」


学園には常に開放されている広い音楽室と予約して使う個人練習用の演奏室があります。音楽は貴族の嗜みなので、演奏室の広さも様々です。学園で一番広い音楽室にあるピアノはリール公爵家の寄贈なのでとても価値の高いものです。私は恐れ多くて触れたくありません。

音楽室を目指して歩くと視線が集まりますがこれは仕方がないことなので気にしません。


「ルーン様、ごめんなさい。無理を言ってしまって。お母様から話を聞いて私も一緒に演奏してみたくなってしまったの」

「光栄ですわ。ですが私の演奏がリール様の邪魔をしないか、」

「音楽は楽しく弾けばいいのよ。ルーン様は可愛いからカトリーヌ様が気に入るのがわかるわ。私もレティシアと呼んでもいいかしら?もちろんエイミーでいいわ。仲良くしましょう」


リール公爵夫人と同じ雰囲気がしますわ。そしてふわりと笑うお顔が可愛いく、花のような笑みとはこの方のための言葉かもしれませんわ。この可愛らしいを伝える語彙力のなさが悔しいですわ。


「光栄です。エイミー様」

「ありがとう。レティシア。一つ不安なことがあるんだけどいいかしら?」


エイミー様が眉を下げて首を傾げる姿さえ可愛いですわ。これは殿方がイチコロされてしまいますわ。

私が頷くと小さい吐息をこぼして、目を伏せました。


「レティシアはお母様のお気に入りなのよ。私と貴方とマール様が三人で演奏すると審査員にお母様が名乗りをあげると思うの」

「身内が審査員は考えづらいのでは?」

「お母様は音楽が絡むとすごいのよ。理不尽も常識に変えてしまうような人だから……」


曖昧に笑うエイミー様の言葉は非常に説得力がありますわ。私はお茶会に行くとバイオリン指導を受けますもの。たくさんのお茶会に参加しましたが、これはリール公爵家だけで起きる現象でしたわ。

リール公爵夫人ならありえますわ。

たとえ誰が審査員でもやることは変わりませんわ。気まずい様子のエイミー様に笑みを浮かべます。


「私は一生懸命演奏するだけですわ。3時間も弾き続けられるか自信はありませんが」

「そうね。休憩時間は作るから心配しないで。私が一人で弾いてる間に休憩できるわ」

「エイミー様の休憩は?」

「私は半日は余裕よ。マール様とレティシアに任せて休憩するのもいいわね」


楽しそうに笑うお顔は可愛らしいですが、これは冗談でしょうか?


「無謀ですわ。エイミー様の演奏がなければ聞くに耐えない曲になってしまいます」


「マール様はバイオリンがお上手よ。心配ならマール様に任せて二人で休憩するのも素敵ね」


楽しそうに笑う姿が可愛いですが、リオは楽器は得意ですがリール公爵家に認められるほどの腕ですの?そういえばリオの演奏はしばらく聴いていませんわ。


「レティシアは何も心配しなくていいのよ。段取りや難しいことは先輩に任せて、音楽を楽しみましょう。衣装も用意したいけど、制服なのが残念ね。着飾りたいわ」


うっとりした目で見つめられ、ゾクリと寒気に一瞬襲われました。

やっぱり暴走癖は遺伝ですの・・・?

うっとりとされているリール様が思考の海に沈みましたわ。シエルが来ましたのでバイオリンを調律して待ちましょう。

調律が終わる頃にはエイミー様は元に戻りました。3曲程一緒に演奏しました。

エイミー様の音は美しく、一音一音が感情を持ち踊っているようですわ。鍵盤を踊るエイミー様の指にうっかり見蕩れてしまい窘められましたが。

一緒に弾いていると気持ちが良く、響く音にリオの言っている意味がわかりましたわ。

エイミー様さえいれば私の拙い演奏もすばらしい曲に変わりますわ。

最後にエイミー様がピアノを演奏してくださりうっとりと魅入ってしまいました。

演奏するまでの可愛らしさが嘘のように美しいお姿にイチコロされる気持ちがわかりましたわ。

窓の外は真っ暗でエイミー様と帰る途中に玄関で会ったリオにが送ってくれました。

私が一人なら暗くても大丈夫ですが可愛らしいエイミー様は心配ですもの。

今日は充実した一日でしたわ。

明日もどうか平穏な一日が過ごせることを祈って休みましょう。

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