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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第二章

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第三十七話 追憶令嬢12歳

ごきげんよう。レティシア・ルーンですわ。

ステイ学園の1年生です。


午前の授業も終わりお昼の時間ですわ。

最近はカーチス様やスワン様とセリアの四人で食事をするのが日課になりました。

ご令嬢達に絡まれたくないので場所は教室です。偶然廊下を歩いている殿下にも会いたくありませんので。殿下もご友人達と時々食堂を利用されることがありますので。


「レティシア!!」


呼ばれる声に笑みを浮かべて振り返ります。

最近は扉の前でそわそわせずに、まっすぐこちらに来れるようになりました。


「レオ様、ごきげんよう。いらっしゃいませ」

「おう。今日は連れがいるんだ」


嬉しそうなレオ様の背中に人影?


「レオ様、本気ですか…?」


レオ様が連れてきたのは、戸惑ったお顔で不安そうな声のラウル。そういえば二人はクラスメイトですわ。


「ラウル?」

「ルーン嬢、」


ラウルが礼をとります。


「礼はいりませんよ。ここは学園ですから。レオ様とお知り合い?」

「マール様にご紹介いただきました」


これはレオ様の二人目のお友達?そういえばリオが協力してくれると言っていましたわ。

情操教育で大事なのはきちんと伝えること。そして褒めるのも大事をですわ。満面の笑みを浮かべてレオ様に小さく拍手します。


「まぁ、レオ様自分でお友達を作れましたのね!!すごいですわ」

「だろ!!ラウルは頼りになるから色々勉強させてもらえってマールが」


嬉しそうに笑うレオ様。さすがに頭を撫でるのは不敬なのでしませんわ。

あら?

平民に第二王子殿下が教えを乞うっておかしいですわよね?レオ様は教育中なので突っ込んではいけませんわ。リオにも何か考えがあるんでしょう。

セリアがぼそっと何かを言ってますわ。


「保護者を見つけたのね。さすがリオ様。余裕がない男……レオ様おめでとうございます。素敵なお友達です」

「シオン嬢は彼みたいなのが好みなのか?」


レオ様達に微笑むセリアを見てカーチス様が眉を下げて呟きました。セリアはカーチス様に素っ気ないというよりも、それが平常です。自然な笑みを向けられるスワン様は特別ですよ。セリアが笑うのは研究関係の時ばかりです。

私はセリアの味方ですから恋の応援はしませんわ。色恋は関わりたくありません。セリアに頼まれれば別ですが。


「ラウル様、お噂はかねがね伺っております。ニコル・スワンです。お見知りおきを」


笑みを浮かべて礼をするのは、さすがスワン様。適応能力抜群ですわ。

ラウルは突然王子殿下に連れまわされて可哀想ですわ…。お友達ができて自慢したい気持ちはよくわかりますが。

レオ様にはきちんとお教えしないといけませんわ。変態に育てないために。



「スワン様、ラウルで構いません。僕は平民ですから」

「学園は平等です。ではラウル先輩と呼ばせていただいても?」

「恐れ多いので、お許しいただけるなら、ラウルとお呼びいただけますか」

「わかりました。ではラウルと。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」


平民なのにラウルは礼儀がしっかりしてますわ。所作に美しさはありませんが、一生懸命なのはわかり好印象ですわ。

スワン様の言葉に安堵の笑みを浮かべるラウルのためにも私が頑張らないといけませんわ。


「クラム・カーチスだ。よろしくな。ラウル」

「セリア・シオンです。従兄がすみません」


明るく笑うカーチス様に、呆れた顔のセリア。

セリアがマトモなことを言いましたわ。今日は雷でも降るでしょうか?


「こちらこそよろしくお願いします」


恐縮しているラウルと嬉しそうなレオ様を席に案内して、お昼を食べましょう。レオ様が毒味役の侍従を連れていないのが非常に気になるのですが…。聞く勇気はありません。毒味は私がすればいいですわ。

セリアがラウルの隣に座りました。


「ラウル、研究生なのにここにいて平気なの?」

「当番制だから大丈夫です」

「教授はどんな―」


ラウルがセリアに捕まりましたわ。研究の話で盛り上がってますわ。セリアの話に付いていけるラウルはやはり優秀ですわ。私は何度聞いても理解できないので、使い方と効果と副作用以外は聞き流します。


「レティシア、ラウルはセリアと打ち解ける。俺はまだ、」


隣で食事をしているレオ様が羨ましそうにセリア達を見てます。焼きもちをやく所も可愛いです変態にならないように注意がいりますわ。残念ながら将来は変態になる資質がレオ様にありますので。


「同じ研究職ですから。レオ様はラウルとは同じクラスですし、ゆっくり時間をかけて打ち解ければいいではありませんか」

「遠慮されてる気がする」


まぁ?空気が読めるのは良いことですわ。

変態は空気を読めませんから。拗ねているお顔に優しく言い聞かせます。大事なことを。


「すぐには友情は築けませんわ。押し付けは迷惑ですのよ。ですがラウルの言葉をしっかり聞いて、交流を深めていけば親友も夢ではありませんわ。ですがラウルは、平民で殿下や私達より立場が弱いことは覚えておいてください。暴力・監禁・軟禁は駄目ですからね。大事なことですよ。正当防衛以外の暴力はいけません。誰に対しても監禁や軟禁はしてはいけませんわ」


ポンと肩を叩かれ視線を向けると隣に座るスワン様が苦笑してますわ。


「ルーン嬢、珍しくまともなことを言ってたのに、最後で台無しだよ」


どういうことですか?スワン様の言葉って時々違和感がありますわ。


「レオ様、ラウルは礼儀正しく、控えめなのは性格です。友情の形もそれぞれです。僕とクラムを参考にしては駄目ですよ。もちろんシオン嬢とルーン嬢も」

「そうなのか?難しいな。わかった」


レオ様の情操教育にスワン様という心強い味方を得ましたわ。

レオ様にはラウルに強引なことはいけませんとしっかりお伝えしたので大丈夫だと思いたいですわ。

そろそろ片付けたほうがいいですね。お昼休みは時間が過ぎるのが早いですわ。


午後は選択授業なので移動しないといけませんわ。

武術の授業なので制服から訓練着に着替えました。

生前は受講しなかった授業なので楽しみです。

訓練場に行くと生徒はもう集まってましたわ。

人数は15人ほど。クラスの3割くらいの人数ですわ。

危険なことなので少人数指導なのでしょうか。

私を凝視している生徒達は気にしませんわ。目立つのは覚悟の上です。

菫色の髪を見つけて驚きました。

カーチス様とスワン様がいますわ。私に気づいた二人は驚いた顔で近づいてきました。


「ルーン嬢、武術を選択したの?」

「はい。お二人も選択されているとは」


先生が来たので話をやめて先生の前に集合します。


「俺は武術講師を務めるロベルトだ。隣は助手のエメル」


ロべルト先生は大柄な体に立派な筋肉を持ち遠目で見たら熊に見えそうですわ。熊に動揺した頃が懐かしいですわ、私は反省してきちんと動物の図鑑を見てお勉強しましたわ。

エメル先生は細身ですが、綺麗な筋肉がついてるようにお見受けしますわ。細身でしなやかな筋肉を持つリオと同じタイプでしょう。

学園では平等のため先生は姓を名乗りません。

ロベルト先生が周囲を見渡すと、肌がゾクリとしました。


「武術は危険なものだ。俺の指示を守れないやつは、受講取り消しもするから頭に入れておけ。公爵家だろうと平民、男、女、関係ない。差別はしないが甘くもしない。覚悟がある者だけこの場に残れ」


殺気を出すロベルト先生の空気に全身が震えそうになるのを、淑女の嗜みを思い出して必死に抑える。怖いですがここが頑張りどころですわ。常に優雅であれ。怯えも恐怖も顔にも態度にも出してはいけませんわ。手をギュっと握って笑みを浮かべてロベルト先生の顔を見ます。


「ロベルト、殺気を抑えて下さい。生徒達が怖がってます」


エメル先生の声にピリピリとした空気が霧散する。エメル先生の優しさにほっとして小さく息を吐く。


「ロベルト先生は厳しいですが、先生の言う通りです。規律を守って授業を受けてください」


前言撤回です。一瞬肌がゾクリとしましたわ。

エメル先生は逆らってはいけないタイプの人ですわ。


「では授業を始めましょう。皆さんの実力を見せてもらうために鬼ごっこをしましょう」


笑顔のエメル先生の言葉に動揺して、笑みが剥がれましたわ。

鬼ごっこですか?

私は伯母様から逃げ切ったことありませんのよ。でも怖じ気づいて思考を止めれば終わりですわ。


「体力に自信がある人、武術に自信がある人は手をあげてください。この中では自分が一番強いと思う人でもいいですよ」


誰も挙手しません。私も自信はありません。大きなため息をついたロベルト先生が茶色の目でギロッと見渡し指をさしました。


「情けない。お前とお前とお前が鬼だ」


カーチス様と伯爵家の令息が二人選ばれましたわ。

3人共しっかり筋肉がついてますわ。ロベルト先生が選んだなら優秀な方でしょうか?

私は騎士見習いはエイベルしか知らないんですよね。


「三人以外に紐を配るので、腰につけてください。鬼に紐を取られたら、失格。鬼の三人は目印に帽子を被ってくださいね。範囲は訓練場内です。ある物を利用して構いませんが、暴力・魔法は禁止です。鬼の3人は30秒後にスタートになります。制限時間は一時間。何か質問のある人はいますか?」


特に質問はないみたいです。

腰のベルトに配られた紐を先生に言われた通りに結びます。

鬼は魔法と武器は使用しません。足が頼りなら気をつけるのは挟みうちですわ。

準備運動をしながら地形の確認をしましょう。訓練場は広く木が生い茂り、岩場もあります。

障害物になりそうな物も多いので逃げ役にはありがたい地形ですわ。


「では準備はいいですか」


先生の笛の音に合わせて逃げます。

誰かと連携を取るべきですが知らない方ばかりなので難しいですわ。知らない相手と連携を取るのは高度なことですから。

まずは奥の木の陰に隠れましょう。罠を仕掛ける時間はありません。


鬼がスタートしましたね。

まだ温存しているのか走るの遅いですわ。エイベルの方が俊敏に動きますわ。

鬼が個々で捕まえに走ってますので死角を探して隠れましょう。

三人が別々に走る姿を視線で追うのも大変ですが飛び道具の心配がなく伯母様達相手よりも楽ですわ。油断はいけませんね。

持久戦には自信がないので、できる限り隠れて過ごしますわ。

気配を消すのは得意でしてよ。鬼は離れていますし見つかりそうもないので罠を作りましょう。

ターナー伯爵家での修行のお陰でできることが増えましたわ。

そろそろ半分くらいの時間が経過しましたわね。

エイベルよりも遅いのに鬼はきちんと捕まえていますわ。

逃げ役は残り四人…。

木の上に隠れる方法もありですが、下で待たれたら駄目です。木の上は奇襲をかけるのには適してますが、守りには向いていません。


鬼役が近づいてきたので木の陰から岩の陰に隠れます。

見つかってますかね?移動してますが中々鬼役との距離が開ませんわ。

逃げ役はあと3人。

障害物が多そうな場所に移動しましょう。賭けですが訓練場で一番大きな岩の後ろを目指しましょう。

鬼役の走る速度が上がったので死角を探しながら走り岩場、まさしく障害物ゾーンを目指します。

鬼役との距離はあるから大丈夫ですがこのまま見つれば挟まれますわ。

こっそり作った身代わり人形を木の陰に置いて気配を消して移動します。


カーチス様が身代わり人形に引っかかりましたわ。

制限時間はあと5分。鬼役の方の足が遅いですしせっかくですし、本格的に鬼ごっこしましょうか。

岩の陰から身を出し、目が合ったので驚いた顔を作って走り出します。

鬼ごっこしていたら笛が鳴りましたわ。

残ったの私だけですか?

逃げ切りましたわ。

持久戦に持ち込まれたら、危なかったですわ。


先生の前に集合します。難しい顔のロベルト先生と笑顔のエメル先生。


「お疲れ様。鬼の三人は凄かったね。協力したら全員捕まえられたかもしれないね。ルーンもよく逃げ切ったね。なかなか面白かったよ」

「先生!!ルーン嬢は隠れてばっかりなのは良かったんですか?」


「捕まらなければ勝ちだからね。状況を見極め、地形を利用したのは高評価だよ。真正面から勝つことだけが全てじゃない。今日の鬼ごっこはどうすれば良かったかきちんと考えてね。ロベルト、この後どうしますか?もう一戦やります?」


「今日はオリエンテーションだからな。動き足りない者もいるか」


「先生!!もう一戦お願いします!!」


鬼役の生徒が挙手する姿にエメル先生が笑ってます。


「鬼役は交代しようか。ルーン、鬼役やってみるかい?」


私ですか?どんなことも経験ですわね。でも体力のない私一人では無理ですわ。そしてこの中に知り合いは二人だけです。エメル先生の言葉に笑みを浮かべます。


「鬼役の指名をさせていただけますなら」

「いいだろう」

「ありがとうございます。スワン様とカーチス様を指名してもよろしいですか?」


スワン様に笑みを向けると笑って頷き、カーチス様を見ました。

「僕はいいけど、クラム、また鬼だけどいいの?」

「ルーン嬢の指名だからな。俺も」


カーチス様が明るく頷いてくれましわ。


「カーチスがいいなら構わないよ。15分ほど休憩してから始めよう」


カーチス様とスワン様と一緒に木陰に移動して座り作戦会議をします。



「カーチス様、スワン様ありがとうございます」

「いえいえ。作戦会議といこうか。さて何分で片付けられるかな」


楽しそうな顔のスワン様は頼りになりますわ。


「逃げ手側に連携を取られれば厄介ですので、統制をとりそうな方々から潰していきたいと思います。

基本は囲みで捕まえましょう。カーチス様が囮で追いかけて、スワン様は逃走ルートを潰して下さい。私は気配を消して、捕まえますわ。カーチス様なら一人でも全員捕まえられそうですが、せっかくですので最短記録を目指しましょう!!」

「楽しそうだな」

「追いかける人間は僕がクラムに指示するから、ルーン嬢は調整お願いね」


早めに捕まり全体の観察をしていたスワン様は適任ですわ。

鬼役は初めてですが頑張りますわ。


「さて、休めたかな。じゃあ始めるよ」


笛の音と共に皆さん逃げ始めます。

さて30秒たちましたし、私達も作戦開始です。

私は気配を読み隠れている逃げ役を掴まえましょう。

カーチス様に視線を集めてもらっているので私には気付いていませんわ。

そっと回り込み、後ろから紐を引っ張ります。

1本手に入れましたわ。

カーチス様が2本。スワン様も1本流石ですわ。


さて次は・・・・。

最後の一人の紐をカーチス様が捕ったのを確認して終了ですわ!!


「お疲れ様。鬼の3人、15分とは早いね。過去2位の記録だよ。」

「先生、最短記録は何分ですか?」

「8分かな。これは神業だから比べなくてもいいからね。君たちなかなかすごい記録だよ。」


エメル先生が褒めてくれます。


「まさか初日の鬼ごっこでこんなに連携とれるとは思わなかったよ。逃げ切れなかった子達は次は逃げれるように頑張ってね。負けた腹いせで、嫌がらせはやめてね。悔しい気持ちは授業にぶつけて、いつか武術の授業で打ちのめしなさいね。」


「さて今日の授業はここまでだ。柔軟をしてしっかり休みなさい」


先生が去っていったので私たちも解散です。

着替えに更衣室に向かいましょう。



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