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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第二章

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第三十二話 追憶令嬢12歳

ごきげんよう。レティシア・ルーンですわ。

未来の平穏な生活のために謀略を巡らす公爵令嬢です。


恐怖の殿下からの呼び出しが終わり、寮を目指して歩いていると廊下を鳥が飛んでいます。

厳重な結界で覆われている学園で鳥を見るのは初めてですわ。

ぼんやりと眺めていると白い小鳥が私の前で止まりました。


「やぁレティ!!ごきげんよう!!」

「フウタ様?ごきげんよう」


可愛らしいお声でつぶらな銀の美しい瞳で私を見つめるのは風の精霊フウタ様でした。


「主が呼んでるよ。忙しくないなら連れてきてって」

「わかりました」

「案内するよ。着いてきて!!」



フウタ様はいつ見ても可愛らしいですわ。

ゆっくりと前を飛ぶフウタ様に案内されたのはリオ専用の部屋ですわ。

フウタ様が扉を通り抜ける姿はさすが風の精霊です。フウタ様が言うには風の精霊は自由自在とのこと。


「主!!ただいま。連れてきたよ」

「ありがとうフウタ。シア入って」

「失礼しますわ」


扉を開けて部屋に入るとリオは一人です。リオも学園には侍従を連れてきていますがいませんのね。書類を読んでいるリオの机の上には分厚い書類の山が三段。リオも仕事を溜めることがありますのね。執務机の上の書類は生徒会のものでしょうか。

生徒会の仕事は生前はよく殿下のお手伝いをしていたので得意ですわ。


「リオ、お手伝いましょうか?」

「ありがとう。ほぼ終わっているから大丈夫。早く仕事を終わらせるとまた増えるから置いてあるだけだ」

「生徒会の会計も大変ですわね。お疲れ様です」

「もうすぐ終わるから少しだけ待ってて」


書類から顔を上げないリオの言葉に頷き、シエルも連れていないのでお茶でも淹れましょうか。生前は学園で常にシエルを同行させていましたがもう殿下の婚約者ではないので必要な時に呼ぶだけです。シエルは呼びたい時はいつも傍に控えているので探しに行ったことは一度もありません。王太子の婚約者は常に品行方正であるように監視の意味もありアリア様の命令で傍から放しませんでした。学園内は安全なはずなので護衛もいりません。監禁までまだ3年あるので一人で自由に過ごそうと思います。生徒達の視線を感じますが、できるだけ気にしないようにしましょう。魔力のない公爵令嬢なので仕方ありませんわ。



お茶の道具はどこでしょうか。

特別室は教室の2倍位の広さです。作りはお父様の執務室に似ています。お父様の執務室はルーン公爵邸で3番目に広いお部屋で生活できるように全ての準備が整えられています。この部屋よりも広いですが。

貴重な資料も多く強力な結界で覆われ籠城するならお父様の執務室に避難するようにと教わりました。ルーン公爵家が敵国に責められ邸を明け渡す時は全てを消す準備も整えられています。まずやすやすとルーンの結界を破れないので陛下の命令がないかぎりは明け渡すことはありませんが。

リオの部屋には執務机に大きな本棚、来客用のテーブルセットにソファ、奥に進むとキッチンや仮眠用の長椅子が二つ。湯あみの準備はありませんがほぼ生活できそうですわね。

リオ、まさかここで生活してないですわよね?


「色々あるだろ?シアも自由に使って構わないよ。ほら、鍵」


光る何かが飛んで来たので慌てて手を伸ばすと鍵です。私の目の前に投げたリオのコントロールは相変わらず凄いですわ。リオは投擲も得意で的の真ん中から外すことがありません。リオとの実力差に悲しくなるばかりです。


「リオの鍵は?」

「複製してあるよ」


リオに視線を向けると鍵を振り回して遊んでます。お仕事は終わったのでしょうか?


「セリアには渡すなよ。俺の部屋が実験室になるのは勘弁。俺がここで自由を許すのはシアだけだ。きちんと鍵をかけてくれれば好きな時に使っていいよ。もし来客があれば、奥の衝立の裏に隠れれば見えない。俺以外で勝手に入ってくる奴はいないけど。うちの者には言ってある。友達は連れて来るなよ」


お友達はダンとケイトとセリアだけなので連れてくることはないでしょう。さすがにリオの部屋で遊ぶなんて非常識なことはしませんわ。わざわざリオがいないのに部屋に来ることはないと思いますがありがたく鍵は受け取りましょう。せっかく用意してもらったものですから。


「わかりましたわ。ありがとうございます」

「荷物も自由に置いていいよ。怪我に気をつけるならキッチンも好きに使ってかまわない」


前言撤回です。料理ができるの嬉しいですわ。

私の寮の部屋には従者のための控え部屋が隣接しています。そこはシエルの私室として与えているので私が入ることはありません。控え部屋には主を世話するために必要な設備が整えられています。学園には従者のための棟もありますが従者以外は入ることは許されません。

ルーン公爵邸のように隠れて料理のできる環境がありませんので料理は諦めていました。

執務椅子に座っているリオの背中に思いっきり抱きつきます。


「リオ、大好きですわ!!」

「おぉ!?」


あまりの嬉しさに勢いよく抱きついたのでリオの体が傾きました。インク瓶は無事ですね。書類もぐしゃぐしゃにしていません。リオの首から手を放して頭を下げます。


「ごめんなさい」

「大丈夫だよ」


頭を撫でる優しい手に顔を上げると銀の瞳を細めて笑っているので怒っていませんわ。


「本当に私の好きにキッチンを使っていいんですの?」

「俺は使わないからシアの好きにして。たまには俺にも作ってよ」

「もちろんですわ」


楽しみですわ。嬉しくて頬が緩んでしまいます。リオしかいないのでいいでしょう。

少しだけ落ち込みそうになった気持ちが一気に浮上しましたわ。

ケイトのおかげで料理のレパートリーも増えましたのよ。

私の家宝のケイトの本2冊目まであります。

学園入学のお祝いにケイトがシエルに内緒で贈ってくれました。学園に行きたくないとこぼす私に。ダンは大きめの新しい割烹着を。成長しても着れるようにと。ケイトもダンも大事なお友達ですわ。

ダンは学園に通ってませんがケイトは卒業生なのできっと楽しい思い出もできると背中を押してくれました。ダンは家の事情で学園に通わずお金を稼ぐ道を選びました。

ダンの話を聞いてルーン領の子供達が学園に通うための支援の見直しをしました。ルーン領は平民の子供達が学ぶ意欲があるならステイ学園に入学して勉強できるように支援しています。うまく民には伝わっていなかったようで反省し、ルーン領を治める伯父様にお願いをしました。

ダンは学園に通う希望はないのでダンを通して学園入学を希望する子供達への贈り物を用意しました。私の贈り物をきちんと使えるかは本人次第です。


「シア?」


リオの声に顔を崩してぼんやりしていたのに気付きました。

振り向いたリオに抱きつきます。

ケイト!!良いことがありましたわ。

学園でもお料理ができます。ケイトの本に書いてある試してみたいことがたくさんありますの。

1冊目より2冊目のレシピを先に試してとなぜか言われましたが・・。料理の師匠の教えは絶対ですわ。



「お昼はリオの部屋で過ごします。シエルに用意は、」

「俺の部屋で食事をしてもいいけど、作って食べる時間はないだろう?食材をどうやって仕入れるんだ?料理に夢中で授業をサボらせるわけにはいかないよ」

「お昼は諦めます。お菓子の材料をケイトに送ってもらいますわ」

「自由に部屋は使っていいけど、料理をするのは俺がいる時だけにして」

「わかりましたわ」


リオの部屋なので仕方ありませんわ。中々うまくいきませんが、料理ができる環境があるだけ感謝しましょう。とりあえず今はお茶の用意をしましょう。ちょっとだけ気分が落ちましたがそれでも嬉しいことは変わりません。私の興奮をおさめるために宥めるように背中を叩くリオに笑いかけて離れます。キッチンにお茶の道具も置かれていました。

お茶を淹れるとリオはソファに移動していました。お仕事は一段落みたいですわ。

リオの前にお茶を置いて私もソファに座りました。

自分のお茶に口をつけるとシエルのお茶と同じ味がします。シエルの指導のおかげですわ。


「美味いな」


リオがお茶を一口飲んで、溢した言葉に笑みがこぼれます。そういえば、


「頑張りましたの。リオ、ご用件はなんですの?」

「顔、見たかっただけ」


笑みを浮かべて視線を合わせて言われた言葉に首を傾げると、じっくりと見つめられています。


「はい?」


しばらくしてリオが視線を逸らしてカップに手を伸ばしお茶を飲み始めました。


「先は長いな。殿下の呼び出しは大丈夫だった?」


そういえば忘れてましたわ。心配そうな顔に笑みを浮かべます。一つ凄い発見がありますので。


「生徒会役員に誘われて困りましたが、カトリーヌお姉様が助けてくれましたわ。素敵でしたわ」

「お姉様?まぁいいや。良かったよ。殿下も諦めが悪い」

「殿下の意図はわかりませんが、私が反抗ばかりしているからでしょう。不敬に問われないように言質は取りましたわ。殿下よりもエイベルを屈服、いえ仕留めたいですわ。できれば武術で」


殿下を止めないエイベルが悪いんですよ。あの様子ですと私の呼び出しは殿下の独断です。私の邪魔をして、しかも気持ち悪いって。忘れていましたが思い出したら、


「それは俺が引き受けるよ」

「いえ、リオ兄様の手を煩わせるほどではありませんわ」

「ビアード程度簡単だよ。シアは応援しててよ」


簡単?エイベルが・・?

時々ターナー伯爵家で会いましたが、手合わせの全敗記録を更新中ですが・・。

顔を上げるとリオは不敵な笑みを浮かべいます。これは駄目ですわ。リオも頑固なところがありますのよ。

これは何を言っても無駄ですわ。論破されて説得されるのが目に見えますわ。

リオがやりたいならお任せましょう。

ブツブツと何か言ってますが、気にせず要望通りに笑顔で応援します。


「わかりましたわ。リオ兄様、頑張ってくださいませ」

「任せて」


頼もしいですわ。エイベル、いずれは私が勝ちますわよ。お茶を飲み一息つくと相談したいことを思い出しましたわ。


「頼もしいですわ。リオ兄様、相談があります」

「どうした?」

「選択授業で武術中心に選択しようか迷ってます。ですが武術を選択すると成績が」

「聞き間違えじゃないのか・・。武術の授業は魔法が絡んでくるから難しくないか?」

「魔法は躱せばいいのです。魔力を持たない騎士もいますよ」

「お金を稼ぎたいなら、経済学とか薬学を中心にしたほうが無難じゃないか?植物全般の知識があるんだから、調合さえ身に付ければ稼げるよ」

「名案ですわ。さすがリオ兄様!!経済学と薬学も選びますわ。武術を専攻したら、駄目でしょうか?念のためお父様に確認が必要かしら」

「教育学を学んで教師という手もあるな。家政学とかシアは好きだろう?」



先程から返答がおかしいですわ。応援してくれると思いましたのに。お父様には授業についての命令は受けていません。でも明らかに反対される理由はリオの口から出ませんわね。


「リオは忙しくて修行してくれませんし、いずれリオにもエイベルにも勝ちたいですわ」

「俺はシアに負けてばかりだけど」


一度も手合わせしたことありませんが、勝てないのはわかります。嘘の慰めなどいりませんわ。


「嘘ですわ。このままではエディにも負けてしまいますわ」

「エドワードもお前よりは強くなりたいと思うけど」


エディに負けるわけにいきませんわ。これは迷っている場合でありません。ロキを見習い姉は弟を守るものですわ。しっかりしている子ですがだからと言って守らない理由はありません。ありえませんがエディが拐われたら華麗に助けてあげたいですわ。


「武術、専攻しますわ」

「俺の話を聞く気ないな。わかったよ。ただし今より目立つけどいいのか」

「もう覚悟を決めましたわ」


ケイトを真似して不敵な笑みを浮かべます。目立つのは諦めましたよ。何もしなくても目立つなら人目を気にしてやりたいことを我慢するのも勿体ないですわ。

あら?お茶を飲んでいたリオがカップを置いて頭を抱えてます。


「俺のシアに虫がつく・・・。わかったよ。頑固だもんな。もうほぼ決めてるんだろう・・・・。シア、男だらけの授業についていけるのか?」


ブツブツ言っていたリオが顔を上げて、当然のことを確認されますがターナー伯爵家の教えの努力は報われるという言葉を信じて


「頑張りますわ」

「・・・無理はするなよ。ちゃんと相談しろ」

「ありがとうございます。強くなったら勝負しましょうね」


セリアの真似をしてパチンとウインクするとカップに残っていたお茶をリオが一気に飲み干しました。


「俺も頑張らないとだな。シア、そろそろ戻ろうか。送るよ」

「一人で平気ですわ」

「駄目だ。もう暗いから送らせて。ほら手」


リオの差し出された手を取り立ち上がります。

私の歩調に合せてくれるリオに手を引かれて寮に向かうと令嬢達の視線が突き刺さって痛いですが気にしません。


「レティシア、残念ながらここまでだ。今日はゆっくり休んで。また明日会えるの楽しみにしてるよ」


リオの響く声とわざとらしい笑みに周りの令嬢達がうっとりしていますわ。顔を赤面させている方も。


「ありがとうございます。おやすみなさいませ」


リオのエセ紳士モードに令嬢モードの笑みで撃退します。

慣れって大事ですわ。視線を集めて楽しむ趣味はありませんが。手にそっと口づけを落としておやすみと去っていくリオに見惚れる令嬢達の未来が心配でたまりません。スキンシップの激しい諸外国は頬や額に口づけを自然にしますわ。初心な令嬢達は倒れてしまうかもしれませんね。

名目上は婚約者の私が傍にいればリオを追いかけることはないでしょう。婚約者がいる異性に近づくのははしたない行為ですわ。令嬢達の未来は私には関係ないので余計なことを考えるのはやめましょう。


シエルに迎えられ用意された夕食を食べ眠る準備を整えてもらいシエルを下がらせました。ケイトに手紙を書きましょう。疲れることもあれば嬉しいこともあります。

ケイトの言うようにまた何か嬉しいことが転がっているかもしれませんわ。

平穏人生を目指してるのに、なぜか今世のほうが慌ただしい気がしますわ。

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