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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第一章

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第二十四話 追憶令嬢10歳

ごきげんよう。レティシア・ルーンですわ。

将来脱貴族のために謀略を巡らす公爵令嬢ですわ。



社交デビューのパーティーが終わり貴族としての生活が始まりした。パーティーでの中座やパドマ様とのやりとりにお咎めを受けることはありませんでした。

両親は無言で朝食を食べ、朝早くから出掛けました。ルーン公爵夫妻は多忙なので留守はいつものことですわ。

全然気楽に生きていける生活が想像できませんわ。

短時間の社交デビューのパーティーでさえ心身共に疲れましたわ。正直、生前のどのパーティーよりも疲れましたわ。ため息が我慢できません。

目の前に広がる畑は私の留守中も誰かが手入れをしてくれたみたいですわ。

久々に割烹着を着て、草むしりをしてます。

ターナー伯爵家から帰宅してからは外での作業はシエルに禁止されました。シエルの納得のいく容姿を取り戻すために大変でしたが昨日のパーティと比べたら全然でしたわ。

私は庭師の仕事よりも、畑仕事の方が向いてることに気付きました。美しい庭を作るよりも、トマトを収穫するほうが楽しい。何よりベンの言うセンスを磨くために一心に頑張る意欲が沸きません。


「お嬢様、なんで一心不乱に草むしりしてるんですか?抜こうとしてるの苗ってわかってますか?」


ダンの声に手を止めます。よく見ると握っているのは野菜の苗でしたわ。


「ちゃんと確認して作業してください」


ダンも敬語を覚えて礼儀正しくなりましたわ。ますます身長も伸びて大きく見えますわ。


「ダン、久しぶりですね」

「昨日もお会いしましたが。お嬢様がトンチンカンなこと言うのはいつものことか。今日はどうしました?」


私の頭に帽子を被せて、ため息をつき苦笑しているダン。さり気ない優しさと、裏表のないわかりやすさにホッとします。ダンは私の思い描く平穏の塊かもしれません。もしかしたら、


「ダンには婚約者はいますか?」

「いません。まだまだ半人前なので、恋人を作る予定はありません」

「ダンのお嫁さんはどんな方が理想?」

「俺が稼ぐから、家で笑顔でご飯を作って待っててくれる人がいいです」


笑顔だけならいけますわ。お金を稼がなくていいなら色んな心配もなくなります。脱貴族の夢が目の前に…。


「料理を頑張って覚えますから、立候補してもいいですか?」

「冗談を。俺と結婚したら平民ですよ」

「大歓迎です!!私は山暮らしでも構いませんわ」

「お嬢様…?さては社交が嫌なんですね。昨日、シエルが荒れてたもんな。お嬢様はすぐ逃げようと…。そんな打算で結婚する嫁はいりません」


苦笑しているダンに即行でフラれてしまいましたわ。


「残念ですわ。私はダンのお嫁さんに本気でなりたかったのに。ケイトにお願いすれば、いえ、ケイトは大きなお胸のお姉様が好きなのでフラれますわ」

「あんまり誤解を招く物言いは止めてください。本気にする人がでれば気の毒です」

「失礼ですね。私は常に本気ですわ」

「お嬢様は黙っていれば美少女なんですから。おすまし顔得意でしょ?」

「失礼ですわ」

「そういえば上手くいきました?」


ダンと一緒に草むしりをして、他愛も話をしながら気持ちを浮上させます。

パーティーでは令嬢達の嫉妬の視線に殿下の意味のわからない言葉。魔力を隠しているのが見つかっているわけありませんよね?フウタ様の存在を殿下は知りませんし、無属性を持つ公爵令嬢の記録はありませんでした。そして無属性と偽って断罪された記録も。逆の魔力持ちと偽った貴族は爵位の剥奪でしたわ。王家を騙し、信仰する精霊を裏切る行為をする貴族には貴族を名乗る資格はありません。それは私も同じですが、見つからなければいいのです。私自身の罪ならともかくルーン公爵家を巻き込むのは避けたいので絶対に見つかってはいけません。

昨日の様子ですと確実に殿下の興味を引いてる気がします。腹黒殿下は私を動揺させて楽しんでるんですわ。

昔、好きだった笑みにうっかりつられて笑うなんて迂闊でしたわ。王家と関わらない方法を、私の手はダンに掴まれ、我に返るとまた苗を持ってました。ダンに怒られたので、今日の草むしりはやめます。植物を大事にするのは庭師と地属性の魔道士の基本ですから逆らいません。それに悪いのは私ですからお友達の忠告に文句を言ったりしませんわ。


ダンに追い出され、厨房に行くとケイトは休みでした。仕方がないので逃避はやめて部屋に戻りましょう。

これから気が重い作業があります。

机の上には大量の封筒、中身は全てお茶会の招待状です。

貴族令嬢にとって茶会は戦場です。情報収集しながら友好を深め、家にとって有利な関係を結ぶ大事な場所です。

これでもルーン公爵令嬢なので、ルーン公爵家とお付き合いしたい方々からたくさんの招待状が届きます。生前のこの頃の予定は王妃教育の兼ね合いで全てアリア様が管理してくださっていました。自分の意志でお茶会を選ぶのは初めてです。

無難にお母様と一緒に招待されているものを選別します。伯母様もいらっしゃると心強いですが。

イーガン伯爵夫人から謝罪の手紙が届いています。

赤毛の震えていたご令嬢はイーガン伯爵令嬢でしたのね。お詫びのもてなしは断り気にしないでくださいとお返事を書きます。気配を消し周囲の視線ばかり気にしていた私も悪いので。それは書きませんよ。


さて作業に戻りますわ。お母様と一緒に招待されているのは全体の3割ほどの量でした。

社交は味方を増やさないといけません。

まずは優先すべきは同派閥で足固め。

お父様と同じ派閥の公爵家の招待状を手に取ります。

リール公爵家とレート公爵家。

殿下の婚約者に選ばれそうな年頃の令嬢もいらっしゃる家です。敵意を持たれそうで気が重たいですが、逃げてばかりはいられませんわ。

お茶会への参加とお断りの返事を書いてシエルに託して筆を置きます。令嬢達のお手紙ほど多くないのですぐに作業は終わりました。

部屋を出たシエルがすぐに戻ってきました。


「お嬢様、リオ様がお見えですが」

「ご案内して」


シエルが頷き出て行くと、リオが一人で入ってきました。


「お疲れ。大丈夫か?」


私の机の上の大量の手紙をリオが苦笑しながら手に取ります。


「全て終わりましたので大丈夫ですわ」

「お茶会か。忙しそうだな。体調は?」

「問題ありません」

「なら良かったよ。思ったより普通だな」


机の上の招待状を纏めながら、首を傾げるとリオの手が頭に置かれます。


「昨日のパーティで色々あったから、また落ち込んでるかと思ってた」


色々ありましたので心配してくれたんですね。お母様からお咎めがないのが救いでしたわ。終わったことはどうにもなりません。顔を上げると優しく笑いかけられ、頭を撫でる手に力が抜けます。貴族子女が通うステイ学園入学まであと一年半。


「私は自分の運のなさにどうしたらいいか。前途多難な未来が見えますわ。学園にも行きたくないですわ」

「できるかぎりフォローするよ。入学したら飛び級するか?」


学園を卒業すれば成人として見なされます。成人するとさらに貴族としての務めに追われ平穏な生活が遠ざかります。脱貴族への道も。入学から逃げられないなら、目立たないように学園でひそかに生活するしかありませんわ。


「目立ちたくありませんわ」

「まだ時間はあるからゆっくり考えよう。協力するから」

「お願いしますわ」


力強い声に頷き、リオに椅子を勧めてソファに移動します。なぜか部屋に常備されているチョコレートの入った箱を開けて机に置きます。戻ってきたシエルがお茶を用意してまた出ていきました。お茶を飲んでいるとチョコレートを食べていたリオが顔を上げました。


「そういえば、ターナー伯爵家でビアードと会ったんだろ?」

「はい。修行の時期が重なりましたわ」

「エドワードが荒れてたよ。姉様に悪い虫がつくって」


私の留守の間はリオがエディの面倒を見てくれました。エディの手紙にリオのことは書かれてなかったので乳母に聞いて驚きましたわ。


「エディったら。虫は自分で払えますわよ。害虫駆除も覚えましたのよ」

「ターナー伯爵家で色々身についてよかったな。これで孤児院に行かなくていいな」


ターナー伯爵家での話をすると笑っているリオの言葉にすっかり忘れていた日記の存在を思い出しました。


「忘れてましたわ」

「…。まぁいいや。ビアードはどんなやつだった?」

「不躾で失礼な方ですわ。武術は強いですが、他は何もできませんの。鳥も兎も魚も捌けません」

「あぁ。あの修行か。ふ、二人で行ったの?」

「ええ。リオとなら簡単でしたのに大変でしたわ。でも貴重な体験ができましたわ。思い返せば楽しかったです。でも、そうですわね。最後だけはエイベルに感謝してますわ」


森での生活は楽しかったですわ。澄んだ空気に自然豊かな場所で採集して初めて狩りをしました。料理をして好きな時間に好きなことを。ぼんやりと池を眺めていた頃が懐かしいですわ。ルーンに帰ってからは生前ほどではありませんが予定管理された慌ただしい日が続いてますので。

楽しい気持ちを思い出しふと笑みをこぼれました。あの日々に戻りたいですわ。


「エイベル?感謝?」

「恥ずかしいから内緒ですわ」


一瞬眉間に皺の寄ったリオの顔にケイトに教わった人差し指を唇にあてて、小首を傾げて笑みを浮かべます。


「シア、隠し事は」


ケイト、これは効果ありませんよ。隠し事をしたい時の動作はサラリと流されリオの嗜める顔にじっと見つめられてます。これは話すまで解放されませんわ。


「笑わないでくださいね。約束ですよ」


頷くリオに熊退治と気を失い辞退した経緯を説明するとお茶を飲んでいたリオの動きが止まりました。カップを置いた手が私の頬を包み顔をじっくりと見つめられます。


「退治方法に色々思うところはあるけど、まぁいいや。叩かれた?」

「軽くですわ。痕も残っていませんよ」

「赤くなっただろう?」

「すぐに治りましたわ。心配には及びません」


顔に傷がないかリオの確認が終わったので手が放れました。


「ならよかった。ビアードはシアのなに?」


銀の瞳に探られるように見つめられますが、答えは簡単です。私の情報を殿下に話したエイベルは、


「敵ですわ」

「敵か。そうか。なら俺も遠慮はいらないか。シアの憂いはリオ兄様が払ってあげるよ」


銀の瞳を細め満面の笑みを浮かべるリオの瞳は笑っていません。

気にしたらいけませんわ。話を変えましょう。なぜか寒気がしてきましたわ。リオがソファに置かれる肩掛けを広げて掛けてくれたので大人しく包まれます。話題、そうですわ!!お土産がありましたわ。露店で買った木箱をリオに渡します。


「お土産ですわ」

「これは、箱?」


リオが箱に蓋を開け、様々な角度で見ています。


「へぇ。中々面白いな。今度細工もしてみようかな」


喜んでるかはわかりませんが、じっくりと見ているので気に入ってはいますね。寒気が収まりリオの怖い笑顔もなくなりましたわ。


「ありがとう。嬉しいよ」

「喜んでもらえて光栄ですわ」


いつもの笑みを浮かべるリオに安心して微笑み返すと正面に座っていたリオが立ち上がり、隣に座りました。私の首にかけているペンダントに手を伸ばし石に触れました。


「きちんと付けていてくれて、ありがとな。もしも令嬢達の嫌がらせが始まったら俺に教えて。俺のことでシアに迷惑がかかったらごめんな」


気弱なリオは珍しいですわね。パーティーでの痛い視線を思い出せば嫌がらせが始まっても驚きませんわ。

元気のないリオにギュッと抱きつきます。落ち込んでいる時はこれが一番です。


「お互い様だから大丈夫ですよ。心配しないでくださいな」


背中に手が回り、私の肩にリオが顔を埋めました。珍しいですわね。

リオも疲れているんでしょうか。

しばらくするとリオが私の頭を撫でて、髪を結っているリボンを解き無造作に流れる髪を指に絡めてもてあそび始めました。よくわかりませんが好きにしていただきましょう。

リオの胸に顔を埋めて目を閉じます。リオに抱きつくの久しぶりですわね。落ち着きますわ。


「シア、気弱な令嬢のフリよくできてたよ」


ようやく口を開いたリオの顔を見上げて笑みを浮かべます。修行の成果を誉められるのは嬉しいです。


「練習しましたもの」

「何かあったらすぐに教えて。相談を忘れるなよ」


先ほどまでの気弱な様子が嘘のようにいつも余裕のあるリオに戻りました。そういえばそろそろ学園の試験の季節。疲れている理由がわかりましたわ。リオの胸から体を放し、心配させないように満面の笑みを浮かべて見つめ返します。


「わかってますわ。リオもお勉強がんばってくださいな」


笑って頷くリオの手が脇の下に伸びてリオの膝の上に持ち上げられました。髪を梳かれ、私の髪が結い上げられています。


「次に会う時は市で売れる物でも作れるようになっとくよ」


リオはエイベルと違ってなんでもできますわね。


「露天商でも開きますの?」

「シアが望むなら」

「それも素敵ですわね」

「何を目指してもサポートしてやるよ」


頼もしい言葉。確かにリオならどんなことも卒なくこなしますわね。どんな時も頼もしいリオに気分が浮上して楽しくなってきましたわ。


「頼りになりますわね」


リオを椅子にしながら、聞かれるままにターナー伯爵家での話をします。

リオならすぐにでも脱貴族ができそうで羨ましいですわ。

お勉強の終わったエドワードが訪ねたので昼食を共にして三人でのんびりと過ごしました。


「また会いに来るから元気でな」


いつもは私がマールに訪問してましたのにリオが会いに来るのは不思議な気がしますね。

笑みを浮かべて礼をします。


「お待ちしてますわ。いってらっしゃいませ、リオ兄様」


リオが口を手で覆って凝視してますが何事でしょうか。


「いや、なかなかいいな。いってくるよ」


手を振って爽やかな笑みを浮かべてリオは帰って行きましたわ。エディはリオが帰って寂しいのか腰に抱きつくので宥めるように頭を撫でます。

エディはリオが大好きですのね。逞しく成長する弟の中に可愛らしい子供らしさを見つけるとつい笑みがこぼれてしまいます。

人の成長とは、早いものですわ。

私のほうが年上なのにリオの考えていることも全然わかりません。

私は脱貴族を目指していますが大事なエディやリオに迷惑をかけない方法を探しながら頑張りましょう。

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