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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第一章

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第二十話 後編 追憶令嬢9歳

ごきげんよう。レティシア・ルーンですわ。

自衛の訓練のために、森で過ごしております。



エイベルに夜明け前に起こされ、寝ずの番を代わりました。

もっと早く起こして欲しかったですが、エイベルの気遣いなので文句はやめました。脳筋で無礼でも荷物を持ってくれたのも朝日が昇るギリギリまで起きててくれたのも優しさでしょう。


池の水を布でこして作った綺麗な水を鍋にいれて、昨日焼いた肉と草をいれてスープを作る。

あとは果物と木の実と葉巻の肉で朝ご飯は完成です。

お昼は伯父様が用意してくれた食事を食べれば大丈夫ですわ。


エイベルが動き出しましたわ。

丁度食事もできましたしそろそろ起こしましょうか。

エイベルに近付き顔をのぞくとゆっくりと目が開きました。


「起きますか?」

「あぁ。おはよう」


ゆっくりと起き上がりました。


「おはようございます。食事にしましょう」

「ありがとう。顔洗ってくるから先に食べてろ」


ありがとう?初めてお礼を言われましたわ。

食事をして片付けも荷物整理も終わりました。夕方まで暇ですわ。

ぼんやりと池を眺めております。


「なぁ。お前は…」

「なんですか?」

「周囲の期待とお前の気持ち、どっちを優先する?」

「時と場合によりますわ」


沈黙が続きます。

いつもうるさいエイベルが気持ち悪いですね。

そういえば、記憶の中のエイベルは脳筋でおバカで、言葉にするのが苦手な所もありました。何度突っ込みをいれたか。

いつの世も手がかかる人ですわ。暇ですし、付き合ってあげましょう。

池を眺めながら、ゆっくりと口を開く。


「ここで聞いたことは全部忘れてあげます」

「絶対?」

「絶対です」


エイベルが隣に座りました。顔は見ませんよ。


「俺はクロード殿下と親しい。将来の側近候補として側に置かれている。クロード殿下の周りには、たくさんの人がいるのに、レオ殿下の周りには誰もいないんだ」


第二王子なのに?


「離宮で生活されてるが、離宮でもサラ様と二人だけ。俺だけでも、声をかけてみようか迷って」


側妃と第二王子に取り巻きがいないんですの?どうして離宮の情報をエイベルが知ってますの?離宮に足を踏み入れるのは王族と専属だけのはず。いえ、王家のことは気にしてはいけません。

今はエイベルの相談中でした。


「レオ殿下に声をかけてはいけない理由がありますか?」

「俺がレオ殿下の取り巻きになったと思われるのは、父上に迷惑が…」


生前エイベルはクロード殿下の友人であり幼馴染。でも最終的にレオ殿下についていましたわね。

昔の私なら、クロード殿下の傍にいたほうがいいと言うと思います。ビアードがレオ殿下についたら面倒なことがおきますもの。

でも最終的に裏切るなら、最初から自分の選びたい人を選んだ方がいいですわ。

クロード殿下もきっと気にしませんわ。エイベルがいなくても側近候補はたくさんいますし、ビアード以外にも優秀な側近候補の騎士もいますわ。

最終的に裏切るなら最初から傍にいないほうがクロード殿下のためですわ。

正直には言えませんけどね。


「ビアード公爵にレオ殿下の傍に近寄るなと言われましたの?」

「言われていない」

「ならレオ殿下に声をかけて差し上げればいいんではありませんか?ビアード公爵にやめろと言われたらその時考えればいいですわ」


忠臣ビアード公爵は王家が絶対ですから、近づくなとは言わないと思いますけど。アリア様がどう思うかは知りません。でもエイベルが優先すべきはビアード公爵と国王陛下のお考えですから。

無言ですわね。まぁ考える時間も必要ですわ。脳筋でも…。

せっかくなので伯母様に教わったことを教えてあげましょう。私はこの言葉で心が軽くなりましたわ。


「私達は子供です。子供ですから多少の間違いは許されます。間違えれば家族や周囲の大人が諌めてくれます。一人で抱え込むよりも相談したほうが効率的なこともありますよ」

「そうか」


一人になりたそうなので、少しだけ距離を取ります。別行動と思われない程度に。


空を見上げてごろんと寝転がります。

森での生活もなんとかなりましたわ。魔法を使わないのは不便ですがそれでも生活できますわね。

エイベルの態度も柔らかくなりましたしもう敵意を向けられてません。

どうしてあんなに敵意を向けられたかわかりませんが。

そろそろお昼になりますわ。

伯父様との待ち合わせ場所に移動しましょう。エイベルはまだ一人で考え込んでるんでしょうか。

近付くと眠っていました。日差しが気持ちいいですものね。昨日はほとんど眠れてませんものね。まだまだ時間に余裕はあるので起きるまで待ちましょう。

池の魚を眺めてぼんやりしているとエイベルが起きたので、お昼ご飯にしました。

荷物を持って伯父様との待ち合わせ場所に移動しました。

まだまだ時間があります。

エイベルは素振りをしています。私は体力がないのでしません。訓練は大人と一緒の約束ですしね。エイベルは力があるので剣を振ると風を切る音がします。腕も私と比べると長くて太くてしっかりと筋肉がついていて羨ましい。

ヒュッと強い突風が吹き周囲を見渡すと大きい影が見えます。あれは?

素振りをしているエイベルに手を振るとエイベルの動きが止まり近づいてきます。


「エイベル、何かいますわ」


影を指さすとエイベルが目を凝らしてじっと見ています。


「熊?」


影がどんどんはっきりと見えるように、


「こっちに向かってるように見えますわ。どうしましょう」


遠目で見えるのは大きいから。あれは?鋭い爪が光るのは、熊!?あんなに大きいならきっと一口で食べられてしまい、


「おい、逃げるぞ!!ゆっくり、おい!!大丈夫か!?」


リオ、シエル、伯母様、食べられる、


パチンと音が響き、頬にじんわりと痛みが


「レティシア、しっかりしろ!!惚けている場合じゃない。逃げるぞ。ゆっくり、気付かれないように。気配消せ」


気配、気配を消す。真剣な顔でエイベルが空に向けて発煙筒を打つ。


「周りに騎士が見当たらない。時間を稼げば伯父上が来る」


囁く声に頷き気配を消し熊のほうを見ながらゆっくり後退します。

大きい熊が怖くて、体の震えが止まりません。落ち着かないと。

思考を止めたらいけません。

ゆっくりと息を吸う。

どんなときでも優雅であれですわ。

ちゃんと考えないと。くま、くま、熊は、動物図鑑を思い出して、確か熊は視力は弱く、耳と鼻が敏感。

熊との距離は広がらずどんどん森の深くに進んでいきます。

森は奥にいけばいくほど危険。

大きい音を出したら、驚いて逃げてくれる?

怒って襲ってくるかもしれない。

怖い物といえば私も持ってましたわ。

ポシェットを開けてセリアのくれた道具を見て酔わせる薬と包帯を取り出す。

包帯を使って矢に薬の小瓶を括り付ける。


「エイベル、鼻と口を塞いでて」


熊の近くの木に小瓶付の矢を射る。

もう一本は小瓶を狙って矢を放つ。

パキンと瓶が割れました。割れない瓶じゃなくて良かった。

効いてないないかな?割れる音で熊が興奮する様子はない。

熊が倒れましたわ。さすがセリアの薬。

なんだか眠くなってきましたわ。

瞼が重たくて体の力が抜けて真っ暗に。





目を醒ますと柔らかいベッドにいました。


「お嬢様!!大丈夫ですか!?」


シエルが心配そうな顔で見ています。


「どうしました?」

「お嬢様は修行の途中で倒れました。毒を吸ってしまったみたいで」


毒?思い出しました。熊は!?

慌てて起き上がる。


「エイベルは!?」

「無事です。ターナー伯爵と合流するまで倒れたお嬢様を守ってくださいました。さすがビアード公爵家の嫡男、将来が楽しみですね」


エイベルは無事なんですね。良かった。力が一気に抜けましたわ。違いますわ。

やるべきことがありますわ。心配そうなシエルを安心させるために笑みを浮かべる。


「伯父様に取り次ぎを。シエル支度を」

「今日は休まれたほうが」

「大丈夫。伯父様に面会依頼を」


シエルの心配そうな顔が穏やかな顔に戻り頷いて出て行きました。昔は気付きませんでしたがシエルは表情豊かでした。こんなに心配そうな顔を向けられることはあまりありませんでした。

すぐに扉が開き入ってきて驚きましたわ。

ターナー伯爵夫妻に夜着で面会するのは失礼ですわ。先に謝罪すべきは服装ではありませんが。


「レティシア、気分はどうだ?」

「大丈夫です。不甲斐ない結果になり申しわけありませんでした」


穏やかなお顔の二人に頭を下げます。


「無事で良かったわ」

「レティシア、頭をあげて。むしろ危険な目にあわせてすまなかった」


頭をあげると伯父様の眉が下がり初めて見る後悔の色があるお顔に見つめられます。


「伯父様、修行です。お気になさらないでください。私は貴重な体験をさせていただき感謝しています。ビアード様はご無事ですか?」


伯父様に微笑みかけると、何か呟き笑顔が見られほっとしました。伯父様の大きな手が私の頭に伸びてゆっくりと撫でられました。


「無事だ。二人ともよくやった。想像以上の成果だ。さすがローゼ嬢の娘。師匠としても誇らしい」


倒れたのに褒められるんですか?

そういえば護衛騎士が見当たらないとエイベルが言っていましたが、


「ありがとうございます。護衛騎士の皆様は?」

「近くに賊を見つけて、討伐に夢中で二人を見失った。レティシア達よりも騎士の特訓が必要だ」

「そうね。護衛対象を見失うなんて騎士見習いからやり直したほうが」

「視野に入れておこう」


空気が冷たくなり伯母様と伯父様が冷たい声で話し合っています。この見覚えのあるお顔は伯母様もお母様のお姉様ですのね。似ていないと思ってましたがそっくりです。私が怒られてないのに背中に冷たい汗が流れますわ。

話を変えましょう。空気を変えないと。


「伯父様、途中から記憶がないんですが、」

「二人が棄権するのは緊急事態だろうから知らせを見てすぐに救出に飛んだよ。エイベルがレティシアが倒れてすぐに2本目の発煙筒を打ち上げたから合流は簡単だった。熊が出る場所ではなかったんだが、無事で良かったよ。熊にぶつけた薬が気化したものを君が吸って倒れたみたいだ。毒薬を持ち歩くなんてさすがルーンだよ。

エイベルは口と鼻を布で覆っていたから効かなかった。次は気をつけるんだよ。訓練は明後日から。それまでゆっくり休みなさい」

「熊を倒すなんて思わなかったわ。やっぱりローゼの娘ね」


伯母様のしみじみと呟く言葉は褒められているようには聞こえません。

セリアの薬は毒だったんですか!?伯父様達が深く聞いてこないので今は忘れましょう。

やはり物騒な物でしたが今回は助かりましたわ。

何はともあれ無事に訓練が終わって良かったですわ。

お咎めがないのは嬉しい誤算です。

本を手に取るとシエルの視線が痛いので休みましょう。

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