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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第一章

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第十八話 追憶令嬢9歳

ごきげんよう。レティシア・ルーンです。9歳になりました。

将来の平穏で穏やかな生活のために日々精進しております。


私は自衛能力を身につけるため、ターナー伯爵家にお世話になり1年が経ち生活にも慣れましたわ。

今まで従兄のリオも一緒にターナー伯爵家で過ごしていましたが、学園入学のため王都に戻っていきました。入学試験のギリギリまでターナー伯爵家で修行に明け暮れていました。

一度もリオと手合わせさせてもらえませんでした。伯父様達はリオは筋がいいから将来は王宮騎士も目指せると言ってましたわ。

いつかはリオよりも強くなりたいですわ。

リオが出立する日の前夜に二つ約束をしました。


首にかけてあるのはリオからもらったペンダントです。


「シア、これからは今までみたいに側にいられなくなる。これを肌身はなさず持っててくれないか?」


真剣な顔のリオにペンダントを首からかけられました。風の魔石にしては光沢のない銀色の四角い石のついたペンダントを。


「お守りだ。深い意味はないよ。セリアの道具でも駄目な時はこれにシアの血をつけて」


セリアの道具でも駄目な時?あんな物騒な物を使うつもりはないんですが。


「不思議な顔するなよ。シアを助けてくれるように願いを込めて作ったから。俺の代わりに傍に置いて。頼むから」


真剣な顔で懇願されるのは初めてです。


「わかりました。大事にします。ありがとうございます」

「こちらこそ。受けとってくれてありがと」


美しい銀の瞳が細くなり、優しく笑いそっと抱きしめられると、あら?心臓の鼓動が速い。運動してないのにおかしいですわ。リオの背中に手を回しても落ち着きません。

どうして?解いている髪を指で梳かれ、いつもと同じ動作なのに自分の胸の鼓動の音が良く聴こえる。しばらくすると頬に手を添えられ銀の美しい瞳に見つめられ、


「これからもちゃんと相談してくれ。手紙待ってるから。セリアのポシェットも肌身離さず持ち歩く。いいな?約束だ」

「わかりましたわ」


リオの嗜める時の顔を見ても特に何も感じません。胸の鼓動も落ち着きドキドキしたのは、気のせいでしたわ。疲れてましたのね。

そしてリオは部屋に戻って行きました。バルコニーに出ると綺麗な夜空が広がっており、せっかくなので一緒にお茶を飲めば良かったですわ。

シエルの淹れてくれたお茶を飲みながらぼんやりと夜空を眺めた時間が懐かしいですわ。



リオには全く敵いませんが私も1年で成長しました。

ランニングも15周できるようになり、最近木剣から鉄剣にかわりましたの。

去年は持つだけでプルプルしてたのに、しっかり持てるようになりました。

弓も覚えました。弓は筋がいいって伯父様に褒められました!!

あと、馬の手入れも教わっています。

自分で手入れするのは信頼関係を築くために大事なことなんですって。今までは仔馬に乗っていましたが最近は立派な体躯の成人馬で駆けることが許されました。

ターナー伯爵家はルーンと違ってどんなことも挑戦させていただけるので毎日が新鮮で楽しいです。


今日は伯母様と訓練です。

ターナー伯爵令嬢は武術の心得を教わるそうです。

お母様は武術ははしたないとおっしゃっていたのは忘れることにしました。家によって方針が異なりますし当主の望みと本人の気持ちが一致するとも限りませんから。


「今日は躱す訓練よ。私達から頑張って逃げなさい。怪我しても治してあげるから安心して」


この訓練は難しいものです。深呼吸をして目の前に立つ伯母様と3人の騎士をじっと見つめます。持っているのは剣と縄だけ。他の道具は持ってなさそうなので飛び道具は警戒しなくて平気ですわ。そして灰色の瞳を持つのでたぶん風の魔導士です。

まずは相手を観察して情報を得るのが大事という伯父様の教えです。常に冷静に観察し情報を集め分析して策を練る。思考をやめれば待っているのは終焉(終わり)と。


「わかりました。よろしくお願いします」


礼をした頭を上げた瞬間に風の刃が向かってくるので、右に跳んでかわすと無数の竜巻が襲ってきます。

走って大きな石場に隠れる。小規模な竜巻なので大きな石は飛びません。

あら?嫌な予感がしますわ。

罠かもしれません。足元が光って竜巻に体が包まれる。竜巻の中心は安全ですがこれだと捕まってしまうので、痛いのを覚悟して囲んでいる竜巻が大きくなる前に飛び出す。

竜巻は大きいほど殺傷能力と拘束力が上がるので、勢いよく飛び出さないと抜け出せません。

竜巻から飛び出すと肌に風の刃が刺さり、足を取られて地面に転ぶ。そのまま転がって上の竜巻に飲み込まれないように避けましたが、わかってますわ。

竜巻の進行方向から避けられましたがやはり罠でした。足が縄に捕まってます。


「ここまでね。見通しが甘い。まずは地形を観察して相手がどんな手を使うか読まないと。予想した上で考えながら動くのよ」


全ては伯母様の策通りの動きを私はしたのでしょう。


「はい。伯母様」

「竜巻に飲まれたときに諦めずに抜け出したのは驚いたわ。度胸がついたわね。上出来よ」

「すぐに捕ってしまいました」

「想定より遅かったわ。レティは本当に優秀ね」

「ありがとうございます」

「さて今日はこれで終わり。お客様が来るから、レティも体を綺麗にしてらっしゃい」


護衛騎士が縄を解いて治癒魔法をかけて傷を治してくれました。

伯母様はたくさん褒めてくれます。

それでもまだまだ駄目なのはわかります。

全然避けられませんでした。風の刃も竜巻も怖かった。これをシエルが受けたと思うともっと頑張らないといけません。

いつかは全部避けられるようになるでしょうか。

風魔法は発生前の兆しがあるとリオが言ってましたがよくわかりません。



湯あみをすませて、伯母様からいただいた服に着替えます。

伯父様は目利きと指導力があると騎士の世界で有名なためセンスや武器の適性などアドバイスを受けるために来客する騎士が多いそうです。定期的に王都に呼ばれ王宮騎士団の訓練も請け負っているみたい。

ターナー伯爵家は国境を守る役目があるのでターナー伯爵は基本は領地にいます。

国が襲われた際に最優先に王家を守るために動くのはビアード公爵家。外からの敵の排除を任されるのはスミス公爵家。全体の指揮は公爵家が取りますが、動き出す前に守り殲滅するのはターナー伯爵家の役目だそうです。


着替えると伯母様が髪を結ってくれました。

ターナー伯爵家では時々伯母様の着せ替え人形になっております。服はルーン公爵家から持って来ていますが、ターナー伯爵家には誰にも着られなかった服が眠っているので着て欲しいと言われるとお断りできません。

支度を整え伯母様と一緒にお出迎えします。

馬車の紋章に見覚えがあり、降りてきた少年にも物凄く見覚えがあります。

生前の記憶より小さいですが。


「お久しぶりです。伯母上」

「エイベル、大きくなったわね。話は聞いてるわ」


伯母様より家格の高い少年が声を掛け親しそうに話してます。

彼よりも私のほうが家格が高いので先に声を掛けるべきですわね。私の存在に気付いているか、わかりませんが。


「初めまして。ルーン公爵家長女レティシア・ルーンと申します」


礼をすると伯母様から私に向き直り、見覚えのある美しい銀の瞳でギロリと睨まれ頭を下げました。


「ビアード公爵家嫡男エイベル・ビアードです」

「レティは婚約者がいるから、好きにならないようにね」

「伯母上、俺はこんな女狐に興味ありませんよ」


心底嫌そうな顔で伯母様を見ているのは、私のシエルを傷つけたエイベル・ビアード。生前、ルメラ様にイチコロされてレオ殿下の味方につき、騎士道精神を捨てた最低な男ですわ。

エイベルから敵意を向けられていますが私も同じですわ。私はエイベルのように愚かでも脳筋でもありませんので表に出さずに令嬢モードで穏やかなお顔を浮かべます。

エイベルの態度は不敬で裁けますがここではルーンの名前を使わないと伯父様と約束してますから。

でもエイベルの態度は私が何かを言うまでもなく、


「聞き捨てならないな。エイベル、女性への礼儀も私の指導が必要かな」

「伯父上!!いらしていたんですか!?」


近付いてきた伯父様を見てエイベルが嬉しそうな声をあげ駆けて行きました。


「弟から頼まれたが、女性への礼儀を守れないなら送り返すよ」


脳筋エイベルは伯父様のたしなめる言葉に気まずそうな顔をしました。相変わらずすぐに顔に出ますね。これで近衛騎士を目指すなんてありえませんわ。ビアード公爵家は近衛騎士を輩出する一族です。


「申し訳ありません。ルーン令嬢」

「構いませんわ。お気になさらず」


私に向き直り不服そうに頭を下げるエイベルに微笑む。心の籠っていない謝罪でも許すように見せかけるのは大事ですわ。私は公爵令嬢ですから。


「荷物を置いておいで。訓練は明日からにするか?」

「伯父上のお時間が許せば今日からお願いします!!」

「着替えておいで。レティも一緒にするかい?」

「伯父上?」

「お邪魔でなければお願いします」


多忙な伯父様に訓練していただけるは貴重です。嫌そうなエイベルなんて知りません。私は強くならないといけませんし、察して動いてあげる義理もありませんわ。


今日は弓の訓練を見ていただけるそうです。

訓練着に着替えて、弓を持ち訓練場に着くと伯父様はまだいません。エイベルではなくビアード様がいます。さすがに親しくないのに名前呼びは失礼ですから。

私はビアード様に睨まれています。気にするのはやめて準備運動をして待っていると伯父様が来ましたわ。


「二人共準備はできているね。エイベルは弓の使い方と魔法の応用だね。レティもよく見てて」


伯父様が弓を持ち、美しい姿勢で的に向かって弓矢を射る。伯父様の武術の姿勢はいつ見ても美しく見惚れてしまいます。

1本目は真っ直ぐに綺麗に的の中心に突き刺さる。

2本目カーブがかかり円を描いて的の中心に。

3本目凄い速さの矢が的の中心に。


「弓の軌道は一直線。だが矢を放ってから風魔法をつかえば、軌道も速さも変えられる。もちろん敵の矢の軌道も。風魔法が使われたら常識を捨てるように。風魔法は変幻自在。詠唱なしで使える者がほとんどだ。属性に優位はないと言われているが、私は風魔法の敵が一番厄介だと思うよ。

風魔法で威力を上げるためには、しっかり基礎を磨く必要がある。まずエイベル、的を射ってみて」


ビアード様が構えてすぐに矢を放つ。シュッと音がして矢の速度は私より速いけど的の真ん中から逸れる。


「次、レティ」


集中して的の中心に狙いを定めて弓矢を構えて矢を放つ。二人と比べると力のない矢が真ん中に命中。


「次は10本連続で」


集中して弓矢を放っていく。8本は的に刺さるも中心には6本だけ。2本は的に届かず落ちている。ビアード様は全部的に刺さっている。中心のあるのは2本だけ。


「エイベルは体幹を鍛えた方がいい。軸がズレているから狙いが逸れる。集中力も課題だな。年齢のわりには上手いと思うよ」


ビアード様が真剣な顔で伯父様の言葉に頷く。


「レティは体力と筋力が課題。集中力は及第点だ。さすがローゼ嬢の娘だ。最後に、矢を回収して的を狙って10本早撃ち」


早撃ちをすると弦を握る手がプルプルして、3本しか的に届きません。

ビアード様は9本当たっています。


「今日はここまでにしようか。今日の結果はちゃんと覚えておいて。明日からの訓練メニューは護衛騎士に伝えておこう。柔軟してから解散しなさい」


「ありがとうございます。伯父上」

「ありがとうございました。伯父様」


伯父様は去っていきました。

明日に響かないように丁寧に柔軟します。


「お前、なんで弓を?必要ないだろ」


声を掛けられますが護衛騎士の目があるので無視はできません。無礼な物言いですが脳筋に礼儀を求めても無駄ですわ。


「関係ありませんわ」

「変わったことをして殿下の気を惹きたいとか?」

「ありえませんわ。私はルーン公爵令嬢として役目を果たしたいだけですわ」

「殿下の誘いに乗らなかったのは?」

「忙しく殿下と会う理由もありませんわ」

「社交デビューしてないのに?」

「学ぶことがたくさんあります。失礼します」


柔軟が終わったので立ち去ります。

呼び止めるビアード様の声なんて聞こえませんわ。

生前、私の知ってるエイベルと様子が違いますわ。私と殿下の関係性に口を出すなど絶対にしませんでしたわ。

エイベルとは、関わらなようにしましょう。いずれ倒さないといけない相手ですもの。

いつまで滞在するんでしょうか・・・。

リオが帰って初めて恋しくなりましたわ。脳筋エイベルを華麗に諫めるリオ兄様が。

余計なことを考えるのはやめましょう。

私の可愛いエドワードは大きくなったでしょうか。

エディの可愛い笑顔を思い出して明日も頑張りましょう。

そろそろエディから届いた手紙の返事を書こうかな。

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