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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第一章

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第十七話 追憶令嬢8歳

おはようございます。レティシア・ルーンです。

今日も将来の監禁回避に頑張ります。


昨日より量の少ない朝食を用意されましたが、それでも量が多く減らしてもらいました。おかげで残すことなく完食できましたわ。ターナー伯爵家のプレート料理を生み出したのはマール公爵夫人だそうです。それまでは一品づつ用意され召し上がっていたと。ターナー伯爵が遠い目をしてましたので、深くは聞きませんでした。ルーン公爵家の繊細で上品な晩餐料理と違い食べやすい料理ばかりでこれならエディもマナーを気にせずお食事できます。

朝食を終えると護衛騎士を4人ほど紹介されました。交代で護衛してくださるそうです。

護衛騎士がいるならシエルの付き添いはいりませんね。せっかくなのでゆっくりしれもらいましょう。働き者のシエルにも休息が必要ですわ。


これから初訓練です。

伯母様が用意してくれた訓練着を着ると、椅子に座るように促されました。

伯母様が楽しそうに髪を梳いて、一つに纏めてます。伯母様は髪を結うのが趣味ですが娘がいないのでつまらなかったようです。代わりに息子やターナー伯爵の髪を結っていたって侍女では駄目ですの?

ターナー伯爵は長い髪を纏めてましたが、伯母様の趣味ですの!?お母様は髪を結われるのが嫌いだったので伯母様は時々お姉様のマール公爵夫人の髪を結ってましたの?

伯母様は変わっているかもしれません。

いってらっしゃいと明るく送り出され、護衛騎士に連れられて訓練場に付きました。

夜着のような薄手のシャツと初めて着るズボンは新鮮ですわ。

ターナー伯爵である伯父様が見えたので礼をして迎えると驚いた顔をされ頭をくしゃりと撫でられ礼はいらないと言われたので頭をあげました。

武器庫に案内されましたが、たくさんの種類の剣に弓、見たことない武器もありますわ。キョロキョロ見るのははしたないので興奮を隠して淑やかな顔で正面に立った伯父様を見つめます。


「レティシアの事情は聞いている。武術の訓練なんて、一般的には令嬢はしない。生半可な気持ちでは耐えられないが覚悟はあるか?私は甘やかさないよ」


食事の席とは別人の静かな声で静かな瞳で見つめられる。必要なことですし、スパルタには慣れてますもの。視線をそらさず静かに口を開く。


「もちろんです。よろしくお願い致します」

「どうして?」


生きるために必要とは言えません。それに一番の理由も。曖昧に濁して答えましょう。


「大事なものを守るために力が欲しいです。私には魔法が使えないので違う手段を身に付けるしかありません」

「大事なもの?」


大事なものはたくさんありますよ。シエルが傷つけられた時の悔しさ、何もできなかった無力な自分。後悔するのは嫌ですもの。


「家族や家人、友人、全てを言葉にするには相当な時間がかかりますわ。それに私はルーン公爵令嬢です。自分の身を守らないといけません。魔法が使えずとも私の血はお金になり、許可なく外に流していいものではありませんわ」

「しっかりしてるな。本当にローゼ嬢の娘なのが不思議でたまらない」


伯父様の静かな雰囲気が一変して優しく笑いました。伯父様との静かな睨み合いも終わりですわね。

お母様はターナー伯爵夫妻に何をしたんでしょうか。まだ滞在してから二日ですがこの言葉をよく聞きますわよ。気にするのはやめましょう。きっと知らないほうが幸せなことですわ。


「今まで武器を持ったことは?」

「バイオリンくらいです」

「バイオリンは武器じゃなくて楽器だ。興味のある武器はあるか?」

「わかりません。どんな武器も使いこなせたら素敵だと思います」


伯父様が私の体をじっと見てひとりで頷きました。


「向上心があるのはいいことだ。木剣から始めよう。鉄剣は持てないだろう。護衛騎士に君の指導を指示しておく」

「ご配慮ありがとうございます」

「まずは体と基礎体力作りからだ。次に躱し方と逃げ方を。レティシアには身の守り方を徹底的に覚えてもらう。リオとは方針が異なるのは実力と役割、生きる世界の違いだ」

「わかりましたわ。よろしくお願いします」

「訓練は危険を伴うから必ず大人と一緒に。私の指示に従えないなら指導はやめて送り返すよ」

「わかりましたわ。よろしくお願いします。」

「忠告するが訓練中は君はただの少女。公爵令嬢として誰も扱わない」

「かしこまりました。ターナー伯爵の言葉に従います。訓練に関してルーンの力を使うことはないとお約束しますわ。もちろん私の扱いについてルーン公爵家からターナー伯爵家に抗議することもありません。ご指導よろしくお願い致します」

「ほんとうにローゼ嬢の娘なのか」


とうとう訓練が始まりました。

今日は素振りを見学しました。

伯父様が剣を振ると空気の斬る音がして風が起こりました。魔法の気配はありません。

うっかり素で驚くと、令嬢らしくしなくていいと言われて素直に顔に出しました。

明日からはランニングと素振りが日課になります。

庭を10周走るはずが、5周で止められてしまいましたわ。伯父様の言葉は絶対なので悔しいですが走るのをやめました。

こんなに動いたのというか走ったのは初めてですわ。いつもお上品に過ごすように言い聞かせられてましたから。

心臓の鼓動が速くなり、息が苦しくなるのも初めてです。

体はフラフラで想像以上に強くなるための道が厳しいですわ。

部屋に帰るとベッドに崩れ落ちました。


「シア、生きてるか?」

「生きてます」


リオは最近は勝手に部屋に入ってきますのね。私もリオの部屋に勝手に入るのでお互い様でしょうか。


「大変だったみたいじゃないか。バイオリンが武器って叔父上笑ってた」

「バイオリンは重いし、ぶつければ武器になると思ってましたの」

「物騒だな。思ったより元気そうでよかった」


枕に顔を埋めている私の頭を優しく撫でるリオは訓練が終わってもいつも元気そうでしたわ。しばらくリオに甘えて気持ちの良い手に身を委ねると、大事なことを思い出しました。


「リオに相談が」


ごろんと寝返りをうつと体が重い。息を噴き出し笑ったリオが伸ばしてくれた手を掴むとゆっくりと起こされます。

セリアの箱を手に取りリオに渡します。


「これ、セリアからもらいましたが」


リオが箱を開けて中身を手に取り確認してます。


「さすがセリア。抜かりはないな」

「物騒な物がたくさんありますが、これは持ち歩いて平気ですか?」


セリアからのカードを読んだリオがポシェットに箱の中身を入れてます。


「足りないな。大きさの割に中は結構入るのか。これとこれとこれも追加して、そこまで重たくないから持てるだろう」


増えてる!!相談の意味がありませんわ。


「これを持ち歩いたら危険人物ですよ。荷物検査を受ければ捕縛されますよ」

「荷物検査なんてされないだろう?大丈夫だ。いつも手元に置いときな。危険な物じゃない」

「書いてあること、なかなか物騒だよ」

「セリアもちゃんと加減してるよ。いたずら程度だ。シアの身に危険なことはしないよ。持ち歩かないほうが面倒だと思うけど?」

「わかりました。ちゃんと持ち歩きますわ」

「賢明な判断だ」


リオにポシェットを返されました。そしてリオはきちんとポシェットを持ち歩いているかいつも確認します。私はこんな危険な物を持ち歩きたくないですが、リオとセリアに逆らうと怖いので従いましょう。


次の日は全身に痛みを伴い、病気かと思ったら笑われましたわ。

世間では筋肉痛といわれるそうですわ。

怪我ではないので治癒魔法は必要ないそうです。動けば良くなると言われ、ゆっくりと訓練に向かいました。

護衛騎士に子鹿のような走りと笑われました。様子を見にきた伯母様にも本当にお母様の娘?と言われました。周りの皆様と違い走ることさえ満足にできないのが悲しい。

体力回復の魔法はあっても体力や筋力を増やす魔法はないのでしょうか?水魔法以外は専門外なのでいずれ勉強しましょう。残念ながらターナー伯爵家の書庫で調べるほど体力の余裕はありません。

前途多難ですわ。

私はあと二年で庭を10周も走れるようになるのでしょうか…。


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