元公爵令嬢の記録 十九話
レティシアです。
起きると見覚えのない場所にいます。
リーファをディーネに任せて、眠っていたはずですが。
最近眠くてたまりません。
ディーネに話しかけても、反応がない。でもディーネがいるならリーファは大丈夫でしょう。
ここはどこでしょうか。
リオからもらった腕輪もありません。どうしましょうか。
手が縛られてますね。
質素な部屋です。
まさか、また監禁ですか・・・。
でもレオ様はクロード様とは最近は親しくされているようです。私を監禁されることはないはずです。
手の縄を魔法で切ろうとしましたが魔法が発動しません。
困りました。救いなことは魔石の部屋ではないので、幻聴が聞こえません。まさか、監禁されても落ち着いて対応できるとは思いませんでした。きっと、ディーネが気づいてくれます。
私はまだ死ぬわけにはいきません。ルーンの子を産むまでは、絶対に。
扉には、鍵がかけられてます。窓はありません。
昔、ケイトに教わったことを思い出します。攫われた時の方法は確か・・。
人の気配がします。眠っているふりをしましょう。
「まだ起きないか」
「まさか、本当にいるとはな」
「中々の上玉。楽しめそうだ」
「雇い主から、まだ手を出すなと言われているだろうが」
人攫いですか…。
「良いご身分ね。まさか本当に生きてるとは」
この声は聞き覚えがありますわ。
「そなたが姿を消したせいで、どれだけ惨めな思いをしたか。起こしなさい」
「姉ちゃん、起きろ、」
大きい声に目を開けて、ゆっくりと辺りを見渡します。
「ここは、」
「久しぶりかしら。覚えているかしら?」
メイル伯爵夫人、ロキのお婆さまが、優雅に微笑まれています。
「どなたか存じ上げません。」
「小娘が。まぁいい。そなたの命は妾のものじゃ」
ケイト直伝の怯えた振りをして、油断を誘おうと思いましたがこの方相手なら駄目です。矜持が高く、中々油断できない方ですもの。全てを自分の意のままにおさめないと満足しない方です。口に出さなくても、私のことを嫌っていたのは知ってます。
「どうしてでしょうか?」
「レティシア・ルーンが生きておったとは」
「私はルリと申します。」
「そなたの顔は覚えておる。ルーンの屋敷にいたものがしらじらしい」
私の瞳の色でルーンの血筋は誤魔化せない。
「私は分家の者です。訳あって本家にお世話になっておりました。高貴な方とお見受けしますが、なんのご用でしょうか?」
「ほう。妾がわかるか。あやつよりマトモか。じゃがルーンには代わりない。レティシア・ルーンを恨むがいい。そなたは妾の望むように、演じれば命のみは助けてやろう」
ルリで通せそうです。ただ、嫌な予感がします。
「レティシア・ルーンの罪を知っておるか?」
「申し訳ありません。分家の私は存じません。」
「かの魔女は海の皇国を…。やつのせいで海の皇国は貶められたのじゃ。」
全く覚えがありません。ルリとしてなら、一つだけ覚えがありますが…。
「わが皇帝陛下が魔女のせいで、この国に頭を下げた。そして高貴な皇族は辱めを受けたのじゃ。牢に入れられ、罪人として裁かれた。そなたが姿を消したせいじゃ」
忌々しそうに語るのは生誕祭のことですか。
他国で王族があれだけの被害を起こせば、仕方ありません。魔力が暴走して、被害も凄かったんです。リオは死にかけましたのよ。私はロダ様を恨んでません。でも、非はフラン王国にあるとは思えません。そして、私が姿を消さなくても、謝罪は必要でした。私が姿を消したのは些細なことです。
感情は隠して、静かにメイル伯爵夫人を見ます。
「申し訳ありませんが、存じません。そして身に覚えもありません。」
「そなたにはレティシア・ルーンとして生きてもらう。全てが自分のせいと公表するのじゃ。そして、フラン王国が海の皇国の属国となるのじゃ。」
ありえません。私が公表したところで、ルーン公爵家が裁かれるだけですわ。それに、そんなこと許せません。
「申し訳ありません。私はルーンの者です。ルーン公爵家のためにならないことはできません。」
「立場がわかってないようじゃ。命は、惜しくないか」
お腹の子を守るために一つだけ方法があります。ただそれは最終手段です。ルーンの禁呪は安易に使ってはいけません。使えばきっとリオ達が泣きます。それに私はこの子がルーンに、押し潰されないように側にいたいんです。
「ルーンの者はルーン公爵家を裏切ることはありません。」
「やはりルーンは愚かじゃ。まぁすぐに妾に許しを乞うじゃろう。」
私を利用したいなら殺されることはなさそうなので一安心です。
「そやつの髪を切るのじゃ」
「え?」
レティシアのふりをするなら長い髪が必要だと思いますよ。
男性に掴まれて、剣でざっくりと髪を切られてしまいました。
「どうじゃ?屈辱じゃろう」
髪にも魔力は宿りますのでその辺に捨てられたら困ります。
「その髪、高価なので、まとめておいたほうがいいと思いますよ」
「は?」
「売れば一月は遊んで暮らせます。捨てるなら燃やしてください。扱い方を間違えると怪我をするのでお気を付けください。」
「そなた、正気かえ…。」
驚愕した顔で見られてますが必要ならカツラを用意しますので、問題ありません。
「髪は伸びます。私はルーンを裏切ることは致しません。ただ、ルーンは執念深いのです。私への仕打ちがわかれば一族郎党皆殺しです。ルーンは縁者や臣下を害した者への報復は」
「妾は公爵と親しいのじゃ」
最後まで言わせてもらえませんでした。
エディは優しいですが、甘くありません。
ロキ達が心配です。せっかくのエディのお友達なのに。
「公爵は無慈悲です。公私混同致しません。他家よりもルーンの者をとりますわ」
ルーンの将来の後継に危害を加えたと知れば命の保障はできません。
「まぁいい。その娘を痛めつけよ。顔以外を」
「ご婦人にはお勧めしませんが」
「構わん。妾は強いのじゃ」
拷問を見たいと中々変わってますわ。それは強さとは違う気がします。
目の前の四人の男性をじっと見つめ微笑みます。
「私と取引しませんか?」
「は?」
「ルーンの名はご存知でしょうか?フラン王国で一番権力をもつ家です。分家といえども、力はあります。手を貸して頂けるなら報酬をお約束します。貴重な魔石でも構いませんわ。」
目が泳いでます。迷ってますわね。
「真っ当な仕事先が欲しければ紹介しますよ。私、これでも顔は広いんです。夫人よりルーン公爵家の分家の方が力がありましてよ」
「何をやっておる!!早うせよ」
恐い顔で睨む伯爵夫人は放っておいて、悲しい顔を作ります。
「ルーンは執念深いです。私を殺して、死体を海に捨ててもきっと見つけます。そして、貴方達に報復するでしょう。どうかご自分の命を大事に想うなら考え直してください。私は貴方達の一族の血を見たくないのです。」
男性達の顔が青くなりました。
脅しじゃなくて事実ですよ。
「どうか、よく考えてください。公爵には私が頼みます。攫われたことは隠せません。許していただけるようにお願いします。自分と御家族のことを思うならどうか。」
「嬢ちゃんに力があるのか?」
「国とルーン公爵家に害がなく、犯罪にならないことでしたら力を貸します」
伯爵夫人の声は聞こえません。無視します。
「病を治せるか」
「完治のお約束はできません。ですが、ルーンの治癒師は世界一です。世界最高の治療をお約束しますわ。もちろんお代はいりません」
この男性達、マトモかもしれません。過去、襲われた方々よりも言葉が通じます。
「俺は金が欲しい」
「ご用意しますわ。そちらのご夫人よりも高い報酬を」
どれだけの報酬をお約束しているかはわかりません。魔石を売ればお金になるので、後で換金しに行きましょう。
「俺は姉ちゃんと遊びたい。」
「申し訳ありません。私の夫は嫉妬深いんです。高級娼館への紹介状をご用意いたしますわ。もちろん初見のお代は私が出します。私のような貧相な女よりも、楽しめると思いますわ」
エイベルに頼みましょう。きっと伝手があるはずです。騎士は花が好きですもの。たぶん。
「そなたたち、何をしておるのじゃ!!そやつを痛めつけるのじゃ」
伯爵夫人を見て、悩んでますね。忠義に厚い方々ではなくて良かったです。
「もう良い、妾、自ら手を下す」
目的かわってませんか?。爆風が吹いて体が壁に押し付けられました。痛いけど背中で良かった。風の刃はまずいです。体が動かない。
「私を殺せば目的は果たせませんわ」
「そなたの死体を出して、妾が証言しよう」
禍々しい気配がします。先ほどから向けられる風の刃よりもこの禍々しさは非常に危険です。
リオ、ごめんなさい。やっぱり約束守れない。
リアム、ティア、リーファ、この子をお願いね。
覚悟は決めました。
「我はルーンの」
強い爆風がきました。詠唱まだ終わってないのに。あれ?痛くありません。
魔法がかき消されている。落ちる。お腹だけは。体を丸めて受け身を、痛みがない。目を開けるとリオに抱かれてました。手の拘束も解かれてます。
「無事で良かった」
「リオ」
リオの首に手を回します。もう会えないと思ってました。
「あとは俺に任せて休んで」
「リオ、この男性達には手を出さないで。取引しました。危害を加えられてません。お願いします」
「それはエドワードと相談する。体、辛いだろう」
抱き寄せられる腕とリオの顔を見て安心したら眠気に襲われました。
お腹を撫でます。どんなことがあっても守るから安心してください。
まだ一緒にいられるみたいです。
私はリオに甘えて目を閉じました。あとはリオにお願いすれば大丈夫です。




