元公爵令嬢の記録 第十八話
レティシアです。
最近はルーンの子供を産むために、魔力を送り続けています。
私は魔力を持たない設定なのでお父様やエディが送ってくれる魔石を使ってですが・・。
さて、目の前にはなぜか落ち込んでいるリオがいます。クロード様が帰ってしまったからでしょうか。
クロード様はよく訪ねてきますが、リオとはタイミングが合いません。
「リオ、どうしました?」
「シア、辛いなら話さなくていい。昔のシアにとって殿下、もう陛下か。陛下はどんな存在だった?」
クロード様は昔の記憶のことをリオにも話したんでしょうか。
リオとクロード様ではなく、私とクロード様の関係ですか・・?
「生前の私はルーン公爵家と王家が全てでした。他のことに心を傾ける余裕はありませんでした。社交デビューする頃に婚約が決まっていました。私は第一王子の婚約者なので幼い頃より全ては王家のためにクロード様のために生きよと教育されました。ルーン公爵家と王宮で毎日勉強ばかりでした。私は常にクロード様のお心に寄り添い、支える存在であることを求められました。甘えも弱音も許されない殺伐とした世界でしたわ。時々、マール公爵邸を訪ねた時だけが私がレティシアであることが許された時でした。」
「昔、泣いてたのは」
恥ずかしいですね。よくリオに泣きついてましたわ・・。
「誤解もありました。当時は私の全てを捧げたクロード様、同志のエイベルに捨てられ、悲しくて自暴自棄になっていました。だから私にとって唯一甘えられるリオ兄様を見た時、色んな感情がこみあげて泣いてしまいました」
「唯一?」
「はい。できない、わからないが許されない世界でそれを許してくれるのはリオ兄様だけでした。殿下の前では常に必死に取り繕ってました。リオだけが私の絶対の庇護者でした。エイベルはおバカなので頼りになりませんでした」
「その世界のシアは幸せだったか?」
「わかりません。でも今の方が楽しくて充実して、幸せです。」
「俺はシアが殿下にとられるんじゃないかって」
とんでもない言葉に笑ってしまいます。
今日のリオはおかしいですわ。
「ありえません。国を離れた時、クロード様のことは一度も思い出しませんでした。私はリオのことばっかり頭に浮かんでましたわ。忘れようとしたのに忘れられなくて、困ってましたのよ。」
「え?」
不安そうな顔が驚いた顔になりました。不謹慎ですが笑いが止まりません。
「ルーン公爵令嬢としては許されません。でもレティシアはリオがいないと生きれません。きっと笑顔を作れても、自然に笑うことはできません。2度目はずっとリオが傍にいてくれたから、立ち直って前を向けました。リオの抱きしめてくれる腕が一番安心できました。私は生涯リオ以外を選ぶことはありません。もし選ばなければいけないことがあっても、私の心だけはリオのものです。国を発つときにレティシアはリオにあげたんです。」
「初めて聞いた」
ルーン公爵令嬢ではなくレティシアとして生きることをリオが教えてくれました。リオが私にとってどれだけ大きい存在かきっと本人にはわからないと思います。
「私はリオへの気持ちを他の誰かに抱いたことはありません。恋をしたのはリオだけです。そしてこれからもリオ以外に恋することはありません」
「すごい自信だな」
私にとってリオ以上に心が求める人はいません。それに一番素敵なのはリオですもの。
「だって何度も諦めようとしたけど無理だったんです。シオンをリオに間違えそうになるし、リオに再会したときは走馬燈だと思いました。失恋には新しい恋と言われても誰にも心が動きませんでした。」
リオに抱き寄せられました。
「俺はシアの隣に誰がいても、取り返すつもりだったけどな。」
「私にはリオだけだから安心してください。でも寂しいです」
「なにが?」
「リオはいつもクロード様と私がいると嫉妬しますもの。私ではなくクロード様といたいって、寂しいですわ」
リオが笑い出しました。
「逆だから。俺はシアが自分以外といるのが気に入らないだけ」
「元気が出て良かったです。」
「二人の入れない空気に妬いてただけ」
「私はクロード様からリオを奪いました。ですから、お付き合いしているだけです。特別な感情などありません。強いて言うなら懐かしい記憶を持つ同志ですわ」
「シアにとって陛下は特別だと思っていたよ」
「昔の私はクロード様のものでした。それ以外の道を知りません。でも今の私は違います。自分の意思でリオを選んだんです。レティシアはクロード様のことは全く興味がありません。クロード様を想うのはルーン公爵令嬢です」
「陛下が聞けば崩れ落ちそうだな」
「そんなやわな方ではありません。腹黒で何を考えているかわからないのは昔からかわりません。」
「でも、やっぱり二人の世界は面白くない」
拗ねてます。今日のリオは可愛いです。
「クロード様はお忙しい方なのでリオとはタイミングが合いません。私はこの人生でたくさんの大事なものを得ました。でもクロード様は貴方という頼りになる側近を失いました。昔のルーン公爵令嬢ならクロード様にリオを返しました。でも私はお返しできません。だから私は貴方の代わりに思い出話に付き合うだけです。」
「敵わないな」
「リオ?」
「いや、きっと昔の俺もシアを大事に想っていただろうな」
「そうですね。リオは敵には容赦ないですが身内には甘い所はかわりません。いつも令嬢に囲まれてましたが」
「想像つかないな」
「頼りになる所は代わりません。でも私が愛しているのは貴方だけです」
「辛くないなら昔の話を聞かせてくれるか?」
「長くなりますよ」
「時間はいくらでもある」
リオから昔の話を聞きたいと言われたのは初めてです。
全部を伝えるなら、リオの気にしている秘密で旅に出たルメラ領のことも伝えましょう。
話を終えるとリオは清々しい顔をしていました。
「洗脳だな」
「リオ?」
「安心した。」
「よくわかりませんが、楽しい話ではないでしょう。当時はクロード様のもとにはリオがいました。」
「小説になりそうな話だけどな。まさか陛下にも記憶があるとはな。でもどんな世界でもシアの信頼を一番勝ち取っていたのは嬉しいな」
「暗いお顔でなくなって良かったです。」
満足そうな笑みに安心します。
私にとってリオとの時間は特別です。
お腹に手をあてます。貴方はルーンの子として生きねばなりません。でも何があっても守るので安心して産まれてきてください。ルーン公爵家は冷たい一族に見えても本当は暖かいから安心してね。
そこは私が教えてあげますわ。




