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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第一章
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第一話 後編 追憶令嬢の過去 追憶令嬢15歳

殿下の側使えに案内され、見覚えのない離れに案内されました。

身の危険を感じ、踵を返そうとすると、離れの扉から第二王子、レオ・フラン殿下が現れました。

礼を取ります。まずいですわ・・・。


「楽にしてくれ。君を待っていた。お手をどうぞ」

「恐れながら、殿下、気分が優れませんので、後日改めてお伺いさせていただけませんか」

「中で休むといい。話がある。それともルーン公爵家は王家に逆らうのか」

「私はクロード殿下の婚約者です。レオ殿下と二人で過ごすのは許されませんわ」

「中には君以外もいるから大丈夫。人払いの結界で覆っているから安心してくれ」


全然安心できませんわ。

レオ殿下と笑顔で押し問答してますが、冷や汗が止まりません。

レオ殿下に逆らえず、離れに強引にエスコートされ椅子に腰を下ろしました。室内にいる人物に驚きながらも平静を装います。壁にもたれて立っているエイベル・ビアード公爵令息と薬学教授。


ビアード公爵家はクロード殿下の派閥であり学園講師は中立。

シエルと私で逃げられるか怪しいですが、最終手段は仕方ありませんわ。

クロード殿下の呼び出しと勘違いした私を罵りたいですわ。リオに笑われます。


「殿下、ご用件とはなんでしょうか。クロード殿下はいらっしゃいますの?」

「レティシア嬢、兄上が君に会いたくないというから俺がここにいる」


先程お会いしましたけど。

ルメラ様目当てだから数に入らないってことですか?


「最近の君の行いは将来王家に連なるものとして相応しくない。貴族としてもあるまじき行為だ」

「身に覚えがありませんわ」

「リアナに嫌がらせをしているだろう。兄上の心が離れたからと、見苦しい。

リアナは自分が悪いと泣いている。貴族が弱いものを貶めることは許されない。ルーン公爵家令嬢に逆らえるものは少ない。理不尽に家の権力を振りかざす者を許すわけにはいかない。権力がある家なら尚更」

「私は嫌がらせも弱い者いじめも身に覚えはありませんわ。ルメラ様には貴族としての嗜みをお伝えしています。このままでは、ルメラ様は貴族の世界では生きてはいけませんわ」

「リアナは魅力的だからね。君と違ってたくさんの人々を魅了するだろう。君はリアナが怖いんだろう?自分にはない魅力を持つ彼女が。ルーン公爵家の令嬢ではない君に誰も従わない。自分の立場を脅かすリアナが怖いから彼女を貶め、殺そうとする」


突っ込みたいところはたくさんありますが、王家の人間が家の力を軽視しすぎですわ。

権力のある家に生まれる者ほど、背負う物は多い。

民の血税で生きる私達は、民に恥じない行いと民を守り豊かにする義務がありますわ。

レオ殿下の話に頭が痛くなりそうですわ。

レオ殿下もルメラ様にイチコロされましたのね。


「恐れながら殿下、私はルメラ様を貶めたことも、害そうとしたこともありませんわ。初耳ですわ」

「とぼけるのか。三日前にリアナが階段から落とされた。足を滑らせたと言うが、君を見て怯えている。リアナが君を庇っているのは明らかだ」


先程お会いしたルメラ様はお元気でしたし、怯える様子もありませんでしたわ。ルメラ様が足を滑らせたというなら事実でしょう。廊下で走る落ち着かない方ですもの。よく転んでますし、勢い余って階段から落ちでも驚きませんわ。階段から落ちても治癒魔法があるので、すぐに治りますけど。


「身に覚えがありませんわ。どなたか見た方はいらっしゃいますの?」

「君がそんな甘いわけがないだろう。人気がないことを確認して実行した」

「私は常にシエルと一緒ですわ。時刻はいつでしょうか?」

「リアナに辛い記憶を思い出させたくないからね」


調べてませんのね。たぶんルメラ様にはクロード殿下が影をつけているので聞けばわかりますよ。影のことは口に出すのは許されませんので言えませんが。

たぶんですがアリア様は私の監視のために影をつけていると思いますよ。王太子の婚約者として相応しいか常に見張るために。これも言えませんね。私の護衛のシエルに話を聞くのは拒まれますのね。落ちた時間もわからず、被害者が何も話さないなら裁きようがありませんわ。


「レオ殿下、不確定要素が多すぎですわ」

「たとえ、君が手を汚さずとも君の取り巻きに行わせた可能性がある。皆がルーン公爵家が怖くて逆らえない。真実も言えない。もし犯人が君ではないとしても、兄上の愛する者を守れなかった。そして、学園の秩序が乱れるのを許した君に兄上の婚約者でいることは許されない」


先ほどまで犯人は私と断定しておりましたよね?

ルメラ様は生きてますし、ルメラ様を守るのはお慕いしている殿下や取り巻きの皆様のお役目では?

平民でもなくうちの派閥でもないルメラ様を私がわざわざ守る理由はありませんわ。

学園の秩序の乱れを罪状にするなら、王家である殿下自身も問われますわ。

論点がおかしいですわ。


「君は兄上と婚約破棄し貴族位の剥奪。優しい兄上は君に伝えられない。兄上の憂いを取り除くのも、手を汚すのも俺の役目だ」


公爵令嬢が男爵令嬢に嫌がらせをしても罪には問われませんわ。

そしてクロード殿下は優しくはありませんわ。

しっかり下調べをして、退路を防ぎ、笑顔で罪状を突きつけるなど朝飯前ですわ。

私が罪を犯したなら、陛下に報告した上でクロード殿下自ら裁きます。

陛下の命ならルーン公爵家に訴状がいきますわ。

こんな証拠不十分では、罪に問えません。

もし事実でも停学、自宅謹慎くらいですわ。

公爵家令嬢を裁くには表と裏としっかりした下準備が必要ですわ。

下位貴族が上位貴族を裁くなら尚更。

そしてクロード殿下はレオ殿下を一切頼りにされていません。むしろ逆ですわよ。

王族としての知識の無さに頭が痛くなってきましたわ。幼子でも知っていることですが、私が指摘することではありませんね。


「身に覚えがありませんわ。それでも私を裁くというなら、ルーン公爵家に取り次いでくださいませ。陛下に身の潔白をお話しますわ。陛下の命であれば従います」

「俺の命令には従えないのか」

「クロード殿下との婚約破棄も貴族位の剥奪も陛下の領分ですわ。そして裁判が必要な案件であり、レオ殿下に権限はございません。私にもレオ殿下の命を受ける権限はございません。私の処遇は陛下とお父様が決めることですわ」

「兄上の婚約者ごときが俺を愚弄するとは、良い度胸だ。不敬罪だと思わないか」

「事実を述べたまでですわ。私は身に覚えがありませんわ。もしクロード殿下がルメラ様を側室に望むのなら快くお迎えする心構えもありますわ」

「もう正妃気取りか。リアナを側室なんて不憫な地位に快くお迎えとは。君は兄上とリアナのために辞退する気はないのか」

「王家とお父様がお望みなら従いますわ。男爵令嬢が正妃につくことはできません。たとえルメラ様に人望があっても、男爵家では側室が限界ですわ」


正妃は侯爵家以上、側妃は男爵家以上、以下は妾。

男爵家の規模によっては妾の場合もあります。

ルメラ男爵家ですと妾の可能性が高いですけど。

基本は継承権は正妃の子のみなので、正妃以外を娶ることは珍しい。

王には魔力が必須であり、魔力は遺伝のため、王が魔力なしの無属性にならないように魔力の高い侯爵家以上を正妃に迎えています。


「側妃が不憫と知っていながら、リアナに側妃を望むのか!?王太子や正妃の顔色を窺い、王家なのに継承権を与えられない不遇に優しいリアナを」


不憫?サラ様もレオ殿下も好きにしてますよね?一度も顔色を窺ったなんて話は聞きませんわ。頻繁に王宮にも後宮にも通っていた私はレオ殿下にお会いしたこともありませんし、公務もほとんど携わっていないのを知っています。おかげでクロード殿下が執務に追われてますのよ。私が手伝っても全然減りませんわ。何度、レオ殿下とサラ様への公務を私が引き受けたか・・・。

レオ殿下が問題を起こして尻拭いに走るクロード殿下の方が不憫ですわよ。


「決まりですもの。陛下をお支えする側室の方々を不憫とも思えませんわ」

「お前は自分が側妃を命じられても、今の言葉を違えないか?」

「貴族たるもの陛下と家と民のためになるなら、謹んで拝命しますわ」

「俺の妾でもか」

「陛下とお父様の命であるなら従いますわ」

「そればかりだな。まぁ、いいだろう。お前は兄上のことを忘れられるのか?」

「クロード殿下を忘れるなどありえませんわ。クロード殿下が即位なされば、私の忠誠はクロード殿下のものですもの」

「口だけならいくらでも言える。リアナの件は認めないんだな。今なら俺が庇ってやるから、思い直すなら今のうちだ」


嫌らしい笑顔ですわね。レオ殿下よりもルーン公爵家の方が力がありますよ。公務をしない遊んでばかりの第二王子よりも。ずっと王太子の婚約者として公務をしてきた私さえもレオ殿下よりも動かせる権力は大きいですわ。能力に応じて王子に与えられる権限も決まっておりますのよ。義務を果たしてこなかったレオ殿下に仕える権力など、私にとってはないに等しいですわ。さすがに事実を言えば不敬罪と騒がれそうなので口には出せませんが。こんなに話が通じない方だったなんて知りませんでしたわ。本当に聡明なクロード殿下の弟ですか?


「身に覚えがありません」

「強情だな。これからゆっくり後悔すればいい」

「後悔しませんわ。どうぞ、ルーン公爵家にお取次ぎくださいませ。私はルーン公爵家でお待ちしておりますわ」


屈服しない私を見て、レオ殿下の表情が歪みました。

そんな表情を見せたら、殿下に憧れる令嬢も逃げますわ。レオ殿下は顔だけは凛々しくイケメンなのに残念ですわ。

兄上のため、ルメラ様のため、笑えますわね。

ルーン公爵家の後ろ盾がなくてもクロード殿下が王位につくことは変わりません。

私を裁いても、レオ殿下に利はありませんのに。


「失礼いたしますわ」


礼をとり、立ち去ろうとシエルが扉に手を掛けると開かない。


「殿下、まだ用がありますの?」

「ルーン公爵家に帰したら権力でもみ消すだろう。またリアナを害するかもしれない」

「そのようなこと致しませんわ。ご心配なら寮から出ませんわ」

「信用できない」

「精霊の誓約を使っていただいても結構ですわ」


精霊の誓約を破ると精霊の加護がなくなり、魔法が使えなくなります。


「精霊の誓約にも抜け道はある。それに君は魔法が使えなくても問題ないだろう」


問題大ありですわ。

精霊の誓約は絶対に破ることは許されません。私達が名前にかけて誓うものより重たく、精霊の誓約を破れば貴族として信用がなくなります。家から籍を抜かれることもあるでしょう。

ルーン公爵家の歴史に残るだろう恥ですわ。

言葉で通じないなら仕方ありません。扉を壊すしかありません。


「我が乞う。水の精霊ウンディーネ、我が願いを叶えよ。水流撃破」


魔法が起こりませんわ。


「我が乞う。風の精霊シルフ。彼の者に風の刃を与えよ」

「お嬢様!!」


シエルが私を抱きしめ、四方から風の刃を受ける。


「シエル!!我が乞う。水の精霊ウンディーネ、答えなさい!!」


魔力が発動しない。今まで一度も魔力が発動しないことも水の精霊に言葉が届かないこともなかった。おかしい、まさか!?


「我が乞う。地の精霊ノーム。彼の者を捕えよ」


木の枝が私とシエルに巻き付き、身動きが封じられ力が入らない。


「レティシア、水の精霊に見捨てられて可哀想に」


レオ殿下が笑顔で近づいて来ました。


「暴れるなよ。暴れるほど魔力が吸われていくからな。俺は優しいから女を痛めつける趣味はない」

「水魔法を封じましたわね。女を痛めつける趣味はないならどうしてシエルを傷つけましたの!!」

「エイベルが勝手にしたことだ。俺は命じていない」


先ほどは気にしないフリをしてましたよ。交友関係に口を挟むつもりもありません。ですが、もう我慢できませんわ。


「エイベル!!どうしてですの。ビアード公爵家の者が戦意なき者に攻撃するとは、ビアード家の誇りはありませんの!?どうして、レオ殿下と一緒にいますの」

「レティシア、お前はやりすぎた。リアナのために仕方ないんだ。女とはいえシエルは強い。お前に害を与える者を許さないだろう。戦場に出れば騎士道なんて守ってられない」

「ここは戦場ではありません。一度も戦場に出た事がありませんのにどの口がいいますの!?真向勝負!!正々堂々の精神はどうしましたの!?貴方、剣術と男気が取り柄ではございませんか!!ビアード公爵が嘆きますわ。魔法さえ使えれば、その性根たたき直してやりますわ!!うっ!?」


枝が体に食い込んで、苦しい・・。力が入りませんが負けませんわ。


「レティシア、エイベルと仲が良いんだね。淑女の皮が剥がれているよ。兄上も可哀想に」

「女を痛めつける趣味はないのではありませんか」

「暴れなければだ。人形みたいな君がこんなに感情豊かとは、兄上も知らないだろうね。」


お腹を抱えて笑う殿下が忌々しいですわ。

エイベルと喧嘩している場合ではありませんね。エイベル、絶対に許さないから覚えておきなさい。淑女の仮面を被り直し、力が入りませんが、根性ですわ。


「私達をどうするつもりですか?」

「また人形に戻ったのか。俺は先ほどの君のが好みだけど」


嫌な趣味ですわね。貴方に好かれるなんてごめんですわ。


「私達をどうしますの?」

「つまらないな。シエルに用はないが、野放しにはできない。先生、実験台欲しがっていましたよね。

彼女、魔力はないですが平民にしては頑丈ですよ。どうぞ、好きに使ってください。我が乞う。地の精霊ノーム。彼の者に眠りの安らぎを」

「シエル!!」

「お嬢様、お気を確かにお持ちください。きっと」


シエルが崩れ落ちていくのに、手を伸ばせない。


「先生の実験室に転移させます」

「先生、人体実験なんて許されませんわ」

「レティシア、平民なんて動物と変わらないよ。貴族の未来に貢献できるなんて、身に余る誉れだと思わないか」

「平民も貴族も命の尊さは関係ありません。それに貴族は平民を守る義務がありますわ」

「公爵家のものが命の平等を語るなど笑えるな。それともそこまで、シエルが大切か」


もちろんシエルは大切ですが、認めればシエルが危険です。

先生もここにいるなら、まだシエルは安全。先生を足止めして、時間を稼ぐしかありませんわ。

彼らも今は私を殺す気はなさそうですし。


公爵家の令嬢たるものいつも優雅に。

決して隙をみせない。

辛いときこそ、優雅に笑う。

敵が根負けするか、隙ができるのを待ちなさい。

お母様の教えですわ。


眩暈がしますが、優雅な笑みを浮かべる。弱った姿を見せるなど王太子の婚約者としてもルーン公爵令嬢としても許されません。


「当然ですわ。公爵家を支える家人であり領民ですもの」

「レティシア、女は素直で従順なのが一番だ。お高くとまっても、誰も見向きもしない」

「結構ですわ。私は誰に見向きされなくても、ルーン公爵家の者として誇り高く生きますわ。殿下は、どうぞ、自分好みの令嬢を選んでください」

「いつまでその強情が持つか見ものだな。我が乞う。地の精霊ノーム。彼の者に眠りの安らぎを」


魔法をかけられ、どんどん視界が歪んでいきます。屈辱ですわ。



体の痛みに目を開けると背中には固いベッド。

汚いトイレとテーブルに椅子。目の前には鉄格子。

ここはどこですの?窓もありません。淀んだ空気は地下でしょうか?

手には魔力封じの腕輪。思いっきり鉄格子を蹴りましたが壊れません。蹴り損ですわ。

無事に脱出できたら体を鍛えましょう。リオが気付いてくれるといいんですが。扉の開く音に視線を向けるとお盆を持ったレオ殿下。


「気分はどうだ」

「ごきげんよう。レオ殿下」

「元気そうだな。不自由がないか心配だったが安心したよ」

「ここから出していただければ、そんな心配無用になりますわ」

「食事を持ってきたんだが」

「ありがとう存じます。お気持ちだけで結構ですわ」

「食べさせてやろうか」


ニヤニヤしている殿下を見ながら、お母様の教えを心の中で復唱する。

優雅に!隙を見逃さずですわ。


「結構ですわ。殿下、望みはなんですの?」

「リアナと兄上のためだ」

「嘘ですね。私はレオ殿下がルメラ様にイチコロされたようには見えませんもの」

「お前、実は賢いのか。何にも興味がないくせに」


このまま殿下を懐柔できませんかね。

いつも穏やかな伯母様作戦にしますわ。穏やかな顔を作り、笑みを浮かべる。


「殿下の目的を教えてください。私を監禁しても殿下の利が見つかりません。外泊届を偽造しても数日が限界です。いずれ見つかります」

「まぁ、そうだろうな」


意外に穏やかですわね。動揺して声を荒げると思っていましたわ。


「私の命は殿下の手の上。せめて目的を教えてください」

「俺は兄上が嫌いだ。いつもわざとらしい笑みを浮かべて、お高くとまって。母上に嫌がらせされても、憐れみの視線を向けるだけ。いつも俺の先を行き、俺の欲しいものを全部持っていく。俺を簡単に御せると思っているのも気に入らない。俺が反旗を翻したら、なんの躊躇いもなく俺を殺すだろう。あいつの顔が苦痛にゆがみ、苦しめられるなら殺されるのも一興だが、俺のことなど微塵も記憶に残さないだろう」


拗らせたブラコンですわ。

クロード殿下がレオ殿下に興味がないのは、事実ですが。

反乱を起こせば、処理の多さにクロード殿下は顔を歪めますわよ。

すぐに笑顔をつくり毒を吐きそうですわね。寒気が・・。

憐れみの視線など向けないと思いますよ。確かに常にうさんくさい笑みを浮かべてますし、お高くとまっている?私はそんな殿下を知りませんが王族らしくていいと思いますが。


「でもお前は違うんだ。兄上はお前を好いている。お前が行方不明になれば必死で探すし何かあれば心配する。俺がお前を傷つければ、兄上の顔が憎悪に染まる。それが見たいんだ」


変態ですわ。惚けた表情に鳥肌がたちますわ。

捨て身にしても、信じられません。

兄弟喧嘩に巻き込まれて死ぬなんて嫌ですわ。

クロード殿下の関心を引きたくて私を監禁したならルメラ様も関係ない。

私を魔法で気絶させて運べばすみますのに。

婚約破棄や暗殺未遂のくだりは必要ありませんわ。

兄と仲良く過ごしたいと相談していただけば協力致しましたのに。お手紙をくだされば面会も応じましたわよ。リオに同席を頼んで。


「レオ殿下、恐れながら、貴方は勘違いをされていますわ。まず私を誘拐や傷物にしても殿下は怒りませんわ。今のお気に入りはルメラ様ですもの。怒るとすればルーン公爵家への対応で仕事が増えたことくらいですわ」

「本気か?」

「ルメラ様は正妃にできませんから、新たな婚約者を探すのに面倒に思う程度で私への情など皆無ですわ」


レオ殿下がぽかんとされています。良い調子ですわ。


「見慣れればあのうさんくさい笑顔も解読することができますわ。私はレオ殿下とクロード殿下の仲を応援いたしますわ。クロード殿下との付き合いが長いですから私におまかせくださいな」

「俺は兄上と仲良くなりたいわけではない!!」

「兄弟仲良くしたいと願うのは当然ですわ。特別に殿下の弱点をお教えましょう」

「兄上に弱点なんて、お前以外にあるのか!?」

「クロード殿下は仕事を増やされることが何より嫌いです。あと予定を乱されることも。レオ殿下の尻拭いも笑顔で処理していましたが、あれは怒った笑顔でしたわ。忌々しい空気を隠しもせず処理されてましたもの。レオ殿下が騒ぎをおこした日の、晩餐はレオ殿下の苦手な食べ物のオンパレードではなくて?殿下のささやかな復讐ですわ」


パンパカパーンとラッパの音を鳴らしたい気分ですわ。


「レオ殿下、私を監禁しなくてもクロード殿下のお顔をゆがませることできてますわよ。

これからも愉快に殿下のお顔をゆがませませんか!?ルーン公爵家令嬢はクロード殿下の味方ですが、単なるレティシアはレオ殿下のお手伝いをしますわよ」

「お前、性格変わってないか。いつもの冷静沈着、人形みたいなルーン公爵家令嬢はどうした。こんなお前を兄上はご存知なのか」

「クロード殿下の前ではルーン公爵家令嬢ですもの。殿下の前では騒ぎませんわ」

「笑える!!あんなに必死にお前の機嫌をとってる兄上が滑稽すぎるわ」

「クロード殿下は婚約者の義務を果たしていただけですわ。それより私と手を組みましょう」


テンションがわからなくなってきましたわ。

レオ殿下が楽しそうなので作戦としては成功してますが、淑女としてはありえません。全然優雅じゃありません。


「私は作戦たてるの得意でしてよ。クロード殿下の情報も持ってますし、お役にたてますわ」

「兄上が今のお前を見せたら悔しがるだろう。面白い話を聞かせてもらったよ。久々に愉快な気持ちにさせてもらった。飯置いとくから食えよ。また来る」


レオ殿下は颯爽と去っていかれました。

嘘でしょう。作戦失敗ですの!?

一緒に学園にもどり、殿下を困らせよう作戦は気に入りませんでしたの!!

歪んだ兄弟愛のために死ぬなんて嫌ですわ。相手は変態ですわよ。耐えられませんわ。


「ありえませんわ!!誰か私の話を聞いてくださいまし」


叫ぶも勿論誰にも声は届かず、気力と体力の限界がきて、そのまま目を閉じました。

それがレティシア・ルーン15歳の最後の記憶ですわ。



今思えば、自身がパニックをおこしたこと、シエルの事を忘れていたことは貴族令嬢として失格でしたわ。

お父様、お母様、弟よ、貴族として誇りある死を迎えられなかったダメなレティシアをお許しください。


シエルのお茶を飲みながら、追憶にふけっております。

シエル、駄目な主でごめんね。

きっと今度は立派な主になるからね。なぜか痛ましい目でシエルに見られいるのはどうしてかしら。


「お嬢様、お茶はもう止めましょう。飲みすぎですわ」


確かにお腹がタプタプですわ。こんなにタプタプは初めてですわ。

これはシエルの視線は仕方ないですわ。でもそう思うなら、もっと早く止めてくれても良かったと思いますわ。

今世は平穏に過ごしたいですわね。

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