リアムの日記9
休養日なので家に帰るとサイラス達が遊びに来ていた。
ティアはエステルを見た瞬間に抱きついた。エステルも体を鍛えているのでティアが飛びついても倒れない。
「ステラ様、それはなんですか?」
ステラ様が本を持っていた。
「リアム、それは見たらいけません」
母様の様子を見て、また母様関連のものだと思った。
「シア、リアムはその画集にのっている、クラムやセリアを見たいんじゃないか?」
「え?」
「ごめんなさい。リアム、それなら見ていいですよ」
俺はステラ様の隣に座って画集を見せてもらった。
画集のほとんどは母様の絵だった。小さくセリアやクラムなど母様の友人たちが描かれている。
「リアム様、この画集は卒業記念の限定画集です。卒業生の人気投票が行われ上位入賞者だけ描かれるのです。増刷されないのでとても貴重なものなのです。レティシア様の代は特に人気がありましたのよ」
「リアム、ずるい!!ティアも」
僕の後ろからティアが覗いて声をあげた。
ティアがステラ様の反対側に座った。エステルは母様に抱かれたリーファのもとに行った。
「ルーン嬢、まだ魔法陣の勉強してる?」
「ええ。最近はまた学び直してます。リアム達も魔法陣に興味があるみたいで。リオ、その顔はやめてください。最近は教えてません。リアムとティアのためだけですよ」
父様が母様を言いたいことがありそうに眺めていた。僕はエラム様が母様に魔法を教わっていたことが父様に見つかったことを知っている。エラム様に父様の機嫌をよくする方法を聞かれたけど教えなかった、
「今度、俺にも教えてくれないか」
「ステラに教えてありますよ」
「ステラに負けたくないから」
「それなら俺が直々に教えてやるよ」
「いい。俺は実戦ではなく座学が知りたい」
「グランド様、私よりもリオの方が魔法陣の改良は得意です。」
「リアム達はここで母様とリーファを守って待っていてくれ。外には決して出てはいけないからな」
「リオ、行ってらっしゃい。エステル、お父様をリオに貸してくださいね」
「はい。お父様達の邪魔はせずにここで待ってます」
「ありがとうございます。ステラに似て良い子ね。立派なご両親を持って、ますます将来楽しみね」
「いいな」
ティアが画集を見ながら呟いた。
「ティアも欲しいな」
「ティア、これはさしあげられないけどエドワード様も持ってますよ」
「本当?」
「ええ。エドワード様にお願いしたらきっと見せてくれますよ」
「母様、ティアやっぱり学園は寂しいの。どこでも眺められる母様と父様の画集が欲しいの」
母様が困惑した顔をしている。きっとティアは教室で眺めたいんだろう。
「それに、母様達のことを見ればもっと頑張れる。だからお願い!!」
母様が目を輝かせているティアの様子を見てよわよわしく笑った。ティアの勝ちだ。
「ステラ、お金はいくらでも払います。」
「お任せください。レティシア様達のことは知られず、ティアが持っていても問題ないものを用意致します。お金はいりません。ティアはレティシア様とマール様の画集がいいの?」
「皆がうつってるのもほしい。ステラ様やエステルも」
ティアがステラ様にお願いしている。
母様が立ち上がってすぐに戻って来た。
「ステラ、後日でいいのでエステルと一緒にグランド様に頼んで映像を吹き込んでくれますか?」
母様は映像魔石を取りに行ったのか。ステラ様に渡している。
「わかりました。お代はいらないのでレティシア様がバイオリンを弾く姿を映像におさめてもいいですか?」
「聞かせられる腕ではありませんが」
「私にとってレティシア様とのバイオリンは大事な思い出の象徴です」
「一緒に練習しましたね」
「エイミー様の指導が怖かったです」
「母様、なんの話?」
「エイミー様の茶会でステラと一緒に演奏したんです。エイミー様のスパルタコースを受けてたんです。エイミー様は優しく穏やかですが音楽が関わると人が変わるんです。」
「母様、バイオリンと魔石持って来たよ!!ティアが撮ってあげる」
ティア、いつの間に…。
母様が小さく笑って調律を始めた。ステラ様の希望を聞いて演奏をはじめた。母様の演奏は優しい音がする。いつの間にかディーネが僕の膝の上にのってきた。父様も帰ってきた。母様の演奏がはじまるとうちには人が集まる。シエルも懐かしそうに笑っている。
父様の大事な穏やかな時間はこんな時間なんだと思う。優しい顔で演奏している母様を見てステラ様が目を潤ませている。
マール領で暮らしていたときよりもルーンの家に引っ越してからお客様が増えた。母様は昔の話をしてくれるようになった。それに母様の顔が昔よりも、もっと優しくなった。エディやステラ様、クラム達と話す母様は楽しそうだ。表情がコロコロとかわる。友達は大事という言葉は僕には難しい。僕の話を聞いたエディは笑っていた。母様に内緒という約束でエディの友達はロキだけと教えてくれた。エディはたくさんの友達がいるように見えるから驚いた。サイラスはお前の父親は友達がいないから気にしなくていいと言っていた。僕はこの穏やかな時間が大好きだから、学園でたくさん学んで力をつけようと思った。
父様が戻ってきたのにサイラスが戻ってこないけど、緊急の呼び出しでも受けたんだろうか?
「リアム、ティアのご褒美はステラが用意しますが、リアムは何が欲しいですか?」
演奏が終わった母様が僕に聞いた。
「ご褒美?」
「お勉強を頑張ったご褒美です。」
僕は特に欲しいものがなかった。父様の言葉を思い出した。
「母様、セリアと外出予定があれば僕も連れてって?」
「リアム?」
「僕は父様の代わりに母様達の護衛をしたい。まだまだ強くなるように頑張るから頼りにしてほしい」
「すでに頼りにしてます。私、リアムが一番立派だと思います。将来はきっとエディやリオよりも立派になります。母様はこんな立派な子供を持てて、なにに感謝したらいいのかわかりません」
うっとりと僕を見る母様を父様が抱き寄せた。
「シア、息子とはいえその顔をむけるのやめて。」
「息子の成長に胸が高鳴るのは仕方ありません。今日のご飯はリアムの好きなものを作ります」
母様は楽しそうな笑顔を浮かべて離れていった。
父様は僕を見て頭を乱暴に撫でた。セリアと母様を二人っきりにしないから任せてと視線を送ると頷いてくれた。




