リアムの日記8
父様とセリアはよく喧嘩している。母様は仲が良いと言ってるけど僕にはそうは見えない。
ティアは母様と庭で魔法の練習をしている。母様に魔法を教わっていたエラム様に拗ねているティアを見た母様はリーファをシエルに任せて今日はティアに付き合うと笑うとティアの機嫌はすぐに直った。だから僕は父様と二人っきり。
父様は僕と二人っきりだと色んな話をしてくれるから母様を独占されても拗ねたりしないよ。父様はティアに聞かせたくない話がたくさんあるみたいだから気になっていたことを聞いてみよう。
「父様はセリアが嫌いなの?」
「さぁな」
「なんで?」
父様が苦笑しながら、母様が作ったクッキーを僕の口の中に入れた。
「リアムは賢いな。シアの一番の友達だし、国の至宝たるシオン伯爵家のセリアは無下にはできない。セリアはシアを時々利用するんだよ。俺は昔からシアを利用する人間は嫌いなんだよ」
「貴族は家のために利用されるんでしょ?」
「貴族にも色々いるんだよ。それも一つの考え方だけどな。学生時代のマール公爵家三男だった俺はシアが一番で二番はルーンとマール公爵家。それ以外はどうでもいい人間だったから。シアは一番は王家、二番はルーン公爵家だったけどな。俺はマール公爵家の人間らしく権力を使って自分のために手を回していたんだよ。貴族としての俺とシアは正反対なんだよ」
学園をサボった時に母様は父様にも怒ってた。口の中に広がる甘いクッキーを焼く、いつも優しい母様が別人みたいに冷たい顔をした。
「自分のため?」
「俺はシアと一緒にいれれば他はなにもいらなかったから。ある意味シアが一番嫌うタイプの貴族だよ。後悔してないし、嫌われても同じことするけどな。シアは殺されかけたり、狙われたり虐められたり、色々あったからな。悪い、セリアの話だよな」
遠い目をした父様の言葉に息を飲む。そういえば、母様と父様が一緒にいるのは父様の努力と執念の成果ってサイラスが言ってた。
「セリアは俺がシアのためだけに動く人間って昔から気づいてた」
父様が昔話をはじめた。
「俺が初めて魔道具を作ったのは12歳の時。シアは命を狙われることがよくあったから安全のために作り始めた。魔石も純度の高い物が作れた。その頃、セリアは俺の魔石と魔道具に興味を持っていたんだ。
ルーン公爵邸を訪ねるとシアの部屋でセリアがお茶を飲んでいた。部屋に入ると俺に気付いたシアが嬉しそうに駆け寄り抱きついてきた。
「リオ兄様、」
「シア?」
「会えて嬉しい」
ふんわり笑うシアは可愛かったよ。
「レティ、お願いは?」
「リオ兄様、シアお願いがあるの」
シアは可愛いけど様子がおかしかった。俺に抱きついて離れないシアを抱き上げて、椅子に座ると俺の膝の上でご機嫌だった。普段のシアはセリアの前で俺に抱き上げられたりはしないし、膝の上に乗ったりもしない。二人っきりの時しか抱きついたりしない。教育の厳しいルーン公爵家では特に時と場合をわきまえているから。
「セリア、お願い聞いてほしいって」
「セリア、シアに何を飲ませた?」
「理性を欠落させる薬。この可愛いレティを堪能できるなら対価を」
「シアは常に可愛い。被験者にするなんて許さない」
「リオ、意地悪だめ」
セリアが卑しい笑顔を向けてきたから俺はシアを寝かせることにした。昔からシアを寝かせるの得意だったしな。眠ったシアを見て、セリアは諦めたよ。この時にシアがセリアに利用されるのを見て、気合いが入ったよ。セリアはシアの友人だ。場合によっては協力するよ。でも信頼できる相手ではない。俺はシアみたいに立派な人間じゃないしな」
「父様」
「俺は大事な物のために手段は選ばない。まぁセリアがシアに本気で危害を加えはしないよ。でもセリアは自分の研究や楽しみのためなら、シアで遊ぶんだよ。俺はそれさえもおもしろくない」
父様は母様が大好きだからセリアを警戒しているんだ。確かにセリアは母様を学園に連れて来たから、父様の気持ちもわかる。
「シアは自分自身に対してはなんでも許してしまうんだよ。自分を殺そうとした相手さえも。だからシアに見つからないように手を回す。俺はシアは優しい世界で生きてほしい。そのためならいくらでも手を汚すよ。シアには内緒だ。絶対に嫌がるから」
母様が嫌がることを父様がするのは必要なことだから。権力って難しい。
「僕も気をつける。セリアは大好きだけど、母様を守らないと」
「リアムはしっかりしてるな。セリアは、したたかで強いから気をつけろよ」
「父様、大変だった?」
「まぁな。でもあの時、必死だったからシアと一緒にいる今がある。大事な子供も産まれたしな。子供の頃から必死に修行して、シアの暴走止めて、慌ただしかったけど、何があってもシアさえ笑ってくれれば力が湧いたんだ。リアムにもいつか現れるといいな」
父様が僕を見て笑う。
「僕にも母様とのお話してくれる?」
「聞きたいなら幾らでも。シアには内緒な」
「うん。パドマ様は知ってる?」
「昔、シアに嫌がらせをした令嬢の家だな。ルーンの政敵の家だ」
「ティアに意地悪する」
「やりたいようにやれ。手が必要なら相談しろ」
「母様に意地悪した家はみんなティアに意地悪するの?」
「わからない。シアが意地悪をされたのはルーン公爵令嬢だけが理由じゃないから」
「なんで?」
「シアは幼い時にクロード殿下に気に入られた。殿下の婚約者になりたい令嬢達がシアに嫌がらせしたんだ。6歳からずっと。俺と婚約してからは俺やシアの友人のファンもな。シアが望めば全員俺が手を回したのに、害がないって放っておくから」
「父様?」
父様が怖い顔をして笑っている。
「リオ、リアム、出かけたいんですが、リオ?」
部屋に入ってきた母様が父様の顔を見て、困った顔をしている。
「リオ、グランド様の所に行きますか?」
「母様?」
「リアム覚えておいてください。こうなった父様をなんとかできるのはエステルのお父様だけです。リオのことで困ったらグランド様に相談するんですよ。私、呼んできますから、リオをお願いしますね」
部屋を出ていこうとする母様の腕を父様が掴んでいる。
「シア、サイラスはいらない」
「そのお顔はリアムの前でする顔ではありません。リアムが怖がります。」
「ごめん」
「笑ってくださいな」
母様が父様を見つめて力なく笑うと父様の怖い顔がいつもの顔に戻った。さすが母様。サイラスは呼ばなくて平気だね。
「母様は父様が悪いことしたらどうする?」
「リオは悪いことなんてしません。でももし悪いことをしたならきっとなにか理由があります。そしたら一緒に国外逃亡します。リアム達は付いてくるか、国に残るか好きな方を選んでください。リーファは幼いから連れていきますが」
「一緒に来るの?」
「嫌なんですか?」
父様が母様の不思議そうな顔を見て嬉しそうに笑った。
「母様、ティア、もう準備できたよ」
「ティア、ごめんなさい。お出かけするけど二人はどうします?」
「行く。準備するから待ってて!!」
僕は母様と二人っきりになりたそうな父様を残して部屋を出る。ティアが飛びこんでこないように面倒みよう。
結局、ティアが我慢できずに母様を呼びに行ってしまった。いい笑顔の父様と戸惑った母様がいたけど。
僕は母様が父様を嫌いになるなんてありえないと思う。父様が母様と正反対の貴族であっても…。
僕は父様を探してるかもしれない令嬢の存在を相談し忘れたことを学園に帰ってから気づいた。
でも母様と違って父様なら大丈夫だよね。
今度は僕もきちんとした権力の使い方を教わろう。




