リアムの日記4
試験が終わったのでティアと一緒に帰ってきた。
母様と父様に試験の結果を伝えると誇らしげに笑ってくれた。
「リオ、凄いですわ。二人は私達より優秀です」
「そうだな。二人ともよくやった」
「セリアに知らせないといけません。あと、」
「シア、興奮するのはわかるけど落ち着こうか」
部屋から出て行こうとする母様の腰を父様が抱いて止めていた。母様の満面の笑みはいつ見ても嬉しい。僕よりも母様のほうが喜んでいる。こんなに喜んでもらえるなら次も頑張ろう。
「母様、ティア凄い!?」
「とても凄いですわ。これで授業中にお昼寝しなければ最高です」
「マートン様よりも?」
「もちろんです。私のティアとリアムが一番です」
母様とティアが二人で喜んでいる姿は物凄く可愛い。顔が崩れている父様に興奮している二人を見ながら、相談しないといけないことを思い出した。
「父上、僕心配なことがあるんです」
「どうした?」
「いつかティアが母様のこと話してしまいそうで。時々、母様、父様って言いそうになるんです」
父様の顔がもとに戻りました。
「知られてしまったらすぐに教えてくれ。ただ知られないようにできるだけ頑張ってほしい。俺達の子供と知れたら、厄介事が襲ってくるから。お前の母様は大変だったんだ。」
「父様も?」
「平穏ではなかったな。」
遠くを見つめる父様を見ると、きっと大変だったんだと思う。
「母様、ティア、リーファに本を読んであげる。リアム、リーファ抱っこして。」
ティアに呼ばれてリーファを受け取ることにした。
リーファは可愛い。ティア、リーファ寝てるけど今から読むの・・?。
まぁいいか。
ティアがゆっくりと読み始めた。母様と父様も一緒に座って聞いている。
「ある所に可憐な水の妖精が住んでいました。水の妖精は歌うのが大好きでした。水の妖精の歌に惹かれた風の少年と出会いました。可憐な水の妖精と凛とした風の少年は一目で恋に落ちました。二人は幸せに暮らしていました。ただ幸せな日は続きませんでした。ある日、風の少年は海の人魚に襲われてしまいます。水の妖精は風の少年を助けるために海の人魚を殺してしまいます。水の妖精は血で汚れた自分が許せず、風の少年のもとを去ってしまいます。」
これ、リーファに聞かせて大丈夫なの?
リーファは寝てるからいいか。ティアも一生懸命読んでるし止めるのは止めよう。
「水の妖精は行くあてもなく旅をします。旅の途中で弱った子猫を助けました。子猫は水の妖精に仲間にしてほしいとお願いします。水の妖精は断りますが、子猫に負けて一緒に旅することにしました。水の妖精はとても優しい性格だったのです。」
父様が笑い出した。母様は父様を見て首をかしげてる。どうしたんだろう。
「水の妖精は波が荒れて海を渡れず困っている商人に出会います。水の妖精は少女の姿になり商人に話しかけます。子供に薬を届けたいという船乗りの話を聞いて、魔法の力で国まで送ってあげることにしました。水の妖精は、一緒に船に乗りました。初めて乗る船でした。妖精は船に揺られながら、風の少年を想って歌いました。その歌を聞いた船乗りや商人達は涙しました。水の妖精は風の少年に会いたくても、汚れた自分が近くにいることは許されないと夜の海を涙で染めました。船に落ちた水の妖精の涙は魔石となりました。美しい魔石を拾った船乗り達は売ることはせず、お守りとして持ち歩くことにしました。船旅を終えて国につくと、少女の姿はありません。水の妖精は役目を終えたので船を降りて旅立ちました。水の妖精は海の王国につきました。そこで海の怪物に一目惚れされます。水の妖精は風の少年を愛していたので海の怪物に想いには答えられないと言いますが海の怪物はあきらめません。水の妖精は海の怪物が追ってこれない森の国に行きました。森の国には魔物がたくさんいました。襲われた水の妖精を森の民が助けてくれました。水の妖精は森の民の所で羽を休めました。」
母様がむせて、父様が背中を撫でる。大丈夫かな。
「ティア、ごめんなさい。ちょっとだけその本を貸してくれますか?」
「母様?」
ティアが本を渡すと母様が真剣にページを巡って顔が青くなった。
「なんで、ハンナが書いてますの!?ティア、この本はどうしたんですか?」
「レシーナ姉様から貰った」
「エイミー様、またなんですか!?」
「ティア、続きはお部屋で父様と読もうか。」
「リオ?」
「たまにはリアムに譲ってやるよ。リーファは俺がみてるよ。」
「父様、なんで?」
「ティアが大人になったら教えるよ。この話を聞くと母様は元気がなくなるから。」
「母様には苦手なお話が多いね。楽しいのに。」
父様が不思議な顔をしたティアとリーファを連れて行った。
「母様、大丈夫?」
「ええ。ごめんなさい。」
「あのお話、嫌い?」
「あのお話は母様のお友達が書いたんです。ディーネと二人で旅をしていた頃といくつかそっくりで、動揺してしまいました。」
理由がわかった。ティアには内緒。エイミー様は母様達のお話を本にするのが好きなんだ。
ティアの大好きな純愛物語のモデルも母様と父様だと父様が教えてくれた。母様は恥ずかしがりやなので、僕が知ってることは内緒。
母様がしまったという顔をした。僕にも知られたくなかったんだろうな。
「母様、内緒にするから安心して」
「リアムが良い子ね。母様感動して涙が出そう」
「母様」
いくつになっても、綺麗で可愛い母様が麗しの公爵令嬢には見えない。絶対にマートンには会わせないようにしよう。
だって、僕の母様は誰よりも綺麗だもの。ティアがビアード様を好きになったし、男子生徒が母様に一目惚れするのもわかる。
「母様、ティアは僕が面倒見るから学園には絶対に来ないでね」
「親離れが悲しいです」
「違うよ!!母様は綺麗だからほかの生徒にみられたくないの。僕たちの母様が取られちゃうのが嫌なの」
「リアムは優しいわ。でも、リアム、ティアのことは気にせず好きに過ごしていいから。貴方の学園生活なんだから。主役はリアムなのよ」
「僕は好きにしてるから気にしないで。卒業までにロベルト先生に勝って勝利を母様に捧げるから」
「きっと学園でモテモテですね。母様もきっとファンになってたわ」
「母様は父様のファンだった?」
「ありえないわ。あの頃はラウルのファンクラブに入ろうとしたら止められたわ。でもリアムのファンクラブなら止められても入っちゃうわ。リオよりリアムのほうが格好良いもの。」
「父様が拗ねるよ」
「リアムが素敵だからいけないのよ。」
クスクス笑ってる母様は学園の令嬢達よりも可愛い。
父様も大変だったんだろうな。きっと母様もモテモテだったんだろうな。
ティアが授業中に寝ないようにするためにはどうすればいいんだろう。
寝る前にティアのリクエストで父様と母様にバイオリンを弾いてもらった。気づいたらおじい様やエディも混ざって演奏会になっていた。
おじい様と一緒にバイオリンを演奏した母様が「やっと願いが叶いました」と笑ったら、おじい様が泣いた理由は僕にはわからなかった。
おじい様の涙に母様がティアみたいにうろたえていた。
おばあ様が母様を抱きしめて、何か呟くと母様も一緒に泣き出した。エディが母様の涙を拭いて笑っていた。
父様は優しい顔で眺めていた。母様を慰めるのは父様なのに今日は譲るんだと思っていたら、ティアがおじい様に飛びついた。空気が変わった。ティア、ここは黙って見てないとだめだったよ。
もう少しティアが空気を読んでくれたら僕は楽になるんだけどな…。




