元公爵令嬢の記録 第十二話
レティシアです。
今日は珍しいお客様が来ています。お父様から手紙を預かった時は驚きました。
「出産おめでとう。体は平気か?」
「ええ。もうすっかり。リーファです。抱きますか?」
「いや、いい。頼みがあるんだけど」
「遠慮しないで抱いてあげてください。ティアはあげません」
リーファをエイベルに渡します。リーファは誰が抱いても泣きません。
「バカ、違う。エラムがローゼ・ルーン様に師事したいって言うんだ」
「お母様にですか?ビアード公爵家の嫡男が?」
「俺も忙しくて、常に付き合ってはやれない。ティアに負けて、もっと強くなりたいんだと。」
ついつい昔のエイベルを思い出して笑ってしまいます。
「負けず嫌いな所はそっくりですね。いいですよ。」
「え?」
「お母様に頼んであげます。なんで驚いた顔してますの?」
「もっと渋るかと思ってた」
そんな困惑した顔をしないでください。
あんまりエイベルに頼まれることってなかったから新鮮ですわ。
「失礼ですね。エイベルの頼みならティアのこと以外なら聞いてあげますよ。妹弟子ですから。日程はどうしましょう」
「合わせるよ。ローゼ様も忙しいだろう。でも羨ましいな」
「お母様の訓練ですか?」
「ああ。俺も時間があれば受けたいよ」
「ビアード公爵は忙しいですものね。」
「なぁ、お前もマールも魔法はどこで学んだ?見たことないものが多いんだが」
「小さい時から他国の魔導書や古文書を取り寄せて見様見真似ですよ。私はリオの魔石のお蔭ですが。おもしろそうな魔法は、私のかわりにリオにつかっていただきましたの。」
嘘です。これはリオが考えた言い訳です。
ほとんどフウタ様に教えてもらったことは内緒です。それに私は魔法が使えないことになってるので・・。
「もうリオには勝てますか?」
「剣は勝てても、魔法は無理だ・・」
「ビアード公爵が情けないですわ。でも私のリオ兄様は強いから仕方ありませんね」
「なんで、いんの?ビアード、まさかリーファまで」
エイベルが慌てて、私にリーファを渡しました。
エイベルの顔が青くなりました。相変わらず苦手みたいです。
リオが帰ってくるには早いですね。今日のエディの手伝いは終わったんでしょうか・・。
「リオ、おかえりなさい。ティアに会わないように今日来たんですって」
「俺、聞いてない」
「私への面会依頼ですもの。エラム様をお母様に師事させるためですわ」
「自分の息子は自分で面倒みろよ」
「ビアード公爵は忙しいんですよ。お母様には私から頼みますわ」
「ティアに近づかない誓約書を」
「リオ、それは貴方の決めることではありません。いい加減にしてください」
「通わせるのは放課後でもいい。ティア達と被らなくてもいい。あいつは強くなるためだけに師事したいと」
「ビアード公爵も甘いんだな」
「親だからな」
「ポンコツエイベルが立派になりましたわ・・。」
「シア、日程等は俺が叔母上と相談してもいい?」
「リオ?」
「ちゃんと手配するよ。ただし、ビアードちゃんと根回ししろよ。お前の息子がルーン公爵家に通っていることでティアに変な横槍が入るなら、お前の家を消すからな」
「噂がたたないように気を付ける。」
「ならいい。あとさ、なんでシアに面会依頼を出した。しかも叔父上経由で」
「エドワードに出しても、捨てられるだろう。」
「エディはそんなことしません」
「お前の弟はやる。用はそれだけ。詳細は手紙でいい。」
「もう帰るんですか」
「俺も忙しいんだよ。じゃあな」
エイベルは帰っていきました。久々なのに。手合わせしたかったな・・。
「シア、俺はあいつが来ること、知らなかったんだけど」
言ったら面倒かななんて思ってませんよ。それに二人で訓練はじめたら、二人の世界ですもの。
可愛い我が子と一緒でも寂しいです。
「リオが出かけた後に知りましたの」
「連絡して」
「危険もありません」
「シア、不謹慎だろ?男女で二人っきりなんて」
そうきますか・・。
「リーファがいます。それに、私とエイベルが?ありえませんわ。今日はもう誰も来ませんわ。お仕事、行ってらっしゃい」
「今日はここにいるよ」
リオが拗ねてます。
「もしかしてエイベルともっとお話したかったですか?」
「ありえないから」
「リーファに笑われてますよ。しっかりしてください」
エラム様は放課後にうちに来ることになりました。お母様は快く引き受けてくださいました。お母様は訓練するのが好きみたいです。訓練の前にリオといくつかお話をしてました。リオにはティアに危険がない限り交友関係に口を出すのは許しませんと言ったので大丈夫でしょう。溺愛する気持ちもわかりますが限度があります。
私は訓練の後、死にかけていたエラム様にこっそり治癒魔法をかけました。
どんな訓練したんでしょう・・。仮にもビアード公爵嫡男がこんなにぐったりするなんて。
目覚めたエラム様が私をティアと間違えて、顔を赤く染めたのは内緒にしてあげます。
恋とは難儀なものです。ティアは今度はどんな方を好きになるのかな。ポンコツエイベルもしっかりしてきましたし、そこまで悪い趣味でもないのかな。きっとリオはどんな人でも反対するので、私はできる限りティアの味方をしましょう。




