公爵子息の記録2
エラム・ビアードです。
ビアード公爵家の嫡男でステイ学園の3年生です。
今年はなんとティアが学園に入学してくる。
ティアの社交会デビューのパーティ以来の再会だ。
父上にティアとリアムやレティシア様やリオ様のことは決して口外するなと命じられた。
違えるなら俺の命はないそうだ。
父上の意図はわからないが、命じられたら従うしかない。
新入生は門で登録をするので、待っていると待ちわびた銀髪が。
彼女が学園の敷地に足を踏み入れたのを確認して駆けだす。
「ティア、入学おめでとう」
「ありがとうございます。ビアード様。僕の婚約者を馴れ馴れしく名前で呼ばないでいただけますか」
「リアム!?」
ティアがリアムの後ろに隠される。
「お久しぶりです。ビアード様、僕たち目立ちたくないので失礼しますね」
リアムがティアを連れて去っていく。
追いかけようとするもティアが俺に全く視線をむけないことに気付き足を止める。
やっぱり父上のことまだ引きずっているのかな・・。
その後もリアムはティアから離れず、全く近づけない。同じ生徒会で研究室も同じなのに・・。生徒会副会長がリアムとティアの組み合わせがお気に入りのため、常に二人一緒に仕事を任せる。彼女がリアム達に指導するので俺が近づく暇はない。
ただ同じロベルト先生の訓練生になったおかげで、時々話すことができるようになった。
リアムが他の生徒や先生に捕まってる時を狙うしかないが。相変わらず、リアムには勝てないけど。
俺は運よく生徒会長からリアム達に渡す仕事を預かり、1年1組を目指した。
「お前がルーンってやっぱり嘘だろう?」
「おっしゃる意味がわかりません」
「麗しのレティシア様と同じ血が?ありえない」
ティアが男子生徒と喧嘩をしている。いつも隣にいるはずのリアムが傍観している。
俺がティアに近づこうとすると腕を掴まれた。
「リアム、あれ」
「いつものことなんで気にしないでください。ティアに近づかないでください」
「あいつはいいのに、俺はなんで駄目なの?」
「ティアが邪魔すると拗ねるんですよ」
「まさか・・・・」
「いい加減諦めてください。」
ティア、もしかして父上の次はあいつなのか・・。
全然タイプが違うよな・・。
「なんなの!?貴方が何を知ってるのよ」
「ティア、よく考えて話すんだよ」
「あ!!私はルーンの人間だもの。お、レティシア様のこといっぱい知ってるもん。貴方なんかと違うんだから」
「いまだに見つけられないのに?俺が侯爵を継いだら絶対に見つけてさしあげるんだ。そして絶対に守るんだ」
「マートン様の助けなんていらない。ティアより弱いのに」
「野蛮な女とは違うんだ。俺は誰かさんと違って頭の出来が違うからな」
「な!?魔法も負けないもん」
「テストの成績は俺の方がいいだろう?レティシア様も武術以外は全て最優秀だったと。俺と同じだ」
「そんなの自慢にならないもの。ティアはレティシア様と髪も目もお揃いだもん。いつも」
「ティア!!」
「リアム、邪魔しないで」
「喧嘩するのはいいけど、よく考えて。ティアの言葉で困るのは母様だよ。淑女だろう?」
「失礼しました」
「リアムに怒られたか。レティシア様とお揃いなのは色だけだろ。中身は全然違う。きっとお前を見たらがっかりするだろうな」
「マートン、お前もいい加減にしろ。令嬢に向ける言葉じゃないだろう」
「リアムもこんな野蛮なやつを押し付けられて可哀想に。」
「俺はティアが大好きだから問題ない。ティア、授業の準備しよう」
「次は負けません。テストで勝ちます」
「できるといいな」
仲が良いのか悪いのかわからない。でもティアはあいつに惚れてるわけじゃないようだ。
「エラム様?」
「ティア、これ会長から預かった」
「ありがとうございます。ではさっさと帰ってください」
ティアに差し出した書類をリアムに奪われた。
「ティア、今度の休養日」
「ティアの休養日の予定はすでに埋まってます。」
「今度、俺とも訓練」
「ティアの訓練は僕がします。僕より弱いエラム様ではティアも訓練になりません」
「リアム、ティアはエラム様とも戦いたい。おばあ様に色んな相手と戦いなさいって」
「僕も立ち会います」
「ティア、いいのか」
「よろしくお願いします」
リアムが睨んでくる。
ティア達と予定を合わせて手合わせをすると俺はティアにも負けた。
その魔法は1年生が使えるものじゃないよな。そんな魔法も見たことないんだけど。しかも無詠唱かよ。
「ティア様!!」
「ルーン様!!」
手合わせの後に声援をおくるやつらにティアが礼をして去っていった。
ティアとリアムにはファンが多い。
「エラム、大丈夫か?」
「エメル先生、うちって武術の名門ですよね」
「返上したくなるか?」
「恥ずかしくなりました。」
「お前の父親も同じことを言っていたよ。学生時代に強い相手と出会えるのは幸運だよ。」
「どうしたらあんなに強くなるんでしょう」
「ローゼ・ルーンという風の天才の指導を受けているからな」
「父上よりも強いんですか」
「私はローゼ・ルーンが負けたのを見たことないからな。」
「卒業までには勝たないと。まだまだ超えないといけない相手はたくさんいます」
「励みなさい」
「失礼します」
俺は訓練を再開することにした。俺も一緒に訓練はつけてもらえないかな。たぶん父上は駄目だろう。サイラスに相談すればいいのかな。
レティシア様に頼むのが一番良い気がするけど。サイラスに手紙を送ったら父上に頼めと返答がきた。
休養日に父上に会いに帰ることにした。
「父上、手合わせお願いします」
父上は頼めばいつでも鍛えてくれる。父上にもやっぱり敵わない。
「父上、お願いがあります」
「なんだ?」
「俺、ローゼ・ルーン様に師事したいです」
「なんで?」
「ティアに負けました。魔法も剣も。俺は風を使ってもティアを捕まえられませんでした。先生に聞いたら風の天才のローゼ・ルーン様のことを教わりました。ターナー伯爵家は遠いので通えません。でもルーン公爵邸なら休みでも通えます。リオ様を倒せるようになりたいんです」
「化け物に勝つには化け物か・・・。無理かもしれないが、頼んでみるか。」
「父上はリオ様に勝てますか?」
「剣だけなら。魔法を使われると負けるだろう。マールの魔法は特殊だから。あいつはどこで学んだのか、授業で習わない魔法ばかり使う。レティシアの書く魔法陣もおかしいしな」
「父上?」
「悪い。リアム達は元気にしているか?」
「はい。生徒会のない日は常にロベルト先生に挑みに行ってます。交友は全く広める気はないようです。マートン侯爵家がレティシア様に御執心のようです」
「そっくりだよな。レティシアのことはマールとエドワードがいるから心配いらない。あの家に手を出すと地獄を見るから放っておけばいい。母親には会っていかないのか?」
「母上は婚約者を見つけろという話ばかりなので」
「お前はティアをまだ。誰に似たんだろうな」
「あの可愛さに心が動かない父上がおかしいんです。学園にもファンばかりですよ」
「お前、女に騙されるなよ。レティシアの子のティアが純粋無垢に育つとは俺には思えない」
「父上ってレティシア様に厳しいですよね。」
「令嬢は怖いからな。よく覚えておけ。女の涙も笑顔も嘘ばかりだ」
俺は父上の話を話し半分にして学園に帰ることにした。母上はやっぱり俺にビアード公爵家を継いでほしいみたい。でも、無理だよ。俺は父上みたいに全てを家のために捧げるなんてできない。
父上は家に恥じない行動をするなら好きにしろと言っている。それがどんな思いの言葉かはわからないけど。




