ティアの日記2
ティア・ルーンです。ステイ学園1年生です。
ティアは母様を守れるように強くなるために学園に通っています。
ティアの妹が産まれたので学園をお休みして会いに行ったら母様に怒られてしまいました。母様に静かにじっと見られて、ティアは初めて怖いと思いました。
あんな母様、知らないです。
エディに学園に戻りなさいと言われたので静かに授業を受けています。
血の誇りってなんだろう・・。お休みの日にエディに会ったら教えてくれるかな。
「ティア、どうしたの?」
「ごきげんよう、エラム様」
「リアムは、先生と手合わせしてるのか。一緒じゃないの珍しいな」
「集中できてないから休みなさいと」
「そう。あのさ」
リーファと母様を守るのってどうすれば。そういえばエラム様って公爵家。
「エラム様、血の誇りはありますか?」
「え?」
「なんでもないです。気にしないでください」
そういえば父様に近づいてはいけないと言われてました、
立ち上がって、移動しましょう。
「待って、ティア、あるよ。ビアード公爵家として恥じない行動をしろが父上の口癖だ」
「エイベル!?」
「まだ父上のこと・・」
エイベルの話に足を止めます。
「いや、いい。ビアード公爵家は建国以来王家に忠誠を捧げる一族だ。王の剣と盾となるよう励むように。騎士道に反した行動はしない」
「ティア!!終わった。行こうか」
リアムがエラム様を睨んでティアの腕を引っ張ります。
「エラム様、ありがとうございました」
「エラム様、ティアに近づかないでください。失礼します」
リアムに手を引かれるまま訓練場を後にします。
「ビアード公爵家の者として恥じない行動せよ」
「ティア?」
「リアム、ルーン公爵令嬢ってどんな人だったのかな・・」
「うーん。聞いてみる?」
「うん」
ティアはリアムと一緒に職員室に行きました。
ロキはいません。ティアがよくお話するのは、
「エメル先生」
「どうしたんだい?」
「聞きたいことがあるんです」
「なんだい?」
「ルーン公爵令嬢ってどんな方かご存知ですか?」
「ルーンって姉の方か。ルーンは学園で初めて武術の授業を選択した公爵令嬢だったよ。ルーン自身は全然強くなかったけどな」
穏やかに笑うエメル先生の話に首を傾げます。
「強くなかった?」
「ああ。小柄で体力も力もなくて魔法も使えない。でも卑屈になることはなく前向きでいつもひたむきだった。手合わせして負けた男子に笑われても、笑顔でお礼を言ってまた訓練してた。いつもクラム・カーチスとニコル・スワンと一緒に訓練していたよ。同派閥だとサイラス・グランドとエイベル・ビアードが詳しいだろうな」
「エイベル!?」
「ビアードとは面識があるのか。ターナー伯爵家でルーンとビアードは一緒に修行を受けていたからな。兄妹弟子で、ルーンは打倒ビアードに燃えていたな。一番詳しいのはリオ・マールだが、あいつはどこにいるかわからないから」
「リオ・マールはどんな人だったんですか?」
「ルーンが入学するまでは暇があればロベルト先生に挑んでいたな。マールは優秀なやつだったよ。貴族らしい貴族。ルーンとは正反対だったな」
「どういうことですか?」
「貴族は家の利のために動くだろう?。時には自分の私利私欲で動く。マールは目的のためなら躊躇ない生徒だったよ。ただルーンは平等の学園で家の力を使うことを嫌っていた。貴族の平民への無礼も許さなかった。毅然とした態度で相手を言い負かしていたな。危ない場面になるとマールがすっ飛んで庇いにいってたけど。私は彼女が学園で権力を使ったことは見たことがなかった」
「どうして?」
「さぁね。セリア・シオンなら知ってるかな。常に優雅で誇り高くあれ」
「その言葉」
「ルーン公爵家の家訓だろ?」
「誇り高くがわかりません」
「誇りは自分の大切なものだよ。ルーン公爵家のことならロキ先生に聞いてみなさい。私よりは詳しいと思うよ」
「ありがとうございます。失礼します」
礼をして退室したけど、ロキはどこだろう。
「ねぇ、ティア、今更だけどシエルに聞けば?」
「忘れてた!!」
私は部屋に戻ってシエルを呼び出しました。
「シエル、ルーン公爵令嬢のこと教えて」
「何を知りたいんですか?」
「母様がどうして怒ったのかわからない」
シエルが目を伏せて考え込んでいます。
「お嬢様は幼い頃からルーン公爵令嬢として厳しく躾けられました。ルーン公爵家は宰相一族で力もあったので、民の模範となるように行動せよがルーン公爵である旦那様の教えでした。お嬢様が武術を始めた理由は知ってますか?」
「知らない」
「自分の身を守るためです。魔力のない自分がルーン公爵家の弱みにならないように。お嬢様はルーン公爵家のためだけに生きてました」
「ルーン公爵家のためだけ?」
「貴族は家のために生きます。常に家の利益と評価を計算するものです。」
「母様も?」
「お嬢様は旦那様の命令には絶対に逆らいません。やりたいことがある時は、誰が聞いても納得できる理由を作ってから動かれましたわ。多少、無理矢理感はいなめませんでしたが・・・。」
「母様は僕達が生徒会の力を使って、嘘をついて帰ったから怒ったの?」
「そうですね。先にお嬢様に、妹に会いたいから帰りたいと相談すれば結果は違ったと思います。」
「父様に怒ったのは?」
「学園在学中は寮での生活が規則です。私利私欲のために慣例を破ることを許すほどお嬢様は甘い方ではありません。権力って怖いんです。ルーン公爵令嬢が命じるだけで平民の首を飛ばすこともできます。その権力を家のため以外に使うことをお嬢様は何よりも嫌ってます。」
「父様は」
「お嬢様とリオ様は立場が違います。令嬢と令息だと役目も違います。リオ様やエドワード様は権力の使い方を教え込まれています。お二人は家の利や目的のためなら、ためらわずに使います。ただちゃんと大義名分という名の理由は用意します。権力で理不尽なことができますが大義名分があるかないかで状況は変わります」
「母様は怒らないの?」
「状況によります。大義名分さえあればルーン公爵家やマール公爵家のために権力を使うことは当然と思われてます。お嬢様はリオ様を信頼されてるので、リオ様が権力を使うのは必要なときだけと思い込まれてます。権力の使い方についてはエドワード様やリオ様に聞いてください」
「権力は人の助けになるけど、傷つけることもある。使う時はしっかり考える。権力を使えるのは家を背負える覚悟がある者だけ」
「お嬢様ですね。よくエドワード様にも言ってました。」
「エディに?」
「ええ。ルーン公爵家の権力に溺れないでって。私はいつまでも傍にいられないからと」
「なんで?」
「お嬢様は将来嫁ぐことはわかっていたんでしょうね。エドワード様を膝にのせてよく色々教えてました」
リアムとシエルの話が難しい。
「家のために生きるってよくわからない」
「お二人が大切にする方々に胸を張れるように過ごされればいいんですよ」
「母様と父様に?」
「ええ。」
「お勉強をしっかしりて、生徒の模範になる?」
「二人がよく考えて行動されれば大丈夫ですわ。私の自慢のお嬢様とそのお嬢様が誰よりも信頼するリオ様のお子ですから」
「ティアは自慢の娘」
「ええ。」
「シエル、母様は大丈夫かな」
シエルの顔が真剣な顔から優しい顔に変わりました。
シエルが母様の昔話をするときの顔です。
「きっと寂しがってますわ。お嬢様は意地っ張りですので。きっと言いませんが」
「意地っ張り?」
「ええ。欲しい物を素直に言えないから、いつも気付いたリオ様が贈られます。」
「シエルのお話の母様は違う人みたい」
「お嬢様は切り替えが上手ですから。誰にでも優しいのは昔から変わりません」
「ティアは母様に謝る。嘘ついて帰ってごめんなさいって。許してくれるかな」
「僕も謝る。生徒会役員になったのに自分のことしか考えなかった」
「では休養日までちゃんと頑張ってください。」
シエルの言う通り授業をしっかり受けながら休養日まで過ごしました。
もう一人で眠れないなんて我儘言いません。ティアは12歳。母様が3歳でできたからティアもできるはずです。生徒の模範はよくわかりません。でも先生がレティシア様は、誰にでも優しく品行方正で成績優秀だったと教えてくれたので、ティアも目指そうと思います。
お母様のお話しをこっそり集めようと思います。今度、サイラスとセリアに聞いてみます。
二人には会いたいですとお手紙を出したけど、いつ会いに来てくれるかな。




