リアムの日記3
ステイ学園1年生のリアム・マールです。
今日は午後のロキが担当する薬学の授業がお休みで他の授業に変更になった。
ロキは優秀で学園を飛び級したんだって。
僕達は今日は生徒会のお仕事はお休みなので、ロベルト先生と手合わせしてまた負けた。
新しい作戦もロベルト先生には敵わなかった。
「ロベルト先生、ロキ先生は大丈夫?」
「ロキか。家の用事らしい。手続きして血相かえて飛び出して行ったよ。あいつがあんなに慌てるのはじめてみたな」
「慌てて?」
「ああ。明日には帰ってくるだろう。」
「リアム、ロキが慌てて?」
「もしかして!?」
「ロベルト先生、ありがとうございました。今日はこれで」
「もう終わりか!?」
「はい。失礼します」
礼をして、僕達の部屋に戻ってシエルを呼び出した。
「シエル、なにか連絡来てる?」
「いえ、来てません」
「ロキが急いで帰ったの。きっと産まれたんだよ!!ティア、帰らないと」
「ティア様、もう暗くなるので外出は危険です。火急の知らせがないのでお嬢様の身も心配いりません」
「会いにいく」
僕も会いたいけど、今から手続きして出かけたら真っ暗。夜の外出は駄目だと父様とも約束している。
「ティア、今日はだめ。明日にしよう」
「リアム様、休養日までお待ちください。授業を休む理由にはなりません」
「授業は簡単だから大丈夫だよ。明日の朝一で帰る。手続きは自分でできるよ」
「たぶんお嬢様は怒ると思いますよ。」
「母様が?」
「はい」
「母様はきっと笑ってお帰りって迎えてくれるから大丈夫だよ。シエルが怒られないようにちゃんと言うよ」
「お嬢様は私ではなくお二人を」
「いつもごめんなさいって言えば許してくれるよ。シエル、もういいよ。呼び出してごめんね。ティアは手続きしてくるね」
シエルは物言いたげに見ていたけど、僕はティアを追いかけて手続きを一緒にした。
母様が怒るのはよくわからない。いつも優しく楽しそうな母様しか知らない。
困った顔をして、注意されることもあるけど・・・。怒るのはいつも父様だし。父様が怒るのはサイラスにだけど・・・。
手続きをして、シエルのご飯を食べて早く眠った。
翌朝、朝一番の馬車を手配してマール公爵邸を目指した。馬の方が早いけど、必ず馬車を使えと父様に言われている。
馬車がついたら、母さまがいる別邸にティアと一緒に駆けこんだ。
母様の腕の中には赤ちゃんがいた。
母様は僕達を見て驚いた顔をした。ティアが抱っこしているリーファを見る。
リーファだから妹だ。ティアと一緒に弟と妹の名前を考えたんだ。
リーファが起きて、僕の顔をじっと見た。
頬を突っつくとにこって笑った。可愛い。
「リアム、可愛いね」
「うん。小さいね。僕が守るからね」
「ティアも」
僕は父様に家から通っていいか聞くと了承してくれた。
でも母様は許してくれなかった。
母様に命じられシエルがリーファをティアの腕から抱き上げた。
「ティア、もっと抱っこ」
「リアム、ティア、二人共生徒会役員になったのよね?」
母様が静かな顔で僕とティアを見ている。
「うん」
「生徒会役員は生徒の模範です。特別な理由もなく、自己判断で学園を休んで外泊するなんて許されません。」
「シア、落ち着いて」
「リオもです。家から通うなんて許しません。二人の後見はルーン公爵にマール公爵。ルーンとマールの名前を背負ってるんです。最低限相応しい行動をしなければいけません」
母様が真剣な顔で強い瞳で見てくる。こんな母様は知らない。
「母様」
「リアム、貴方もティアに振り回されなくていいんです。放っておきなさい。できないならきちんと諌めなさい」
なんでだろう。母様に圧倒されて、なにも考えられない。怒ってるのかな。
「ごめんなさい」
「ティア、貴方もです。貴族として生徒会役員として相応しい行動をなさい。今のティアではリーファの立派なお姉様にはなれません」
「母様」
泣きそうな顔でティアが母様を見あげている。
「平民として通わせてあげられればまだ違ったかもしれません。でも二人にはルーンとマールの血が流れているんです。魔力も他の生徒より強いでしょう。強い力は自他共に危険を伴うんです。貴族として過ごす義務と責任は忘れましたか?」
「ごめんなさい」
「二人がすべきことはわかりますか?」
なんて答えればいいかわからなかった。体が動かなくて、気付いたら母様とリーファがいなかった。
「リオ、行かせないわ。貴方はレティを追いかける前にやるべきことがあるでしょ」
「悪い、ディーネ。ここは俺が話すからシアのとこに」
「私はお目付け役。レティに呼ばれたらすぐに行くわ」
父様が僕とティアの顔を心配そうに覗き込んだ。
「リアム、ティア、大丈夫か?」
「父様、母様はティア嫌い?」
「違うよ。あれがレティシア・ルーン公爵令嬢だよ。シアはルーン公爵家の血に誇りを持ってる。貴族としての矜持も高い。社交界でのシアはあんな感じだ」
「リオ、どうしたの。レティが馬車で出て行ったけど」
「母上・・」
おばあさまが僕達を見て困った顔をした。
「リアム、ティア?まさか帰ってきたの。その様子だと生粋のルーン公爵令嬢に怒られたかしら」
「久々の本気の社交モードに震えました。高圧的で誰にも反論を許さない、しかもあの冷たい視線に体が反応できませんでした」
「リオ、貴方何を言ったの?」
「リアム達がここから通いたいという願いに賛同しました。シアから本気ですかと聞かれたのが最終忠告だったのか・・。」
「リオは後で私とお話しましょう。幾つになっても手がかかるわ」
おばあ様がさっきのお母様にそっくりな目で父様を見ています。父様の顔が真っ青になりました。
「二人も学園に戻りなさい」
「おばあ様、母様・・」
「ティア、リアム、私もレティも貴方達にしっかりと大事なことは教えたわ。よく考えてみなさい。休養日に帰ってくるならレティも怒らないわ。産まれは選べないわ。貴方たちには誇りあるマールとルーンの血が受け継がれてるの。その血に恥じない行動をなさい」
「戻りました」
「シエル、お疲れ様。また二人を頼んでもいいかしら?」
「はい。お任せください」
「シエル、シア達は」
「ルーン公爵邸にいらっしゃいます。心配無用とエドワード様から言伝を」
「大丈夫なのか?」
「リオ、あそこ以上にレティ達にとって安全な場所はないでしょ?ローゼ達がいれば軍隊だって追い返せるわ。」
「リアム様、ティア様、エドワード様がレティシア様とリーファ様は責任持って預かるから学園に戻りなさい。休養日に会いにおいでと」
「シエル、母様、ティア嫌い?」
「お嬢様がティア様を嫌いになることはありませんよ。それに私はお嬢様が何かを嫌いになったところを見たことないんです」
「そうよ。レティは二人が大好きよ。親は常に優しいだけではいられないのよ。レティのお母様も昔は鬼のように怖かったわ」
エディの言うことは正しいって教わった。おばあ様も同じ。
それなら、学園に戻るのが先。落ち込んだり悩むのは後にしないといけない。
「ティア、戻ろう。」
「でもティアはどうすればいいかわからない」
「ティア様、学園は学びの場です。わからないことを学びに行くんですよ。立派なお姉様になるためにお勉強しましょう」
「ティア、レティは3歳には一人で眠ってたわ。いつまでも一人で眠れないとリーファに追い越されるわ」
「そんな・・・」
「二人共リーファに負けないように頑張りなさい。レティは武術以外の成績は全て最優秀だったわ。リオも全部最優秀。二人に負けないように励みなさい」
「母様は僕達が頑張ったら笑ってくれますか?」
「もちろん。どうしても寂しいならお手紙にしなさい。」
「リアム、ティア、行ってこい。また休みになったら俺と一緒にシアに会いにいこう」
父様に肩を叩かれました。
「父様?」
「そうね。三人で迎えに行きなさい。返してもらえるかはわからないけど」
「母上」
「私は説得しないわ。しっかりしなさい」
僕達は難しい顔をする父様を後にして学園に戻って授業を受けた。
母様はどうして怒ったんだろう。
学園で勉強すればわかるかな。




