元公爵令嬢の記録 第九話
レティシアです。私はリオとの間に第三子を出産しました。
銀髪に銀の瞳でお母様似の女の子です。
名前はリーファです。
ティアとリアムが二人で名付けました。
「「母様!!」」
聞こえるはずのない声が響き渡りました。
「二人共学園はどうしたの!?」
「ロキがお休みだからもしかしてと思って」
そういえば昨日ロキとエディとお父様にお母様が来ました。お母様は気配を消してよく訪問されますがお父様も一緒に来るのは珍しいです。リーファを抱いて喜んでくださいました。
「リーファよ。」
「母様、抱っこ」
ティアにリーファを抱かせます。
「俺の娘は天使だ」
リオがお顔を崩してティア達を見ています。
リーファが起きました。
「リーファはリアムとティアとお揃いだね」
「そうね。ティアの髪の色とリアムの瞳とお揃いね。」
「父様、僕、毎日ここから通ってもいいですか?」
「リアム?」
「兄として妹は守らないと。こんなに小さい」
「リアム、リーファは母様と父様が守るから大丈夫よ」
「シア、いいんじゃないか。家から通っても」
「リオ?」
リーファは可愛いです。
でもだからと言って…。リーファを可愛いがってくれるのは頼もしいし、優しさは誇らしいです。
私はさっき気のせいだと思いたかった現実と向き合うことにしました。
本当なら二人は授業を受けている時間です。
「シエル、この二人は学園は?」
「お嬢様、」
シエルが目を伏せました。これは私が問題をおこして、報告するときの顔です。
「隠さずに教えてください」
「体調不良で外泊届けを。お二人は生徒会役員なので」
「自分で処理しましたのね。」
「お嬢様、」
シエルが苦笑してます。うん。仕方ありません。
「リオ、本気ですか?」
「ああ。うちから通えばいいだろう」
リオの答えに呆れます。本気なんですね・・。
「シア?」
「シエル、リーファをお願い。」
「はい。お嬢様」
シエルがリーファをティアから受け取り見ていてくれるでしょう。
深呼吸します。リアムとティアを見つめます。この感じ久々ですわ。
「リアム、ティア、二人共生徒会役員になったのよね?」
「うん」
「生徒会役員は生徒の模範です。特別な理由もなく、自己判断で学園を休んで外泊するなんて許されません。」
「シア、落ち着いて」
リオの宥めようとする声を遮ります。
「リオもです。家から通うなんて許しません。二人の後見はルーン公爵にマール公爵。ルーンとマールの名前を背負ってるんです。最低限相応しい行動をしなければいけません」
「母様」
不安そうなリアムを見つめます。優しさと甘さを間違えたらいけません。この子はリアム・マールです。
「リアム、貴方もティアに振り回されなくていいんです。放っておきなさい。できないならきちんと諌めなさい」
「ごめんなさい」
リアムも問題ですが、ティアもです。ティア・ルーンとして許されません。生徒会役員を引き受けたなら尚更。
「ティア、貴方もです。貴族として生徒会役員として相応しい行動をなさい。今のティアではリーファの立派なお姉様にはなれません」
「母様」
「平民として通わせてあげられればまだ違ったかもしれません。でも二人にはルーンとマールの血が流れているんです。魔力も他の生徒より強いでしょう。強い力は自他共に危険を伴うんです。貴族として過ごす義務と責任は忘れましたか?」
「ごめんなさい」
「二人がすべきことはわかりますか?」
黙って下を向いている二人を見ます。
もう二人も12歳です。いつまでも甘やかすわけにはいきません。
「私、ルーン公爵家に帰ります。シエル行きますよ。ディーネ、足止めお願いします。」
「任せて」
シエルを連れて、ローブを被ってリーファとルーン公爵邸に帰ります。シエルがお父様が用意してくれたという別邸に案内してくれました。
「姉様、おかえりなさい」
「ただいま、エディ。当分ここでお世話になってもいいかしら?」
「構いません。」
「仕事、手伝いますよ」
「いえ、姉様は休んでください。」
エディが治癒魔法をかけてくれたおかげで体が軽くなります。
「レティシア」
「お母様」
「お帰りなさい」
「ただいま帰りました。」
「ゆっくりしていきなさい。お世話はお母様がするわ」
「はい?」
「やっと帰ってきたんだもの、たまには甘えなさい。リーファは私が見てるから休みなさい。体、つらいんでしょ?」
「すみません」
お母様の様子がいつもと違います。伯母様みたいです。
ありがたいのでリーファを預けて、休ませてもらいましょう。確かにまだ出産の疲労が抜けてません。
起きるとお母様が食事を用意してくれてました。お母様、お料理できたんですね・・。
エディは本邸に帰りました。
夜にはお父様もリーファに会いに来ました。お母様にそっくりなのでお父様も余計に嬉しいんでしょう。
誰も事情を聞かないんですね・・。
翌日、セリアが訪ねてきました。エディがうちにいることを伝えてくれたそうです。
事情を話すとセリアが笑ってます。
「レティ、とうとう怒ったのね」
「私利私欲で権力を使ったことが許せずに。それに二人の行動は公爵家の名を持つ者に相応しくありません。ただ、良かったのかなって・・」
「良かった?」
「学園に通わせたこと。将来の選べる幅は広がります。でもあの二人にとってはどうなのかなって。気ままに冒険者をしていたほうが良かったのかなって」
「それがわかるのはずっと先の話だわ」
「リアム達を残して出てきたのは駄目でした。でも耐えられなくて。」
「後悔してるのね」
「はい。でもどうすればいいかわかりません。リオがこんなにポンコツだと思いませんでした」
「でもあの二人もズル賢いところがあるから、リオ様と一緒に反省会してるでしょ。レティが怒るのはじめてでしょ?そういえばリオ様迎えに来ないのね」
「これでマール公爵邸から通っていたらどうしましょう・・。」
「リーファもレティもいないなら大丈夫じゃない。それだけ言われてなにも考えない子じゃないでしょ?」
「そうだといいんですけど」
「そういえば迎えが来ないのね。寂しくない?」
「それが、あの厳しかったお母様が優しくて、戸惑ってしまいまして。私、甘えなさいって初めて言われて、気持ちがごちゃごちゃで、リーファ、リオのことを考える余裕なんてないよね。リーファがお母様に似てるからお父様も良く来てくださるの。リオの変わりにエディも可愛がってくれるから。昔の癖でシエルを連れてきちゃったから、シエルはさすがに戻ってもらいました」
リアム達がちゃんと学園に行っていることを祈るしかありません。
でも迎えに来ないから、行ってくれてるのかな・・・。
リーファには悪いけど、しばらくはルーンのお家で可愛がってもらいましょう。
お父様がいなくても、お母様が可愛がるから我慢してね。
あんなに帰れなかった家にこんなことで帰ってくるようになるとは思いませんでした。帰る場所を用意してくれていたお父様達に胸が暖かくなります。
私はやっぱりお父様達に愛されてましたわ。あんなに怖かったお父様ももう怖くありません。




