元公爵令嬢の記録 第六話 後編
こんにちは。ルリことレティシアです。
相変わらず、マール公爵領の家で生活してます。もう少しで家族がまた増えますわ。
楽しみですが最近の日課の光景にため息がこぼれます。
「エラム様、ティアに近づかないでください!!」
ティアは私の後ろに隠れてます。失恋したばかりなのにエイベルそっくりのエラム様は辛いでしょう。
最近、エラム様が遊びにきます。11歳の子供が一人で来るのはどうなんですか!?
「リアム、俺は仲良くなりたいだけ」
「僕に勝ってからにしてください」
「友達になるだけだろう」
「ティアによこしまな思いを抱いてる友達は認めません」
「ティア、お菓子持って来たんだ。好きだろ?」
ティアが揺れてます。
物で釣るなんてうまいですわ。エイベルの子供には思えませんわ。
「レティシア様、これお土産です」
これは、蜂蜜入りの飴!!はじめて見ましたわ。ケーキはよくエディが持ってきてくれますが。
「ティア、お礼を言いましょう」
「母様!?なんで父様のいない時に来るんだろ。貴族なんだから勉強してろよ」
「貴族は情報戦だからな」
「ありがとう」
私の背中から出てお礼を言えてえらいですわ。ティアの頭を撫でます。
「ティア、こんなやつにお礼はいらない。嫌いなんだから無理するな。ここは兄様に任せて。な?」
リアムはエラム様の前だと口調が荒くなります。お友達だからでしょうか・・。
「ティア、えらいわね。そろそろリオが帰ってくるからお出迎えしてあげて」
ティアが玄関の方に行きました。ティアを追いかけようとするエラム様を止めます。
やっぱりお話しないといけませんね。子供の間違いを正すのは大人の仕事です。伯母様の気持ちがわかりました。伯母様、見捨てずいつも暖かく相談にのってくれてありがとうございました。今もお世話になってますが。
「エラム様、来るときはエイベルと一緒に来てください。何かあったら危険ですわ」
「誰にも話してません。自分の身は自分で守れます」
違いますわ。駄目です。リアムにも勝てないのにそんな自信を持って言わないでください。
貴族は危険なんですのよ。ちゃんと自分の価値をわかっているんでしょうか・・。
ティアが戻ってきました。
「母様!!エディが来たよ!!」
「姉様、お久しぶりです。」
エドワードがティアを抱き上げました。
「エディ、仕事は平気なの?こないだも来ましたわよね?」
「はい。ご安心ください。リアム、これ、欲しがってただろ?」
「エディ、ありがとう!!」
エディからリアムが本を受け取ります。
エディはティアを溺愛してますがちゃんとリアムも可愛がってくれます。
リアム、外国語の本ですが読めるんですか?
「そろそろ公爵を引き継ぐんでしょう?エディのままでいいのかしら?」
「構いません。姉様、二人はどうして不機嫌なんですか?」
「子供には色々複雑な事情があるのよ」
苦笑するしかありません。ティアを溺愛するエディには絶対に事情を話せません。
「お初にお目にかかります。エラム・ビアードと申します。」
「エドワード・ルーンだ。姉様なんでですか?」
エディはエラム様に一瞬視線を向けただけでした。
「エディ、ティアと遊んで!!魔法見せて欲しいの」
「それはいいけど、姉様?」
「今、甘えん坊だから甘やかしてあげてくれる?」
エディが何か考えて頷きます。説明が面倒なわけではないですわよ。
まだ傷心中ですから。甘えん坊なティアにリオはご機嫌です。今日も仕事に行かせるの大変でしたわ。
二人が離れていきましたね。エディに任せればティアも安心です。
「リアムは母様といてくれますか?」
「勿論です。」
「お茶にしましょう。エラム様もどうぞ」
お茶をいれてケーキを出します。
「エラム様、ここにくる許可は取ってますの?」
「友人の家へと」
「もし何かあったら困りますのでお父様の許可をとってからにしてください」
「父上は駄目って言うから」
「尚更いけませんわ。許可があるなら歓迎しますわ。リアムのお友達ですもの」
「母様、友達じゃない」
「学園に入ったら、自由に動けなくなるから。ティア達はいつまでもここにいるかわからないでしょ?」
「当分は何もなければ、ここにいますわ」
「本当?」
「ええ」
「ティアと婚約許してくれますか?」
社交デビューも終わっているなら貴族の一員です。現実を伝えましょう。
「あなたは、しかるべきご令嬢と婚約するべきですわ。この婚約に家の利はありません。」
「爵位は弟が継ぐ。俺もティアと同じ冒険者になる」
あなた、エイベルに憧れてたのでは?
「それはお父様はなんて?」
「お前の好きにしろって。覚悟がないやつはいらないって」
あのポンコツ。息子の教育はしっかりしてくださいませ。
リアムが睨んでます。
「ティアはエラム様を嫌ってるのに?」
リアム、容赦ないですわ。誰に似たのかしら・・・。
「父上に似てるからだろ。でも父上の外見が好みなら俺もいけるかなって。」
「傷心のティアに近づくのは許しません。僕より弱い人間にティアは任せません」
リオ、帰ってこないかな。リオが帰ったらエラム様送ってもらわないと。きちんとエイベルに話をつけてもらわないといけません。このままでは駄目ですわ。エラム様は私の言葉は聞きません。
帰ってきましたわ。リオ愛してますわ。あとはお任せしましょう。
「リオ愛してますわ」
「シア?」
「間違えました。おかえりなさい。私には無理です。助けてくださいませ」
リオが真剣な顔になりました。
「どうした?」
事情を説明します。目が据わってますね。もういいですわ。好きになさいませ。
エラム様の教育不足はエイベルの手落ちです。勝手な行動をできないようにしっかり釘をさしてくださいませ。
「リオ、お任せしても?」
「任せて。シアの憂いは俺が払うよ。リアム、後で修行な。エラム様、送るので帰りましょう」
リオに任せれば安心です。エラム様もリオの言うことはよくききます。しっかりお話してきてもらいましょう。
二人がいなくなってしばらくしてティア達が帰ってきました。
「姉様、今日はお話が」
エディにお茶を出します。ティアはエディの膝の上で寝てますね。
「二人も10歳です。国民権どうしますか?」
忘れてましたわ。10歳で国民権の登録をして戸籍を作ります。10歳になるとフラン国民として認められ王家の管理下に入ります。抜け道はありますが、基本は10歳で手続きします。
「そんな時期でしたか」
「あの事件から15年たちます。姉様を探してる人間もいないでしょう」
「でもルーン公爵令嬢としては帰れません。ただこの子たちが戸籍がないのは困ります。でもこの子達の容姿で平民は無理でしょう」
二人の容姿はマール公爵家とルーン公爵家の色を引き継いでいます。特にティアの瞳は一目でルーンの直系とわかります。ルーンの直系だけは特別に深い青い瞳を持っています。他の水属性を守る一族よりもよく見ると深い青色を・・・。
「姉様もリオも貴族に戻るつもりがないことはわかっています。リオはマール公爵家の人間なので家業は手伝っているみたいですが」
膝の上のリアムを抱きしめます。
「母様?」
「この子達の未来のために学園に通わせたほうがいいのはわかってます。ただ貴族に目をつけられたら。」
「そこは僕にお任せください」
「二人を養子にってことですよね。でも権力を持てば責任が伴うわ。この子達には自由に生きて欲しいんです。貴方の前で言うことではないですが」
私は全部エディに押し付けた。
「僕は姉様が幸せならいいんです。いつも姉様に守られてきたから。今度は僕の番です。それに二人は可愛い甥と姪ですから」
「エディ」
こんなに立派になって。
「ね?僕も強くなったんで頼ってください。もう姉様に守られるだけの子供ではありません。僕の夢は姉様を守る事でしたから」
綺麗に笑う弟に胸が暖かくなります。
「エディ」
「これからは僕が姉様もリアムとティアも守ります。リオも仕方がないから引き受けてあげます」
「昔からリオには厳しいわね」
「僕から姉様を奪った男ですから」
「リオと結婚してもエディの姉様であることには変わりません。今も昔も大好きですわ」
「姉様。」
エディの頭を撫でます。大きくなっても嬉しそうに笑うエディに嬉しくなります。
「シア、安心して。何があっても俺が守るよ。そのために強くなったんだ」
リオに背中から抱きしめられてます。帰ってきたんですね。
「リオ、どうしよう」
「母様、僕は母様とティアを守れるなら構いません」
「リアム」
「泣かないで。いつも守ってもらうけど僕も守りたいんです。父様にも負けないくらい強くなりたい」
「ティアも。頑張るよ。母様泣かないで」
「二人共」
「リオが帰国して姉様そっくりの方と婚姻したことにもできますが、嫌でしょう?」
「ああ。リオ・マールはレティシア・ルーンしか傍におかないからな。それに公爵家の嫁なら社交が求められる。さすがに隠せないだろう」
「ティアをルーンの分家の形だけの娘に。後見は僕がつきます。分家なんで社交は最低限でいい。ティアが貴族としての生き方を望むなら話は別ですが。社交はマール公爵夫人にお願いしても?」
「母上に任せれば大丈夫だろう。リアムはマールの分家に名前だけ貸してもらうか」
「それ、偽造ですよね?」
「権力があるから問題ありません。王家はうちに大きな借りがあります。それに今はうちが一番強いです。姉様やティア達に手を出すなら潰しましょう」
エディの綺麗な笑顔に寒気がしました。
「もちろんマール公爵家も力を貸すよ。兄上達もティア達を可愛がってるしな」
リオの笑顔も怖いです。
「自分は社交をしないのに娘達にだけさせるなんて」
「よくあることだから気にするな。シアがこなした社交ほど過酷なものにはならないから」
「姉様は特別です。令嬢なのに夫人なみに社交をこなしてましたから。」
「はい?」
「ルーン公爵家の社交の八割を一人でこなしてましたから。父上も姉様のほうが適任だってほぼ姉様に回してました」
はい?確かにお母様の名代も多かったけど…。
「シアの出席する茶会は夫人ばっかりだったろ?普通は令嬢は令嬢同士の茶会を開くんだよ。」
「知りませんでしたわ。私、令嬢のお茶会なんて出席したことないわ」
めまいがしてきました。
「母様大丈夫?」
心配するリアムによわよわしく微笑むしかできません。
「ティアは王家の社交会デビューのパーティーだけ出ていただけば構いません。」
侍女の振りをしてティアの社交についていこうかしら。
「僕が付き添いますから姉様は家にいてくださいね」
エディ、心を読まないでください。
社交はあとで考えましょう
「でも二人が一緒にいられなくなりますわ。」
「二人を婚約者にしてしまえばいいんですよ。」
「名案だな。それなら虫もつかないし、一緒にいても問題はない」
「それは、あんまりでは」
「二人に想う相手ができれば破棄すればいい。」
「無理がありますわ。」
「僕はティアを守るためなら構いません。」
「俺の子供だから大丈夫だよ。唯一を見つけたら手段を選ばないだろう。」
「ティア、婚約しよう?」
「婚約?」
「一緒にいる約束」
「リアム、兄妹は結婚できないわよ」
「わかってますよ。でもティアを守るために必要でしょ?」
「さすが俺の息子!」
「リオ!?」
「ルーン公爵家とマール公爵家の婚約なら無理やり婚約者にされることはない。俺とシアにそっくりな二人なら味方につく貴族も多いだろう。」
「ええ。リール公爵夫人の出版した純愛物語に憧れる令嬢は多いですから。二人が一緒にいるだけで味方ができるでしょう」
「この子達を利用しようとする貴族も現れますわ」
「そこは僕にお任せください。家として利があるなら利用しますし不要なら切り捨てます。不埒な輩は地獄を見せます」
「その辺は俺がリアムを教育するよ。な?リアム?」
「ティアと母様を守るために頑張ります。」
「ティアはどうすればいいの?」
「ティアは僕と一緒にいてくれればいいよ。」
「わかった。リアムと一緒にいる」
外堀が埋められていきます。エディとリオ相手に私が叶うわけがありません。
「この子達のことを知ってる子にはどうしますの?」
「説得するよ。聡い子ばかりだから大丈夫だ」
「でもこの子達を守ることに家の利はないわ」
「エドワードと一緒で兄上達も二人を可愛がっているから大丈夫だ。マール公爵家は身内に甘いからな」
「何も返せません」
「いらないよ。みんなやりたくてやってるだけだから」
「姉様は頼ることを覚えてください。」
二人の顔を見て甘えることにしました。
「伯父様とお父様に相談しないといけませんね」
「僕にお任せください。ティア達の教育のために家に戻られますか?」
「いや。マール公爵家を頼るよ。」
リオとエディが笑顔で見つめ合ってます。
私にできることはなさそうですわ。
「リオ、私、ルリとしてなら学園の教員試験受かるかな?」
「それはやめて。シアは安静にしてて。お願いだから。まだ安静だろ。学園で子育てできないだろう」
後日ティア・ルーンとリアム・マールとして国民登録しました。
後見は両公爵が引き受けてくれました。
私はマール公爵家にお世話になり二人に貴族教育を始めました。
二人の婚約の手続きも気づいたら終わっておりました。
どうして私以外、この婚約に前向きなんですの!?
お世話になってばかりで申しわけないので、カナ兄様の書類仕事をリオと一緒に手伝っています。
外国語は得意なので翻訳はお任せください。
リオは安静にとうるさいです。
まさかエディがティアのエスコートをするためにルーン公爵に就任するとは思いませんでした。
宰相位はさすがにまだ引き継げないみたいですが。
可愛い我が子に幸多かれと祈ります。




