元公爵令嬢の記録 第六話 中編
こんにちは。ルリことレティシアです。
マール公爵領の村で謎の魔導士として生活しています。
今日はエイベルが約束通り遊びに来ています。
もちろんリオもいます。ティアとの約束を守って律儀ですわね。今日はエイベルは息子を連れてきています。
「エイベル、会いたかった!!」
抱きつこうとするティアを止めます。
「ティア、挨拶ですわ。」
「ティアです。お会いできて光栄です」
「リアムです。よろしくお願いします」
さすが二人。最近はティアにも淑女教育をはじめました。おしとやかな笑顔も教えましたわ。
「エラム・ビアードです。」
お顔が赤いけど、はじめてで緊張してるのかしら。
「エラム様、僕と手合わせしていただけませんか!?」
「リアム、初対面の方に失礼よ」
「シア、男はそんなもんだよ。俺が見るよ。ビアード鍛えてるんだろ?」
いつもはエイベルとティアの傍にいるのにリオが離れるなんて珍しい。
「ああ。まだ剣術しか教えてないが」
「充分だ。リアム、魔法はなしだ。いけるか?」
リオの笑顔怖いけど大丈夫かしら?
「お任せください。」
「エイベル、リアムは中々強いですが大丈夫ですか?」
「いい訓練になるだろう。エラムやるか?」
「はい。大丈夫でしょうか?」
「ああ。リアムは強いだろうから遠慮はいらない。だろ?」
「俺の自慢の息子だからな」
二人はリオに任せましょう。殿方の友情はわかりませんわ。
「ティアどうしますか?」
「エイベルといる」
「わかりましたわ。エイベル、ティアをお願いしますね」
エイベルがいればティアはご機嫌です。
私はお茶の準備をしましょう。ティアが頑張ってエイベル向けの甘くないお菓子を作りましたしね。
二人にお茶を出して、リアム達の様子を見に行きました。ティアの邪魔をする気はありませんわ。
うん。結果は予想してましたわ。
リアムの圧勝ですね。エラム様が茫然としています。
「エラム様?」
「俺、今まで同世代の子に負けた事なかったんです。大伯父上にも筋がいいって」
「ターナー伯爵の見立ては確かですわ。リアムのお父様もエイベルも言われてましたのよ」
「でも、年下に負けた」
「うちのリアムも鍛えられてますから」
「俺はビアード家の人間なのに」
「内緒ですよ。エイベルはリアムのお父様に負けたことがありますのよ」
今も勝てないことは言いません。威厳がなくなりますしね。驚いた顔で見られていますね。
「父上が・・・」
「ええ。でも強いでしょ?エイベルの真直ぐで誠実さは騎士達に信頼されてるでしょ。エイベルは人を引き付けるから、つい力を貸したくなりますわ」
「僕も父上のようになれるかな」
「貴方の頑張り次第ですわ。」
「僕が父上みたいになったらティアをお嫁さんにしていい?」
「ティアをお嫁さんにしたいんですか?」
「うん。ティア、可愛い。今まで見た中で一番。父上に向ける笑顔が可愛い。」
ティア凄いわ。将来モテモテかしら?
「ありがとう。ティアの気持ち次第ですね。お母様には内緒よ。ティアは貴方のお父様に夢中だから」
「俺に勝てないやつにはティアは嫁には出さないよ」
「リオ!?」
「リアムに負けて落ち込んでるからシアを貸したのに。伏兵か」
「リアムは?」
「ビアード達といるよ」
それも心配ですわ。
「勝てたら認めてくれますか?」
「ビアード公爵令息が平民の娘と婚姻なんて無理だ」
「ティアは父上の愛人になりたいっていうのに?」
「そんなの俺が許さないよ。」
「リオ、まだ子供なのよ」
「貴族の子供ならわかっているはずだ。」
「ちゃんとティアを正妻にむかえられれば認めてくれますか?」
「無理だな。俺もそれなりにツテがあるから権力は使えないからな。」
「絶対認めさせます。」
「諦めろ」
これ駄目ですわ。目の前の修羅場にどうすれば・・・。
エラム様もエイベルに似て負けず嫌いで頑固そうです。
さすがにリオも子供相手に手は出さないのでティア達の様子を見に行きましょう。
「ティア、エラムと遊んでこないのか?」
「ティアはエイベルといるの」
「同世代の友達ほしくないか?」
「ティアにはディーネとセリアとエステルとリアムがいるからいらない」
「エラムは俺と似てるから、好みだろ?」
「ティアはエイベルだけでいい。」
「やっぱりティアにエラム様を会わせたのはそうゆうことですか?」
リアムがエイベルを睨んでます。リアム、もう殺気だせますの!?
リアムも伯父様に見て貰ったら筋がいいって言われるかしら・・。
「年もつり合いが取れるし、丁度いいかと」
「エイベル、酷い。ティアはエイベルが好きなのに」
エイベル、最低ですわ。外見そっくりな相手に満足するわけないでしょ。
ポンコツでしたわ。エイベルの情操教育も必要だったでしょうか。
「エイベル様、手合わせしてください。僕も風使いを目指してるんです」
「お前、魔法が使えるのか!?」
「父様に鍛えてもらっているので」
エイベル驚いてますね。リアムはやっぱり風属性なのでリオが鍛えてます。ティアが心細げにリアムを見ます。
「リアム」
リアムの殺気がおさまりました。さすがティア。リアムが両手をひろげます。
「ティア、おいで」
ティアがエイベルの膝から降りてリアムに抱きついてます。これは相当傷つきましたわ。いつもは絶対離れませんのに。やっぱり泣いてしまいました。
エイベルのポンコツぶりにさすがに怒りが湧いてきましたわ。
「エイベル、さすがにひどいですわ」
「俺の愛人になるよりいいだろ。俺の見た目が好きならエラムでも」
「最低ですわ。ポンコツすぎますわ」
「おまえ、ポンコツって」
「そんなに簡単じゃないんです。外見がどんなにそっくりでも駄目ですもの」
「レティシア?」
「好きな人から他の人を紹介されるくらいなら、振ってもらったほうがいいですわ。恋心なんて木っ端みじんになるくらいに。」
「レティシア?」
ティアにエイベルの優しさは不要です。中途半端な優しさは毒でしかない。エイベルを睨みつけます。
「容赦はいりません。10年後のティアに全く気持ちが揺れないと言えますか?」
「俺は将来のビアード公爵だ。愛人を持つなんて許されない。ビアード公爵家にはティアは不要だ」
これをティアの傍で言ってる意味に気付かないんでしょう。きっとティアの心が悲鳴をあげてる。
「リオには手出しをさせません。私はエイベルもティアも信じてますわ。遠慮は不要です。ティアは私の自慢の子だから大丈夫です。」
ティアごめんね。きっともっと傷つけます。でもエイベルは決めたら揺るぎません。
ちゃんとあなたが幸せになるまで傍にいます。
エイベルが真剣な顔でティアを見ました。ティアがリアムの腕の中から視線を向けました。
「ティア、ごめん。俺は将来ビアード公爵になる。だからお前の気持ちを受け取れない」
「大きくなったら」
「違うんだ。ティアだからじゃない。俺は貴族で役目がある。正妻以外を傍におくのは許されない。誰も愛人にむかえることはできない」
「エイベル?」
「まだ難しいかもしれない。ただ俺がティアを愛することも愛人にすることも絶対にない。それだけは覚えていてほしい」
「ティアが邪魔?」
「違うよ。好かれるのは嬉しいよ。でも俺はティアより大事で守りたい物があるんだ。大人になったらわかるから」
「ティアが子供だから?」
「違う。ティアが大人になってもティアを傍にはおけない。どんなにティアが頑張っても俺はティアを選ばない」
ティアがリアムから離れて飛び出していきました。痛いね。貴族の世界は思いだけではどうにもならない。リアムが追いかけたから大丈夫でしょう。
「ディーネ、お願い」
ディーネに頼んだから大丈夫。ごめんね。ティア。ティアのことを思うと胸が痛いです。
「ビアード」
リオが殺気を向けています。
「リオ、やめて。私が頼みました。お願いですから」
「シア」
心配そうに私を見て抱き寄せようとするリオの腕に首を振ります。
「大丈夫です。中途半端な優しさより木っ端みじんの方がいい。ビアード公爵になるエイベルにはティアは不要ですもの。もしかしてって思いましたが、エイベルには無理ですわ。」
「シア」
「ティアには残酷なことをしたのはわかっています。いつか恨まれてもいい。エイベル、ありがとう。貴方のおかげでティアは前に進めます。でも将来、成長したティアを見て、愛人にしたいって願っても許さない。未来はわからないけど、今の時点で覚悟を決められなかった貴方にはティアを託せない。駆け落ちしたいって願っても絶対に許さない。相打ちしてでも貴方にティアは渡しませんわ」
ごめんね。ティア。溢れそうになる涙を袖で拭います。
「シア、その時は俺が始末するから安心して。もともと俺は愛人なんて反対だ。ビアード、今日はありがとう。見送りはしないから今日は帰ってくれ」
「ああ。エラムは?」
エラム様はティアを追ったみたいですが、リアムの魔法に取り押さえられてました。
リアムは後でお説教ですわ。エイベルはため息をついていました。
エラム様はエイベルに任せて我が子を探しましょう。
「母さま」
リアムの腕から出てきたティアを抱きしめます。
「ティアね好きなの」
「うん」
「傍にいれればなんでもよかったの、でもねえいべるはいらないんだって。いつも、想うだけで幸せだったのに、いたいの、くるしいの」
泣くティアの頭を撫でるしかできません。
「ティアにもとうさまみたいな人見つかるかな」
「父様はティアが大好きよ」
「とうさまはかあさまが一番だから。ティアもだれかの一番になれるかな」
「きっとなれるわ。ティアは私の自慢の娘だもの。エイベルなんかより素敵な人を見つけましょう」
「いるかな?」
「ポンコツエイベルより素敵な人はたくさんいるわ。これからたくさんの人に出会います。」
「いたいのなおる?」
「うーん。また誰かを好きになったら痛くなりますわ。」
「くるしい」
「一つ大人になったわね。母様も昔は痛くて苦しくてたまりませんでした」
「大人?本当?」
「ええ。本当ですよ。」
「エイベルの言ってることわからなかったから、今度教えてくれる?」
「もちろん。母様はティアを応援するわ。難しいことだから少しずつ覚えていきましょう。リアムが心配してるからなんとかしてくれる?」
「うん」
ティアが心配そうな顔をしているリアムの所に行ったから大丈夫でしょう。
「複雑だ」
「リオ?」
「いつかは自分の唯一を見つけるんだろうな。いつまでも子供のままでいいのに」
「ティアは父様みたいな人を見つけたいって」
「ティアは天使だ。」
「ティアが可愛いのはわかりますが私とリアムも忘れないでくださいませ」
「勿論。俺の唯一はシアだけだ」
リオに口づけられました。
寂しいけどいつか二人が唯一を見つけて幸せになってほしいですわ。
10歳で失恋か。凄いですわ。私の初恋なんて14歳でしたわ。




