元公爵令嬢の記録 第六話 前編
こんにちは。ルリことレティシアです。Aランクの冒険者です。
夫はSランク。双子のリアムとティアはCランクです。二人も10歳になりました。
リアムはBランクにもなれますがティアと一緒がいいとCランクのままです。
リアムの戦闘センスはさすがリオの子供ですわ。私もいつまで勝てるかわかりません。
我が子の成長は嬉しいですが複雑です。
私達は冒険を続けてきました。
今はマール公爵領の家に帰ってきています。
クロード殿下に子供ができましたし、妾にされる心配もないでしょう。
一つ困ったことがありますの。
ティアの初恋は歳と共に薄れていくかと思ったんですが、甘かったですわ。同世代の男の子には興味もわかないみたい。エイベルなんて22歳も歳が離れてますのよ。老けたエイベルに会えば諦めるかな。旅立つ前にリオにコテンパンにされたエイベル見ても駄目でした。
セリアに相談したら愛人でもいいじゃないって笑ってます。
二人の子供だからねって。
エイベルの性格上愛人は希望が薄いと思います。もう子供もいますし、夫人とも仲が良いと聞いています。エイベルのことをわかってくれる人で良かったです。
フラン王国は一夫一妻制。王家は特別です。エイベルとのことを反対しているリオでさえ、「俺、エイベルを亡き者にするしかないと思う」って。必死で止めましたわ。完全犯罪にするからって不敵に微笑まれて寒気がしました。この感じ久しぶりでしたわ。ティアの初恋はリオに任せられません。ティアには可哀想だけど、エイベルに振ってもらうしかないかしら?
今はリアムはリオと修行に行っています。決めました。エイベルに会いに行きましょう。エイベルは近衛隊の訓練に行ってるはず。訓練場はここから遠くないです。
「ティア、お出かけしましょう」
「お出かけ?父様とリアムは?」
「お手紙書いて行きましょう。エイベルに会いにいきましょう」
「行く!!母様大好き」
「でもエイベル、お仕事中だから邪魔しないって約束できますか?」
「うん。ティア約束する」
リアムは早熟ですが、ティアは年齢のわりに幼いです。たぶんリオとリアムの所為です。
貴族ではないのでいいですが。
リオとリアムに手紙を残しディーネを連れて出かけます。
馬にティアと相乗りして訓練している森を目指します。
やっぱりセリアの情報通りでした。
グランド様もいるので合同訓練のようです。
ティアにも気配を消すことは教えてるので大丈夫です。ティアをディーネに任せて茂みに隠します。
エイベルが一人になったのでチャンスですわ。
近づくと剣を向けられます。気配消したのに流石ですね。ディーネに結界を頼んでいるのでローブのフードを脱ぎます。驚いてますわ。
「お久しぶりです。」
「お前、なんで?」
「全然会いにきてくれませんもの。」
「だからってやり方があるだろう」
「王宮にいない訓練の日を狙うしかなかったんです。」
頭を抱えてため息ついてます。
エイベルはリオが怖くて会いにきてくれないなら私が会いにいくしかなかったんです。
私だってこんな間者みたいなことしたくなかったですわ。
「元気そうで何よりだ」
「きっとこれからも会いにきてくれないと思うのでお願いがありますの」
「相変わらずだな。」
「時間を作ってくれませんか?」
「今か?」
「いつでも。リオには言いません。日時を指定していただけばこちらが向かいますわ」
「まさか・・・・。今、マールは傍には」
「リアムと修行中です。書置きしてきたので大丈夫ですわ」
エイベルの顔が真っ青になりました。
「書置きの内容は?」
「ティアと出かけてきます。心配しないでください。迎えもいりませんと」
「それはまずいんじゃないか?」
「ちゃんと追いかけられないようにしてきたので大丈夫ですわ」
ディーネに対策してもらったのでばっちりですわ。
「お前は・・。サイラス呼んでもいいか?」
「構いませんわ。いつが都合がいいですか?」
「お前、次も同じことするんだろう」
「ええ。こちらも事情があるのです。」
「いくつになっても変わらないな」
乱暴に頭を撫でられます。歳をとっても変わりませんね。
「念のためローブ着てろ。そこの天幕にいろ」
「ありがとうございます」
ちゃんと時間を作ってくれますのね。
わかりにくいけど昔から優しいんですよね。
もうポンコツエイベルではなくなったのでしょうか。
ティアと一緒に天幕にいきます。結界があったので、解除し中に入ります。
ティアも勿論ローブを着ています。
しばらく待つとエイベルとグランド様が来ました。
ディーネに結界を頼みます。ティアが満面の笑みでエイベルに抱きつきます。5年振りでしょうか。ティアを溺愛してるリオには見せられません。
「会いたかった!!」
グランド様が隣に来ました。
二人の様子に苦笑してます。
「大丈夫なの?」
「何がですの?」
「リオに黙って来たんだろ」
「可愛い娘のためですから。ティアには可哀想ですが、そろそろ現実を教えようかと」
エイベルがティアの頭を撫でてます。
ティアは満面の笑みでご機嫌ですわ。
「ティアか。大きくなったな」
「うん。ティア頑張ったの。邪魔しないから愛人にしてほしいの」
「は?」
「エイベルが好きなの。父様からはティアが守るよ。ね?」
「まだ子供だろう」
「父様が母様を唯一って決めたのはもっと前だって。母様も10歳で婚約したって。これからも頑張るから約束が欲しいの」
ティアの上目遣いのお願いに困ってますね。私のお願いは効かないのに悔しいですわ。
「ルーン嬢、どうする気なの?」
「エイベルに振ってもらうか、愛人として受け入れてもらえるなら教育しようかと。エイベルの愛人になるなら今のティアでは務まりませんわ」
「それにはリオは?」
「リオは頼りになりません。エイベルを亡き者にしようとするだけですわ」
グランド様の顔が青くなりました。
「年の差は気になりますが、他国には30歳差もいますしね。本人達が気にしないならいいでしょう」
「愛娘が愛人でもいいの?」
「ティアが望むなら。どんな形でも想い人の傍にいられるなら幸せですわ。相手に自分以上に大事にする方がいるのは辛いでしょうが。エイベルならティアを不幸にはしないと信じてますわ」
「ティアがエイベルを諦めるのは?」
「ティアを溺愛するリオさえも無理だと嘆いています。悲しい顔で俺に似たのかなって」
リオには申しわけないですが、あんなにへこんだリオは初めてで可愛かったですわ。
思い出したら笑えてきましたわ。今は我慢です。
グランド様の残念なものを見る視線は気にしませんわ。
「ティア、俺には妻もいるし子供もいるから無理だ。」
「ティアは愛人でいい。同じお家じゃなくていいから。時々、エイベルが会いに来てくれればいいの。お金も自分で稼ぐから。小さいお家を買ってエイベル待ってる。邪魔しないよ」
「グランド様、うちの子、優秀みたい。私が教えなくても自分の立場わかってますわ」
「ルーン嬢、落ち着いて」
「ティアは手先も器用だし、もう少し冒険者のランクをあげればできますわね。貴族が平民の愛人を持つのは珍しくないし」
「俺にとってティアは娘みたいなものだから。ごめんな」
「今は駄目でも、もっと大きくなって綺麗になるから。まだティアは小さいけど、ちゃんと大きくなるよ。もし大きくならなかったらセリアに頼むから安心して」
「ティア!?レティシア、どうゆう教育してるんだ」
「今はティアのことだけ考えて。母様は駄目。母様は父様のものだから。ティア、母様に似てるから安心して。母様のかわりにしてもいいよ」
「ティア!?」
エイベルが動揺してます。我が娘ながら可愛いですわ。
生前ルメラ様にイチコロされたエイベルならティアにイチコロされるかしら・・。
ただ、
「それだと愛人ではなく妹ですわ。まだティアには難しいかしら。」
「ルーン嬢、止めなくていいの?」
「予想外ですわ。エイベルに振られて諦めると思ってたんですが。ティア、エイベルを押してますわ。エイベルに成人するまで手を出さないでと約束を取り付ける方がいいかしら」
「俺にはビアードが亡き者にされる未来が」
「それはないですわ。ティアがエイベルを亡き者にしたら一緒に死ぬってリオに言ってましたから。」
「もしかして、ティアが一番強いの?」
「戦闘は一番弱いですが、相手の痛いところをつくの一番上手ですわ。誰に似たのかしら・・。」
「ティアにお願いされたらリオも駄目だしな」
「ええ。妬けますわ。ティアもエイベルのこと以外は良い子ですわ。リアムだけは純粋に真直ぐに育ってくれてますね。リオの教育の所為かしっかりしてますよ。きっと将来モテモテですわ」
どうして、そんな信じられないものを見る目で見るんですの!?
親の欲目かもしれませんがうちの子達は優秀で良い子ですわよ。
「なぁ、ティア、なんでそんなに俺がいいの?」
「エイベル、恰好いいもん。」
「わかった。愛人の話しはもう少し大きくなってからな。ちゃんと会いにいくから今日は帰ってくれるか?」
「本当に?ちゃんと会いにきてくれる」
「ああ。約束する。」
「ティア、待ってる。エイベル、大好き」
これは予想外の展開ですわ。
「グランド様、ティアの勝ちですか?」
「いや、たぶんビアードはティアの愛人話より先に君達を帰したかったんだと思うよ。ほら迎え来てるし」
迎え?
振り返るとリオとリアムが見えました。
「はい!?幻覚でしょうか・・」
「幻覚じゃないから。俺達が連絡しなくても来てたと思うけど」
連絡いれたんですか!?できれば二人に見つからないように帰るつもりでしたのに・・。
「まだ心の準備ができてません。グランド様一緒に帰りませんか?」
「まだ仕事中だからごめんね。今のリオは俺には無理だから。頑張って」
「そんな・・。」
「リオの殺気が怖いから泣きそうな顔やめて。ちゃんとリオには効いてるから大丈夫だよ」
グランド様に見捨てられたらどうやってリオの機嫌を取ればいいんでしょうか。
「母様!!」
リアムがかけてくるので抱きしめます。
「心配しました。うちに帰ったら母様もティアもいなくて、僕」
「ごめんなさい。寂しかったですね」
リアムの頭を撫でます。いつまで甘えてくれるんでしょうか。
不機嫌な夫も近くにいます。
「シア、書置きするならちゃんと行先と用件も書いて。手紙を読んで焦ったよ」
「ごめんなさい。でも許してくれないでしょ?」
「そんなことない」
「どうかしら。エイベルに手を出したら許しませんよ。」
「たまには俺も訓練したい」
「リオ、やりすぎますもの。ティアが泣きますわ。帰りましょう。ね?」
「あざとい。やっぱり邪魔だな。」
「リオ?」
「愛しいシアの願いは叶えるよ。ティアは俺より強い男じゃないと嫁には出さないけど」
「父様、僕も忘れないで」
「ああ。リアム、二人を守るために強くなろうな」
「うん。僕が母様とティアを守るよ」
「さすが俺の息子だ」
誇らしげに息子を見る夫に複雑です。
「グランド様、私はティアの味方でいますわ。あの二人に勝てる方なんて想像つきませんわ」
「ルーン嬢は何もしないほうがいいと思うよ。そろそろ仕事に戻りたいからティアを引き取って」
いつまでも二人を独占しているわけにはいきませんね。
「ごめんなさい。お邪魔しましたわ。ティア、帰りますわよ」
「エイベル、最後に抱っこして!!」
エイベルがティアを軽々と抱き上げます。さすがですわ。ティアがエイベルの頬に口づけしました。エイベルが固まってます。
「ビアード、お前!!」
まずいですわ。ティアがエイベルの腕から降りてリオに抱きつきます。
「父様、お帰りなさい。帰ろう。ティアお腹すいた」
ティア、上手いですわ。リオはティアのおねだりに弱い。
「リオ、帰りましょう。ね?」
「でも」
もうひと押しかな。ティアに聞こえないようにリオに囁きます。
「ティア達見てたら懐かしくなりましたわ。今日は甘やかしてくださいな。」
リオの顔が怖い顔から変わりました。もう大丈夫ですわ。
「昔のティアのお願い叶えるか」
「それもいいですわね。二人も大きくなりましたものね」
「本当!?」
「ええ」
「帰ろう」
グランド様が笑ってエイベルが変な顔をしています。
相変わらず失礼ですわ。二人に礼をして帰りました。
今日は手のかかる夫を甘やかしましょう。リアムはティアに任せておけば大丈夫ですわ。
リオはティアを抱っこしているので私はリアムと手を繋いで帰りました。
夜は眠れないのは覚悟しますわ。




