元公爵令嬢の記録 第五話
こんにちは。ルリことレティシアです。Aランクの冒険者です。
夫はSランク。双子のリアムとティアはCランクです。二人は9歳になりました。
クロード殿下に子供が産まれたのでフラン王国に帰国しました。
せっかくなのでフラン王国を観光しています。
フラン王国の観光は初めてです。
なんとフラン王国に芸術の都といわれる地域ができました。
演劇や大道芸もあるそうです。
せっかくなのでマール公爵領に帰る前に立ち寄りました。
念のためローブ着用で瞳の色は変えています。
市を歩いています。
この領は珍しいものがたくさんあります。
領主様が貿易に税金をかけないため、他国の商人も露店を開いてます。
この市も人気の観光名所みたいですわ。
代替わりした新しい領主様は優秀な方ですのね。
将来の殿下の治世に心強いお味方ですわ。
リアムとティアの目が輝いてますね。
「リオ、これ見てください。ラウルの畑のかぼちゃとそっくりです」
「懐かしいな。シアが包丁で切れなくて剣を使おうとしてたもんな」
「忘れてくださいませ」
「ラウル様を知っているのかい!?」
「ラウル様?」
「ラウル様はこの地に育ちやすい種を無料で配布してくれたんだ。領主さまの側近なのにえらぶらないで、時々畑の様子を見に来てくれるんだ。いつも困ったことがあれば相談してくださいって。しかも領主様にお願いして魔導士を派遣して土壌環境を整えてくれるんだ」
「すばらしい方ですね。私の友人も同じ名前で立派な方ですのよ」
「新しい領主様が来てこの町は変わったよ。観光かい?」
「ええ。」
「もうすぐあのテントで芝居があるから見てきなよ。月に1度の領主夫妻からのプレゼントだ。お代のいらない芝居だよ。」
「リオ!!お金いらないって」
「シア、別にお金に困ってないから」
「リアム、ティア、お芝居みにいきませんか?」
「ティアはこれが欲しい」
ティアが紫色の実を指さしますね。
「お嬢ちゃん、それは酸っぱいよ。こっちならそのまま食べても甘くておいしいよ」
「これを」
リオが購入した途端にティアの目が輝きましたわ。
「リオ!?」
「経験だよ。リアムと分けるんだよ」
「うん。ありがとう。父様」
「リオ、すぐ甘やかすんだから」
「まぁまぁ。ほら芝居行きたいんだろ?」
ごまかされた気がしますが、リオに促されるままに教えてもらったテントに向かいます。
人が多いですね。
月に一度、芸術を広めるために領主様主催の演劇やコンサートなどの催しが行われるそうです。
全ての人に芸術のすばらしさを。リール公爵家を思い出しますね。
二階席の空席に座ります。さすがにローブのフードは脱ぎます。
視線集めているけどなんでですの?魔導士が珍しいんでしょうか?
リオにフードを被せられました。
無礼講なので、咎められないそうですわ。
三人共、いつのまにかフードを被っていますわ。
演劇は二人の少年と少女のお話しでした。
二人の恋人の仲睦まじいシーンから始まります。
幼馴染の二人は幸せに暮らしていました。少女はある日強い魔力に目覚めます。魔力に怯える少女に少年が手をとり強い魔力を持った少女を守ると誓いました。少年の決意に少女は幸せそうに笑っています。魔法を使って幻想的な演出でうっとりと見てしまいます。少女を守るために強くなる少年の修行シーンも迫力のある演出をしていました。
少年役は風魔法の使い手です。少年なのに迫力がありますわ。
国が魔物に襲われて、少年は少女を守るために戦うけど、力半ばで倒れてしまいました。少女は少年のために禁忌の魔法を使って魔物を倒しました。少女は最後の力を使って傷ついた人達に治癒魔法を使い消えてしまう。目を醒ました少年は愛する少女を探して旅立ちました。
お話はこれで終わりです。
少女と魔物の戦いもすごい演出でした。少女の禁忌の魔法で現れた女神は美女でしたわ。これは男性客を惹きつけますわね。光と水の演出で綺麗でしたわ。
「悲しいね」
泣いてるティアをリオが抱き上げます。本当にうちの子は優しい子です。
「僕は魔物に負けないくらい強くなるよ。」
リアムの頭を撫でます。
「きっと立派な騎士になりますわ。楽しみですわ」
「ティア、このお話は続きがあるんだよ」
「つづき?」
「少年は旅にでて、愛する少女を見つけるんだ。」
「二人はちゃんと一緒?」
「ああ。再会した二人はずっと一緒だ。結婚して可愛い子供も産まれて幸せに暮らすよ」
「よかった。」
ティアがいつのまにか泣き止んで笑ってますわ。
リオは泣いてるティアをあやすのが上手で関心しますわ。
「リオ、このお話知ってますの?」
「ああ。良く知ってる」
「さすが元巡廻使ですわね。私、初めて聞きましたわ」
「俺は消えてしまった少女に思うところがあるけどね」
「リオがお話に感情移入するなんて珍しいですね」
「是非今度消えるときは少年の怪我なんて治さなくていいから引きずってでも一緒に連れて行ってほしい」
「それだと、観客には最終的に恐怖しか残りませんわ」
「父様、絵本買ってきてもいい?」
「ティア、一人じゃ危ないから父様と行こう」
ティアがリオの腕から飛び降りて走っていきました。リオが慌てて追いかけていきましたわ。
ティアが人にぶつかってしまいましたわ。
リアムと手をつないで、二人のもとにむかいます。
ティアのフードが脱げてしまいました。
人が集まってきますが、どうして?
ティアが少女と同じ銀髪なので演者と勘違いされたのでしょう。
劇は盛り上がっていたので勘違いされたら危険ですわ。リオがいれば大丈夫でしょう。
「リアム、ローブが脱げないように気をつけてね」
「うん。わかった」
リオがティアを抱き上げてこっちに向かってきますね。
「シア、まずいから移動しよう」
「わかりましたわ」
歓声?
役者の方々が売り場に出てきましたわ。
皆の視線が釘付けに。
「こちらへ」
青年に誘導されるままに付いてきたけどいいんですか?
リオが従うなら任せましょう。
部屋に通されましたわ。
「お久しぶりですね。レティシア嬢、リオ様」
この面影は、ラウル!?
「ラウル!?」
「はい。レオ様からお話は聞いてましたがお元気そうでよかったです」
「よく俺達ってわかったな」
「セリア様に怪しいローブの4人家族をみたらきっとお二人だと。そろそろそっちに行くと思うわと言われていましたので」
「さすがセリアだな」
セリアが作ったのに怪しいローブってひどい・・。
「レオ様は御元気ですか?」
「ええ。お時間あればお会いになりますか?エイミー様とサラ様もいらっしゃいますよ」
「旅行ですか?」
「シア、本気で言ってる?」
ラウルが穏やかな顔で笑ってますわ。懐かしいですわ。
「レオ様はこの領の領主ですよ。」
「まぁ!?レオ様、立派になられましたね。」
「部屋を用意するのでよければ泊まっていってください。私の家は使用人はいませんのでご心配なく。公爵家の家とは比べ物にならないですが、それでも宜しければ」
「言葉に甘えようか。ラウルの家にいればレオ様くるんだろう」
「お忍びで来ますね。領主夫妻のお忍び好きは有名です。忍べてないんですが、レオ様も強いから好きにしていただいてます。」
レオ様、あれからお忍び気に入ったのかしら・・。クロード殿下もお忍び好きなので血筋でしょうか。
卒業後はラウルは村に帰ると思ってましたのに意外ですわ。
「まさか卒業しても一緒とは思いませんでしたわ」
え?ラウルの顔が青いです。
いつも穏やかなお顔のラウルの苦笑は珍しいですのよ。
「さすがに卒業式の後にレオ様とエイミー様に懇願されて断れませんでした。陛下と王太子殿下の前だったので、不敬罪にならないか頭が真っ白になりました」
「ラウル、ごめんなさい。レオ様の情操教育を貴方一人に押し付けて。ポンコツエイベルは役に立たなかったから尚更ですね。でもエイベルに任せたらきっとレオ様もポンコツになるから、ラウルに任せたのが正解だったと思いますの」
「シア、落ち着いて。ラウルが困ってるから。リアム達を紹介しよう」
「そうね。リアム、ティア、母様のお友達に挨拶できる?」
「リアムです。よろしくお願いします。
「ティアです」
ラウルがしゃがんで二人の目線に合わせます。
「こんにちは。素晴らしい挨拶ですね。ラウルです。お近づきの印にどうぞ」
ラウルがポケットから小さい包みを二人に渡します。
二人に見つめられますね。知らない人にものを貰ってはいけないという教えを守ってえらいですわ。
「頂いていいですよ。お礼を言ってくださいね」
「「ありがとう」」
「いつ見てもラウルはすごいな」
リオがラウルを褒めてますわ。
もしあのまま王国にいたら、リオがラウルを引き抜いたかしらね。
リオはラウルのことを気に入ってますものね。
ラウルに案内されてラウルの家に行きました。
大きい畑がありますね。
母屋と離れがありますね。
「大きいですよね。レオ様達がくださったんです。遠慮したんですが、また懇願に負けてしまって」
「ラウル、当然の権利だからもらっておけ。貴族の財産なんて有り余ってるんだから有効活用するのが一番だよ。」
「さすがリオ様ですね。離れを使ってください。セリア様用に片付けてあるので」
「セリアも来ますの?」
「時々一緒に研究しますね。王都で行き詰るとこちらの離れに引きこもることもありますよ。」
「仲が良いんですね」
「レティシア嬢が心配するような仲ではありませんよ。ただの研究仲間ですよ」
私はラウルならセリアを任せてもいいと思いますが残念です。
離れは広かったですわ。
客間のベッドは2つですが問題ありませんわ。
食事は用意をしていただけるみたいです。
ラウルの淹れてくれたお茶とお菓子をいただいて、荷物整理をしているとノックが聞こえてきましたわ。リオが苦笑して招きいれてますね。美味しそうな香りがしますわ。
「レティシア!!」
女性に抱きしめられます。
「元気で良かったわ。」
この花の香りの感じは。女性の背に手をまわします。
「エイミー様?」
「エイミー、レティシア様が困っているから離れてあげて。」
声の先に目線を向けると、サラ様!?
慌ててエイミー様を引き剥がして礼をとります。
「頭をあげて。礼はいらないわ。もう私は王家の人間ではないもの。」
頭をあげます。変わらずお美しいですわ。
「サラ様、素敵なドレスをありがとうございました」
「サイズピッタリだったでしょ?」
「ええ。驚きましたわ。私、あんな素敵な物を頂いたのに、お返しなにもできずに申し訳ありません。」
「もう充分たくさん頂いてるわ。私はレティシア様に感謝してるの。レオと友達になってくれてありがとう。あなたのおかげで、レオの世界が広がったわ」
「そうよ。貴方は私の大事な友人で恩人よ」
「エイミー様もありがとうございました。凄く嬉しかったです」
「花嫁姿、綺麗だったわ。レティシアの映像、セリアに複製してもらったの。この目で見れなかったのは残念」
「エイミー様、落ち着いてくださいませ」
興奮するエイミー様に驚きます。でも可愛らしい姿はかわりません。
サラ様に感謝されるのは変な感じがします。
「リオ様もありがとう。レオのためにたくさん動いてくれたこと感謝してるわ。王家は歪んでいるから気をつけて。陛下もクロード殿下も利のためなら手段を選ばないわ。」
「サラ様?」
「意味がわからなくても覚えておいて。二人は絶対に信用してはいけないわ。誠実そうな見た目に騙されてはいけないわ。」
「わかりました。心に留めておきます」
「もし、貴方達が王家に狙われたら力になるわ。私、あの呪われた王家から私達を解放してくれたこと感謝してるの。王家に忠誠なんて掲げてないから安心して頼ってくれて構わないわ。」
「わかりました。サラ様、早速、相談なんですが殿下に足取りが掴めないようにする方法はありますか?」
「殿下に頂いたものを見せてもらえる?」
「これを」
「これに、追跡魔法が仕掛けてあるわね。これには転移陣も仕込んであるわね。預からせてもらっても?」
リオとサラ様が荷物を広げて何かしてますわね。
エイミー様はやっと落ち着きましたね。
肩を掴まれて、見つめられます。
エイミー様に見つめられるのは気恥ずかしいですわ…。
「レティシア、私達はこれからもっと力をつけるわ。今後、何があっても私達は貴方達の味方になるわ。誰が敵になってもこれだけは変わらないわ。」
「エイミー様?」
「私達はレティシア達が大好きなのよ。幸せになってほしいの。」
「ありがとうございます。」
「もし困ったことがあればうちに来て。もちろんうちに引っ越してきても大歓迎よ」
「レティシア!!リオ!!」
突然扉が開きましたわ。
「レオ様、ノックしてください」
「ごめん。ラウル」
ラウルとレオ様が料理を持って中に入ってきました。
ラウルが食事の用意をしてくれたので甘えていただきます。
素朴な味はケイトを思い出しますわ。
リオはラウルとレオ様に誘われて酒盛りするみたいです。
サラ様は帰っていかれました。
リアムとティアはエイミー様にバイオリンの手ほどきを受けています。
懐かしいですわ。私もリール公爵夫人に指導を受けましたね。
3日ほどラウルの家にお世話になりました。
エイミー様は連日リアム達の指導に来てくれました。
二人にバイオリンまで贈ってくれました。至れり尽くせりですわ。
何かお礼をと言ったらリオとのバイオリンの合奏をお願いされました。
二人で演奏したら、どうしてか泣いておりました。
懇願されたので映像魔石にリオとの演奏を何曲か記録しました。
恥ずかしいですがこれくらいならお安い御用ですわ。
レオ様達が幸せそうでよかったですわ。
私達はマール公爵領に帰ってきました。
ティアとリアムのマジック袋の中身を見て固まりました。
エイミー様達からバイオリン以外にも絵本や小説、画集などたくさんいただいていたみたいです。
リオは知っていたみたいです。
まさか、黒歴史の純愛物語まで・・。
捨てようかと思いましたがエイミー様からの贈り物を無碍にできません。
封印しようとしましたらリアムとティアにやめてと懇願されてしまいました。
我が子の可愛さに負けましたわ。
きっと純愛物語のモデルが私達とは気づかないことを祈りましょう。
目をキラキラさせて小説を読む愛娘に複雑ですわ。
当分は冒険はお休みしてゆっくりしましょう。




