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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
番外編 家族の記録

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163/207

王太子の後悔。遠い昔の記憶 前編

レティシアがクロード殿下の婚約者時代の話です。

あんまり明るいお話ではありません。



私はクロード・フラン。

フラン王国王太子。最愛の婚約者はレティシア・ルーン公爵令嬢。

私は彼女のために豊かな国を築いていきたいと思っている。



私と彼女の出会いは彼女の記憶では8歳のときだろう。

ただ私が彼女を知ったのは彼女が6歳の時。


私が8歳の頃、彼女は6歳、母上が私の婚約者候補を見極めるために小規模のお茶会を繰り返していた。

その頃から母上とサラ様の対立が激化していた。

サラ様はシオン伯爵家出身で才女。臣下たちの信頼も厚かった。ただ母上はそれが許せず、サラ様から研究を奪ってしまった。側妃のすることではないと。サラ様は美しく若い。父上が二人を平等に扱ったのも許せなかったんだろう。サラ様の子供である義弟のレオには継承権はないのに、私の地位を脅かされることに怯えていた。その所為か母上の派閥を広げることと私の婚約者を見つけるのに躍起になっていた。

我が母ながら愚かな人だ。

私も自分の婚約者が気になったので時々忍んで観察していた。



お茶会で母上が令嬢達に必ず聞くことがある。

「あなた達は将来どんな殿方と添い遂げたい?ここは無礼講よ」


無礼講とはいえ正妃のお茶会。

令嬢は皆、私の名前をあげる。つまらない解答だが母上にとっては正解だ。

ただ一人だけ私の名前をあげなかった令嬢がいた。招かれた令嬢の中では一番幼い銀髪の青い瞳の令嬢。


「私はお父様の選んだ方です」

「どんな人でもいいの?」

「はい。ルーン公爵家の令嬢としてきちんと務めを果たします」

「遠い国やあなたのお父様より年上でも?」

「はい。お父様がルーン公爵家と陛下のためとお考えなら構いません」


真直ぐな瞳で母上を見つめる顔に見惚れてしまった。

媚も嘘も含まない言葉。

あの真直ぐな瞳に見つめられたらどうなるんだろう。

そのあとも自分より年上の令嬢達の攻撃にも人形みたいな柔らかな笑顔で躱していた。

おもしろい子だ。


母上が庭の散策を許したことも気づかずに青い瞳の令嬢の攻防戦に見入ってしまっていた。

令嬢達の声が近くに聞こえて慌てて移動した。

髪の色は変えているけど、ばれたら面倒。

令嬢達を避けて移動するとばったり会ったのは一人で花をみていた青い瞳の令嬢だった。

立ち去ろうとする私は彼女に声をかけられ立ち止まった。

彼女は私をじっと見て近づいてきた。

私の腕をとりハンカチを巻き付けて無邪気に笑った。さっきの母上のお茶会での人形みたいな顔とは全然違って驚いた。

腕、切ったのか。気づかなかった。令嬢が手当できるのは驚いた。

見ず知らずの人間にためらいもなく近づくのは危険だが幼さゆえか。


「あとでお医者様にみてもらってくださいね」

「手当ができるなんてすごいね」

「リオ兄様に教わりました。早く良くなるといいですね。」

「ありがとう」

「お大事にしてくださいね」


この時私は婚約者にするなら彼女がいいと思ったんだ。今までどの令嬢に興味はわかなかった。

無邪気な笑顔が頭から離れなかった。あんな顔は誰にも向けられたことがない。母上は彼女をお気に召さなかったみたいだけど、父上にお願いした。父上は魔力さえあればルーン公爵家の令嬢なら王太子妃として申し分ないと言ってくれた。


彼女は6歳、社交界デビューをしていないからそれから王宮にくることはなかった。

彼女のことを調べて、時々お忍びで見に行った。ルーン公爵邸では人形みたいに過ごすのに、マール公爵邸にいるときは無邪気に年相応の子供になる。リオ兄様はマール公爵家の三男のことだったのか。無邪気に従兄を慕っている姿は可愛かった。彼を側近にしたら彼女は喜ぶかな。



私が10歳、彼女が8歳の時に魔力適性が水属性であることが判明した。父上に頼んで彼女を婚約者にしてもらえるように手回しした。母上は反対したけど押し切った。ただまだ婚約者候補。彼女に王妃教育をして適性をみることになった。


社交界デビューで再会した彼女は淑女の仮面を被っていた。リオに見せるような顔は見せてくれなかった。

それから彼女は王妃教育のため王宮に通うことになった。

彼女と一緒にいたくて一緒の授業を受けていた。

授業中は令嬢の仮面が剥がれるみたい。

わからない問題を教えてあげて、解けたときの彼女は満面の笑顔を見せてくれるから。

まだ幼いからなのか時々見せる無邪気な一面にどんどん好きになっていった。

将来、ルーン公爵と私の役にたてるように勉強頑張りますと意気込む彼女をみて彼女に恥じない王になろうと思った。

年下の少女に甘えるのはどうかと思うけど、ドロドロとした思惑だらけの王宮で純粋に私を慕って傍にいてくれる彼女の存在は救いだったから。



さすがにずっと同じ授業を受けてるわけにもいかないから彼女の王妃教育の終わる時間に合わせて時間が空くように調整していた。彼女を馬車で送るのは大事な日課だった。彼女が王妃教育が終わる時間に待ち伏せる。


扉からでてきた彼女が不思議そうに見ている。

礼をしようとする彼女を制する。

私には礼をいらないと言っても譲ってくれない。


「お疲れ様。礼はいらないからね」

「ありがとうございます」

「家まで送るよ」

「殿下、お仕事は?」

「終わった。気分転換に付き合ってよ」

「お言葉に甘えますね。ありがとうございます」


レティは私がお忍び好きを知っているからいつも苦笑しながら受け入れてくれる。

レティと一緒にいたいなんて言えないから勘違いを利用する。レティの手を取りエスコートして馬車に乗り込む。


「母上、厳しいけど大丈夫?」


レティがクスクス笑う。珍しい。


「殿下は心配症ですわ。私が未熟ゆえですから」

「無理しないでね」

「ありがとうございます。その言葉はそのままお返ししますわ。」

「私はレティより要領がいいから」

「ひどいですわ。私なりに将来殿下をお手伝いできるように頑張るだけですわ。」

「頼もしいな」

「殿下の笑顔は民の宝ですもの。」


綺麗に笑うレティに見惚れた。レティは私が照れて言えない言葉をすらっと言えるからすごい。

レティの笑顔が私の宝だよなんて私には絶対言えないから。



最近は母上もレティの優秀さを認めてくれた。後ろ盾のルーン公爵家を見てるのかもしれないけど。

ただ母上とレティが仲良くなるとサラ様の標的になる。

母上が圧力をかけてレオの教育を取りやめにさせたのが原因だ。父上は二人の争いに関与しない。

ただ穏やかな笑顔で見ているだけだ。



レティと王宮を歩いているとサラ様に会った。

いつもならこの時間は離宮にいるはずなのに。


「殿下、レティシア、よければ一緒にお茶でもいかが?」


サラ様のお茶…。

さすがに側妃が自ら入れるお茶には毒味はつかない。

ただサラ様のお茶はできれば断りたい。


「サラ様、光栄ですわ。せっかくのお誘いなんですが殿下は執務がありますので私だけご一緒させていただいてもよろしいですか?」


レティ!?


「殿下はそんなに余裕がありませんの?」


不審な目で私を見るサラ様にレティが人形みたいな笑顔を作る。


「私が不出来なために殿下のお時間を頂いてしまったんです。殿下、私はこれで。サラ様ご一緒してもよろしいですか?」


「残念ね。ええ。もちろんよ。レティシア、いらっしゃい」


彼女は母上とサラ様の状況をわかっている。私との折り合いが悪いのも知ってて庇われた。

情けない。その後彼女は3日間寝込んだ。お忍びで見舞いに行くと疲れのせいだから気にしないでくださいと申しわけなさそうに謝ってきた。大丈夫なので気にしないで。気をつけて帰ってくださいとよわよわしく微笑んで頼まれたらどうすることもできない。



貴族社会はどんなことも笑顔でかわさなきゃいけない。

本音をさとらせてはいけない。

ただ見舞いに来たリオによわよわしい顔をするレティと苦笑しながら頭を撫でるリオの様子を外から眺めていた私は複雑な思いを隠せなかった。


レティは私の前でが強がるのに、リオには素直に甘えるのが悔しい。



レティが10歳の時、婚約者候補から婚約者にかわった。

その頃には母上もレティを気に入り、社交に連れまわしていた。

おかげでレティの優秀さが認められた。ただ正妃の座を狙っていた令嬢達からの嫌がらせがはじまった。

すぐに気付いたリオが対応したみたいだ。私ももちろん裏で手を回した。

彼女に害をなすなら、私の国には不要だから。

リオと私は友人だ。リオの忠誠は私じゃなくレティに捧げられそうだけど。

忠誠なんて形だけだから構わない。

年々、彼女が人形みたいになっていく。私のためだと思えば複雑だ。

どんなことも笑顔で躱す彼女は正妃としては申し分ない。そんな彼女も愛しいけど無邪気な彼女も恋しい。


学園に入学してからは昔ほどレティといられなくなった。

休養日にレティの予定を調整し、二人で過ごせる時間を作った。


「レティ、久しぶりだね。元気だった?」

「お気遣いありがとうございます」

「もう少し力を抜いてもいいんだよ」

「それはできませんわ。私はルーン公爵令嬢で殿下の婚約者ですもの」


相変わらずの彼女に笑みがこぼれる。

彼女が好きな蜂蜜のお菓子を用意した。食べると彼女が幸せそうに笑うから。

王宮のお茶会では彼女は蜂蜜のお菓子に手を出さないから、蜂蜜が好物とリオが教えてくれるまで知らなかった。

本音を見せない貴族社会で、無意識に淑女の仮面を外すのは彼女が信頼している人の前だけだから。

きっと彼女は私があえて用意したことに気付いていない。

お菓子を幸せそうに食べるレティに日頃のストレスが癒されていく。

最近は母上とサラ様だけでなくレオまでも問題をおこすから。

早く結婚して毎日レティが傍にいてくれればいいのに。


「レティ、これを」


数種類の蜂蜜と蜂蜜菓子の入ったバスケットを見せる。


「殿下?」


不思議そうに見つめる。


「こないだの外交で見つけたんだ。お土産」


目が輝いた。リオの言う通りだ。レティは蜂蜜のまえなら素がでるって。

贈り物で一番喜ぶのは蜂蜜だと教えてくれた友人に感謝する。

ただ本人は隠してるつもりだから内緒にしてほしいと苦笑して教えてくれた。


「いいんですの?」

「もちろん。」

「ありがとうございます」


素直に贈り物を受け取るレティは珍しい。いつも貴重なお金をこんなことに使わないでくださいって。

装飾品やドレスを欲しがる令嬢は多いのにね。

素直に笑うレティは可愛い。

婚約者との時間を満喫したいのに駆けて来る兵の顔に嫌な予感が。


「殿下、申しわけありません」


レティが人形みたいな顔にもどった。邪魔をしないでほしい。

貴族は顔に出してはいけない。社交用の柔らかい笑みを浮かべる。


「構わない。何事だ」


「レオ殿下が…」


頭が痛い。最近は義弟が色々やらかす。義弟のお忍びくらい放っておけばいいだろう。

何があっても自己責任だ。


「放っておいて構わない」

「殿下ですが」


兵はレオには逆らえない。懇願の顔で見られる。まずいな。


「殿下、私のことは気にしないでください。」

「レティ?」


嫌な予感しかしない。今日を逃せばいつ会えるのか。お互い多忙な身の上だ。


「お仕事頑張ってください。私はこれで失礼しますわ」


こうなったらレティは折れない。この時間は諦めるしかない。せめて


「送るよ」

「お気持ちだけで十分です。失礼しますわ」


忌々しい。せっかくの私の至福の時間を。

レティが優雅に去って行った。彼女は私の執務を何より優先させる。

あの愚弟。私とレティの時間をわざと邪魔しているのか。興味がないから放っておいたが今後はお忍びに行けないようにするか。

もちろん愚弟やサラ様がレティに近づけないように手を回している。

もう子供じゃないから。

レティさえ傍にいてくれるなら王位なんて譲るのに。

ルーン公爵令嬢の婚約者には王太子の肩書はありがたいけど。



最近、鬱憤がたまっている。

長期休暇で帰ってきた途端に忙しさに翻弄されている。

執務が多く、レティに会いにいけない。母上の思い付きの尻拭いも面倒だ。陛下は試練だと丸投げするから尚更。

もちろん表に出したりはしないけど。

優秀で聡明な王太子。そんな評価を受ければ受けるほど周囲の期待と仕事は溜まっていく。

ノックの音がする。また仕事が増えるのか。

無意識でも纏える笑顔で出迎える。


「どうぞ」

「失礼します」

「レティ、頭をあげて。どうしたの?」


予想外の人物に驚いた。表には出さないけど。

頭をあげた彼女の青い瞳に見つめられる。

彼女が机の上に置いてある書類を何部かとる。


「殿下、私、王妃教育も一段落致しましたので、レオ様達の分の視察を引き受けますわ」


「レティ?」

「私、殿下の婚約者ですもの。お手伝いさせてくださいませ。もちろん殿下の名代も引き受けますわ。」


確かに王太子の婚約者のルーン公爵令嬢ならレオやサラ様の代役も可能だ。王族が少ないから、視察が溜まっているのに、二人は引き受けないから私に回ってくる。

母上も仕事をえり好みするので、その分も。父上は試練だと笑うだけ。

私を心配してくれるのは彼女だけだ。


「レティ、もう結婚しないか?」

「私が王太子妃になればお手伝いできることも増えますね。ですが時期尚早ですわ」

「残念。視察の件は正直助かる。情けないけど」

「私はお役にたてれば光栄ですわ。殿下、ちゃんと休まれてます?」

「レティに会えたから充分だよ。少し散歩しないか?付き合ってよ」


立ち上がり、レティの手をとり庭園にむかう。

レティは迷ってたけど、じっと見つめたら折れてくれた。

庭園を散歩する。彼女と会うのはどれくらい久しぶりだろう。


「レティ、寒くない?」

「ええ。お気遣いありがとうございます。殿下、大丈夫ですか?」

「なにが?」

「お疲れのようなので」


年下の婚約者に心配をかけて情けないが彼女の優しさが愛しい。

握っている手をひいて抱き寄せる。


「殿下?」

「ごめん。このままでいさせて」


レティの腕が背中に回る。彼女と一緒にいるためだから頑張ろう。

しばらくして彼女を腕から解放する。

心配そうな顔で見つめられている。


「ありがとう。元気でた。」


レティが優しく微笑む。

「殿下がお元気になったならよかったですわ。私は殿下の味方ですもの。いつでも頼ってください」

「頼もしいな」

「殿下は民のものですが、王太子妃は殿下のためのものですもの。私は殿下に不要とされるまでお傍にいますわ」


私はレティだけがほしいと言えば彼女はどうするだろうか。そんな勇気はないけど。

相変わらず彼女は私の前では王太子の婚約者の仮面を外してくれないから。


「ありがとう」

「サラ様達がなにをしようとも王太子は殿下だけですわ。私もリオもエイベルも殿下を信じておりますわ。」


誰かになにか言われたのかな。

レティはきっと言わないから今は気づかないフリをする。


「私は優秀な臣下に恵まれて幸せだな」

「ええ。ですのでたまには笑ってくださいな」

「いつも笑ってるけど?」

「私達の前くらい力を抜いてください。無理に笑う必要はありませんわ。私達は殿下が無表情でも傍におりますわ」

「頼もしいな」

「アリア様と陛下にも殿下のお手伝いをする許可をいただきました。安心して休んでください」

「さすがだな。心配かけてごめん」

「殿下の笑顔は皆の宝ですもの。そのためなら私たちは頑張りますわ」


最近レティは綺麗な笑顔を纏うようになったな。頼もしい婚約者に自然と笑みがこぼれる。

自然な笑みなんていつぶりだろうか・・。


「ありがとう。息抜きにレティも一緒にお忍びに行く?」

「エイベルに怒られますわよ。殿下の御身が心配なのでほどほどにしてくださいませ。私は殿下の変わりに執務を引き受けますわ」


サラ様達のことで気分が落ちてると思ったのかな?

別にあの二人になにを言われようと気分が落ち込むことはないけど。

たしかに睡眠不足は事実だからあんまり無様な姿を見せないようにしないといけないな。

レティさえ側にいてくれるなら、気落ちすることなんて、なにもないのに。


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