王太子妃の日記
情けない王太子が出てきます。
もしまともな王太子を希望の方は飛ばしてください。
今日から3日間は情けない王太子の少し長いにお付き合いいただける方だけお願いします。
ごきげんよう。カトリーヌです。王太子妃を務めております。
目の前には見たことないほど落ち込んだ夫がいます。
王太子妃になって思うことがあるんです。
殿下の愛しいレティシアの言葉をかりるなら、実はポンコツなんでしょうか。
殿下はロキが帰ってきてから転移魔法をつかいレティシアに会いにいっていました。
やっぱりさすがマール様ですわ。
あの方ならきっと見つけると思ってましたわ。
マール様の有能さならいつ国に帰ってきても重用しますわ。
レティシアもマール様と一緒なら安心ですわ。
レティシアが殿下と会うためにマール様がレティシアの傍を離れるように手を回したのは私です。ポーカーに負けたので仕方ありません。
まさか殿下に負けるとは屈辱ですわ。
殿下は髪を染めて別人として会いにいっていました。
レティシアに気付かれないことに傷つくのではなく喜んでましたね。
レティシア、黒髪だからクロ・・・。
殿下は喜んでましたが安易では。でも相変わらずで安心しますね。
その後、マール様に見つかり修羅場。
殿下の存在を知ったマール様はレティシアと一緒に村を旅立ったそうです。
マール様らしいですわね。
それでもあきらめない殿下にため息が・・・。
さすがに二人の結婚式を潰しにいこうとしたのは許しませんでした。
殿下の様子がおかしかったので誘導尋問したのは後悔してません。
こっそりセリアに情報を流したのは私ですわ。
殿下、私利私欲で権力を使うには限度があります。
国内の権力は殿下に負けますが外国へのパイプは私の方がありますので目に余るならお相手しますわ。
レティシアが出産のため王国に帰ってきました。
マール様のお蔭ですわね。
殿下にレティシアとレティシアの娘を妃に迎えたいと言われた時は頭が痛くなりました。
子供が生まれて幸せいっぱいの二人に言う言葉ではありませんわ。
しかもまた変装して頻繁に会いにいっております。
時々なら見逃しましたがもう少し自重していただきたい。
見かねたレオ様がたまった執務を手伝ってくれました。
殿下とくらべてできた方ですわ。
殿下は優秀ですが優しさや誠実さは全部レオ様に持っていかれたんでしょうか。
結婚した当初は殿下は誠実な方だと思ってたのに勘違いでしたわ。
陛下も厳しい方です。陛下は国を第一に考える冷血な方ですわ。あの穏やかな笑顔の裏が冷酷無比な方だと気づいた時は血の気がひきましたわ。
このフラン王家直系は大丈夫なんでしょうか…。
私がしっかりしないといけませんね。
殿下が哀愁漂って帰った時は驚きました。
レティシアに会いにいった後は機嫌がいいのに。
殿下の呟きを拾うと、レティシアの愛娘がエイベル様に一目惚れしたそうです。
笑いをこらえるのが大変でしたわ。
レティシアとエイベル様は仲が良かったですし、真直ぐな殿方に惚れる気持ちもわかります。
マール様がいなければエイベル様と結ばれたかしら。
レティシアとエイベル様の組み合わせは心配ですわね。
やっぱりマール様とレティシアの二人が一番落ち着く気がしますものね。
思い出に浸ってる場合ではありませんでしたわ。
もう少し事情を詳しくきかないといけませんね。
「殿下?」
声をかけても反応しませんね。たまった執務をしてもらわないといけませんのに。
帰ったら残りを終わらせるって出かけましたのに。
突然癒やしがたりないと呟きだしたので、約束をとりつけて見送りましたのに。
「もう生きていけない」
「殿下、どうされましたの?」
「焦った。レティに嫌われた」
殿下が消えそうですわね。レティシアに嫌われるって相当ですよね・・。
事情を聞くと、レティシアに子供を産んでって頼んだんですね。
強引に押してレティに権力を使おうとしてると勘違いさせたのですね。
これはマール様、許しませんね。明日には国外逃亡でしょうか。
ルーン公爵家反乱おこしたりしませんよね・・。
レティシアはマール公爵家にも気に入られていたから、マール公爵家もつくかな。両公爵家がつくと、王家滅亡が見えますわ。まだエドワード様が跡をついでいないから大丈夫かしら。
マール様なら全面戦争より国外に旅立つことを選びますね。
きっとレティシアのことを考えた上で自分の欲望に忠実な方ですものね。
「諦めますか?」
「それは・・」
「レティシアに似た令嬢を探しましょうか?」
「無理だ。絶対抱けない。」
「ティアを妃にしようとしていたのに?」
「私、好みに育てればいけるかなと」
「最低ですね。薬でも盛りましょうか?」
「その後に心が死んで廃人になる」
「心が死んだレティシアを傍におきますか?」
「それは・・・・」
ちょっと心がゆれてますね。ため息を我慢するのをやめました。
やっぱりポンコツですわ。
レティシア、あなた殿下のことをよくわかってなかったみたいですよ。
私、怒りがわいてきましたわ。
私の可愛い妹分が信頼していたのがこんなに情けない殿方だったなんて。
「きっとルーン公爵家が反乱をおこすと思いますよ。」
「カトリーヌ、怒ってる?」
「ええ。私はレティシアの合意のもとなら側妃にむかえるといいましたが、強引にレティシアに殿下の子供を産ませて自分の子供とするなんて認めていませんわ」
「それは」
「私はいつかレティシアが幸せに暮らせる国を作りたい。優しいあの子に重荷を背負わせ奪った私達がこれ以上あの子に何を求めるんですの。臣下としてその身を差し出させるなんて許しませんわ」
もう語られることのない陛下の生誕祭の事件。
諸外国ではわからないけど貴族間では箝口令がしかれています。
国の醜聞ですものね。
ただ箝口令を敷くには事が大きくなりすぎていました。
王家が箝口令をひく頃にはなぜか市井にまで噂は広がっていた。
国を救ったレティシアに聖女認定の話も報奨金の話もありましたがルーン公爵が断られた。
ただルーン公爵家の力を削ぎたい貴族がレティシアの自作自演と騒ぎはじめた。
彼女に命を救われたのに愚かなとお父様は苦笑されてましたわ。
ルーン公爵は貴族を集めた場で陛下に申されました。
「娘は貴族として当然のことをしたまでです。務めを果たしただけなので何もいりません。ただ私は娘が可愛いので娘のことを貶めようとする者や利用する者たちに容赦はできません。私利私欲で権力をつかう私を罰するのなら宰相位も公爵位もお返ししましょう。領民は私財で保護しますのでご心配なく」
あのいつも笑みを浮かべた陛下が言葉を失ったそうです。
陛下はレティシアを利用しようとしていましたから。
レティシアを殿下の婚約者にすれば、王家の醜態はごまかせますし、諸外国への牽制にもなります。
レティシアの遺体がないため、身代わりをたててもいいと考えられてたようですわ。
陛下にとってはレティシアは優秀な駒になりましたの。
でもさすが宰相であるルーン公爵。陛下の考えもお見通しだったみたいですね。
陛下も含めレティシアに命を救われた貴族は彼女を貶めることや利用することへの恥をしるべきですわ。
陛下はルーン公爵家を失うのは国の損失が大きいのでレティシアの功績を認め、利用することもしないと申されました。
お父様は陛下は不服そうだったと申しておりましたわ。
その裏にはルーン公爵の願いを支持するマール公爵家やシオン伯爵家などレティシアと親交の深かった貴族達の動きもありました。
この件はマートン侯爵家さえもルーン公爵側につきました。
レティシアの人たらしはすごいですわね。
レティシアが陛下の望まれるように王宮に入れば優しさを利用され、ボロボロになっていってしまう気がしますわ。
勢力をつけたルーン公爵家への人質にもなりますしね。
陛下は恐ろしい方ですから、可愛い妹分が利用されないように気をつけないといけません。
レティシアは王家の恩人ですから尚更です。
あの事件でのルーン公爵令嬢の行動を責めたり利用することは王家に逆らうと同意になりました。
それでもある時レティシアに懸賞金がかけられていました。
ルーン公爵家が見つけて、主犯や関係者の家を取り潰しました。
ただ懸賞金の依頼書のせいで市井にはレティシアの悪いうわさが流れはじめました。
それに怒りをあらわにしたのはレオ様とエイミー。
エイミーはリール侯爵夫人とアイアン商会と協力してレティシアとマール様の純愛物語を出版しました。
名前は伏せてあるけど、銀髪で青い瞳の公爵令嬢といえばルーン公爵令嬢、市井の者が連想するのは懸賞金をかけられた公爵令嬢のレティシアのこと。
エイミーは吟遊詩人と演劇にも手をまわしました。
幼い頃に将来を誓い合った恋人がいた。ただ少女は恐ろしい魔力を持っていた。二人は引き離されないように少女の魔力を隠すことを決めた。少年は少女を守るために必死に修行していた。少女はいつも少年に寄り添っていた。二人は一緒にいれれば幸せだった。
ただ幸せな日々は続かなかった。
ある日、国が魔物に襲われた。
少女を庇って怪我する少年。倒れる人々。涙をふいて立ち上がった少女は魔力を解放して魔物を倒した。最後に残った魔力を振り絞って、傷ついた人々に治癒魔法をかけた。そして少女は消えてしまう。目が覚めた少年は愛する少女を探して旅をする。いつか少女に会えると信じて。
役者もレティシアとマール様にそっくりな演者を用意して・・。
「箝口令は貴族だけですもの。」と笑顔で話すエイミーの言葉に驚いたわ。
エイミー、レティシアとマール様のこと脚色はついていますが、ほぼそのままよね。
エイミーに誘われ、この演劇を見た時は驚いたわ。表現の自由ですけどね。リール公爵家は怖いわ。
政治に力を持たないと言われていた家がたやすく世論を操作するんだもの。
それに学園でレティシアを慕っていた平民の生徒達がレティシアの話題を広めたこともあり、悪評から人気者にかわったわ。レティシア様は悪役令嬢じゃない。貴族なのにいつも優しくしてくれた。一部で女神、天使と騒いでる方々もいましたが…。レティシア様が応援してくれたから騎士になったんだと笑う少年の将来が楽しみですわ。
魔法を使えない平民の武術大会優勝は話題になりましたわね。
懐かしいですわ。
回想に浸っている場合ではありませんでしたわ。やらかしたって顔をしている殿下の相手をしているところでした。
「あれは…」
「私の名前を出したことできっと絶望しましたね。あの子は命じれば応じますわ。」
「レティは私を大事って」
「親愛ですわ。」
「なんで私では駄目だったんだろう」
バカな人ですわ。マール様はいつもレティシアのためだけに動いてましたもの。
殿下が知らない、寂しがりで弱いレティシアを支えたのはマール様ですもの。
殿下の軽率な行動で幼いレティシアが令嬢達の嫌がらせで弱っていたことなどしりませんよね。マール様とセリアがどれだけ気を配ってきたかも。
殿下はレティシアに夢を見てましたしね。
レティシアも殿下の前で貴族の仮面を決して外しません。
「ずっとマール様が傍でレティシアを守ってきましたもの。あんなに傍で愛されたら愛さずにはいられませんわ」
「私だって」
「殿下、マール様に負けを認めたらいかがですか?」
殿下の悔しそうな顔なんて中々お目にかかれませんね。もう得意の笑顔をつくる余裕もなさそうですね。
「それは・・。レティは謝れば許してくれるだろうか」
「許してはくれると思いますが、私はレティシアのことでもう殿下に力は貸しません。」
「嘘だろう!?」
そんな驚かれても。子供も産まれて幸せな妹分の邪魔は許しませんわ。
マール様と結ばれる前ならまだしも。
やっぱり殿下にレティシアは任せられません。
今回のことは思うところが多すぎますわ。笑顔をつくります。
「私はレティシアの味方ですわ。あの子の逃亡を助けることにしますわ」
「え?」
「たぶんレティシア達は国を出ますわ。殿下が後継を作るまで帰ってきませんよ」
固まってますね。
本当にレティシアが絡むと殿下はおかしくなります。
いつもの殿下ならたやすく気づくことですのに。
「・・・・・。」
「銀髪で青い瞳の娘を妃にします?ルーン公爵家の分家にいますが」
「レオに頼む」
「養子をもらいますか?」
「ああ。さすがにレオにカトリーヌとの間に子供を作ってくれとはいえない」
殿下の目が戻ってきましたね。
消えなくてよかったですわ。
まだ殿下に消えられては困ります。
私はまだ掌握できておりませんもの。
「当然ですわ。継承問題どうしますの?」
「法律を変える。正妃の子しか継承できないなんておかしいだろ?親が側妃だろうと優秀なものが王位を継ぐべきだ。」
「臣下が黙っていませんわ」
「黙らせるよ。この国は王族が少なすぎる。」
「もう決めたんですね」
「ああ。レオをいずれ王家に戻したい。私はレオのほうが王にむいてると思うんだが」
「レオ様は新興公爵家として領地を治めてますので難しいかと」
ルーン公爵家により取り潰された家の領地はレオ様に与えられました。
平民も貴族も関係なく暮らせる領地を作るんですって。
サラ様は王籍を返上し一緒に行かれました。
芸術と研究に貴賤は関係ないという、さすがリール公爵家とシオン伯爵家ですね。
貴族の反感もありますが、元王族。しかもリール公爵家とマール公爵、ルーン公爵が領地経営に協力していることもあり大きな反発はおこせなくなっています。
レオ様とエイミーを結んだレティシアのことを想ってエドワード様が動かれたみたいですわ。
我が国の音楽と芸術の都として発展しております。
レオ様の一番の忠臣がラウルです。
学園卒業時に村に帰ろうとするラウルをレオ様とエイミーが必死で口説き落としたそうですわ。
ラウルのファンの貴族もきっとレオ様達に手を貸しますね。
レオ様の人を見る目はすばらしいてすわ。
「早まったな。私が王位を継いでから結婚させればよかった。後継はレオとエイミーの子供をひきとらせてもらおう。ただ育てるのはカトリーヌだ」
「合意の上ならもちろんしっかり教育しますわ」
クロード殿下の子供よりレオ様の子供のほうがマトモに育ちそうですもの。
殿下にはいえませんが、大歓迎ですわ。
よくよく考えれば私と殿下の子供って想像したら恐ろしいですわ。確実に計算高くて世間体抜群の子供…。愛せる自信がありませんわ。
「頼もしいな。レティの信頼をとりかえさないと」
「結局そこにいきつくんですね。民とレティシアならレティシアを選びそうで恐ろしいですわ」
「カトリーヌがいれば大丈夫だろう」
「まだ地盤固めができていませんわ。」
「いつか帰ってきてくれるかな」
「マール様次第ですわ」
「魔力測定前に婚約者に指名していれば変わったかな」
「時戻りの秘術は使わせませんわ。」
「なんでそのことを」
「やっぱりありますのね。他国の伝承であったんですの。ある血筋の人間は代償を払えば時を戻る秘術を使えるって」
「嘘だろう」
驚いてますね。カマをかけましたが本当にあるんですね。今日の殿下は本当に表情豊かですわね。
「禁術ですね。私も調べて封じる方法を見つけましたの。心にとどめておいてくださいね」
確か魂が必要なはず。レオ様にもレオ様の子供にも手出しさせませんわ。
「本当に恐ろしいな」
「では殿下、休憩は終わりです。残った執務をこなしてください」
「傷心に浸らせてくれないのか?」
「自業自得です。さっさと片付けてくださいませ」
「レティに癒されたい」
「無理ですわ。諦められないなら安全な良い国を作ってくださいませ」
「妃が冷たい」
「合意の上で優しい妃を探してくださいませ。」
私は殿下に優しくはできそうにありませんわ。
方針を変えましょう。
殿下をマトモになるように鍛え直しますわ。
殿下を支えて寄り添うなんてもう致しません。
レティシア、殿下の暴走に巻き込んでごめんなさい。
今度はちゃんと止めますわ。
だからいつでも帰ってきてくださいね。




