元公爵令嬢の記録 第四話
こんにちは。レティシアです。
今日はグランド様とステラが遊びに来ました。
二人には4歳の子供がいます。名前はエステル。
さすがに今日のティアはローブを着ていません。
5歳の女の子がローブを着たいと騒ぐのはどうなんでしょうか。将来が心配ですわ。
「サイラス様、私はティアをお嫁にほしいので、次は男の子を作りませんか?」
「ステラ」
グランド様の赤面顔は、はじめてみました。
政略結婚でも幸せそうでよかったですわ。
隣に引っ越すと騒いでいた頃が懐かしいです。
説得するのが大変でした。この辺の土地はリオが買ってるので隣に家を建てるのはリオが許可しないと無理です。
リオ、船や土地をたくさん所有してますがお金、大丈夫なんですの?
戸籍がないのにどうして家が買えますの?私と違ってリオは戸籍はあるからでしょうか・・。
「サイラス、ティアは嫁にやらないからな」
「リオ、落ち着いて」
「ちゃんとグレイ嬢を説得しろよ」
「難しいよ。リオだってルーン嬢の言うこと逆らえないでしょ」
「俺はシアの願いは全部叶えたいからいいんだよ」
「俺だって可愛い嫁の願いは叶えたい」
「俺達の邪魔しないでくれないか。ティアをとられたリアムが可哀想だろ」
「俺はリアムの将来が心配だよ。」
「俺は楽しみだ。そのうちシアよりしっかりするんじゃないか」
「本当にそっくりだよな。初恋が母親のまま成長しそうで怖いよ」
「シアは俺のだから譲らないけどな」
「息子に、張り合うなよ」
「サイラス、修行して!!」
「リアム、様をつけなさい。失礼ですよ」
「ルーン嬢、気にしないで。そのままでいいよ」
「リアム、おいで、グランド様はお父様とお話したいから邪魔してはいけません。ね?」
「母様!!」
リアムを抱っこします。いつまで抱っこできるかな。リアムは膝に抱っこするといつも大人しいです。
可愛いです。
「なぁ、なんでルーン嬢は俺達を二人にしようとするんだ?」
「グレイ嬢のせいだよ。あと昔読んだおぞましい本のせいかな。何かあるとグランド様呼ぶ?って聞いてくるから何度お前を亡き者にしようと思ったことか」
「昔からぶれないよな。俺もそれなりにルーン嬢に懐かれてるからきっと泣くよ」
「完全犯罪にしたいけど、サイラスは強いから難しい。でもお前を亡き者にしてグレイ嬢に住みつかれても困る」
「思いとどまってくれて嬉しいよ。友人なのに扱いひどいよな」
「今更だ」
グランド様とリオは本当に仲が良いですわ。
「リアムもいつかお友達ができるといいですわね」
「僕は母様とティアがいればいいの」
「リアム様、私も中にいれてくださいね」
「ステラ様も?」
「お二人を守るためですわ」
「ステラ様は強いの?」
「ええ。一緒にレティシア様達を守りましょう」
「ステラ様、修行つけてくれますか!?」
「勿論。」
「母様!!」
目を輝かせるリアムは可愛いですが、一言だけお願いします。
「リアム、お父様も中に入れてあげてください。きっと泣いてしまいますわ」
「父様は強いから、母様とティアを守りなさいって」
いつの間にか立派になって。リオも昔からしっかりしてましたものね。
やっぱりリオの血でしょうか。
庭で遊んでいたティアがエステルと手を繋いで戻ってきましたね。
「母様!!エステル、今日泊まる?」
「残念ながら、そろそろ帰ると思いますよ」
「ティア、もっと一緒にいたい。今日はエステルと寝る!!」
女の子のお友達は嬉しいですね。ずっと遊びたい気持ちはわかりますわ。
「サイラス様、一人で帰ってください」
「ステラ?」
「私とエステルはレティシア様にお世話になろうと思います。」
「サイラス?」
「ステラ、さすがに迷惑だから帰ろう。また来ればいい」
「ステラ、家には二人を養う余裕はないの」
「ちゃんと生活費はお支払いしますわ」
それならいい、よくないですわ!!
ステラはグランド伯爵夫人です。
「母様、お願い、ティア、妹欲しい!!」
リオがティアを抱き上げました。
「ティア、そのお願いはいずれ父様が叶えてあげるから」
「本当、父様?」
「父様、嘘つかないだろう?」
「うん。父様大好き!!」
リオ、顔が崩れてますわ。本当にティアに夢中ですね。
リアムが羨ましそう。なんだかんだでリアムはリオも大好きです。リアムを思いっきり抱きしめます。
「ステラ、今日は帰ろう」
「そうですわね。次は男の子ですわ」
「落ち着いて。エステルおいで」
グランド様がエステルを抱いて三人は帰っていきましたわ。
今日は危険な気がしますので、リアムと寝ましょう。
リオもティアと眠ればご機嫌でしょう。
「リアム、今日は母様と寝ませんか?」
「本当?」
「もうお兄様だから、嫌?」
「嬉しい!!」
リアムもいつまで私と一緒に寝てくれますかね。
今日はリアムを抱きしめて眠りましょう。
リオはきっとティアを離しませんしね。
お互い、可愛い我が子にイチコロされてますわ。
***
マール公爵領に引っ越してからもクロード殿下が時々訪問されます。
もう驚くのも気にするのもやめました。
髪は黒く染めてます。
リアムはクロに懐いてます。
私は今回は殿下にお話があります。
「やあレティ、リアム、ティア!!」
「クロ!!」
リアムが殿下に抱きつきます。殿下が抱っこしてます。
ティアは私の膝の上です。
「リアム、クロは母様とお話があるから、ティアとお庭で遊んでてくれますか?」
「クロ、母様のお話の後、遊んでくれる?」
「ああ。今日は時間があるから大丈夫だよ。これお土産だからティアと分けてね」
ティアがお土産につられてクロのもとに行きました。
「ティア、お土産だって!クロありがとう!!」
「ありがとう!!」
殿下が二人の頭を撫でてます。
二人は庭に行きました。
「デイーネ、二人をお願いね」
「わかったわ」
デイーネに任せれば安心です。
お茶をいれます。
「レティ、これはレティに」
昔好きだった蜂蜜たっぷりのクッキーを渡されました。王宮のお茶会によく出てましたが顔に出てしまうので手をつけることは、ほとんどありませんでした。
「ありがとうございます」
「昔から好きだよね。レティが話があるって初めてだね。妃になる気になった?ちゃんとプロポーズしようか?」
昔?今世は殿下の前で食べた記憶はないんですが・・。
クッキーのことはいいんです。笑顔の殿下にはっきりと言わないといけません。
「お戯れを。それです!!ティアが覚えたのでやめてください」
「ティアは聡いね。私の妃になるって?」
「なりません。エイベルの妃になって寵愛を受けるって張り切ってますわ」
「エイベルか。」
「さすがに幼い娘に現実はつきつけられませんわ。殿下のことも教えてませんし。」
「エイベルがライバルか」
「殿下、妃の話はティア達にはしないでください。あの子達の教育の妨げになりますわ。」
「ティア達がいなければいいの?」
「はい?」
殿下に手を握られます。嫌な予感がします。
「レティシア、私の妃になってくれないか?」
殿下の手を振り解きます。
不敬罪でも構いませんわ。
「ありえません。お戯れはいい加減になさいませ。カトリーヌお姉様がつれないからって私で遊ぶのやめてください」
「本気なんだけど」
嘘をついているお顔ではありません。
私を妃にしたい理由は…
「殿下の後ろ盾はもう十分ですわ。レート公爵家とルーン公爵家は同派閥。私との婚姻に利はありません」
「そろそろ子供を産める側妃の話が出てるんだけど、私は君がいい」
側妃は多産な家系の未婚の令嬢が対象です。
「私はリオの妻でありリアムとティアの母です。また側妃の条件の純潔も満たしていません」
「私は気にしないんだけど」
幾ら手近な相手ですませたくても非常識ですわ。
同じ派閥の令嬢を娶れば妃の家通しの権力争いはおこらない。
ただもし私とカトリーヌお姉様と二人が殿下の子供を宿せばきっと継承権争いがおきます。
側妃は魔力があり、カトリーヌお姉様より明らかに家格の低い相手を選ぶべきですわ。
「臣下達が許しません」
「君との子供をカトリーヌとの子にするのは?」
私とカトリーヌお姉様は似ていないから無理ですわ。
殿下は何を考えてますの?
カトリーヌお姉様が子を産めないと非難されるのを避けたいから?
でもあの高潔なカトリーヌお姉様がそんな殿下の守り方を受け入れるとも思いません。
「殿下、落ち着いてくださいませ。カトリーヌお姉様はそんなこと許しません。」
「カトリーヌの了承は得ているよ」
嘘でしょ?
カトリーヌお姉様が認めるほど切羽詰まった状況ですの?
もしかしてお互い、恋ゆえの暴走ですの?
愛しい人の願いは叶えたい。
でも、申しわけありませんがお二人だけは恋に狂って冷静に判断できないことを許される立場ではありません。
「ありえませんわ。」
「本当だよ。レティ、私のこと嫌いじゃないよね?」
「臣下としては尊敬してますわ。クロも大事な友人です。」
「私への想いはない?」
「殿下の幸せをお祈りしていますわ。ですが私の心はリオだけです。もしも殿下が臣下としてその身を差し出せと命じるなら従うしかありません」
感情的になってはいけません。冷静にならないと。
恋に狂っていても王太子夫妻に命じられるなら断れません。
断ればルーン公爵家にもリオやリアム達にも迷惑がかかります。
不敬罪になれば、未来はありません。
臣下がどんなに反対しようと陛下と王太子夫妻の命であれば逆らえませんわ。
15歳で死ぬはずだった私がこんなに幸せに生きれただけでも奇跡ですわ。
多くを望んではいけません。
令嬢の仮面被らないといけないのに、うまく笑えません。辛い時こそ笑顔で颯爽と乗り切らないといけないのに。いつも助けてくれるリオの顔が脳裏に浮かびます。
だめ、今は甘える時じゃない。深呼吸をします。
言わないといけない言葉はわかっているのに、
「殿下、いい加減にしてください。俺はシアを渡しません」
リオの声?幻聴?でもこの抱き寄せられる腕の安心感は本物ですわ。
だめです。ほっとしてる場合ではありません。
「リオ、不敬」
「シア、黙って。」
「殿下お許しください。私は」
リオの手に口をふさがれます。力が強くて離れません。
「殿下、こんな顔をシアにさせるために来たんですか。権力で手に入れて満足ですか。シアの心を殺して側に置く意味はあるんですか?」
「ごめん。レティ。権力を使うつもりはないよ。またくるよ。今日はこれで。リアムに謝っといて。」
リオの手が離れ頭をさげます。不敬罪です。殿下の一言で今の私達の首など簡単にとびます。
「殿下、リオが申し訳ありません。どうかお慈悲を」
「マールを罰したりしないから安心して。またね」
殿下は嘘はつきません。リオが罪に問われないならよかったですわ。
無理矢理笑顔を纏います。これ以上殿下の機嫌を損ねることは危険すぎます。
「はい。お気をつけておかえりください」
殿下が去っていきました。
安心したら震えが。やっぱり逃げては駄目でした。
「りお、殿下本気、ルーン公爵令嬢の務め、」
リオに抱きしめられます。
「殿下はそんなことしないよ」
「不敬罪」
「シア、落ち着いて」
やっぱり私の血が必要なんでしょうか。私は殿下の婚約者になるのは運命なのかな…。
「でも、カトリーヌお姉様も了承って、後継者作らないと、臣下として、」
「シア、絶対にそんなことさせないから。離さないって言ったろ?」
リオや家に迷惑がかかります。もしかしたらこの子達も。涙が溢れそうになるけど、泣いてる場合ではありません。
体に力をいれないと。
「でも」
「離れないで。シアが国のために犠牲になるなんて許さない。もう絶対離さないって言っただろ。」
「一緒にいたい。でも私のわがままで、やっぱりだめなのかな」
我慢していた涙が堪えきれず溢れ出しました。泣いてる場合ではありません。涙をリオの指で拭われます。
両頬に添えられたリオの手に自分の手を重ねます。
一緒にいたい。この手を離したくない。
「シア、俺が守るよ。俺はシアがいないと生きていけない。リアム達にもシアが必要だ。わかった。この国をでよう。」
「そうしたら、ルーン公爵家に迷惑が」
「大丈夫だから心配しないで。叔父上もエドワードも優秀だ。王家に遅れをとったりしない。二人はいつもシアの味方だ。無理にシアを王家に嫁がせるなら反乱も辞さないだろう。特にエドワードは」
確かにエディなら。エディは私達を大切に思ってくれてるから尚更。
お父様もエディに敵わないことがありますし。
「でもまだ幼い二人には」
「俺が守るよ。シアも強くなったしフウタとディーネもいる。シアがいなくなるのなんて許さない」
「リオ?」
「約束しただろ。王妃になりそうなら一緒に逃げようって」
「いいのかな?また逃げて」
「シア以外にも令嬢はたくさんいる。シアがいなくても国は滅びない。
また気が向いたら帰ってこよう。シアの世界名物食べつくしの旅もまだ途中だったろ?」
ニヤリと笑ったリオに涙を舐め取られました。
「くすぐったいです。ディーネの真似はやめてください。覚えていましたの?」
悪戯に成功したリアムとそっくりな顔で笑ってます。本当によく似てます。
「涙止まったな。本当は泣いてるシアを愛でたいけど後でな。勿論。シアの願いは全部叶えるよ」
リオの頬への口づけを受け入れます。
リオの笑顔は不思議です。なぜかリオと一緒ならなんとかなる気がします。
「リオの許容範囲内で?」
「そう。俺が傍にいること大前提。それにここにいると邪魔が入るしな。」
リオの言葉が嬉しいです。
いいのでしょうか。傍にいたいです。離れたくありません。
もしリオが裁かれるならルーン公爵令嬢として首を差し出します。それで許してもらおう。身を差し出せと言われれば覚悟を決めましょう。でも許されるならそれまでは傍にいるのを許してください。
笑顔を作ります。
「またリオがいなくなったら伯母様達が寂しがりますわ」
「シアとリアム達がいない方が寂しがりそうだけどな。今回はたまには手紙を出そうか。セリアに映像魔石いくつかもらっていくか」
「わかりました。ティアがついてきてくれるかしら?」
「確かにな。俺よりエイベルの方が好きな現実を受け入れられない」
「仕方ありません。エイベルも立派になりましたもの。」
「シアまでエイベルなの?」
「エイベルの成長は認めますが私の特別はリオだけですわ」
「あざとい」
リオの口づけを受け入れます。私にはやっぱりリオだけですわ。
もしものことは頭の片隅に置いてきましょう。
リオの甘い視線は無視してリアム達のところに行きましょう。
呼ばれる声も聞こえません。
「母様、クロは?」
「急用で帰りました」
「遊びたかったのに!」
拗ねてるリアムときょとんとしているティアに笑いかけます。
「リアム、ティア、冒険しませんか?」
「冒険?」
「色んな国に行って綺麗なものをみて、美味しいものを食べますの」
二人の目が輝きました。
「父様は?」
「勿論一緒ですよ」
「エイベルも?」
「エイベルは一緒には行かないわ。素敵なレディになってエイベルを魅了しましょう、ね?」
「うん、ティア、頑張る。エイベルのちょうあいもらうの」
「みんなに行ってきますのお手紙書きましょう。お手伝いしてくれますか?」
「「うん!」」
私も支度をしましょう。
久々の冒険が楽しみですわ。
きっとリアムとティアが毎日、目を輝かせますね。
村での生活はお友達やエディ達が会いに来てくれたので寂しくはないですが、不自由はかけてますものね。
お母様とお父様も一度だけこっそり会いに来てくださいましたわ。ルーン公爵夫妻がローブを着ているのを見たのはきっと私達だけですわ。
乗馬を教えておいてよかったわ。砂漠越えはまだ難しいので砂の国はまたいつか行きましょう。
行程はリオに任せれば安心です。Sランクの最高クラスの冒険者ですから。
セリアの所に訪れると旅のアイテムをたくさんもらいました。
成長に合わせて伸縮自在のローブって助かりますけど、どこまで天才ですの・・?
映像魔石も大量にもらいました。お代は別でもらってるからいいそうです。
リオが苦笑して甘えようって言ってました。
お代のかわりにセリアとエディとロキに定期的に映像魔石でメッセージを送ることを約束させられました。
リアム達の成長記録ですね。
皆に手紙を書いて旅立ちました。ロキやステラがついてこないように、届く頃には国を出ているでしょう。
殿下、ごめんなさい。生前のレティシアは殿下にあげますので今世は自由にさせてください。
お力になれないことは心苦しいですが殿下とカトリーヌお姉様の幸せを願っております。
旅先から多産のアイテムでも贈りましょうかね。きっと検問にひっかかり届かないのでやめましょう。




