元公爵令嬢の記録 第三話
こんにちは。レティシアです。
私はマール公爵領の辺縁の村でルリとしてリオと生活しております。
リアムとティアは5歳になりました。
村に行くときは二人もローブを被っています。
このローブはセリアの手作りです。色々効果があるみたいですが、教えてもらえませんでした。ローブを見たリオはセリアに感謝していました。リオには村に行くときは必ずローブを着るように約束させられました。二人も気に入ってるからいいですが。
クラム様はセリアにアプローチしてますが中々うまくいかないみたいです。セリアが興味なさそうなので、クラム様には決闘を挑んでません。セリアは家族が欲しくなったらうちにくるって笑ってます。リアム達もセリアに懐いてるから大歓迎です。
マール公爵領の村は豊かです。レイ兄様の手腕でしょう。
「リアム、ティア、やっぱりお友達ほしいですか?」
「僕は、母様達がいればいいよ。ね、ティア?」
「うん。ティアにはリアムもデイーネもいるから平気。母様寂しい?」
にっこり笑顔の二人を抱きしめます。可愛いくてたまりません。
「寂しくないです。二人が大好きですわ」
「ティアも母様大好き!」
「僕も!」
この優しい子達の未来が明るいものでありますように。
買い物をして帰りましょう。リオが帰ってくる前に家に帰らないと心配します。
「あんた!!」
村人が近づいてきます。怪しい魔道士は警戒されてるので話しかけられないんですが。
二人を後ろに庇います。
「なにか?」
「魔道士か!?」
「それがなにか?」
「助けてくれ!頼む!医者が今日はいないんだ。子供が」
「この子達に危害を加えないと約束してくれますか?」
「勿論だ。頼むから助けてくれ」
肩のディーネに話しかけます。ディーネの声は私とリオにしか聞こえません。
「デイーネ、二人をお願い」
「任せて。」
「リアム、デイーネ抱いててくれますか?」
「うん。デイーネおいで」
リアムにデイーネを抱かせます。
「ティア、絶対リアムと離れないでください」
「うん。わかった」
二人と手を繋いで男性の後についていきます。
案内された家には泣き崩れる母親と頭から血を流す少年がいました。
少年に近づくと母親に睨まれます。
「この人に頼るしかないんだ。堪えてくれ」
「でも」
「医者がいないんだ。頼むから。」
「この子におかしいことしたら許さないわ」
「こいつは俺がなんとかするから頼む。勿論子供達には手を出させない」
男性、旦那様が奥様を押さえています。
気持ちはわかります。
リアム達の頭を撫でます。
「リアム、ティアをお願いします。ティアもリアムの側を離れないでください」
「「うん。」」
二人を部屋の隅に座らせて離れます。
眠っている少年のもとに座ります。
まずは体力を回復させます。治癒魔法は体力を奪います。
次に治癒魔法で止血します。ただ流れた血を戻すことはできません。
洗浄の魔法をかけて、傷を塞ぎます。これで平気でしょう。
疲れました。子供の治癒は大人よりも繊細なので集中力がいります。
「私ができるのはここまでです。」
旦那様に肩に手を置かれ詰め寄られました。
「大丈夫なのか!?」
「傷は塞ぎましたが失われた血は戻りません。当分は安静にしていただいたほうがいいと思います」
「なんて、お礼をいえばいいか」
風魔法の気配がしました。
「ルリ、無事?」
旦那様が突き飛ばされ、私はリオの背に庇われています。
「はい。治癒魔法を頼まれただけですわ」
「父様!!」
「ティア、今は駄目」
ティアがリオに抱きつきます。リアムが止めるも間に合いません。リオがティアを抱き上げました。
「俺達はこれで。いくよ。リアムもおいで」
リアムの頭を撫でて抱き上げます。さすがリオ、私は二人同時に抱き上げられません。
「待って、お礼はどうしたら」
「お礼はいらない。この子の治療をした事は誰にも話さないでくれ。それでいい。余計な詮索はしないでくれ。」
突き飛ばしたことは責められないようです。リオに促されて、後にしました。
「おかえりなさい。早か、早くはなかったですね」
「家にいないから焦ったよ。また置いてかれたかと」
「そんなことしませんわ」
「信用できない」
嗜めるリオに苦笑して事情を説明します。
「相変わらずだな。今度は俺にも連絡して。買い物なら俺が行くのに」
「そろそろリアム達に買い物を教えたかったんです」
「俺がいる時にしてよ」
「リオ、最近忙しそうですもの。義兄様のお手伝いお疲れ様です」
「ここにいると色々頼まれるからそろそろ旅立つかな」
「ティアが泣きます」
「なんでエイベルがいいんだよ。俺のが強いだろ」
「さあね。やっぱり腹黒じゃない所がいいのかしら。私もエイベルの真っ直ぐな所は好きですもの」
「シア!?」
「一番はリオですけど。」
リオの頰への口づけを受け入れます。
「リアム達の買い物デビューは俺も見守りたいからいるときにして」
「わかりましたわ。まだまだ先ですけどね」
ここに来てから穏やかな日が続いています。
幸せですわ。リオはレイ兄様のお手伝いに行っています。
リアムは一人で修行しています。熱心ですわ。
ティアは一緒にお菓子を作っています。エイベルの胃袋を掴もう作戦ですが、エイベル甘いものを食べられないことは内緒です。
家の結界が揺らいでいます。侵入者でしょうか!?
「デイーネ、ティアをお願い」
リアムを探します。あら?リアムが誰かを取り押さえてます。
「リアム!?」
「母様、侵入者です。」
この子は、あの時の怪我した少年です。一人で来たのでしょうか。他に気配はありません。
「リアム、離してあげてください。おいで」
近づいて来たリアムを抱きしめます。
「今度は侵入者を見つけたら、捕まえなくていいから母様の所にすぐに来てください。」
「でも」
不満そうな声を出すリアムを見つめます。
「逃げるのも大切です。母様、リアムになにかあったらと思うと」
「母様、ごめんなさい」
反省している聞き分けの良いリアムと額を合わせます。
「約束ですよ。」
「うん。約束」
馴染みの魔力の気配がするのでリオが帰ってきました。
結界は二人で作っているので侵入者が入れば互いに魔力の揺らぎを感じられるのでわかります。
リアムを抱いたまま、動かない少年を見ます。
「大丈夫ですか?痛いところはありませんか?」
起き上がってから座ったままの少年を見ます。怪我をしてる感じはないですね。
顔が赤いですが、額を触っても熱はありません。
リアムがぎゅっと抱きついてきました。リアムの頭を撫でます。
ローブを着たリオと抱かれたティアが来ました。
私達、ローブ着てないですわ。
「ルリ、何事?」
「よくわかりません。リアムが取り押さえたんですが、打ちどころが悪かったのでしょうか?怪我をしている感じはありませんが」
「父様、僕は敵だと思います」
「リアム、謝りましょう。取り押さえたのはやりすぎですよ」
「いや、必要ない。リアムよくやったよ。偉いな」
「リオ!?」
リオがリアムの頭を撫でます。リオとは後でゆっくり話しましょう。
「ルリ、後は俺に任せて、ティアと続きをしてなよ。まだ途中だろ?」
「リオに任せるの心配ですわ。治療は私の得意分野です」
リオはほとんど治癒魔法を使えません。風属性の治癒魔法は高度なわりに治癒効果が薄いのです。極めても風魔法では大きい傷は治せません。
「あの、お礼を言いたくて。ローブ見えたから」
怪しい魔導士の家は有名ですものね。
「元気になってよかったですわ。次は気を付けてくださいね」
「うん、あの、」
「お父様達が心配するからお帰りなさい。もうお礼は充分ですよ」
「またきてもいい?」
「お父様達が心配するから駄目ですわ」
「また会いたい。お礼がしたい。」
真っ赤な顔で話す少年に悩みます。
「ルリは俺のだから惚れても無駄だよ」
「こんなに綺麗なひとはじめてみた」
「よかったな。お礼はいいからもう来るなよ」
「なんでルリはこんなに綺麗なのにローブ着てるの。もったいないよ」
「お前には関係ない。さっさと帰れ」
冷たいリオの声にため息をつきました。
「リオ、相手は子供ですよ」
「子供は厄介だ。ロキを思い出して」
「確かに・・・。ここはあなたが思うより危険なんです。」
「誰にも言わないよ」
「帰ろうか。俺が送るよ」
「僕も行く。母様に近づくのはゆるさない」
「リアム、えらいぞ」
少年はリオ達と一緒に帰っていきました。
それからは時々突然現れてリアムと喧嘩をしています。おかげでティアは家でもローブです。
リオが譲りませんでした。セリアが色違いのローブを作ってくれたのでティアはご機嫌ですが五歳児のお気に入りがローブってどうなんですの!?
リオにはシアも年頃の頃、割烹着がお気に入りだったろうって言われて何も言えなくなりました。
可愛い子供たちの将来が心配です。




