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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
番外編 冒険の記録

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冒険者の記録 七話

こんにちは。砂の国の冒険者ルリこと元レティシア・ルーンですわ。

Aランクの冒険者です。



久しぶりに世界で一番安心する腕の中で眠りにつきました。

目を開けるとぼんやりした世界に美しい銀の光が差し込みます。


「ギルドに報酬を受け取りに行ってくるよ。シアはどうする?」

「すぐ帰ってきますか?」

「今日は仕事を受けないよ。報酬と確認くらいだな。まだ早いからもう少し眠ってていいよ。帰ったら食事にしようか」

「起きます。あれになにかあれば」

「フウタに任せるよ。フウタ、シアとあれを頼むよ。シアはおやすみ」

「任せて!!」


優しく微笑むリオに頭を撫でられ、瞼がどんどん重くなり目を閉じました。

報酬を取りにいくだけならすぐに帰ってくるでしょう。

私は殿下に渡された怖い物たちを厳重に封印するまでは家を出れません。うちには結界がはってあるのでリオ以外が来ればわかりますわ。頼もしいフウタ様に任せて瞼の重みに負け意識を手放しました。






窓から差し込む光が眩しく目を開けました。

砂の国は母国よりも太陽の力が強い国。太陽の光は時に人を焼き殺すほどなのでいいか悪いかはわかりません。外に出れば乾燥した空気が漂っていますが、水と風の結界に包まれたうちはフラン王国によく似た空気がなぜか生み出されます。しくみはよくわからないですが、過ごしやすくありがたいことですわ。

ベッドから起き上がり、夜着から着替えます。

リオがいないことに不思議に思いながら、寝室を出るとフウタ様とディーネがいました。そして二人を見て思い出しました。怖い夢は夢ではありませんでした。

怖い物の詰った箱を抱えてリオを探すと朝食の準備をしていました。

リオ、朝食どころではありません!!

手を止めて近付いてきたリオは私の頬を一撫でして箱を持ってくれました。


「おはよう。食事に、わかったよ。先に封印な。封印した後なら食欲が出るか」

「厳重に封印して庭に埋めましょう」

「シアが納得するまで封印をするのはいいけど、埋めるのはやめようか」

「こんな怖い物を持ち歩くなど恐ろしくて……」


想像しただけで震えそうになる体を抱き寄せられました。

リオが箱を投げて、空いた手で私の手を握りました。箱は床に落ちることなく浮いています。殿下からの贈り物は魔力を持っているのでしょうか。怖ろしい。


「目を閉じて。一緒に封印しようか。俺に主導権を、シアは魔力を送って」


リオに言われるまま重なる手から魔力を注ぎます。リオの声が聞き取れない言葉で詠唱をしてどんどん魔力を注いでいきます。冷たい霧の匂いがしてしばらく経ちました。ボトンと床に箱が落ちる音に目を開けると霧が霧散しました。


「封印の解除には俺達の魔力が必要だ。もう大丈夫、じゃなさそうだな。俺が持ってるよ。シアは持たなくていい」

「だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。俺はフラン王国屈指の魔力持ちだよ。俺に任せて」


無理している様子は微塵もなく優しく微笑むリオに頷くとリオは箱をいつも身に付けているマジック袋にいれました。

殿下からいただいたものは絶対に死守しなければいけません。

私は恐ろしくて持ちたくないので、リオが持ってくれるのはありがたいです。


封印も終わったので朝食にしました。

机の上にはリオの作った料理だけでなくお土産のお菓子も並んでいました。


「味はいまいちだけど、見た目は可愛いな」

「まぁ!?砂糖菓子ですね。花が少ない砂の国で色鮮やかな砂糖菓子は好まれるでしょう」


色とりどりの花を模った砂糖で作られたお菓子。

甘味が少ない砂の国では砂糖は高級品。ですが最近は砂の国では砂糖を生み出す葉液を生み出す草の栽培に成功したそうです。それから砂糖は高級品から少し背伸びをすべば手が届く嗜好品に変わりました。そして砂糖を使ったお菓子が首都で流行に。

口にいれると単なる甘ったるい砂糖の塊。これは目で楽しむだけのものですわ。


「砂の国ではそのまま口に入れるもの。どうぞ」


リオが淹れてくれたお茶は砂糖菓子に合わせたのかいつもより苦みのある濃いもの。好みではない味にカップを置くとリオが砂糖菓子をお茶にポトンと落としました。濃い茶色から鮮やかな黄緑色に変わりました。


「砂糖菓子に使われるのは砂の国で発見された薬草から作られる特殊な砂糖。俺達の知る砂糖とは違うものだ。飲んでみて」


苦みしか感じなかったお茶からほのかな甘みとなぜか覚えのある不思議な香り。


「これってマール領の」

「正解。知り合いの商人から買い取った」


不思議なものに溢れるマール公爵邸。そしてフラン王国に輸入、輸出されるものは全てマール一族が管理しています。世界を相手に商売をしているマールのものなら大商人に取り扱われても不思議でないものばかり。

リオがたくさん買ってきたお土産には私の知らないものもあり、見たことのない珍しいお菓子は楽しいものばかり。新たにリオが淹れてくれたお茶から漂うのは懐かしい香り。


「お茶は淹れ方次第で全てが変わるだろ?とくにマールの扱うものは」

「美味しい。リオのお茶は全て美味しいですが、これは格別ですわ」

「シアのために練習したから喜んでもらえて嬉しいよ」


フラン王国の名産品を口にする日がくるとは思いませんでしたわ。

懐かしい味のお茶を飲み終えると浮かんでくる思い出。幼い頃から嗜んだお茶とともに一番一緒に飲んだ大好きな人と一緒にいられるのは幸せなこと。あくまでも私の目標の脱貴族にリオまでとは、このお茶を当然のように飲んでいた頃の私は想像もしてませんでした。あくまで夢物語。だからこそ目指していても、目指した後の脱貴族後の生活を具体的に考えることを放棄していたのでしょう。そんな余裕もありませんでしたが……。


「シア、結婚しよう。ギルド長に勝ってきた」


優しく微笑むリオの言葉に首を傾げました。


「え?」

「ディーネ、いいだろ?魔法を使うなとは言われてないし」

「わかったわ。認めるけどレティを泣かせたら沈めるわ」

「そんなことは絶対にしないよ。ディーネの許しもでたし結婚しようか、シア」


机の上で丸くなっていたディーネが立ち上がり、リオと見つめ合いしばらくするとまた丸くなりました。



「怪我は」

「無傷だよ」


自信満々に微笑むリオ。

確かに怪我はしていないようですね。報酬を受け取るだけだと思ってましたのに……。手合わせするなら一緒に行きたかったですわ。

リオとギルド長の名勝負を見逃すなんて悔しいです。不満をこめてリオを睨みます。


「私も見たかったです」


宥めるようにリオが頭を撫でてきます。それくらいではごまかされませんわ。


「勝てるかわからなかったから。負けて無様な姿を見られたくない」

「私は気にしません」

「俺が気にする。祝ってくれないの?」


悔しいですが、初勝利の嬉しさもわかります。ここは私がこらえてリオの初勝利を祝いましょう。初勝利に水をさしてはいけません。不満な気持ちは隠して笑顔を作ります。


「初勝利おめでとうございます」

「ありがとう。幸せにする」


頭を撫でる手が止まり、優しく抱きしめられました。

正直、リオがギルド長に勝つとは思いませんでした。またリオとの差が開いてしまいましたわ……。

ただギルド長に勝ったのに、リオはそんなに嬉しくなさそうなのはどうしてでしょうか。

何かあったのでしょうか?

胸から顔を上げると、目が合う銀の瞳は暗さはありません。

リオが言わないなら聞きませんわ。

きっと、殿方にも色々ありますものね。


****



「これに行くか」



掲示板から依頼書を持って私に見せるリオは約束通りいつも側にいてくれます。

ありがたいことに首都からの依頼もないので側にいてくださるのは嬉しいです。

変わったことはもうひとつ。

アルクがギルド長の後継に指名されました。

念願のレラ姉様との結婚許可がおりたみたいです。リオも二人の婚約に触発されたのかな?

ただアルク達に幸せオーラが出てないのは心配です。最近は二人とも忙しいのか全然構ってくれません。

その分リオが一緒にいてくれるのでそこまで寂しさは感じません。デイーネもいますしね。

素直になれない二人の世界を邪魔してはいけませんね。

アルクの念願の婚約も叶ったのならもうお節介はいりませんわ。

好きな人と一緒にいられるだけで幸せですもの。


「シア?」


美しい銀の瞳に覗き込まれ、あまりの美しくさにうっとり見惚れてしまいます。近づいてくる顔にここが人前であることを思い出し一歩後ろに下がりました。ずっと見ていても飽きることない美しい瞳から目を反らすとアルクを見つけました。思考も体もおかしくなる前にリオから離れてアルクに近づきます。


「アルク、おめでとうございます!!」

「ルリか、ありがとな」


嬉しそうに笑われると思ったお顔はなぜか目が虚ろですわ。


「なにかありましたの?」

「いや、」


歯切れの悪いアルクは珍しいです。もしかして疲れているんでしょうか?


「アルクは幸せにひたりたいだけだから、そっとしてあげて?なあ、アルク?」

「ああ。色々忙しくてな」


そっと私の肩を抱いたリオがアルクと見つめ合い、リオから私に視線を向けたアルクは曖昧に笑いました。


「私で良ければお手伝いしますわ」

「ルリは俺のことより自分の事だろ?」


アルクは首を横に振り、いらないと意思表示をしましたが意味がわかりません。


「自分のこと?」

「リオと結婚するんだろ?おめでとう」

「ありがとうございます?」

「嬉しくないの?」


何も利益のない婚姻にお祝いを言われるのは不思議でなりません。

政略のない婚姻の意味は私には理解できません。両家にも王家にも神殿にも認められていない婚姻の意味とはいかに……。子孫を残す義務のないルリに家族の必要性も理解できません。リオは違うようですが、私と違い賢いリオの考えを理解できるとも思えませんし、必要もありません。ただリオが喜ぶことを私ができるのは喜ばしいこと。それだけですわ。



「いまいち、実感が……。それに手続きもわかりません」

「訳有だもんな。少し遠いけど、訳有ご用足しの教会に行けば?」


アルクによると、戸籍がなくても結婚できる教会があるみたいです。ここから遠いけど、遠方に行くのは慣れてます。


「詳しく」


リオはアルクと地図を広げて場所の確認を始めました。

行動が早いですが行くんですか?

アルクとリオの和気あいあいな様子を見て思い付きました。


「アルクも一緒に行く?」

「俺も行きたいけど、忙しくて。二人で行ってきて」

「私、手伝うよ」

「これは俺とレラの役目だから。ルリの手は借りられないんだ」

「わかった。無理しないでね」

「ああ。幸せになれよ」

「アルクもね。レラ姉様と幸せにね」


後継者だけで乗り越えないといけないことがあるようです。きっと二人なら大丈夫でしょう。

リオはアルクとの話を終えるとすぐに旅支度を始めました。もちろんリオの選んだ依頼も滞りなく終えましたわ。


「お疲れ様。気を付けろよ。ルリ、たまには素直になれよ。リオの側にちゃんといるんだぞ」


依頼を終え、報酬を受け取った私はアルクに意味深な顔で話しかけられました。アルクはすぐに離れていったので不思議に思いましたが気にするのはやめました。


***


「ルリ」


ギルドで旅立つ準備をしていると名前を呼ばれて顔をあげます。


「シオン?」

「少しでいいから二人で話さないか?」


隣に座っているリオが嫌そうな顔をしました。

リオの顔に一切見向きもせず、シオンはリオによく似た意思の強い瞳でじっと私を見つめています。

シオンに想われてるのはたぶん勘違いではありません。シオンの時折見せるリオによく似た顔は……。


「うん。いいよ。リオ、行ってきます」


リオが止める前に立ち上がり、シオンのもとに行きます。


「祠に行こう」


明るく笑うシオンに誘われて村を歩きます。

シオンと一緒に歩くのはどれくらいぶりでしょうか。

女性に人気のあるシオンの傍は避けてました。

祠に着いたので二人で掃除をして祈りを捧げます。


いつもありがとうございます。

皆が幸せでありますように。

祈り終え立ち上がると、シオンに名前を呼ばれ顔を上げるといつもの明るさとは正反対の切ない瞳で見つめられました。

なんと言葉をかけるべきか悩んでいるとシオンがゆっくりと口を開きました。


「ルリ、幸せ?」


シオンの問いかけは予想とは違いますが、答えは簡単です。レティシアではなくルリの口調で答えます。


「うん」

「結婚するんだって」


なぜかリオと婚姻することがギルドに広まっています。冒険者にとって情報収集は基本だから仕方ありませんわ。


「うん」

「リオが好き?」

「好き」

「俺は?」

「大事な仲間」

「そっか。大事か」


シオンが無理して明るく笑ってます。

でもそこは気付かないふりをします。人は誰にも気づいてほしくない想いや願いを持つことがあることを私はよく知ってます。


「うん。たくさん傷つけてごめんね。私はシオンの想いをもらえない」

「俺はルリの役にたてた?」


傷つき強がりながらもおどけているように見せるシオンはすごいです。

私はリオに好きな人ができてもこんなこと言えません。こんなに優しく強い人は私には勿体ない。リオもですがシオンも。優しいシオンから向けられる想いを決して受け取らず、傷つけるしかできないひどい私。ひどい私がシオンのためにできることは、決して見せないようにしていた心を見せることくらいです。シオンの質問についてゆっくり考える。

偽りの冒険者ルリではなくレティシアにとってのシオンは……。


「女の子達に人気のシオンの側にいるのは怖かったけど、いつも明るいシオンの側は居心地がよかったよ。ディーネもシオンが好きだし。村に馴染めない私を気遣ってくれたこと感謝してる」


シオンとのやり取りを思い出すと今更気づきました。

今ならわかります。

村にもギルドにも決して馴染もうとしなかった私。旅は刺激的だけど楽しいことばかりではありませんでした。怖いものに出逢う旅に疲れて少しだけ休む場所が欲しかったから外国とのつながりがほとんどない、名物も観光地もない田舎の村にしばらくとどまることを選びました。

情報は集めても人に興味がない私が村に馴染めるように心遣いをたくさんもらっていました。寂しくて、リオが恋しくて泣いた私を気に掛け抱きしめてくれた腕は温かかった。


「もし、リオがいなかったら俺を見てくれた?」

「ごめんなさい。私はリオ以外は考えられない。シオンはリオに似てたけど代わりにはできない」

「俺は代わりでもよかったけどな。初めてこんなに好きになったから」


太陽の光の下で笑うシオンは格好いい。村で人気の理由もよくわかります。

いつかシオンがお互いに想いあえる人に出会えればいい。


「シオンは人気者だから、私よりもっといい子がいるよ」

「俺はルリが好きなの」


強くて優しいシオン。どんなにシオンが格好よくても私にとっての一番は揺らぎません。でも忘れようとしても忘れられない想いがあることも知ってます。


「ありがとう。でも、私はリオだけでいいの」

「相変わらず即答だな」

「うん」

「ぶれないな。俺に可能性はないんだな」


お世話になったシオンへの恩返しは思い付きません。

シオンとの思い出で一番印象的なものは、


「ようやく名前を覚えてくれたか」


あの時、嬉しそうに笑ったシオン。

自分の好きな人の心に自分がいるのは嬉しいこと。


「ごめんね。でも、いつかこの村を発つことになってもシオンのことは忘れないよ」

「本当?」

「うん」

「最後に抱きしめても」


シオンの広げる両腕にそっと抱きつき抱擁を受け入れます。シオンとの抱擁はニ度目。

一度は温かい腕に縋りかけました。

でも手を取らなかったことに後悔はありません。


「俺のこと、忘れないで」

「うん。絶対に忘れない」

「リオが嫌になったら、俺のとこあけとくから」

「あけとかなくていい」

「つれないな」

「私は仲間としてのシオンが好きだから、シオンの想いを受け止めてくれる人と幸せになってほしい」

「ありがとう」


強く抱きしめられていたシオンの腕が感謝の言葉とともに解かれました。

シオンの胸から顔を上げるとうまく笑えていないけど、笑おうとしているシオンに気付かないフリをして微笑み返します。


「またな。俺もルリの幸せを願ってる」

「ありがとう」


シオンの手が私の顔に触れようとしましたが、ギュっと拳を作り手を降ろしました。そして背を向けて去って行きました。たぶんアルクがなんとかしてくれると思います。

もう一度、祠に大事な仲間のシオンに幸多かれと祈ります。

祈りを捧げ、空を見上げると雲一つない青空が広がっています。髪を揺らすのは砂の国特有の乾燥した砂を乗せた風ではなく、昔、祈りを捧げているときに恋しくってたまらなかった優しい風。この優しい風の持ち主はたった一人だけ。たぶんこっそり付いてきているリオが恋しくなりました。きっと不機嫌でしょうが。優しい風に乗せられた魔力の気配をたどり、大好きな人を見つけ胸に飛び込み、勢いよく抱きつくと、当然のように抱きしめてくれる腕が嬉しい。


「ただいま!!」

「おかえり」

「怒った?」

「怒ってないけどおもしろくない」


不機嫌な恋人に笑みがこぼれます。実はリオは焼き餅やきみたいです。背伸びをしてリオの頬にそっと口づけます。


「私にはリオだけって言ってきました。初めてリオ以外に想われたけど、リオじゃなきゃ駄目みたい」

「あざとい」


意味がわかりませんが、不機嫌な顔が苦笑に変わりました。


「私の帰る場所はリオの腕だけです」


何があっても帰りたい場所はここだけです。リオの瞳が優しくなり、優しく笑った顔を心に刻みつけます。もしもは考えたくありません。シオンのように好きな人の幸せをどんなときも考えられるようになれたらいいとわかります。でも私は-------。

リオの胸に顔を埋めると優しく頭を撫でられます。ゆっくりとしたリオの心音に耳を傾けると「シア」と呼ばれ、顔を上げると真剣な銀の瞳と目が合いました。

リオに真剣な顔で見られています。


「明日、発とうと思う」


リオの真剣な顔に嫌な予感に襲われ、おそるおそる口を開きます。

「私も一緒?」

「勿論。ずっと一緒だって約束しただろう?アルクに聞いた教会を目指す。シア、そこで俺と結婚しよう」


置いていかないという約束を守ってくれるリオの言葉にほっとしました。珍しくリオがこだわることに不思議に思いながらも、心に余裕ができて笑みがこぼれました。


「リオは結婚が好きですね」

「俺は婚約した時からシアが成人したらすぐに結婚するつもりだったよ」


頬に手が添えられ、優しく口づけされました。

驚いてリオの顔を見ると甘い笑みを返され、体がおかしくなります。

甘い瞳で見つめられると、体の熱が一気にあがり、自分で制御できなくなり変な顔をしているだろう私に恥ずかしい。


「ずっと一緒にいるって言っただろう?結婚すればどんなときも一緒にいられる。それにシアを俺だけのものにしたかった」

「リ、リオも色々考えてたんだね」

「シアよりよっぽどな。結婚してくれるだろ?」


結婚が一緒にいられる理由になるかはよくわかりません。でもリオと一緒にいられない未来は考えたくありません。リオの隣にいる誰かを想像するだけで胸が痛くなります。


「うん。リオの側に私以外がいるのは嫌。第二夫人も愛人も認めませんよ」

「シアだけだから。ありえないよ」


頬に添えられた手に顎を上げられると、甘さを宿した銀の瞳が目の前にありました。思わず目を閉じると唇が重なりました。

リオとの口づけは幸せだけど変な気分になります。ぼんやりした頭に、聞き覚えのある声が響き衝撃の事実に気づきます。

慌ててリオの胸を押します。甘い瞳で見られ、体がおかしくなりながらもリオから離れて走り出します。


「シア!?」


ここは外。聞こえたのは村人の声です。口づけを見られるなど恥ずかしすぎます。


「邪魔するなよ。ディーネ!!シア、待って」


急いで家に帰りましょう。リオの声なんて聞こえませんわ。ディーネの魔法の気配がしますが気にしている余裕はありません。家に帰り、魔法で体を綺麗にしてベッドに飛び込みました。

羞恥に襲われ、だんだん眠気に襲われ瞼が重くなり意識を手放しました。冒険者には休息が大事ですから、時にお昼寝も大事ですもの。




夢の世界に旅立った私はこれから先のことを一切知りませんでした。

翌日には村を発つことになることも。

冒険者は出会いと別れの繰り返し。

突然の旅立ちもよくあることですから。

定められた規則はありますが、それでも心のままに進むのが冒険者ですから。


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