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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
番外編 冒険の記録

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153/207

冒険者の記録 六話

俺はアルク。

砂の国のAランクの冒険者だ。


ギルド長がリオ達に任せたかった依頼の詳細は現地説明。

期間は1週間。

金額しか記載のない依頼書。

国からギルドへの依頼書じゃなければ誰も受けない内容だ。


冒険者層の薄い地方ギルドじゃ対応できずに首都のギルドに依頼することはあるが、その逆は稀だ。

ただ最近はその手の妙な依頼が多い。選考基準が厳しいわりに仕事内容は簡単。なのに拘束期間が長い。報酬が高く難易度の低い仕事は俺には美味しい。だが隣にいる男は違う。


「ルリを連れてこなくて良かったのか?」


ルリは最近首都で流行りの菓子に興味を持っていた。

砂の国は発展途上国。

広大な砂漠の中心にあり、国境には魔物で溢れる魔の森がある。

自然の要塞が国を守護するため国防の必要はない。まぁ昼間は暑く、夜は冷たい夜風が襲いかかる、自然の恵みが少ないなんのうまみもない国を欲しがる国もないか。

それでも最近はそんななんの魅力のない砂の国も発展を始めた。

俺達の村にフラン王国で出会った美しい男に言われた通り紙を埋めてから、緑色の植物を見かけるようになった。その植物は薬効もあり新たな財を生みだし始めている。雨があまり降らない土地柄なのに最近は頻繁に雨も降る。まぁうちのギルドは雨乞いができるルリもいるおかげで水に困ることはないが。

発展を急速に進めたのは砂の国の王族が外交に成功し首都と隣国を繋ぐ道路が整備されたのが大きい。それからは旅人や商人も増え首都は5年前と比べものにならないくらい繁盛している。珍しいものが好きなルリが興味を持ちそうな店もある。


「人が賑わう場所では出会いが生まれる。特に高貴な者には会わせたくない。絶対にルリのことを口に出すなよ。冒険者に俺のことも紹介しなくていい。何かあればこいつに」


リオは首都では砂の国の言葉を話さない。リオが手を伸ばすと白い小鳥が現れ指の先に降りた。リオの使役する鳥は伝達役としてよく預けられる。


「じゃあな」


リオは宿に荷物を置くと窓から出て行った。依頼主が宿を用意していたがリオが自腹を切った。俺なら決して使うことのない高級宿屋。貴族の坊ちゃんなら仕方ないか。ルリがリオの金銭感覚を心配するのがよくわかる。リオは買い物では決して値切らない。明らかにカモられていると気付いても言い値で払う男だ。とはいえ高級宿屋の部屋よりもロキに案内された部屋のほうが広く豪華だった。俺なんか一生かけても届かないほどの金を持っているのかもしれない。生まれはどうにもならない。羨むくらいなら欲しい物が手に入るように動くのが効率的だ。金持ちの家に生まれた二人にも、俺が知らない色んなことがあるだろうしな。



リオは出て行ったが俺は明日の仕事に備えて休むか。

リオが帰ってくると小鳥は消えた。

荷物を置いて、無表情でなにかを綴っているリオ。


「手伝おうか?」

「いらない。先に休んで」

「きちんと休まないとルリが怒るぞ」

「もう少ししたらな。回復薬もあるし心配いらないよ」


筆を止める気のないリオの苦笑にこれ以上言うのはやめた。シオンやルリと違いしっかりしている成人した男の世話をやく必要もないか。

翌日依頼書に書かれている広間に行った。

フードを被った男が広間の中心にある透明な大きな石の前に立った。


「お集りいただき感謝致します。皆様にお願いしたいのはこの魔石に良質な魔力を注ぐこと。貴重な魔石ですので失敗は許されません。遠路よりお越しの方もいらっしゃいますので本日は歓迎と休息のための場を設けました。魔力の供給は翌日より順番に行っていただきます。順番はギルドごとに振り分けさせていただきますのでご心配なく。私はあくまで仲介人ですので質問や異議は受け付けませんのでよろしくお願いします」



今回の依頼は魔石に魔力の補充の依頼。

危険もなく簡単な仕事にしては金貨が支払われる高額な依頼。横暴な魔導士の態度にも文句を言う者はいない。

この依頼、Aランク以上の魔導士を集める必要があったのだろうか?

Aランク以上の魔導士自体がこの地域は少ないため集まった人数は8人。

魔導士を片っ端から集めて一気に魔力供給させればうちみたいな地方ギルドに収集をかけなくてもすんだと思うが……。

俺のように疑問に思うやつも多かろうに口にも顔にも出さないのがギルドに認められる上級冒険者達。


「ここにもいないか。もしやと思ったのに、どこまで逃げたんだよ」



部屋に案内されている道中に男の言葉を拾った。ローブを被っているリオが一瞬呟いた男を睨んだ気がしたのは気の所為だろうか。

豪華な部屋に砂の国の名物料理が並んでいる。珍しい果物もある。

目の前では美しい踊り子が舞い、酒を振舞っている。

たった一人だけフードを深く被り、顔を隠しているリオ。


「先に戻る。女は嫌いだ。これで好きにすればいい」


リオが酌をしながら触れようとする美女の手を振り払った。振り払った美女に銀貨を投げて立ち上がったリオ。放り投げられた銀貨に口角を上げ、妖艶に笑った美女が追いかけたがすぐに戻ってきた。ルリ以外の女嫌いのリオはさっさと逃げたんだろう。他の冒険者達は酒と美女を楽しんでいるが俺にもレラがいる。豊満な胸を惜しげもなく使い誘ってくる女に酒に酔って手を出した後の惨事は知っている。情報通のギルド長にいつの間にか伝わるだろう。その後の惨事は想像したくもない。


翌日魔力供給を行う順番が発表され俺達の担当は三日後だった。

ギルドごとに日にちを変えて魔力供給を行う。

非効率すぎる。


「明日に変えてもらった」

「は?どうやって」

「情報料」

「ならいい」



ルリの土産を買いにいき帰宅したばかりのリオの言葉に驚いた。

リオの手にあるのは菓子。日程を速めたにしろ帰国までの時間は長い。生菓子を買って傷まないのか?

まぁリオならルリが腹を壊すようなことはしないか。

俺達の担当の日、リオは仲介人の男に無茶を言った。


「魔力供給の方法は定められていません。一族の秘術を見せるのは避けたいのですが」

「大事な魔石ですので、警備と監視は外せません」

「もしも魔石を壊すことがあればさらに良質な魔石を用意しましょう。懇意にしている貿易商は海の皇国を主にしていますので、彼からこのようなものを預かってますが証になりませんか」


男は悲鳴をあげて、跪いた。


「あくまで知り合いなだけで、私は血縁ではありません。どうか立ってください。私の申し出は受けていただけますか?」

「仰せの通りに」

「感謝いたします」


リオの申し出を受けて、仲介人の男と警護の男が部屋を出た。


「結界を」


冷たい風が吹き、魔石と俺達の周りを囲んだ。

リオの結界か。俺は魔法陣を使わないと結界を作れない。

リオが魔石に手をあて、魔力を注ぎはじめた。

リオの小鳥がリオの肩に降りると手を放した。


「こんなものだろう。これ以上注げば魔石が砕ける。アルクの出番だ。魔力切れのフリをしてくれ」

「は?」

「報酬は半分やるよ。魔力切れのフリして倒れてくれれば運んでやるよ」


リオはいつもと変わらない顔で俺に魔力切れのフリをしろと言っている。

さすがにこれで報酬もらうのは悪いから言う通りにするか。

なぜか魔力は俺が注いだことになっているが気絶したフリを続ける。

依頼はこなしたので、俺の体調不良を理由にお礼の晩餐会はリオが断り帰路についた。


「そんなに早く帰りたかったのか?」

「当たり前だろう。離れる仕事は受けたくないけど、愛しい恋人の願いは断れないからな」


リオはやはり村にルリを残したのが心配だったんだろう。

最近ルリは少女から女性になったから尚更か。


「報告頼む」


村に着いた途端にリオが風を纏い、空に浮かんだ。呆気にとられる俺を残して消えた。

すごい速さで消えたけど、まさかルリに何かあったのか?



「え!?」


ギルドに帰ると俺の帰りの早さにレラが目を大きく見開いて驚いた。驚いた顔も可愛い。


「ただいま。レラの仕事が終わるの待ってるよ」


依頼完了の手続きをして、レラと一緒に帰るために仕事が終わるのをギルドで待っていることにした。

暇なので荷物を確認するとリオが大量に買っていたルリへの土産が紛れていた。


「それは?」

「リオの荷物が紛れてた。ルリへの土産だろう」

「届けましょう。ええ、帰りが早くてルリも驚いているだろうし」


リオの様子が変だったのでレラと二人の時間を満喫するのは我慢してリオの家を訪ねることにした。


「荷物に紛れてたから届けに」

「おかえりなさい。アルク、ありがとうございます。リオ」

「感謝するよ」


袋を渡すと笑いながら受け取るリオの腕を珍しく抱いているルリ。怪我もなく、いつもと変わった様子がないから杞憂か。ルリに誘われる前に撤退しよう。せっかく届けてやったのにリオから注がれる視線は冷たい。珍しくルリから甘えているから邪魔するなってことだよな。


「いいよ。俺達はこれで」

「ありがとうございます。また、リオ、休みましょう」



笑顔のルリに反してやはりリオは不機嫌だ。


「明日、朝一でギルドで待ってるから」


「リオ、休みましょう。お話なら」

「もう終わったよ。今日はどこにも行かないって言っただろう?シアに独占される約束だろう」


ルリがリオの腕を強く抱いて気をひこうとしている。リオはルリの肩を抱き、ルリ専用の笑みを浮かべ、いつもの二人の世界が始まったので撤退した。

ルリに笑いかけるリオはいつも通りだったが、最後の一言に嫌な予感がしてならない。

その晩はレラの美味しい夕飯を食べて休んだが、疲れているはずなのに全然眠れなかった。




翌朝、レラと一緒にギルドに行くとリオが待っていた。


「アルクとギルド長とレラさんに用があります。個室でお願いします」


リオがルリを置いてくるなんて初めてだ。

リオの希望で2階のギルド長室に移動した。


「朝から話とはなんだ?ルリは、」

「この用件にシアは不要です。邪魔をされたくないので、家に置いてきました。今日は家から出ないと思いますよ」


ルリのことを心配するギルド長に見たことがないほど爽やかな笑顔で応えるリオ。

リオ、ルリに何をしたの?

爽やかに見えるのに、なぜか笑顔に寒気を覚える。

ルリが邪魔ってなに?

リオがルリを邪魔に思うことが想像できないんだけど。

ルリ、またなにかやらかしたの?


「俺はギルド長とレラさんに確認したいことがありますが、身に覚えはありませんか?」


笑顔なのにリオの瞳は笑っていない。

二人が何かしたの?


「年をとると記憶が曖昧で、なんのことだか」


ギルド長の言葉に部屋の温度がさらに下がった気がするのは俺だけだろうか。


「記憶にないなら構いません。俺はシアと村を出ます。お世話になりました」


やはりずっと笑顔のリオが怖い。

お前、怒ると笑うタイプなんだな…。

いつもの殺気を放ってルリに近づく男を叩きのめしてたのは牽制するためか。

あれ、怒ってたんじゃなかったんだな。

イラついてたのは間違いないけど、リオから滲み出る冷気を感じたのは初めてだ。


「本気か?」

「はい。未熟なシアいやルリを保護していただいた事は感謝します。なのでギルドに貢献もしてきました。ただ俺は、故意に隠し事をして俺達を利用したことを許せるほどお人好しではありません。俺を宥められる唯一のシアはここにはいません」


ここまで瞳に怒りを宿したリオは初めてだ。

殺気が出てないのが不思議なくらい。

だが殺気を向けられるよりも静かに怒るリオの方が怖い。

レラも顔が青いけど大丈夫だろうか。

リオが怖いけど、ここで怯えているわけにもいかない。


「怒ってるのはわかるんだけど、事情を説明してくれないか?俺には状況が全然飲み込めない」


「俺達が国の依頼を受け、村を留守にしている時にシアが記憶喪失の男を保護した。その男は一時期ギルドで保護されていたらしい。Dランクのクロ。記憶が戻ったクロは旅立ったが時々村に寄って依頼をこなしている。認定試験の相手をシアが行い、シアが負けた。シアはクロと会うたびに()()で薬草採集に行ったり訓練をつけてもらっていたそうですね。しかもクロはいつも俺といれ違いで旅立ったと聞きました。

シアには俺に心配をかけないように、俺がクロと会うまで内緒にしようと説得したと」


リオの言葉にルリがやらかしたことがよくわかった。

危機感皆無のルリにため息をつきたいが、リオが俺達に怒っている理由がよくわかった。

故意にリオに隠した。

しかもリオはレラとギルド長を信頼していたから、ルリを村に残したはずだ。


「ルリの優しさでリオに怒られるのが可哀想だと思って、つい」


真っ青な顔色なのに強気に笑いながら言うレラ。

それは言い訳として苦しい。

このリオに反論する度胸は凄いけど、ギルド長に似たんだろうか。


「レラさん、俺はシアがクロを家で保護しようとしたのをギルドに連れて来てもらったことは感謝してます。シアの危うさをわかっていたから貴方を信じて俺のいない間のシアを託しました」

「ごめんなさい。ひどいことをしたわ。この件を知ったら貴方がルリを置いて、依頼に行くことがなくなることを危惧した」


頭を下げるレラ。

リオのレラに向ける眼差しは冷たい。

リオは冒険者として優秀だ。だからギルドの経営者としてギルドに貢献してほしいという気持ちもわかる。実力があるのに依頼をえり好みする冒険者とどう付き合うかはギルドの運営側の腕が試される。

特に優秀な冒険者が定住しにくい、小さな田舎にある地方ギルドは。


「リオ、二人の立場も少しは」

「アルクは耐えられる?自分のいない間に身元不明の男がレラさんの近くにずっといた。しかも手合わせした上に世話をやいていたなんて。俺はギルド長にシアを認定試験に出すことを許した覚えないんですけど」


俺の言葉を遮ったリオの言葉に息を飲んだ。

ルリの行動を制限しすぎじゃないか。

ルリを手合わせさせないことをギルド長と約束、してそうな雰囲気だな。

ギルド長もルリに対しては過保護だが、甘い。

ルリの訓練はいつもリオがつけている。

いつも二人は一緒にいるから、ルリが手合わせに立候補するならリオが出るしな。

女のルリに挑む奴は滅多にいないけど。


「私がしますよ。修行の成果を」

「俺にやらせて。腕試しに」

「私ではリオの相手はできません。悔しいですが譲りますわ。怪我には気をつけてくださいね」


周囲に見せつけるようにルリの頬に口づけをして、挑戦者を瞬殺するリオは有名だ。

リオの過保護を知った上で、リオのいない所でやらせたのはまずいよな。

なんで誰も止めなかったんだよ。

ルリが望んだとしても、リオが怒るのは目に見えているだろうに。


ルリの危なっかしさに頭がさらに痛くなる。

不審者、しかも異性を家にあげるなよ。

周りへの被害よりも自分の安全を優先しろよ。


「魔法を使えば負けないもの。いざとなればディーネと一緒に記憶を消しますわ。ギルドではできませんが、うちなら簡単」


無邪気に笑うルリとディーネが浮かんだ。

ぶっ飛んでいる主従コンビ。物理で記憶を消そうとする癖はいつかなくなるんだろうか。

このルリをリオが側から離さない、いや離せない理由はよくわかる。

ルリの危機感のなさを置いておいても、俺も男だからリオの気持ちはよくわかる。

俺のいない間にレラが危険な男と親睦を深めていたなんて考えたくもない。

危険じゃなくても異性と親睦を深めるのは嫉妬するよ。

ルリは外見だけなら村一番の美女だから危惧する気持ちも。

男心に疎いレラはどこまで理解しているか怪しいけど。

だがレラも悪気があったわけじゃない。


「それは、でも、手合わせしたのも、その後の行動もルリの意思だろう?二人だけを責めるのはおかしいよ。隠したことに怒ってるのはわかるけど、肝心のルリはなんとも思ってないんだろう」

「シアの気持ちは関係ありません。俺はシアを守るためなら手段を選びません。もしクロが危険人物でシアに危害を加えたらこの村を消したかもしれないし」


理路整然としない俺の言い分を容赦なく斬り捨てやがった。


「お前、言ってる意味わかってんの?」

「竜巻一つでこんな小さな村なんて吹き飛ぶ。俺にとって、瞬き一つの間に終わるだろう。俺は俺からシアを奪うもの、奪う可能性のあるものは容赦しないって決めてるから」


狂ってるだろ。

俺はそこまでできないよ。犯人に復讐するくらいだ。


「ルリはどう思うよ」

「シアには教えません。それにシアは知りたがりじゃないんですよ。俺が傍にいるかぎり情報収集さえしようとしない。シアは目の前にある必要なこと以外興味がないんですよ」


リオがルリの保護者だと思っていたがルリはリオの良心だったのか。

リオはルリ以外のことに興味がない。

リオにはルリ以外の命など雑草みたいなものなのかもしれない。

こいつの社交力の高さに隠されていただけ。

いつもルリが傍にいたから、リオの本質に気づかなかった。

ルリの世話を甲斐甲斐しくやく、頼りになる年下の仲間じゃなかったみたいだ。

ルリの軽率な行動を理由に、このことをおさめるのは無理だ。

たぶんリオにとってはルリの安全と平穏が守られるか以外はどうでもいいはずだ。


「リオの信頼を裏切ったのは謝る。すまなかった。俺の配慮が足りなかった。これからはリオを依頼に行かせるためにルリを利用しないと約束しよう。ギルドのためという理由で二人に無理強いしないことも」


頭を下げたギルド長にレラが驚き頭を上げた。


「それは」

「レラ、覚えておけ。ギルドの面子を保つのも大事だが、それ以上に大事な物がある。所属する冒険者を裏切るのは許されない」

「クロのことを口止めしたのは私よ!!ギルド長は関係ないわ」


なんとなく、わかってたけどやっぱりか。

ギルド長がそんなことをするとは思えない。

レラは最近張りきってたからな。

砂の国の発展とともに少しずつ力をつけているギルド。

さらにギルドを大きくしようと夢を語り、張りきるレラが可愛くて見守ってたけど駄目だった。

レラを愛でることに夢中だった過去の俺を殴りたい。

ギルドの後継を目指すレラの隣にいたいなら、しっかり教育すべきだった。


「黙れ。ギルドで起こった事は全部俺の責任だ。レラの教育不足も含めてな。レラ、ギルドのために冒険者がいるんではなく、冒険者のためにギルドがあるんだ。冒険者じゃないお前にはわからないかもしれないがな。アルクはどう思う?」


ギルド長の視線が俺に注がれた。

ギルド長に試されている。そしてギルド長の考えもわかる。

この中でリオが話を聞く可能性があるのは当事者でない俺だけ。

たぶんリオのレラとギルド長への信頼はなくなった。

勝手に旅立たずに、事情を聞きにきたのは二人のことを信頼してたから。

理由によっては許す気があったんだろうな。

挨拶してから、去ろうとするのも律儀だよな。

冒険者なんて勝手にいなくなるもんだ。

育ちの違いか。元大貴族様だもんな。

ルリは貴族らしくないけど、リオは納得できる。

目的のためなら手段を選ばず、権力も躊躇いなく使うんだろうな。

俺が送ったロキのように。

今のリオに俺は必死に謝るしかできない。

どんな言葉でごまかそうとしても無駄だ。

余計にリオが呆れて心を閉ざすだけ。

この現状を知ったらルリは全部自分が悪いってリオを宥めるのは目に見えてる。

だからリオはルリを家に置いてきた。


「悪かった。お前を利用しただけでなく、信頼を裏切った。ルリを危険にさらした。次はそんなことさせないから、もう一度だけチャンスをくれないか。レラのやったことは最低だ。それは俺がちゃんと冒険者のことを伝えてこなかったから、俺がレラの傍で支えるから」


リオに静かな瞳で見られている。心臓が凍りそうなほど冷たい銀の瞳から目を逸らしたくなるが逸らしたら駄目だ。


「お前にレラさん止められるのか」

「俺はレラが大事だけど、冒険者としてのプライドがある。ギルドの冒険者への横暴は許さない。無理ならギルドを潰すよ。冒険者を利用するだけのギルドに価値はないから、レラが反対しても譲れない」

「俺はギルドの面子なんて興味がない。シアも持っていなかった。それなのに、冒険者として無知なシアに冒険者にはギルドへの義務や役目があると説明したみたいですね。それで俺の説得させたでしょ?俺がシアのお願いを無碍にはできないことを知り、シアの責任感の強さと優しさ利用しましたよね?」


レラ!?

まずいよな。これ、ルリのこと騙してるよな。

レラはもしかして本気でそう思っていたかもしれないけど。

ルリは困った奴を放っておけないし人の言葉も純粋に信じる。

自分の気持ちよりも義務や責任を重んじる性格なのは国外逃亡した経緯をしればわかる。

もしも、ルリが寂しいのを我慢して無理にリオを送り出していたらかなりまずい。

ルリは素直じゃないから、読めない。

リオが好きなのはわかるけど、独占欲とか寂しさとかは行動にみられない。

リオが全力で甘やかすから、リオに身を委ねてるだけ。


レラ、これ以上は何もしてないよな。

リオは本気で頭を下げて頼んだらルリの保護さえ確約すれば依頼を受けてくれたよ。

リオはああみえて律儀なやつだから恩を仇で返すことはしない。たぶん。

ルリがお世話になったと話すから恋敵のシオンにさえも時々一緒に修行をつけてやっているくらいだ。

レラ、リオに依頼を頼むことに困ってるなら相談してほしかった。

これは気づかなかった俺が悪いか。


「もうそんなこと絶対にさせない。悪かった」


リオの見たことがないほど冷たい笑顔に放心して固まったレラに構ってる場合じゃないな。

ここでレラを庇ったらリオは俺も切り捨てるだろう。


「ギルドが一冒険者に肩入れするのはどうなんだ」

「二人が旅立つなら止めない。優秀な冒険者はありがたいけど、いないなら依頼を断るだけだ。ただギルドの仲間としてはこれからも二人と過ごしたいから残ってほしいとは思う。こちらから二人に依頼を頼むことはない。掲示板の依頼だけこなせばいい。もちろん今日の事はルリには絶対に話さない。利用したことへの謝罪もさせない。ギルド長、どうですか?」

「ああ。構わない。約束しよう。レラにもわからせよう。すまなかった」

「謝罪はいりませんが一つお願いが」

「なんだ?」

「俺と手合わせしてもらって俺が勝ったら俺とルリの婚姻とレラさんとアルクの婚姻を認めてください」

「お前達はわかるが、なぜレラ達も」

「俺は冒険者としてのアルクを尊敬しています。アルクのギルドなら多少は信頼してもいいと思ってます。ただギルド長とレラさんを信用できません。せめてアルクに監視していただけたらと。俺はシアの目に相応しくないものを入れたくありません。教育にも悪いですし、短気な俺はうっかり消したくなるかもしれません」


ルリに近づくなというリオからの警告。

ルリが関わらなければ常に穏やかなリオのきつい言葉。

冒険者の自分を褒められるはずなのに、寒気がするのはなんでだろうか。

リオの逆鱗に触れたからだよな。


「ルリもだが、聡いな。俺がアルクを後継に選ぶのも気づいていたか」


初耳なんだけど?

このリオを前にいつも通りのギルド長。


「俺にアルクと一緒に行かせた仕事は全部アルクを冒険者として優秀だと広めるためでしょう。ギルドの面子ではなくアルクの顔と名前を主要ギルドの有力者に覚えさせるため。お望み通りアルクのいない依頼でも、周囲にアルクのことを広めてきましたよ。俺より立派な冒険者がいると」

 

そんなことしてたのか!?

全然気づかなかったんだけど。

さり気なく、周りにも気づかれずに根回しするのは貴族の得意技か。

ロキもよくやってたもんな。

ルリに惚れてた奴に嫌がらせの指名依頼を出してたし。

命の危険はなく報酬がよくても、絶対にやりたくない内容の。

しかも権力者の名前で依頼してギルドが絶対に断れない状況を作り出していたからな。

まさかと思ってカマかけたら俺の予想通りで寒気がしたのが懐かしい。

やっぱり貴族はバケモノばかりだ。

レラ、おまえに相手はできないよ。

バケモノばかりの世界で育ったリオを掌のうえで転がすなんて無謀だよ。

リオはルリに優しいから勘違いしてるけど、リオは非情なやつだよ。


「俺はお前とルリにギルドを任せたいが断るだろう」

「余計なしがらみはいりません。レラさんがいずれギルドを引き継ぐことを許したのもアルクと交際してたからでしょ?」

「ルリがいないとレラにも容赦ないか」

「俺はシア以外どうでもいいので。貴方がレラさんを溺愛してても、ギルドを預かる長としてわかるでしょう?彼女には務まりません。覚悟も決意もない。できるのはアルクを支え、冒険者に媚びを売りながら事務作業を進めることでしょう?地雷を踏み抜くかもしれませんが、嫁としてなら十分では?」

「アルク、お前に覚悟があるのか?」


状況は飲み込めないがここまで言われたら引けない。レラと一緒になりたいのは本当だし。


「俺が引き継いでレラを守りたいと思います」

「リオは条件を飲んだら残るのか?」

「どうでしょう。シアの意思次第です」

「わかった。条件を飲む。ただアルク、結婚は許しても俺に勝つまではレラに手を出すことは許さん」


ギルド長からの殺気の籠った警告。

戦う前から負ける気なの?

ギルド長の考えは当たっていた。

リオは今までの手合わせで魔法を使わなかったが今回は魔法を使いギルド長を瞬殺した。

お前、どこまで強いの。

レラと結婚の許可が出てもこの展開は嬉しくないんだけど。


「責任感じるならさっさと結婚してくれ。じゃあな」って言い残してリオは去った。

俺にどうしろって言うんだよ!?

この状況でプロポーズなんてできない。

放心しているレラをどうやって慰めればいいかもわからないのに。

お前、この状況はもしかして嫌がらせなの?

俺の監督不行を責めてんの?

先が思いやられる。

ルリ、頼むからリオから離れないで。

ルリよりリオの方が恐ろしい。

お前の危なっかしさなんて可愛いもんだよ。

お前の恋人の手綱しっかり握って野放しにしないで。頼むから。

ルリに相談したいがリオが許さない。

レラがどこまでやらかしてるかわからないから、ルリとレラを二人で会わせないようにしないと。

うっかりレラがルリにこの話をすれば村が消える。

こんな田舎の村が竜巻に襲われても、運が悪かったと言われるだけで犯人がいるなんて気付かれないだろう。

気付いても国は無関心を貫く。村を滅ぼす魔導士に目をつけられたら国が滅ぶのが目に見えている。

レラはリオに警戒されたからルリとは今まで通りは過ごせないだろうな。

俺はどうすればいいんだろうか。


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