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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
番外編 冒険の記録

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冒険者の記録 四話

俺はリオ。

砂の国の冒険者。

ディーネに邪魔されながらも愛しい恋人と至福の日々を過ごしている。母国では俺とレティシアとの時間を邪魔する奴が多かったがここでは少ない。ずっと二人でいたい俺の希望通りにはいかないがフラン王国にいるよりは断然マシな生活だ。

とはいえ不満はある。


不満の一つであるギルド長とシアに頼まれて受けた依頼を終えて帰ってきた。

シアと離れたくないが、全ての依頼にシアを連れていくわけにはいかない。他国の冒険者や貴族と関わる依頼にシアは連れていかない。美人で器量もよいシアに一目惚れする男ができるのが目に見えている。そしてシアを手に入れようとするだろう。誰が相手でも渡さないが敵は少ない方がいい。シアの望む平穏な生活を壊す可能性があるものは全て排除する。その代償に俺とシアとの時間が減るが仕方ない。ギルド長と取引しているし、魔導士がほとんどいないこの村には俺の脅威になる存在はいない。情報通のシアの保護者面しているギルド長がシアを探している奴らが来ても事前に察してうまく隠してくれるだろう。



ギルド長に報告を終えて、1階で待たせているシアを迎えに行く。

いつもよりも賑やかな空気。そして賑やかな空気の中心にいる人物が誰かなんて見なくてもわかる。賑やかな空気の中心の席に近づき、銀髪を見つけるとありえない光景に見間違えかと何度か瞬きをした。見間違えではない光景に絶句した。


「は?」


この状況はなんなんだ。

シアが、俺のシアがなぜかアルクの膝の上に跨っている。

シアの両手はアルクの胸を掴んでいる。

シアの美しい瞳がアルクを見つめている。

アルクにシアが抱きついてる。これはなんだ?

見方によっては色仕掛けの体勢ってわかってるんだろうか?

シアの手がアルクの顔を包めば娼婦が客を誘う時にする仕草だ。

アルクの顔が赤くなっている。

俺が仕事に行くときにアルクは「俺がちゃんと監視しとく」って言っていた。アルクは常識人だと認識していたが、俺のいない間にシアに手を出したのか。

自殺志願者の間違いだった。


「ルリ、離れて。ほら、リオがきたから、リオだ」

「アルク、もっとちょーだい」

「だめ。リオのとこにいけ」

「ひどい。アルクは私が嫌い?」


シアの大きな瞳が潤んだ。このままだとシアの瞳から涙がこぼれる。

アルクを消そう。シアが人前で泣くなんて相当だ。

シアの憂いは俺が払うって決めてるしな。とはいえ消す前に事情を聞くか。

事情によっては簡単に消すわけにはいかない。


「アルク、お前、何をした?」

「落ち着け。リオ、誤解だ。殺気を抑えてくれないか」


真っ青な顔のアルク。俺のシアを抱いている男の要望を聞くわけないよな。


「無理」

「ルリ、リオが帰ってきたよ。ほら」

「りお?」


アルクがシアの肩に手を置き、無理矢理シアを俺のほうに向かせた。

シアの濡れた瞳に見つめられる。アルクの胸から手を解き、両手を伸ばすシア。

そっと抱き上げると首に手を回してぎゅっと抱きつくシア。


「ただいま。シア」

「りお」


俺の首に手を回し抱きつくシアは可愛いが、こんなに甘えるシアは珍しい。こんなに可愛いシアがギルドの奴らに見られていたと思うだけで殺気がさらに溢れるのは仕方ない。あとで潰すか。もちろん記憶も消す。物理的に。


「りお、あるくが意地悪する」

「意地悪?」


俺の肩に顔を埋めるシアの悲しそうな声。

顔を上げさせれば俺がシアにさせたくない我慢する時の顔をしているだろう。

やっぱりアルクに何かされたのか。

顔を上げないシアの頭を撫でながらアルクを睨む。

どうするか。

俺のシアに手を出したなら、地獄に落とすけど今は時間はかけたくない。俺の時間は全てシアのものだ。時には諦めの肝心だよな。エドワードやセリアがいれば良かったってシアと再会して初めて思ったよ。まぁ俺とシアの世界から消すだけで妥協するか。地獄に落とさないなんて俺も大人になった。昔の俺が知れば甘いと怒るだろう。

魔法でさっさと片付けるか。

結界に閉じ込めて、徐々に…。それなら魔石と魔法陣で簡単だ。

シアのいないところでさっさとやるか。


「誤解だ。俺はルリに手を出してない。俺にはレラだけだ」


真っ青な顔のアルクの言い訳をあの状況で信じろと?

シアがお前に素で抱きつくわけないだろ?

素で抱きつくほどの関係性なんて許さない。シアが抱きつく男は俺だけでいい。

もしかしてレラさんがいないからシアを代わりにしたのか?


「シアに赤くなってたのに?」

「それは…」

「りお?」


言いよどむアルク。俺の胸から顔を上げたシアが首を傾げながら、きょとんと見つめてくる。シアには状況がわからないんだろう。俺のシアは可愛い。可愛いシアは今の状況を理解しなくていい。


「シアは心配しないで。シアの憂いは俺が払うよ」


シア専用の優しい笑みを作るときょとんと不思議そうに見つめる青い瞳が細くなり満面の笑みをこぼして頷いた。シアが抱きつく腕にさらに力がこもった。なんでここが家じゃないんだ。

俺の頬に頬を寄せてニコニコと笑っているシアが可愛い。

シアの頬に口づけを落とすと嬉しそうに笑うシアが愛しい。

いつもの顔を真っ赤にして照れるシアも可愛いけどな。

シアを愛でたいのに、可愛いシアを他の男の目に映したくない。

さっさとアルクを潰すかな。でも今はアルクを消すための手持ちの魔法陣がない。


「ルリが蜂蜜酒に興味もったから飲ませたんだよ」

「初めての酒に酔ったシアに手を出したか」

「落ち着け。出してない。俺はルリみたいな子供に興味ない。今まで飲ませてなかったのか!?」


俺のシアを酔わせたか。やはり自殺志願者だったか。

今まで酒は飲ませなかった。シアは酒に興味をもたなかったしな。

酒じゃなく蜂蜜に釣られたか…。

そして目の前に置かれている酒の度数は高い。このギルドには度数の弱い酒は置かれていない。果実が少なく、酒作りの手法が古い地域は酒の味を楽しむ文化はない。体を温めるか、気分を高調させるためにだけ飲まれる酒。ギルドに常備されている酒は兄上や父上なら一口飲んだら捨てるだろう粗品。そんなものをシアの口に入れるつもりもない。

まぁそんなことはどうでもいい。


シアの侮辱も酒を飲ませたことも許せないよな。


「リオ、落ち着け。殺気抑えて。頼むから」

「落ち着いている」

「りお?」

「ごめん。シア、ちょっと待ってて」


俺を見つめて首を傾げるシアの額に口づけるとシアが嬉しそうに笑う。

可愛い。外でこんなに無防備になるシアは稀だ。

シアを見て赤くなってる奴らの顔を覚えた。

後日潰す。シオンは絶対に。

シオンが俺に似てるって言うシアの言葉は気にしてない。ただ俺のシアに近づくことが許せないだけだ。

魔力を集めて純度の高い魔石を作る。


「リオ、やめて。何しようとしてんの!?これ!!やるから家で飲め」

「その酒は俺のだ!!お前が」

「うるさい!!リオが言い値で買う」

「貴重な酒を誰がやるか。俺はルリを愛でながら呑みたい」

「命のほうが大事だろ!?ルリ、お願いしてみろ」


余計なことを言うアルクを睨む。

アルク、覚悟しとけ。やはり簡単に消すのはやめよう。

魔石を机に置いて懐の紙を探る。

シアが俺の首に手を回してるから、片手が自由なのはありがたい。

シアがアルクの方を向いている。

シアのお願いなんて他人に見せてたまるか。

シアの願いを叶えるのは俺だけでいい。


「お願い?」


シアの気を俺に向けないと。

今回仕事を受けたのは欲しいものがあったから。


「土産があるんだ。シア」


アルクに向いていた顔が俺に向く。

驚いた時にするきょとんとした顔で見られた。昔から俺の前だとすぐに顔に出るよな。

子供の頃からいつも笑顔を貼り付けていたレティシア。家族にも父上達にも見せない素の顔を俺に見せてくれるのは優越感をだった。

セリアとビアードにも見せているのは正直面白くなかったけど。

それでもシアの心の内を知っているのは俺だけ。


「お土産?」

「シアの好物を買ってきた」

「なーに?」

「内緒。家であげるよ。家に帰ろう」

「りお、また、出かけますか?」 


俺をあっさり送り出すのはシアなのに。

俺は離れたくないのに、ギルド長達にすぐにシアがのせられるから。

あの人達はシアに手を回してから俺に依頼を頼んでくるから断りづらい。

俺はギルドの実績も報酬も興味ないのに。


「どうだろうな。寂しい?」

「寂しい」


しょんぼりした顔をするシアも可愛いけど、やりすぎたか。


「いかないよ。ずっと傍にいるよ」

「本当?」

「本当。もう帰ろうか」


安心したのか、ふんわりとやわらかい笑みを浮かべたシアが愛しい。

シアは俺の笑顔を真似したいと言うが、シアのほうが俺より笑顔の種類が多い。

俺のように笑顔で相手を脅すなんて、シアには一生無理だと思うけど鏡の前で一生懸命に練習するシアが可愛いから言わない。

もし習得しても、シアがそんなことをしなければならない状況なんて許さないけど。

俺はシアとの生活が脅かされないならシアのやりたいことの邪魔はしない。


「良かった。でも、もっと飲みたい」

「家でな。ちゃんとシアの好きなのあるから安心して」

「リオもいっしょ?」

「もちろん」


シアの頰に口づけると嬉しそうに笑うシアが可愛い。

3日ぶりのシアの可愛さが眩しい。さっさと家に帰ってシアを愛でよう。

恨めしい視線や抗議は聞こえない。お前らの相手は後日、瞬殺してやる。俺にはお前らに構う時間はないからな。

せっかく魔石を作ったけど、魔法陣を書く時間さえも惜しい。


特にシアに酒を飲ませた奴は覚悟しろよ。

アルクには後日特別な魔法陣を用意してやるよ。

あと一つだけ大事な釘をさす。


「アルク、絶対邪魔するなよ」


レラさんと家に来たらお前の家に特大の竜巻を贈ってやるよ。

竜巻ならフウタに頼めばすぐだからな。

俺がシアの傍を離れなくてもいい。もしもフウタがやりすぎても構わない。

頷いたアルクの顔が青いから意図は伝わっただろう。

俺を不思議そうな顔で見ているシアの額に口づけをしてシアを抱いたままギルドを後にする。

家に向かう道中でシアは眠った。

シアが無防備に眠るのは俺の腕の中だけ。

ここに住み始めた頃、寝ぼけたシアが心細げに俺の名前を呼びながら歩き回ってるのを見つけた時は歓喜に震えた。

俺を見つけて手を伸ばすシアを抱きしめた途端にまた寝落ちした。

俺は全てが緩んだだらしない顔を見られなくて都合が良かったけど。



酔ったシアは魅力的すぎて自制できる自信がないから酒は結婚してからにしよう。

こんなに無防備で可愛いシアを誰にも見せたくないから、酒は俺といる時だけにも。

ギルドの奴らには釘をさす。もちろんレラさんにも。

違えた奴の家は吹き飛ばすか。ギルドや村を潰さない優しい俺に感謝してほしい。



今回の依頼人の実家は養蜂家だから個人的に親交も深めてきた。

おかげで蜂蜜と蜂蜜菓子はもちろん蜂蜜酒も手に入れた。

蜂蜜酒は隠しておこう。

起きたシアは蜂蜜を見て目を輝かすだろう。

シアの好物は蜂蜜。

蜂蜜は稀少で高価なものだ。

蜂蜜は薬を飲みやすくするための材料になる。貴族向けの高価な薬の調合によく使われている。

医療に関するものにくまなく手を出すのはルーン公爵領。

ルーン公爵領は養蜂にも力を入れていたからフラン王国一良質な蜂蜜が手に入りやすい。ただルーン公爵家に献上される蜂蜜にシアは手をつけずに寄付してしまう。

貴族は顔に出さない。

だからシアの蜂蜜好きを知ってるのは俺とシエルとエドワードくらいだ。

シアが望めばルーン公爵家ならいくらでも取り寄せられる。

シアは昔から必要なものしか望まない。唯一欲しがるのは本。

本も教養と貴族をやめた時のために知識を得るためのもの。

少しずつでいいから生きる以外の理由でやりたいことが見つかるようになればいい。

もっと我儘を言って甘えてほしい。

願わくば俺なしで生きられなくなればいい。俺の服を掴んだまま眠っているシアの髪を撫でると緩む口元。

食事の用意をしようと思ったが今は眠っているシアを愛でよう。



酔ったシアも可愛いかったが、土産を見て目を輝かすシアも格別に可愛いいだろうな。

人目のない家ならシアは素直に甘えてくれる。ディーネへの土産もあるから多少は見逃してくれるだろう。

シアの全てを俺のものにしたい。

最近は離れていても、居場所がわかるようにシアを俺の魔力で染めている。

シアは気づいてないけどフウタは俺の魔力なら離れていても居場所がわかるらしい。結界さえなければだが。常に居場所がわかるように俺の魔石を身に付けさせてるけど、念の為な。

俺の過信でシアを失いかけた。あんなこと二度とあってたまるか。

最近の俺の最大の悩みはディーネがどうすれば結婚を許してくれるかだ。



ベッドで眠るシアの眉間に皺が寄った。

俺の服からシアの手が解けた。


「邪魔しない」


まだうなされるのか。

昔の悲しい記憶なんて忘れてしまえばいい。

震えながら拳を握るシアの指を解いて手を繋ぐ。

シアは言わないけど相当傷ついたんだろうな。

たぶん、監禁よりも裏切られたことに絶望したんだろう。

俺の知らないシアの世界の俺は何してたんだろうな。

俺はシアなしで生きてく自分なんて想像できない。


「でんか、えいべる」


シアの傷が癒えればいい。

他の男の名前を呼ぶのは面白くないけど。


「シア、忘れていい」


冷たく震えが止まらない手。苦しそうな声。

呼んでもシアには俺の声は届かないってぼんやりしてる場合じゃない。

ぐっすり眠るシアは呼んだくらいじゃ起きないだろうが。

手を解いてシアの肩を揺らす。


「シア、起きて、シア」


瞼が揺れてゆっくりと青い瞳が顔を出す。


「りお」


泣きそうな声のシアが好きな笑顔を作るとベッドに寝転がっているシアが手を伸ばす。腕を引き寄せ抱き上げる。


「大丈夫?」


シアの瞳から涙が溢れ出す。


「悲しくて。なんでかわかりません」

「シアは昔から泣き虫だからな。大丈夫だから思いっきり泣いていいよ」


シアを抱き上げたままベッドに座る。

俺の胸を涙で濡らすシアの背中をゆっくり叩く。

泣いてるシアにはこれが一番だから。

しばらくして呼吸が落ち着き泣き声が止んだ。

落ち着いたか。



「リオ、ありがとう。おかえりなさい」


胸から顔を上げて頬を赤く染めているシアにギルドでの記憶はなさそうだ。


「ただいま」

「ごめんなさい」

「なにが?」

「突然泣いて…」


恥ずかしそうに笑うシア。可愛いシアはどこまで俺を夢中にさせれば気がすむんだろう。


「俺は役得だけどな。泣いてるシアも可愛い」


シアの瞼に口づけると、顔がさらに赤く染まった。

シアはどうしてこんなに可愛いんだろうか。


「泣き虫シアは大歓迎だけど、泣くのは俺の前だけにして」


「でしたら傍にいてください」


楽しそうに笑い出したシア。瞳に不安の色はない。

もう大丈夫そうだな。きっと夢のことも覚えてないんだろう。悪い夢は忘れたままでいい。


「もちろん。シア、土産があるんだ」


俺の予想通りシアは土産に目を輝かせた。

あまりに可愛くてうっかり手を出しかけて俺はディーネに冷水で沈められた。

やっぱり早く結婚する方法を探さないといけない。

シアを幸せにする自信はあるのにディーネは何が不満なんだよ。

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