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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
番外編 冒険の記録

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冒険者の記録 三話

こんにちは。

砂の国のAランク冒険者ルリこと元レティシア・ルーンですわ。


いつもはリオが一緒なのですが、今日は別行動です。

最初は嫌がっていたのですが、ギルド長が困っていたのでお願いして送り出しました。

首都のギルドからの依頼です。

地方のギルドに首都ギルドから依頼が届けられるのは珍しいのですが、それだけ大変な依頼みたいです。

期間は2週間。


「約束して。伝達用の魔石をずっと身に付けるんだよ。何があっても外すなよ。絶対にここで待ってるんだよ。俺を置いていなくならないで。薬草採取以外のギルドの仕事は受けない。約束だよ」

「はい。気を付けて行ってきてください。きちんと守ります」

「約束だよ。すぐに帰ってくるから。なにかあればちゃんと連絡して」


リオに何度も何度も約束を確認されました。

頷くとリオは額に口づけを落としてアルクと一緒に旅立っていきました。

アルクもリオと一緒に旅立ったのでレラ姉様が泊まりに来てます。


今回は報酬がいいので、当分は仕事をしなくても生活に困りません。

ですから大人しく薬草採取だけしていましょう。

リオはいつも生活費にと報酬をほとんどくれます。半分でいいと言いますのに、折れないのでありがたく受け取っています。

リオが依頼から帰ったら仕事はお休みして旅に出ましょうか。

水の国に行ってみたいですわ。



久しぶりに村の祠に向かうとお祈りしている人がいました。

熱心に祈る姿はこのあたりの村人にはない姿ですわ。

珍しい黒髪ですし旅人でしょうか。

旅人が振り返りました。私が見つめていたので視線を感じさせてしまったんでしょうか。

旅人は私を凝視してこっちに歩いてくるように感じるのは気の所為でしょうか?


「君は?」


私の前で止まった旅人の声は震えていました。

私を見つめる瞳は潤んでいるようにみえます。えっと、名前を聞かれましたわね。



「ルリです」

「そっか」


指で涙を拭い、口元を抑えた旅人の様子がおかしいですわ。


「どうされました?困り事ですか?」


乾いた瞳を見つめると金の瞳をしています。

珍しいですわ。金の瞳で思い出す方は二人。殿下とレオ様元気かしら?


「記憶があいまいで。困ってたんだ」


記憶喪失?それは泣きたくなるのは当然ですわ。

記憶喪失は外傷が誘因となることが多くあります。


「痛みや怪我は?」

「大丈夫」


旅人の顔色は悪くないですね。

病人にも怪我人にも見えません。

ギルドに連れていきますか?でも不審者なら困りますわ。

家ならディーネもいますし、まだレラ姉様は帰ってこないし平気でしょうか?


「ディーネ、悪い人じゃなさそうだけどどう思う?」

「ルリに任せるわ」


記憶喪失は不安ですよね。どんな時も元気になれる方法を私は知っていますわ。


「一緒にご飯を食べませんか?」

「ありがとう。君が良ければ」

「歓迎します」


うちに誘って一緒に食事をしました。

記憶喪失の所為か見慣れない料理ばかりのようで驚いた顔をして食べてましたがどの料理も美味しいと笑ってくださったから良かったです。

やはり美味しいものは食べるだけで人を幸せにしてくれますわ。


「名前かなにか覚えていることはありますか?」

「全く。ルリがつけてくれる?」

「クロさんでどうでしょう?」


髪が黒いからクロ。

安易すぎます?

驚いた顔をしてますがお気に召しませんか?


「クロでいいよ。お世話になってるから、さんはやめてほしい」


綺麗に微笑む顔で彼が綺麗な顔立ちをしていることに気付きました。

こんなに綺麗な方なら誘拐されるかもしれません。しばらく保護しましょう。


「わかりました。クロですね。どうしましょうか?部屋は余ってるので家に泊まっていただいていいんですが、記憶がないと困りますよね」


「ありがとう。きっとそのうち思い出すよ。ルリのことを教えて?ここはルリの家?」


お腹が満たされた所為か出会った時の不安な様子なくなりました。

とはいえ適応能力も羨ましいほど高いようです。

動揺を隠して虚勢を保っている感じも一切ありません。


「はい。仲間と一緒に住んでます。今日はお友達が泊まりにきますが大丈夫ですか?」

「うん。ルリの家だしね。友達が気にしないならいいよ。むしろお世話になってごめん」

「構いませんわ。私もたくさんの人に助けてもらって生きてますから」

「よかった。ルリは幸せ?」

「はい。幸せですわ」

「そっか。よかった。本当に」

「クロ?」

「なんでもない」


クロは時々泣き笑いみたいな表情されます。寂しそうなお顔も。

やはり強がってるんでしょうか?

記憶がないから当たり前か。

殿方は弱みを見せるの嫌いですものね。気づかないふりをしましょう。

殿方はいつでも格好をつけたいものですよね。

笑ったら失礼ですが、抑えきれずに笑ってしまいました。

クロを驚かせてしまいましたね。突然笑い出すなんて可笑しい人だと思われますね。

扉を開ける音が聞こえます。いつもより早いけどレラ姉様帰って来たんでしょうか。


「ルリ、ただいま」

「レラ姉様、お帰りなさい」


レラ姉様は笑顔のまま固まりました。

私が笑ってるからですか?

アルクが見たら騒ぎそうな表情ですわ。アルクは騒ぐのを我慢するようになってからレラ姉様とうまくいってるみたいです。お互い大好きなのに不器用ですれ違ってしまうので放っておけない恋人達ですわ。

年上なのに手がかかりますわ。

私の笑いがようやく収まりましたわ。

深呼吸して心を落ち着けましょう。よし。大丈夫ですわ。


「クロ、レラ姉様です。手を出したら許しませんから」

「女性に危害は加えないから安心して。ルリは強いの?」

「レラ姉様を守るためなら頑張りますわ」

「手を出さないから安心して。落ち着いて。ね?」


懐かしい感じがしますわ。なんででしょう。瞳の色が同じだからでしょうか。

雰囲気が殿下と似てる気がします。


「ルリ、彼は?」

「クロ。記憶喪失で困ってたから保護しました」

「どうして?」

「不審者でもうちなら対処しやすいかなって」


レラ姉様の眉間に皺がよってます。クロを睨んでますね。


「ルリが強いのは知ってるけど、駄目。ギルドに連れて行くわ。保護するならギルドでするわ。この状況を知られたらまずいわ。絶対単体の仕事引き受けてくれなくなる。それはギルドとして損害が大きい」


レラ姉様がブツブツ言いながらが仕事モードに入りました。


「レラ姉様、クロ、悪い感じしないですよ。ただもし事情があったら困るから記憶が戻るまではあんまり人に会わない方がいいかなって」


訳ありかもしれませんし。


「ルリの気持ちもわかるけど、ルリの家での保護は絶対にだめ」

「ルリ、私、僕は構わないよ」


クロ、落ち着いてますね。

休めるところがあれば、どこでも問題ありませんものね。

レラ姉様が不信な目でクロを見てますわ。


「ルリの勘は信じてるけど、私はいまいち信用できない。ギルド長に相談するわ。」


「レラ姉様、仕事で疲れてるでしょ?二人で行ってきますわ」

「大丈夫よ。これも仕事だから。行きましょう」


ギルドに向かいギルド長に説明しました。

ギルド長は難しい顔をしてましたが、記憶が戻るまでギルド長が保護してくれるみたいです。ギルド長は面倒見のいい優しい人ですからね。私もいつも助けていただいてありがたいです。

クロの希望でお金がないのは困るのでギルドに登録することになりました。明らかに未成年ではないので身分証明書もいらないそうです。


クロは腰に剣をつけていたので、試しに手合わせしたら負けました。

ショックです。私は悲しくてクロとギルドのみんなに慰められました。

修行がんばらないと。

でも今はリオがいないので修行相手がいません。

なぜか私の修行はリオ以外付き合ってくれません。魔法なしだと弱いからでしょうか?

でも、クロが後で修行をつけてくれると言ってくれました。自分は記憶喪失で大変なのに、私を気遣ってくれるなんて優しい方ですね。ありがたいので甘えましょう。

クロはDランクからのスタートです。



いつの間にかクロはギルド長の家を出て宿で生活しているそうです。

時々祠で偶然会いますの。記憶ないのに頻繁にお参りするなんて信心深い方なんでしょうか?

実は神官?似合いますね。

クロの外見なら夫人方に大人気ですわね。

一緒に採集の仕事に行きました。余裕です。私、いりませんでした。

クロが私より採集得意だからって拗ねてませんわ。クロには見抜かれて笑われましたが。

記憶のことはわかりませんが、クロはいつの間にか村に馴染んでました。

1週間で驚きの適応能力です。ありがたいことによく修行をつけてくれます。


クロが来てから二週間くらいたちますね。

祠で会ったクロに誘われて散歩をしてます。


「ルリ、ありがとう。記憶が戻ったよ」

「良かったです。行ってしまいますの?」

「寂しい?」

「はい」


クロが嬉しそうに笑ってます。


「嬉しいな。素直なんだね。また来るよ。」

「はい。また修行つけてくださいね」

「勿論。名残惜しいけどこれで」


クロに抱きしめられた時は驚きましたが、慣習なんですって。

クロは別れの抱擁を交わして旅立っていきました。

ギルドは冒険者の集まる所。出会いと別れの繰り返し。

この村に住みつく冒険者も多いけど。

またいつか会えることを祈りましょう。


近くに感じるいつもの気配に振り向きます。

気配を消してもリオの気配だけはわかりますわ。

リオはなぜか気配を消す癖がありますの。


「おかえりなさい」


帰ってきたリオに抱きつきます。

出会いと別れは多いけどリオとはずっと一緒です。

リオが驚いてますがすぐにいつもの笑顔で抱きしめてくれます。


「ただいま。寂しかった?」

「はい。しばらく傍にいてください」

「勿論」

「ギルドに行きますか?」

「いや、報告書はアルクに任せた。報酬は明日受け取りに行くよ」

「でしたら今日は私に独占権をください」

「俺の独占権はいつでもシアのものだから」


リオの口づけが降ってきます。幸せですわ。

何年経ってもリオが好きでたまりません。

この村をいつか旅立っても私の帰る場所はリオの腕の中だけですわ。


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