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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
番外編 冒険の記録

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148/207

冒険者の記録 二話

俺はアルク。

砂の国のAランクの冒険者だ。


今は仕事ではなく旅行で花の国に来ている。

花の国の一番有名な観光地は世界各国の花を集めた大きな公園である。特に花が少ない砂の国では目にすることのない色鮮やかな花が多く、レラが気に入るだろうと以前旅行に誘ったが断られた場所でもある。

今回旅行に来れたのはルリが花の国の旅行にレラを誘ったから。

二人の旅行に半ば無理矢理付いてきた。

レラと俺とルリならつい最近まではよく時間を共有していた。ただ最近は事情が異なる。

ルリがいる所には必ずリオがいる。


うちのギルドの新たな常識だ。

リオを探す時はルリを探す。必ずルリと一緒にいるからな。

リオは新たに加わった冒険者だ。

俺が帰国するとリオはSランクの冒険者になっていた。

うちのような小さな田舎ギルドではギルド長以外の唯一のSランク冒険者だ。

ただルリと同じく指名の依頼は受けないという条件つきでうちに所属している。

冒険者として指名の依頼が入るのは実力が認められ、名が売れ、まぁ名誉なことだ。

だがルリと同じくリオも冒険者の名誉には興味がなさそうだ。


いつの間にかルリもAランクにランクアップしていたのでいつもリオと一緒に仕事に行っている。


「抜かれた。まさかルリが強いなんて、Aランクはまだ遠い」


実力を隠していたルリにランクを抜かれてシオンが落ち込んでいたのが懐かしい。

シオン、そろそろ諦めろよ。

ルリはどんなに誘われてもリオ以外と仕事に行くことはない。

ルリが一人で仕事を受けても過保護なリオが付いていくからシオンがルリに近づくのさえ難しくなっている。

リオがいるのにルリを諦めないシオンに俺は感心半分、呆れ半分だが。



うちのギルドでルリだけ特別扱いされている。

ルリだけは特例で下位ランクの採集を受けることを許可されている。

ギルド長、職権乱用しすぎだろう。

採集は金にならないし、人気がないから受けてもらえるのはギルドとして助かるという正当な理由もあるらしいが。


「今日はたくさん見つけました。豊作です」


薬草を抱えて嬉しそうに笑いながらギルドで換金するルリ。

銅貨を受け取り、リオに肩を抱かれて上機嫌で共に帰っていくのは見慣れた光景。



「シアが薬草採集にこだわる理由か。好きだからだけかって?まさか。依頼人は治療用の薬草が手に入らないと困るだろう?医療技術が乏しく、治癒魔法も珍しいこのあたりだとすぐに命に関わるかもしれないってシアは認識しているんだよ。シアは優しいから放っておけないんだよ」



採集が好きとしか言わないルリ。ただ仕事以外で採集しているのは見かけないから興味本位でリオに聞いてみた。リオは腕の中で眠っているルリの髪を撫でながら甘ったるい目で見ながら教えてくれた。

ルリは掲示板に薬草採集の依頼が二日以上残ってると必ず請ける。


「シア?」

「これに行ってきます。ギルド長からの指名はリオだけですもの」

「待って。シア、一緒に行こう。これならすぐに終わるよ。ここなら歩くより風で飛んだほうが効率的だ」




ギルド長に頼まれた討伐の依頼に向かうリオと一緒に行こうとしていたのに掲示板を見た途端に予定を変えて薬草採集に行こうとしたルリ。

ルリと離れたくないリオは予定を変えた。1週間かかるはずの討伐依頼を3日でこなして帰ってきた。しかも2日間は薬草採集に使ったらしい。S、Aランクの冒険者がEランクの依頼をこなすってどうなの?

しかもリオなんてSランクの上だ。

冒険者ランクは上・中・下の三段階で評価される。

俺はAランクの中、ルリはAランクの下。

この三段階は依頼への適応力を考慮されている。

ルリは戦闘能力は高いけど、適応能力が怪しいから下。

俺は戦闘能力が低いけど、適応能力が高いから中。


リオ何者なの?

新人冒険者がSランク認定なんて初めて聞いたよ。

容姿端麗、戦闘能力も高くて、適応能力も極上。

ロキも凄かったけど、貴族って化け物ばかりか?

俺は平民の生まれでよかったかもしれない。



リオが村に住み始めた頃は女達が騒いだが、声を掛けられても女達に視線さえ向けないのですぐに騒ぎはおさまった。

徹底ぶりは俺よりも凄い。名前を呼ばれても無視。

ルリと仲が良いおばちゃんや子供にはちゃんと反応するけどな。

村の女達は男装をやめ、髪を伸ばしはじめた美少女ルリへのリオの溺愛を見て敵わないと思って身をひいたのかもしれないが。

ルリは黙っていれば村一番の美少女だ。

リオがいつも近くにいるから男は近寄れないが。



せっかくのレラとの旅行なのにリオとルリのことを考えている現状に虚しい。

ルリが行きたいと騒いでいた花の国の最大の観光名所の公園にいるのに。

色とりどりの砂の国では咲かない花に囲まれてルリが目を輝かせ、レラが愛らしく笑っている。二人は花を見て盛り上がっているが、花とは比べものにならないほどレラが可愛い。

だがレラさん、俺のために休みは取れないのにルリのためなら休むのはなんで?


「それはシアが可愛いからだろ?」

「人の心を読むな。お前がルリを連れていけば良かったのに」

「レラさんはお前と二人の旅行は許可出たか怪しいだろう?むしろシアを貸してる俺に感謝してほしい」


確かにリオの言うことは一理ある。

ルリとリオは一緒に暮らしてるから旅行なんて行き放題だ。長期の仕事帰りに観光して帰ってくることもあるしな。

レラはギルド長と暮らしてるから外泊が難しい。

ルリの家以外はほぼ無理だ。

今回の旅行もギルド長へのルリのお願いで叶ったようなものだ。

ギルド長は実はレラとルリを溺愛している。


「ルリを俺の養女にするしかないか」

「俺への挑戦?シアは俺が嫁にするからやらない」

「なんでルリと一緒に住めたの?」

「シアの荷物を全部俺の家に移したから。シアは面倒な事嫌いだから、荷物を戻すくらいなら俺と住むと思って。荷物さえ移せば説得簡単だしな。最大の勝因はディーネの寝床をディーネ好みにしたことかな」


ルリに勝手に荷物移動したってマジかよ。

ルリ、それは怒るとこだよ。面倒だからって。

ルリが危なっかしいのはいつもの事だから気にするのはやめよう。突っ込んだらキリがない。


「ギルド長はなにも言わなかったのか?」

「鍵を返しに行くときに、シアが感謝を告げたら泣かれたな。混乱してる間に鍵を押し付けて撤退した」



ギルド長が泣くってどういう状況?


「参考にならない」

「レラさんとは立場が違うだろ?俺とシアはもともと婚約者だしな。なぜか結婚はギルド長を倒すまで許さないって言われたけどな」

「お前だってまだルリの身内から結婚の許可でてないだろ?ロキに言われたろうが」

「まぁな。シアは弟に溺愛されてるから結婚の許可でるのかな。俺は今すぐにでも結婚したいのに。お互い家は捨てたし、成人したから別にシアとディーネの了承とれればいいか。うん。決めた。反対されたら逃げよう」

「ロキが来るのを待たないのか?」

「ロキは絶対に邪魔するからな。俺はシアと違ってシアと二人っきりは大歓迎」

「ルリは違うだろ?」

「まぁな。でもシアの寂しさは俺がなんとかするからいい。寂しさなんて忘れるほど幸せにするから」


自信満々な口ぶりで笑うリオ。

ルリとの絆に自信もあるんだろうな。

こんなやつがずっと傍にいたなら、ルリがシオンに全く目をむけなかったのも納得する。

シオン、やっぱりそろそろ諦めろよ。


「すごい自信だな」

「愛しいシアのためなら、なんでもできる。俺が傍にいることが大前提だけどな」

「同感だな」

「お互い頑張ろう。まずはどうあの二人を引き離すかだよな。もう少しレラさんをアルクに夢中にできない?」

「なんでお前らあんなに、人前でいちゃつけるの?」

「俺もシアも見られるの慣れてるし、牽制には一番だろう」

「本当に年下かよ」

「努力の結果だよ。ここまで来るの長かった。まずいな、シア、やめろ!!」


先程までの余裕な顔で隣で笑っていたリオがいない。ルリ達が向かっている泉のほうに駆けている。

リオが来てからルリのお守りがなくなったのはよかったか。

レラがルリの肩を掴んで引き寄せるリオを不思議そうに見てるけど離れたならチャンスかな。



「離して、人前で恥ずかしい」


焦っているようなルリの声に視線を向けるとルリはリオに抱きしめられている。



「泉に入ろうとしただろ」

「手をつけようとしただけ」

「危ないからだめだ。むやみに触るな」

「安全だから大丈夫です」

「また酔うかもしれないだろ。酔ったら即、宿だけど。ずっと俺の腕の中で寝てる?俺はそれでもいいけど」


ルリの顔はリオの胸に押し当てられて見えないが耳が赤くなってるから真っ赤なんだろうな。最近はルリの赤面顔も見慣れてきた。

周りの観光客は二人の甘ったるい雰囲気に赤面しながら凝視している。リオは視線を集めてるのは気にしてないんだろうな。ルリは気付く余裕はなさそうだ。リオ、観光客まで牽制するなよ。


「花をみたいから嫌です。わかりましたわ。泉は諦めます」


ルリは今回は流されなかった。

いつもならルリはリオの話に頷き二人で消える。

多少は免疫がついているんだろうか。

リオが満足そうな顔でルリの額に口づけをするのも見慣れた光景だ。

二人の甘い空気に、隣にいるレラの手を握ると振りほどかれた。

そしてレラはルリ達の所に突撃した。

俺はリオに睨まれているが苦笑するしかない。帰国してからレラが冷たい。

レラに何かしただろうか。



「アルク、大丈夫?」


ルリの声に視線を向けるとレラとリオがいない。

ルリは一人ってどういうことだ?

二人がルリを取り合うのは悔しいが見慣れた光景だが。


「レラとリオは?」

「ご飯を買いに行ってくれた」

「最近、レラがルリに夢中でつらい」


思わず零れた呟きにルリが笑っている。


「レラ姉様は恥ずかしがりやだもの。人前では素直になれないわ。きちんと二人っきりの場所で言葉にして伝えないと」

「やけに具体的だな」

「アルクに協力するって約束したから。レラ姉様はギルドではアルク以外のために時間作らないもん。ちゃんとアルクのこと好きだよ」

「ありがとな」


ニコッと笑ったルリの銀髪に手を置く。頭を撫でると楽しそうに笑っている。リオが来てからルリは表情豊かになったよな。


「アルクは行動が先に出るから、レラ姉様恥ずかしいの。あと軽く冗談みたいに口説くよりも雰囲気作って、好きだよって言われたほうが嬉しいわ」

「それはルリの体験談?」

「私はリオの言葉は恥ずかしいけど全部嬉しい。レラ姉様は恋愛小説好きだから、参考にするのもいいわ。雰囲気を。ね?」


珍しくルリがまともなことを言っている。先ほどの無邪気な笑みとは正反対の綺麗な笑みを向けられ、息を飲んだ。

最近は綺麗になったよな。太陽の光がルリの銀髪に反射して輝いて見える。冒険者には珍しい色白の肌にほのかに色づく頬、高価な宝石のように美しく大きな瞳に、整った顔立ち。俺がレラのが好みだが万人が綺麗と言うのはルリの方だろう。


「お酒で酔ったレラ姉様は可愛いけど、お酒の力に頼らないでね。酔ってるときに言われたセリフって嘘みたいに聞こえる」


俺にとって子供に見えていたルリが初めて女に見えた。

綺麗に微笑みながら言われた言葉を頭の中で反復する。

確かに、いつも酒で酔ったレラを愛でてたな。


「俺はちゃんと愛されてる?」

「もちろん。レラ姉様は素直じゃないから。アルクに照れて私を構いにくるのは可愛いけど」


即答したルリの言葉をうまく理解できない。


「嘘だろ?」

「私はアルクに嘘をついたことないでしょ?」


首を傾げながらも、真直ぐな強い瞳で俺を見るルリ。

ルリは話さないだけで嘘は言わない。

レラが俺の行動に照れてたのが本当なら嬉しすぎる。

一瞬寒気がして見わたすとリオだった。



「レラは?」

「先に戻ったけど、シア、どっちがいい?」


興味のなさそうなリオは俺に素っ気なく答えてルリに近づき片手に抱えている紙袋の中身を覗かせようとしている。


「リオ、レラ姉様を探してください。アルクに場所を」

「シアの願いなら」


甘い笑みを浮かべ、ルリの腰を抱いたリオが指さす。


「アルク、宿で会いましょう!場所と言葉を大切に。行動よりも言葉が先だよ!」


笑顔で手を振るルリと「さっさと行け」と音に出さずに話すリオ。

お互い恋人と二人っきりがいいよな。


「了解。またな」


ルリに手を振りリオの指差す方向に走るとすぐにレラを見つけた。 


「レラ!!」

「どうして」

「はぐれたみたいだから探しに。リオがルリと二人で過ごさせろってさ」


レラの持ってる荷物を持ち庭園の隅にあるベンチに誘う。

レラの表情がなぜか暗い。


「疲れた?」

「平気」

「なんで元気がないの?」


レラの視線は俺でなく地面。沈黙が続き、しばらくすると小さな声を拾った。


「アルクはルリが好き?」

「妹分だからな」

「告白されてなかった?」


告白?

俺はレラに聞かれて困ることはない。

待てよ。ルリが俺に告白ってこと?

俺には少女趣味はない。確かに一瞬ルリに見惚れたがそれは気の迷い?だろう。そうだ。俺にとって愛しいのはレラだけだ。


「あれはレラの話をしてたんだ。最近、二人の時間がないから寂しいって」


レラが地面から顔を上げ俺を見た。レラの顔が赤くなっていく。珍しい。そして可愛い。


「そんなこと…」

「たまにはルリじゃなくて、俺に独占させてくれない?」

「私は、ルリみたいに甘えられないわ」


言いにくそうに話すレラ。ルリのようなレラは想像できない。どんなレラもいいがアレを目指す必要はない。


「あの二人は異常だよ。俺は甘えん坊のルリよりレラの方が好きだから。抱きしめてもいい?」


レラがゆっくりと頷いたのでレラを優しく抱きしめる。酒の力を借りずに、いい雰囲気になったのは付き合い始めて初めてかもしれない。


「寂しかったわ」


寂しい!?

小さな声で囁くレラが可愛すぎる。舞い上がりたい気持ちを抑え、必死に心を落ち着かせて、ルリの言葉を思い出す。

雰囲気大事。真剣に。



「俺もだよ。ギルド長を説得するから一緒に暮らさないか?」

「説得できたらね」

「頑張るよ」

「応援してるわ」


顔の赤いレラの微笑みに自制がきかずに唇を重ねた。

拒まれないことにほっとし甘さを堪能する。唇をはなすとレラは照れた顔で笑ってくれた。幸せすぎる。

ルリ、ありがとう。

情けないがギルド長の説得も協力してくれ。俺一人だと無理だ。


レラから預かった荷物には二人分の昼飯。

リオはあらかじめ別行動のつもりだったんだろう。

レラの買った食べられる花びらを使ったパンを二人で食べ、手を繋いで散策をした。

夕方になったので宿を目指した。


「抜け出すか?宿は他にもあるし」


俺はずっとレラと二人でいたくて、宿に入る前に足を止めて問いかけた。レラから冷たい眼差しを向けられレラは一人で宿に入っていくので追いかけた。女心はわからない。


今度からは女心はルリに相談しよう。

俺の妹分は意外に頼りになるらしいから。










宿で再会したルリは俺の顔を見て、満足そうに微笑んだ。

リオがルリを見て、顔を赤くしてたのは笑えた。リオの赤面は珍しい。

さっきまで幸せだったのに、俺の幸せはルリ達と再会する前までだった。

まさかの部屋割が男女別って嘘だろう。

ギルド長に部屋は男女別と約束されたらしい。

レラはルリと一緒に眠る気満々だった。

レラさん、今までの雰囲気なんだったの?

リオがルリを説得しようとするもレラに邪魔され駄目だった。




仕方がないからリオと酒盛りをしている。

これはヤケ酒しかない。


「この状況おかしくないか!?」

「自分も説得できなかったんだから諦めろよ」

「せっかく、良い雰囲気だったのに」

「シアに感謝しろ。この旅行はお前のためにシアが考えたんだ。アルクとの約束と寂しそうなレラさんをなんとかしたいって」

「あいつ確信犯なの?」

「優しいだろ?」


リオがドヤ顔で見てくる。

リオが俺とルリを二人にするなんておかしいと思ったけど、ルリが頼んだのか。


「わかりにくい。ルリはあんなに鈍いのに?」

「シアは両極端だから。人の心の機敏に敏いのに理由が見当違いなんだよ。そんな所も可愛いけど」

「それ可愛いか?」

「可愛いよ。シアが好意に鈍いのは幼い時から俺が徹底的に害虫駆除してたからな。あと過保護にしすぎて危機感育たなかった」

「犯人はお前か!?」

「俺がずっと守るつもりだったから、なくても問題なかった。シア可愛かったし」


グラスに注いだ酒を飲みながら自信満々に言うリオ。



「育て方間違えてるだろう」

「俺が責任とるからいい」


リオはいつも自信満々だ。恋人との関係に俺のように不安になることはないんだろうか。

リオが酒を一気に飲んだので、グラスに注ごうとすると首を横に振られた。アルコールの度数の強い酒を飲んでも酔っぱらう気配は微塵もない。


「羨ましいな。なんで、そんなに自信満々なの?」

「シアが好きだから。それに色々あったからな」


リオが天窓から見える夜空を見上げ唇を結んだ。


姿を消した婚約者。広い世界で、手がかりもなく探すのがどれだけ大変かはよく知っている。しかも素人が。広い砂漠に落とした指輪を探すようなものだろう。いや、リオ達なら指輪くらいすぐに見つけだすか。とはいえ広い世界に飛び出した恋人と3年で再会できるなんて奇跡のようなもんだ。ルリとリオは俺には想像もできないような…。いや、ほとんどルリの考えなしが悪い気もするが。でも育て方を間違えたリオの所為でもあるから因果応報?

まぁ俺とレラなんて平穏なもんだな。


「なぁ、リオ、王国の言葉教えてよ」

「話せるだろ?」

「話せるけど読めない。土産に買った本をレラに読んであげたい」

「よく見つけてきたよな。あの本はシアに見せるなよ」

「どれ?」

「絵本以外」

「なんで?」

「ここだけの話だ。お前が買ってきた小説のモデルは俺とシア。シアそっくりの画集は、シア好きの後輩がシアをモデルに描いたものだ。シアのファンは多いからな」


ルリは発狂するがレラは喜ぶかもしれない。確かにリオとルリの容姿は絵になるよな。


「モデルって?」

「貴族のお遊びだ。どこのご令嬢も恋物語が好きだからな。俺とシアの組み合わせ人気があったから、気付いたらファンクラブが作られ、物語になっていた。市に売られてるのは予想外だったよ。話は盛られてるけど事実もある。シアは嫌がってたけど俺は牽制になるから放っておいた」


バシッと部屋の扉が突然開いた。

気配なかったけど、寝間着姿のルリが入ってきた。

なぜか冷たい空気を纏って俺のほうに歩いてくる?


「シア?」


立ち上がってルリに近づいていくリオに視線を向けずに俺のほうに向ってくる。

ルリ、近づくな。

さっきからリオの殺気が痛い。

リオが無理やりルリを抱きしめた。


「シア?お前その恰好」

「リオ、離して」


ルリがリオの目を見て殺気を飛ばした。

リオが目を見張り、ショックで固まった。ルリはリオの腕から抜け出し俺の胸元を両手でギュっと掴んだ。



「アルク、部屋交代。今日はレラ姉様に手を出さないことを約束して」


レラ?



「レラに何が?」

「今はディーネが見てる。部屋にあるお茶を飲んだらレラ姉様の様子がおかしくなった。体に害はないけど、酔ったみたい。レラ姉様、酔ってて可愛いいけど、今のレラ姉様が傍にいてほしいのはアルク。でもギルド長との約束があるから、手を出したら許さない。一晩、ディーネを貸してあげる」


ルリに見たことがないほど真剣な目で見られている。

復活したリオが嬉しそうにルリの肩に手を置いた。


「シア、アルクに任せよう。ディーネがいるなら大丈夫だ。もしアルクが手を出したら俺が制裁するよ」

「これは私とギルド長との約束だから。違えるなら私が沈める。アルクどうする?約束守れないなら断って。それなら私がレラ姉様を魔法で眠らせる」


静かな声音で冷たい眼差しのルリ。

何がおこってる?

リオがさっさとうなずけと視線を飛ばしてきた。

そしてルリに触れるなとも言っている。事情がわからないがレラと過ごせるなら拒む理由はない。


「わかった。約束する」

「あとディーネに手を出したら許さない」

「出さないから。ルリ、静かに暴走するのやめて」

「アルク、頼むな。シア、アルクに任せておいで、体、冷えてるだろ」


リオ、上機嫌だな。

俺がいるのにルリに両手を広げるのやめてくれない?


「ディーネが『わかってるわね?フウタは私に逆らえない』ってリオに伝えてって」


リオが固まった。

まぁいい。レラの所に行こう。

部屋に行くとレラに勢いよく抱きつかれた。初めてだ。

酔って甘えてくるレラは可愛い。ただ、いい雰囲気になるとディーネに邪魔された。

幸せだけど、拷問だった。

せめて眠ったレラを抱きしめて寝たかったけどディーネが許してくれなかった。

リオに同情した。ディーネを貸すって言葉に喜んだ意味がわかったよ。

リオ、このディーネを毎日相手にしてるの尊敬するわ。俺、生殺し状態に耐えられない気がする。

ルリを養女にするのはやめよう。


寝起きのレラは可愛かった。

ルリを探そうとするレラを優しく抱きしめたら俺の腕で幸せそうに微笑んだ。このまま二人でいたいけど、ルリがディーネを残して帰るわけないよな。

ディーネは気付いたらいなくなっていた。

部屋の扉には夕方落ち合おうと時間と場所が書いてある手紙が挟んであった。

ルリ、ありがとう。

そのあと食事をして、いくつか観光地を巡った。

レラに髪飾りを贈ったら喜んでくれた。

レラは知り合いのいない所なら多少は甘えてくれるみたいだ。

俺はいつものレラの可愛さを讃える行動を自制する。

有意義な旅行だった。こんなに恋人を独占できたのは初めてだ。


夕方、ルリ達と合流した。

レラはルリに抱きつき、ルリは悪戯が成功したような顔をして俺を見た。

リオの上機嫌ぶりを見たら、そっちも十分楽しかったみたいだ。ディーネはやっぱりルリといた。


ルリ、レラはルリに抱きつくのは照れ隠しっていうけど、本気で気に入ってると思うよ。

くやしいけど、やっぱり俺にはレラのその表情は引き出せない。

その後、俺達は馬車で村に帰った。

ルリは疲れたのかぐっすり眠っていた。

リオがルリの様子を見せたくないのか起きるまでずっと抱きかかえていたけどな。

相変わらず独占欲の塊だ。


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