前編 巡回使の記録
俺はリオ・マール。
目覚めて起き上がると体が重い。窓の外は明るく昼過ぎだろうか。寝坊?いや、昼まで寝てられるほど俺は暇じゃないし、母上が許さないよな。
パタンと扉が乱暴に開くと母上とカナト兄上が入ってきた。いつも笑みを浮かべる兄上は真顔で母上の目が赤く髪が乱れている。多忙な二人が昼間に俺の部屋を訪ねるなんてありえない光景だ。
「リオ、目覚めたのね。良かった。あなたまで」
母上の瞳から涙がこぼれ落ち、そっと手を握られた。兄上が母上の肩を抱いて優しく慰めているけどどんな状況?泣いている母上を見るのは初めてでどうすべきかわからない。兄上に任せよう。兄上ならどんな状況も収めるだろう。母上にべた惚れな父上が泣いてることを知れば帰国してきそうだ。
「体はどうだ?」
「重たいですが動くのに支障はありません」
「そうか。支障がないならいい。三日も眠っていれば」
三日も眠っていた?俺の手を握っている母上の動揺は俺の所為?
俺に何かあれば国内一の治癒魔導士を抱えるルーンに治癒要請がいく。母上が動揺するなら、もっと動揺しそうなシアは?泣き疲れて別室で眠っているかもしれない。顔を見にいくか。
「ご心配をおかけしました。シアはどこに」
いつもの笑みを浮かべた兄上が一瞬だけ顔を歪めた。嫌な予感がしてベッドから出ようとすると兄上の手で両肩を抑えつけられる。
「レティシアはいない」
「ルーン公爵邸ですか?」
「どこにもいないよ。陛下の生誕祭を覚えているか?海の皇国の皇女様の魔力が暴走した。嵐と禍々しい魔力が会場を襲い王宮魔導士も騎士達も対処できなかった。王族さえもな」
兄上の話に嫌な予感がぬぐえない。襲いかかる禍々しいものに魔力が奪われ、シアを抱いて結界で囲んだ後の記憶がない。まさか・・。
「混乱する会場の中で外に投げ出された者は水の魔法で包まれた。そしてそこにいたのは青い魔力に包まれ祈りを捧げるルーン公爵令嬢。青い魔力に包まれたルーン公爵令嬢が祝詞を唱えると水の女神が召喚され禍々しい魔力で包まれた会場は清廉された魔力で包まれた。その後の記憶がある者はいない。荒れた会場と大量の魔力欠乏者。怪我人も死傷者もいない。行方不明者がたった一人だけ」
「兄上、まさかそのたった一人って」
「陛下の生誕祭での行方不明者はレティシア・ルーンただ一人。唯一の手掛かりは倒れたリオが握っていたレティシアの名前の入ったメダル。メダルはルーン公爵家に渡した。リオの傍に落ちていた腕輪とペンダントはそこの机にある。シエルがレティシアの身に付けていた物と証言したから引き取らせてもらった」
兄上の視線の先には俺がシアに贈ったペンダントと腕輪が置いてある。肌身離さず持ってるようにと伝えた物が。
「捜索しているが遺体は見つかっていない。女神の召還の生贄、逃亡、憶測が囁かれているけど正式発表はない。ルーンは沈黙を貫いている。叔父上は王宮で動いておられる。ルーンを纏めているのはエドワードだろう」
女神を召還?あの荒れた会場を鎮めたのはレティシアなのか?
「シアだけは、シアだけは守りたかったのに。これじゃあなんのために」
いつもは聞き分けがいいのに突然、突拍子もないことばかりするシア。
シアが怖いって泣くから、理解できなくても泣かなくてすむならなんでもしてやろうと思ってた。いつも明るいのに時々哀愁漂わせながら遠くを見つめているシアを守ろうって。頼りない小さな背中が押しつぶされないように。俺の胸で泣くシアが何を選んでも側で支えようって。いつか未来に怯えず笑えるように。ようやくシアの怯える原因の一つを排除した。それでもいまだに悪夢にうなされるシアを見て、絶対に幸せにしようって。悪夢なんて忘れるくらい。そのシアがいない?
体に力が入らない。震えが止まらない。シアが死んだ・・?嘘だろ。
俺のレティシア。冗談ですって無邪気に笑って出てきてくれないか。怒らないから説教もしないから。悪夢なら覚めてくれ。頼むから。
「シア、怒らないから出てきてくれないか。頼むよ。蜂蜜」
「リオ、現実を見ろ。レティシアはいない」
兄上の声に理解したくない現実が襲ってくる。
俺は・・。シアだけは守りたかった。シアさえいれば何もいらなかったのに。
隣にいてくれるだけでよかった。女神を召還する余裕があるなら逃げて欲しかった。シアのいない世界なんて、
「シアに守られて生きるくらいなら、それなら死にたかった」
頬に容赦ない拳が喰いこむ。口の中に広がる血の味と痛み。悪夢じゃないのか。躱す気力も起こらない。
「カナト、やめなさい!!」
母上の悲鳴が聞こえるけどどうでもいい。
「バカか。レティシアがなんのために。お前が一番よく知ってるだろ!!お前にそんなこと言われたら泣いて怒る。なんでわからないんだよ!!レティは」
「兄上落ち着いてください。リオもわかってますよ。魔力はなくても命を大事にするルーン一族の自慢の姫ですよ。レティが危険をおかしても守りたかったものがわからないほどうちの弟はバカではありませんよ」
「この腑抜けた弟を見てよくも」
「リオも起きたばかりで混乱しているだけですよ。母上も兄上も食事にしましょう。リオ、お大事に。また来るよ」
シアは自分のためって言いながらいつも他人のことばかり、全然俺に守られてくれなかった。危なっかしくて…。貴族として失格って笑いながらも、
「頭を冷やせ。命を粗末にするな。仕事はしなくていい。食事を運ばせるから食べて休め。バカなことは絶対にするなよ」
兄上達が出ていき、目の前に置かれた食事を見ても手をつける気がおきない。
気力がわかない。シアのいない世界に俺だけ残ってる。
首にかけていたシアからもらったお守りの魔石を取り出す。
青く澄んだシアの瞳にそっくり。あの瞳はもう見れない。
兄上達に何を言われてもシアなしの世界なんて耐えられない。シアに怒られてもいいから一緒に逝きたい。見捨てて逃げてくれればよかったのに。シアさえ生きてくれるなら俺なんて見捨てて欲しかった。
ずっと一緒にいるって約束したのに。
俺の未来はシアのものなのに、お前がいないのにどうすればいいんだよ。
「リオ様」
呼ばれた声に顔をあげると赤い瞳に鋭く睨まれている。
「過大評価でした。見る目のなさに嫌気がさしました」
セリアの蔑んだ声に吊り上がっている目。俺も酷い顔をしてるだろうな。表情を作る気もおきない。
「シアを守れなかった」
「違います。今の貴方に失望しています。これ最後の餞別です」
セリアが勢いよく投げたものが顔にぶつかり落ちていく。
白いハンカチ?
「レティが勇気を出せずに渡せなかったものです。戸惑いながら刺繍するレティを止めれば良かった。あんな男はやめなさいって言わなかったことに激しく後悔しています」
「シアは、もう、なんでお前は、平気なんだよ!!」
「私は貴方と違ってレティを信じてます。もう用はありませんので、失礼します」
セリアがいつもと変わらない足取りで去っていく。
あいつは研究第一だけどシアを大事にしていた。
悲しみは一切なく感じたのは怒りと嫌悪。なんで平気なんだよ。
体の上に落ちているハンカチに青を見つけて開くと青い糸で歪んでいるマールの紋章。この不器用な刺繍の感じ…、シアの刺繍か。隅にあるのは深い青色の花と小さくLの刺繍も。ルーンの青い花に名前か。令嬢の間で流行っているハンカチ。好いた相手に傍にいない時も自分を思い出してほしいと願いを込めて刺繍をしてハンカチを渡す慣習。
シアにもらったハンカチは2枚。初めてもらった時はシアはハンカチの意味なんて知らなかっただろう。2枚目は意味を知ったからか贈るの躊躇っていた。相変わらずマールの紋章だったけど。俺はいつもシアのことを考えてたのに気づいてなかったんだろうな。
でもこのハンカチは素直じゃないシアの独占欲。
さり気なくじゃなくて堂々と主張すればいいのに。それができない俺のレティシア。
シア…。やっと本当に側にいられる権利を手に入れたのに。
でも、もういない。
「いつまでバカやってるんですか」
声に視線を向けると深くて青い瞳を見つけた。
「シア!!」
抱きしめようと手を伸ばすと振り払われる。
「正気に戻ってください。そんな腑抜けに姉様を任せたつもりはありません」
冷たい声の主はエドワードだった。良く似た顔立ちなのにシアとは違う冷たい目で俺を見ている。
「僕より姉様の側にいたのに。姉様の遺体がないんです。ずっと姉様の一番近くにいたのに」
なんでシアを亡くしたのにお前も平気なんだよ。
お前の一番もシアだったはずだろう。
「これを」
エドワードから無理矢理何かを握らされる。触れると覚えのある冷たさに手の中を見るとシアの瞳にそっくりな魔石。間違えるはずない。体に巡る冷たい魔力は良く知っている。
「どこで!?」
「行商人が良質な魔石が手に入ったと。この純度の高い魔石を作れるのはルーンの直系。ルーンの魔石は管理され市井には決して出回りません」
「シアは生きてるのか!?」
「僕にはわからない。女神を召喚した姉様なら魔石も作れる可能性はある。ここで諦めてる人間に姉様は絶対に渡さない」
シアの魔石。俺が持っているお守りよりも大きいけど間違えるはずがない。
シアは魔法が使えることを隠していたからシアの魔石が市に出回るのはありえない。出回ったとしたら…。思考を放棄した頭がようやく動き出す。
俺の周りに置かれた贈り物。わざわざ俺の手に持たせたメダル。遺体もない。もしかして、
「姿を消したか攫われた」
「僕は姉様は自分で姿を消したと思っています。水の女神を召還したあと微笑んでいました。このまま自分が残れば姉様の力を求めて争いが。無属性の姉様が魔法を使ったのでルーン公爵家に迷惑をかけると思ったか。そんなの幾らでもなんとかするのに、姉様はいつも自分を犠牲にしようとする。ルーンのためなら姉様は躊躇いません」
生きてる。まだ間に合う。シアは無属性の貴族について調べていた。魔力があることは絶対に見つかってはいけないと人目のある場所では魔法を使わなかった。自分が死にかける状況でさえも。当事者がいなければ裁かれない。逃げたか。バカ、シア。一人で行くなよ。
「シアならやりかねない。ありがとう」
「命を粗末にしたら姉様が悲しむから」
「義兄様って呼んでもいいけど?」
「絶対呼びません。まだ認めてません。どうするんですか?」
「探す。絶対捕まえる」
「僕は探しにいけません。姉様の守りたかったものを守ります。いつか会わせてくれますか?」
エドワードは落ち着いた口調なのによく見ると瞳は揺れている。姉弟だな。令嬢モードで強がるシアにそっくりだ。エドワードの頭に手を伸ばす。
「俺が見つけて今度こそ守るよ。連れて帰れるかは約束できないけど」
エドワードの頭に置いた手を叩かれる。素直じゃない。シアにそっくりで笑えてきた。心を許した者にしか甘えを見せない。エディを甘やかせるのはシアだけか。
「やめてください。僕は姉様が安心して帰ってくるための準備をします。姉様が家のために自分を犠牲にしなくてすむように。姉様を反逆者と罵る奴らに地獄を見せます」
この姉弟はお淑やかな外見に似合わず好戦的なんだよな。叔母上そっくりだ。
エドワードはシアが帰ってきても平気なように動いてくれるだろう。
シスコンで厄介な従弟は味方になるなら叔父上以上の後ろ盾だ。
「頼もしいな」
「悔しいですが姉様をよろしくお願いします。結婚前に手を出したら許しませんから。その顔!?もしかしてもう手を出したんですか!?」
結婚という言葉にとろけるように笑うシアの顔が脳裏に浮かぶ。あのシアは、ゾクリと寒気に襲われ思考をやめるとエドワードから冷気が出ている。
「最後まではしてない」
「放っておけばよかった」
本気で後悔している顔をしている。レイヤ兄上は命を大事にするルーン一族って言ってたけどそれは違う。ルーンが大事にするのは利用価値のある命だけである。そして価値のないものは容赦なく斬り捨てる。エドワードは迷いなく容赦もなく慈悲の心もない。優しさは全部シアが吸い取ってしまったんだろう。そしてシアが叔母上のお腹に残した冷酷さを余すことなく持ってエドワードが生まれたんだろう。エドワードが俺に声を掛けたのは見極めか。気付いて良かった。エドワードのおかげで希望が見えた。絶対捕まえる。
「俺も調べるけど、シアの情報を掴んだら教えて」
「わかりました」
「マールの名を捨てるけど、シアに他の縁談いれないで。肩書が必要なら帰国してから用意するから」
「わかりました。結婚を許すかどうかは別の話ですが。僕はこれで、それ返してください」
エドワードにシアの魔石を返すとすぐに出て行った。
希望は見えた。あとは動くだけだ。
ずっと喉を通らなかった食事を無理やり流し込む。味はしないが体力だけは戻さないと。
「フウタ、シアの居場所を探せるか?」
「行ってくる」
「頼んだ」
フウタならシアの魔力を辿って探せるかもしれない。目覚めてすぐに動かなかったことを後悔している場合じゃない。引き出しから常備してある回復薬を出して一気に飲むと体に魔力がみなぎる。着替えて父上の執務室に行くと運良く父上とカナト兄上がいた。レイヤ兄上が母上を慰めているんだろう。義姉上達が母上の代わりに動いてるはず。
いつも余裕がある父上の顔が少しやつれているように見えた。
「ご心配をおかけしました」
「持ち直したならよかったよ。ローズは時間がかかりそうだ」
「俺を廃嫡にしてください」
真顔の兄上に胸倉を掴まれそうになる手を躱す。シアに会うのに殴られるわけにはいかない。俺が怪我したら絶対に泣きながら怒るから。
「お前、まさか」
「命を絶ったりしません。希望を見つけたから」
「エドワードも両殿下も諦めていなかった。お前もレティの生存説を信じてるのか?」
「遺体がありません。レティシアを探します」
「廃嫡にする意味をわかってるのか?」
「シアを探しにいくのに貴族の地位は不要かと。生きて帰ってこれるかもわかりません」
「止めても行くのか?」
「はい」
父上に覚悟はあるのかと冷たい視線で睨まれるけど逸らさない。俺にとっての優先順位は自覚した時から変わらない。シアよりも大事にするものなんてない。放り出されても困らないだけの力はある。昔から国外逃亡の準備をしていたからマールの力がなくても生きていける。
「レティシアを探しにいくのはいいけど学園は卒業しろ」
「そんなに待てません」
「レティシアが帰ってきた時に隣で守りたいなら権力が必要だ。意味わかるよな?女神を召還したルーン公爵令嬢の価値を」
ステイ学園卒業は貴族としての必須条件。早く探しに行きたい。レティシア・ルーンと結婚したいなら貴族の地位が必要だ。妃候補に召し上げられる可能性も格段に上がった。
「父上、我儘な末の弟が旅に出ても支障はありません」
「リオにレティを探しに行かせながら、諸外国の情報収集させる気だろ?」
「どうやってレティシアを探すんだ?」
「旅をして情報を集めようかと」
「父上、やっぱりリオはバカ?」
「末っ子だから甘やかしすぎたか。成績は優秀だが」
「一人で集められる情報なんてたかがしれてる。レティシアを見つけるなんて不可能だ。いまだにレティシアの情報は一切ない。うちの諜報部隊や王家の影が動いているのに」
「リオ、巡回使の試験を受ければいい」
「研究のために諸外国をめぐる集団ですか?」
「国から給金と旅費が出る。調査書の提出は求められるが手間ではないだろう。危険な仕事だがリオなら大丈夫だろう。巡回使なら私達とも連絡が取れる」
「いくつか欲しい情報があるから頼むよ。定期報告を忘れるなよ。きちんと遺書は書いてから出かけろよ。お前がバカやって人質にとらえられても見捨てるから心配するな。レティシアが人質だったら悩むけど」
「父上、兄上は俺よりシアの方が大切なんですか?」
「素直で可愛いく優秀な義妹は貴重だ。お前でレティシアが釣れるなんて手塩にかけて育てた甲斐があったよ」
「育てたじゃなくて、いびったの間違いでは?」
「私は手を出さないけどリオが望めば力になるよ。父親としても叔父としても」
「リオ、学園を卒業してからだからな」
兄上との約束通り学園は卒業した。
マールの仕事はレイヤ兄上が俺の分も引き受けてくれたおかげで時間ができた。フウタに毎日探らせてもフラン王国にはシアはいなかった。シアがいない学園なんて、乱れようと派閥争いが起きようとどうでもいいから時間の許す限りロベルト先生に頼んで連日訓練を受けた。
学園で再会したセリアに「レティの相手として認めない」と言われたけど、どうでもいい。近隣の国にはシアの情報はなかった。シアが目指すならフラン王国とは交流のない国だろう。空いた時間は他国の言語を頭に叩き込む。名前しか知らない国の。
クロード殿下に交渉して巡回使に選ばれる根回しをした。
巡回使は危険な仕事なので身分が高いと選ばれないのでマール公爵家の名前は一旦父上にお返しを。国王陛下には新たな婚約者を選んで外交官を目指せと言われたけど断った。俺はシアのように王家に忠誠心なんて持っていない。
旅立つ前にシアの友人達から餞別をもらった。俺は絶望したのに誰もがシアの生存を信じていた。
「リオ、行くの?」
「ようやく明日で卒業」
「きっと彼女なら大丈夫だよ。悪運も強いし、ターナー伯爵夫妻仕込みの逃げ足の速さに風の天才の娘でしょ?」
「捕まえる。絶対に。俺にはシアが必要だから」
「お互いにだよ。泣いてるかもしれないから早く掴まえてあげなよ。こっちはなんとかするよ」
「エドワードがいるから心配してない。情報があったら父上に頼むよ」
「気をつけていってらっしゃい」
卒業式の前日までサイラスを訓練に付き合わせた。
卒業式で叔父上を見つけた。挨拶に行くと別室に連れ出された。
「諦めても誰も責めない。婚約は」
「叔父上、俺が生きるためにレティシアが必要です。諦める時は俺の命が消える時です。お気遣いは不要です」
「命を大事にしなさい。これを」
叔父上から渡されたのは純度の高い水の魔石や最高級の回復薬や万能薬。多忙な叔父上がわざわざ作ったものだろう。
「ありがとうございます」
「父としてレティシアを選んでくれて感謝する。レティは覚えていなくてもあの時のリオの誓いを私は生涯覚えているよ。大事な娘を迷わず託せる男に育った。そろそろ時間か。気をつけて」
「叔父上、レティシアを見つけたら婚姻してもいいですか?」
「それはエドワード次第だ。ルーンはもう次代に託している」
「わかりました。行ってきます。失礼します」
卒業式には国王陛下が来るが叔父上が同行したのは俺のためか。国王陛下の呼び出しを叔父上が阻んでくれているのがわかった。
何度止められようとシアのいないフラン王国でマール公爵子息として生きるつもりはない。叔父上から婚姻許可が欲しかったけどエドワードのほうが上手だったか。まぁいい。
卒業式が終わった足で学園を飛び出した。
卒業パーティは出るつもりはない。シアのために用意したドレスはマール公爵邸に置いていく。シアのいない学園に思い入れはない。ようやく自由に動ける。
絶対捕まえる。捕まえたらもう離さないから、覚悟してシア。




