最終話 追憶令嬢18歳
こんにちは。
ルリです。
平穏で気楽な生活を目指していた元公爵令嬢です。
泉の中に咲く紫の花びらを持つ花。魔法の文化が乏しい砂の国では入手困難なため幻の花と呼ばれています。傷のない幻の花は貴重なため様々な使い途があるそうです。リオが道中に教えてくれました。無事に幻の花を手に入れたのでギルドに納めに行かなければいけません。疲れているリオには家で待っててほしいとお願いしましたが離れたくないと言われて負けました。
今朝リオの腕から抜け出して狩りに行ったこともあり、視界に入らないと心配でたまらないそうです。
リオが望んでくれるなら一緒にいると言いましたが信じてもらえません。
でも抱きしめて離してくれないリオに愛しさが溢れます。胸の痛みも寂しさも抱きしめられると溶けていきました。恋しい人といられることに幸せを噛み締めます。
リオが好きでたまりません。貴族ではないなら嬉しさを全面的に出しても咎められません。
リオは突然抱きしめてきますが幸せだからいいんです。抱きしめられると心臓の鼓動が速く体が熱くなります。制御できないおかしい体も恥ずかしくて死にそうになりますが本望です。リオの腕の中で最期を迎えられるなら幸せです。
しばらくリオの腕の中で幸せを噛み締めていると辺りは暗くなったので慌ててギルドに向かいました。砂の国では夜は風が冷えるので外套を羽織ります。
ギルドの扉を開けると視線を向けられました。目が合った酒盛りをしている冒険者達が目を見張り警戒しています。見知らぬ男が幻の花を持って現れたら驚きますよね。夜にこのギルドに訪ねるのは顔見知りの冒険者ばかりですから。それにこの辺りにリオほどの容姿端麗な方はいません。花は持たせてもらえず諦めましたわ。
「ルリ、まだ帰ってくるな。村に巡回使がいる」
心配そうな顔をする青年が近づいてきました。ギルド長の言う通り私の存在を隠してくれていましたのね。
あんなに酷い態度を取っていた私へ優しくしてくれる心の温かい冒険者達に笑みがこぼれます。目の前の青年が固まりました。なぜか冒険者は突然固まります。意味がわかりませんが実害がないので気にしません。世の中は知らなくてもいいことばかりです。必要な情報は集めますが、個人に関することは必要ないことですわ。
「ありがとう。もう手遅れです」
「ルリ、無事でよかった」
無事を喜んでくれる冒険者達に笑みを浮かべて礼をします。
「心配してくれてありがとう。完了の手続きをさせてください」
「ルリの無防備な笑顔!!これは今日はついてるぞ」
どうゆう意味ですの?普通に笑っただけですが。
「なぁ、ルリ、後ろにいるのって」
シオンには泣き顔を見られ八つ当たりもしましたわ。感情のままに別れた後なので物凄く気まずいですわ。
え?真顔のシオンに勢いよく両肩を掴まれました。
「ルリ、よく考えろ。一度捨てられたら二度目がある。今は辛くてもきっと忘れられるから」
シオンの中では失恋で傷心して村にたどり着いたってことになってるのでしょうか?きっちりとお断りしましたよね。私は捨てられてないんですが。でもまだ心配してくれるんですね。あんなに酷い言葉で突き放したのに優しくされることに戸惑います。
「こないだは傷つけたけど、ルリの傷が癒えるまで傍にいるから。追手からも女からも守る」
背中に温もりを感じて顔を上げるとリオの顔が近く額に口づけされました。驚いて顔を見上げるとリオの目が据わっています。笑顔なのになぜか怒っています。どこに怒る要素がありますの?周りから悲鳴が聞こえました。
「俺のシア、いやルリが世話になった。俺が彼女を捨てることなんてないから心配しないでくれ。これからは俺がずっと傍にいるから気遣いは不要だ。ルリの単なる友達に感謝するよ」
社交の笑みを浮かべたリオがシオンに話しかけています。いつの間にか肩に置かれた手はなくなりました。そしてリオに肩を抱かれています。そういえば挨拶するって言ってましたわ。別に怒ってはいませんでしたのね。勘違いで良かったですわ。いつまで経っても私の保護者役ですのね。
「俺はお前を認めない」
「俺のルリが世話になったお礼にいつでも相手になるよ」
リオにルリって呼ばれるの違和感が…。
ぼんやりと二人の会話を見守っている頬に口づけされました。
リオ!?ここには口づける文化はありませんわ。社交用とわかっていますが視線を集めた上での口づけは恥ずかしいです。顔に熱が籠りますが、それさえも懐かしく感じる私はいけませんわ。
「お前!!」
シオンが目をつり上げて怒っているのは当然ですわ。リオ、親交を深めてるときに私を構ったら失礼ですわ…。冒険者には冒険者のルールがありますのよ。嗜めるようにリオを睨むと優しく笑い返され頭を撫でられました。リオ、違いますわよ!!
「お前、ルリちゃんに手を出したのか!?」
「俺のルリを」
周囲の心配そうな空気が一変しました。ゾクリと寒気がして辺りを見渡すと殺気が飛び交っていますわ。いくらリオが無礼でもこれはどうなんですか!?
リオが殺気から守るように私を抱き寄せ腕に力を入れましたが、まさか戦闘しませんよね!?なんですのこの空気!?リオ兄様なら瞬殺できると思いますが物騒なことはごめんですわよ。
「お前ら騒がしい。ルリ!?」
ギルド長が出てきたのでもう大丈夫ですわ。
助かりましたわ。冒険者達の殺気が霧散しましたわ。リオの腕を解こうとすると手を握られました。逃げないのに。このままで構いませんわ。リオと手を繋いでギルド長に近づきます。
周りの悲鳴はもう気にしません。殺気がないなら危険はありませんもの。冒険者は安全第一。あとは気にしませんわ。
「依頼の品です。結界に閉じ込めてますがどうしますか?」
「お前、瓶も籠も持たずに行ったのか!?準備はしっかりしろと言っただろうが。この瓶に水ごと入れろ。レラ」
ギルド長に怒られましたが必要ありませんでしたもの。リオが瓶に幻の花を入れて結界を解除しました。蓋をした瓶をレラさんに報告書と一緒に渡して依頼完了です。
「お疲れ様。報酬よ」
銀貨を受け取りリオに渡そうとすると首を横に振られました。
「いらない」
「この依頼はほとんどリオが」
「シアの好きに使えばいい」
意思の強い瞳のリオの手は私の手を握ったまま。受け取ってもらえないので、自分のお財布に入れます。後でこのお金で栄養のあるものを買いに行きましょう。リオのやつれた体を元に戻さないといけませんわ。
「ルリ、見つかったのか」
「いえ、彼は違います」
「お前が売られそうになった貴族か?」
「シア、どうゆうこと?」
眉間に皺を寄せたギルド長の心配そうな顔に首を横に振ると隣から冷たい声がしました。
ここに辿り着く前に貴族に売られそうになったのは嘘ではありません。久々のリオの咎める視線にゾクリと寒気がしました。
「お嬢様!!」
リオのお説教をどう逃げようか悩んでいると少年に勢いよく抱きつかれました。
後に倒れる前にリオの逞しい腕が背中を支えてくれました。気配がなくあまりの速さに驚きましたわ。ん?
「よくご無事で。お会いしたかったです。お嬢様」
金髪?覚えている声よりも低いですが私をお嬢様と呼ぶのはまさか……。
「ロキ?」
「はい」
顔を上げて嬉しそうに笑う黄色の瞳。お腹の当たりにあった頭は胸の位置にあります。大きくなりましたね。きちんと筋肉もつき、違いますわ!!
「未成年でしょ!!学園は!?どうしてこんなところにいますの!?」
「お嬢様が気にされることではありません。これからはずっとお嬢様の傍にいます。ご恩を返させてください」
堂々と笑顔で話すロキの成長を喜ぶ心の余裕はありませんわ。そこまで感謝をされることしてないんですが。
ロキは頑固で思考も行動も読めません。
メイル伯爵家に引き取られる時も大変でしたわ…。説得は諦めて取引ですわ。今は安全に帰すことが最優先です。
「ロキの気持ちは嬉しいですが成人してからにしてください」
「シアは俺に任せて帰れ。願いは叶っただろ?」
「私の願いはこれからです。兄上にもエドワード様にも許可をいただいてます」
「お前の許可は捜索だけだろ?シアには俺がいるから大丈夫だ。そろそろシアを離してくれないか?」
「エドワード様からリオ様からお守りせよとの命を」
「お前、俺にも恩があるよな?」
「はい。ですが私の忠誠はルーン公爵家に捧げておりますので」
私を挟んで笑顔で喧嘩しないでほしい。突っ込むところが満載ですわ。久々の感覚ですわね。とりあえず大事なことから教えないといけませんわ。ロキが一緒に捜索ってどういうこと!?いえ、まずはロキにとって一番大事な自分の立場を。フラン王国貴族の忠誠は王家に捧げるものですわ。
「ロキは社交デビューがすんだ伯爵家の人間です。そんな勝手は許されません。忠誠を捧げるべき」
「伯爵位は返上してます」
「貴方もなの!!お願いですから成人するまでは国に帰ってください。成人して皆と相談した上での結果なら受け入れますわ。貴方を雇うお金があるかは別問題ですが」
ロキは昔から頑固です。生い立ちの所為か大事なことのためなら手段を選ばない所もありそうですわ。
私はロキに安全な場所で子供のまま甘やかされて過ごして欲しかったのに。
幼い時から苦労したからその分も…。ロダ様を信じて託しましたのに。
ロダ様、どうして許可したんですの!?。
ロキに甘いからって限度がありますよ!!きちんと教育してくださいませ。
「ようやく見つけました。きっとお嬢様はまた行方不明になります。リオ様が独占したくて隠します」
「はい?そんなことしませんよ。ねぇ、リオ?」
「あぁ。俺はシアの望みを叶えるだけ。落ち着いたら帰るかもな」
「お嬢様、リオ様は信頼できません」
「ど、どうすれば納得しますの?」
「定期的に手紙をいただけませんか。暗号でいいので。居住先を書いて」
意思の強い瞳に動揺を隠して笑みを浮かべます。
ロキに暗号のことは教えていませんがどうして知ってますの!?私の荷物を調べたんでしょうか?いえ、それは気にしても仕方ありませんわ。
「あんまり身元がわかるようなことは」
まだあの事件から3年しか経ってません。ロキ達のように探している人がいるかもしれない。
「これを使ってください」
ロキが差し出したのは海の皇国の印鑑。ギルドで見た海の皇族からの正式な依頼の時に捺印されるものと同じです。なんで持ってますの!?
「この印を押せばお金がかからず火急で私に届きます」
そんな恐ろしい物はいりません。そんな貴重な物を人に渡してはいけません。ロダ様、どんな教育をしましたの!?もう疲れましたわ。安全に帰ってくれるならなんでもよくなってきましたわ。
「いりません。居住先を変えるときは手紙を出します。約束しますので国に帰ってください」
「わかりました。また会いにきます」
「簡単に引き下がるんだな」
「不服ですか?」
「まさか。シアのことは俺に任せて達者で暮らせ。成人しても来なくていいからな」
ロキとリオが笑顔で見つめ合ってます。仲良くなりましたのね。リオがロキを連れて私を探していたなんて思いもしませんでしまわ。正直、正気を疑う案件ですわ。まさかリオの常識を疑う日がくるとは思いませんでした。
「リオ様、エドワード様との約束忘れないでください。結婚するまでは、わかってますよね?結婚の許可はありません。お嬢様、またお会いできるのを楽しみにしています。私は失礼します」
ロキが黒い笑顔を浮かべました。ロキも腹黒になりましたの…。貴族は腹黒ばかりですの!?
リオもショックで顔が青いです。待って、もしかして一人で帰りますの!?
「ロキ待ってください。リオも一緒に帰って」
慌てて礼をして立ち去るロキに声を掛けると止まって振り向きました。隣にいるリオの手を解こうとすると強く握られています。抗議の視線をリオに向けます。
「嫌だよ。シアと離れない」
「ロキを一人で帰すなんて危険です」
「ロキなら一人で大丈夫」
「大丈夫ではありません。絶対にいけません。まだ子供ですよ」
「ならシアも一緒に帰ろうよ」
「できません」
私が行方不明なら探してる人がいるかもしれない。
ディーネの力は魅力的です。そしてルーンを追い落としたい貴族もいるでしょう。死亡として処理されていないならフラン王国に近づくのは危険ですわ。
「お嬢様、私は一人で平気ですよ」
「ロキ、旅にはどんな危険が潜んでいるかわかりません。ここから王国まで遠いので一人は危険です。子供の貴方を安全に送り届けるのは大人の役目ですわ。リオ、お願いします」
「嫌だ。もう離さないって言っただろ?俺は許容範囲内のお願いしか、叶えられないって言ってるだろ?」
空いている手を私の腰に回して抱き寄せるリオの顔をじっと見つめます。
「リオ…」
「泣いても無駄だからな。譲らないよ」
瞳を潤ませましたがリオには効きませんでした。
もう必要ないと思って気弱な令嬢の修行はしていませんでしたわ。油断してましたわ。作戦変更ですわ。不満そうな顔をしているリオの顔を睨みつけます。
「リオ、無責任ですわ。子供のロキへのリオの行動は非常識ですわ。貴族として以前に大人としてありえませんわ」
「シア、怒りっぽくなった?」
「お気に召しません?」
「いや、可愛いよ」
甘い瞳で見つめながら近づくリオの顔をかわします。昨日無理にでも帰すべきでしたわ。子供のロキを一人にしたなんて。無事だったのは奇跡ですわ。リオはあえてロキのことを私に教えなかったんでしょう。
「誤魔化そうとしても騙されませんわ。未成年を巻きこんだ責任を取るべきですわ」
「それは…。でもお前、また姿消すかもしれないだろ!?俺はシアに責められても離れない」
「待ってますわ」
「信用できない。もうこれ以上離れるなんて耐えられない」
不安に揺れる銀の瞳に苦しそうな声、一瞬震えた手の感触。怒ってますが辛そうな顔をしたリオをこれ以上責めることはできません。ずっとここにいる保証はない。リオ達に見つかりました。それなら追っ手がこないとも限らない……。
自分の迂闊な行動の所為ですわ。次は髪の色も変えましょう。
ポンと頭に手が置かれる。リオの手ではありません。頭を撫でる大きな手の持ち主に視線を向ける。
「ギルド長?」
「ルリ、事情はわからんがギルドに依頼するか?その少年の護衛をつければいいんだろう。兄ちゃん、金はあるんかい?」
その手がありましたわ!!ここは冒険者ギルド。
「今は持ち合わせは少ないですが、彼を国に送り届けていただいた時に必ず十分なお礼を」
「ルリ、本当か?」
フラン王国にさえ帰れば魔石が売れるのでいくらでもお金が手に入ります。エドワードが絡んでいるならルーン公爵家からもお礼が渡されるはずですわ。エディ、未成年を送り出すなんてなんてことを・・。
「はい。報酬は必ずお支払いできる力を彼は持っています。いえ、私が責任を持ってお支払いします。極秘任務扱いにしてください」
「金貨10枚」
「国まで遠く知り得た情報は他言無用。必ず国まで送り届けてもらいたいので金貨20枚でお願いします」
「ルリ、それは多い」
ギルド長が首を横に振りました。このギルドに斡旋される依頼で金貨が支払われるのはAランク以上の依頼。砂の国は貧しい国なので物価が安いので金貨が報酬として支払われる依頼事体少ないです。私は豊かな海の皇国で金貨をたくさん稼いだので懐に余裕があります。冒険者は何があるかわからないので貯蓄は大事です。そしてロキを安全に届けていただく報酬は金貨10枚は安すぎますわ。この報酬の中には交通費も含まれています。フラン王国に帰るまでに経由する国は砂の国と比べて物価が高い国ばかりなので往復と滞在費だけで金貨5枚はかかります。報酬が多ければその分宿や交通手段も安全なものを選べます。金貨10枚あれば伯爵令息を安全に送るための金額として十分でしょう。報酬として10枚冒険者の手に残るなら節約なんてことはしないと思います。そして正規のルートが使えない時もお金で解決できるでしょう。
「ギルド長お願いします」
「ルリの頼みなら俺が行くよ」
「抜け駆け、俺が」
立候補者がたくさんいます。金貨20枚の依頼はこのギルドでは稀です。Sランクの冒険者はこのギルドにはいません。最高がAランクの冒険者。依頼も金貨5枚以下のものしか見たことがありません。以前滞在した森の国では金貨100枚の依頼もありましたわ。ギルドの規模が全然違うので仕方がないことですわ。私は誰がいいかわからないのでギルド長に頭を下げてお願いします。ルーン公爵令嬢ではないので頭を下げることに抵抗はありません。
「静かにしろ。ルリ、頭をあげろ。俺はお前の味方と言っただろ。依頼料はどちらが出すんだ?」
「俺が。金貨25枚で頼む。今、渡せばいいか?」
リオの言葉に驚き顔を見上げると穏やかなお顔です。5枚増えてます。25枚を支払えば貯蓄がなくなります。Bランクにランクアップして、Aランクの依頼をいくつか引き受ければなんとかなりますかね。金貨が2枚足りませんわ。私の生活費も厳しくなりますわ。まぁなんとかしましょう。腰を抱く手を解いて袋に手を入れるリオに首を横に振ります。
「私が出しますわ」
「俺が出す」
「ロキが来たのは私の所為です。無事に帰したいのは私の願いです」
「シアの願いは叶えるって言ったろ?俺にも責任あるし、譲らないよ」
「リオ、お金がないって」
「ほぼ国に置いてある。思ったより依頼料が安いから」
「金銭感覚おかしいですわ」
「シアを養うくらいの蓄えはあるから安心して」
「私は生活費は自分で稼げますので」
「それはおいおいな」
リオが笑いながら私の頭を撫でました。お金があるなら甘えましょう。公爵家の資産からすれば微々たるものですもの。私が消したリオに贈られたドレスも売れば金貨で取引されたでしょう。リオが金貨を支払いすぐに護衛は選ばれました。
翌朝ロキは旅立って行きました。リオと一緒に旅立つロキを見送りました。
優秀な冒険者を選んでいただいたので、きっと大丈夫だと思います。念のため無事に辿り着くことを祈りましょう。
その後リオはギルドの冒険者達に戦いを挑まれコテンパンにしていました。
依頼数をこなしていないのにSランクの認定を受けました。リオは器用で強いので当然ですわね。
気付いたら家を買って私の荷物が全て移動されていました。
持ち合わせがあまりないって言ってましたよね?リオの金銭感覚はよくわかりませんわ。
リオと一緒に暮らせるなんて夢みたいです。
懐に余裕があったのでしばらくは仕事を休んでリオの休息にあてましたわ。リオのやつれた頬も膨らみを取り戻し濃紺の髪も艶やかに。リオの体型が戻ったのは嬉しいですが、気を抜くと見惚れるほど素敵になりました。私の記憶にないほど美しい銀の瞳で微笑み、一見華奢なのに逞しい体の持ち主の腕は時を忘れる魔性を持ちますわ。何もしないで腕の中にいるだけなの私の体はおかしくなります。でも家の中なので気にせず堪能しますわ。
ロキを送ってくれたAランクの冒険者のアルクがたくさんのお土産を持って帰ってきました。アルクが預かったセリアが作った無限袋の中にはフラン王国の思い出が詰まってました。
「リオ、忘れられてなかったですわ」
「当然だろう?シアを早く見つけてくれって頼まれたよ」
「いつか会えるかな」
「シアが望むなら叶えるよ」
「まだ帰れませんわ」
「セリア達には悪いけど当分は俺だけで。シアが足りない」
流れる涙を拭ってくれる手に幸せを感じます。大好きな皆に会いたいし恋しいです。
でもレティシア・ルーンが生きてることは知られてはいけないので国にはまだ帰れません。二度と会えないと思っていた恋しい人の腕が傍にあります。リオと一緒にいられる奇跡があるならまた奇跡が起るかもしれません。寂しくて堪らなかった生活が幸せに満たされるとは思ってもみませんでした。
リオには一人での里帰りを勧めましたが拒否されました。どんなに時が流れても信用されません。
奇跡が起こるのはしばらく先の話になります。
私はAランクまでランクアップしたので仕事はいつもリオと一緒に行っています。
Sランクのリオに追いつきたいですが、全然勝てる見込みはありません。
色んな謀略を巡らせたおかげで監禁回避し脱貴族をしました。掴み取れたのはいつも支えてくれた最愛の人のおかげだと思います。
平穏な人生ではありませんが私は幸せです。
これからも私の大事な人達に幸多かれと願います。
本編はこれで終わりになります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
明日からは番外編になります。




