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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第三章

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第百十話  追憶令嬢18歳

おはようございます。ルリです。

平穏な生活をめざして謀略を巡らせていた元ルーン公爵令嬢、Cランクの冒険者です。


外国の巡回使が訪問するため村を離れました。

幻の花の採集のため砂の国の辺境の洞窟を目指していたらリオと再会しました。

野営の準備をしていますが再会してからリオが離れません。

再会できたのも抱きしめられるのは嬉しいですが、仕事の邪魔です。ずっと腰を抱かれ身動きが取れません。全然進まない野営準備はフウタ様が手伝ってくれました。火を起こしてリオを椅子にしながらフウタ様が狩ってくれた肉が焼けるのを待っています。


「巡回使なのに戻らなくていいんですか?」

「遺書を置いてきたから問題ない」


左手を私のお腹に回し、右手で私の髪を弄びながら素敵な笑顔で言われた言葉に首を傾げます。

遺書?


「心配しますよ」

「やつらは頭がおかしい研究者達だから俺がいなくても気づかない。まぁ今回一緒なのは一人だけだけど」


フラン王国の巡回使には会ったことがありませんがセリアみたいな方の集まりなんでしょうか……。研究にしか興味のない人が倒れていても通り過ぎるような方々の集まりですか?


「それもどうかと思いますが、お一人なら尚更戻らないと心配しますわ」

「俺は探し人を見つけたら消息を絶つって言ってあるから」


どういう意味でしょうか。


「探し人?」

「シアだよ。意外な顔しないで。シアは俺の気持ちがわかってないよな。これからはずっと一緒だからゆっくり自覚していけばいい」


リオの顔が近づき頬に口づけをされて顔が熱くなりました。昔のようにまた胸の鼓動がおかしくなっていきます。きっと赤面してますわ。


「シア、可愛い」

「主、肉が焦げるよ」


フウタ様の声に正気に戻り、リオの頬に伸びた手をほどいて肉を火から離します。不満そうなリオの顔は気にしません。

食材は貴重です。こんがり焼けた鶏肉をナイフで削ぎ落としディーネのために小さく切ってお皿の上に置きます。


「慣れてるな」

「ええ。最初は苦労しましたがもう大丈夫ですわ。リオ、今日は戻ってください」


お肉を食べる可愛いディーネを見ながら平常心が戻ってきましたわ。感心した声を出すリオに私の成果を自慢したいですが優先すべきことがあります。夜の移動は危険ですが風使いのリオなら別ですわ。この地域は空に危険な魔物はいませんから。


「シアと離れないって言ったろ?」

「お役目はどうしますの?」

「俺が戻らなければ死んだことになるから問題ない」

「大問題ですわ。マール公爵三男が亡くなったら外交問題です」

「マールの名前は返上したよ」

「え?」

「権力はあってもいいけど、なくても困らないだけの実力あるし。公爵家だと巡回使に選ばれないからさ」


なくても困らないと言える実力が羨ましいです。私は未だに自分の力不足を痛感しますわ。

あら?

リオがそこまでして巡回使を目指してたなんて知りませんでしたわ。


「巡回使を目指していたなんて知りませんでした」

「シアを探すのに、国のお金で外国を渡り歩けるなんて天職だろ?」


サラリと言われたリオの言葉の意味がよくわかりません。


「諸外国を巡るために巡回使になりたかったのでは?」

「諸外国を巡りたいならわざわざそんな面倒なことしないよ。俺はシアを探すためだけに巡回使になった。国や家のためじゃなく、俺の為だけに。気楽な三男で良かったよ」


リオの分の肉を渡すと笑いながら受け取るリオの言葉に驚きました。


「私を探すって生きてるかもわからなかったのに」

「ずっと傍にいるって約束しただろ?何を選んでも助けてやるって。マール公爵家じゃなくなったけどいいか?」


懐かしい言葉。

あの時は信じてませんでしたわ。

追いかけてくるなんて、また会えるなんて思いませんでしたわ。まさか一緒にお肉を食べられるなんて夢のようですわ。


「リオがいれば何にもいりませんわ。私もルーン公爵令嬢ではありませんもの。よく見つかりましたわね」

「フウタに探させて王国内にはいないのがわかったから。フラン王国と交友のない国を目指すと思ったからな」

「確かにフラン王国と交友のある国は避けてましたわ」

「だろ?シアの考えは大体わかるよ。噂も色々あったから」

「噂?」

「銀髪の美少年や男装した美少女に助けられた人が多くて。嵐の海を歌声一つで鎮めたり、盗賊退治したり、決定打は砂の国のアメフラシの天使様の話。雨乞いの後に天使様が水の祠をまつりなさいと神託を受けてから砂の国に雨が定期的に降るようになったって。リール嬢の従兄の話もあったよな。銀髪の美少女が華麗にモンスターを倒して、バイオリンで鎮魂歌を演奏したとか」


肉を食べながら話すリオの言葉に後悔しました。銀髪は珍しくないと思ってましたが髪色も変えなければ駄目でしたわ。身元が見つからないように気を使ってたのに……。

凄く話が盛られてますわ。歌で嵐なんて鎮められません。

船旅中は暇だったので船の上で魔法の練習してたのを勘違いされたんですか!?詠唱を歌と勘違いですか?

盗賊も退治してません。

祠を作ってほしいと頼みましたが、神託を受けてないですし天使でもない。

定期的に雨が降るようになったのは関係ありません。

好物の実が雨が少ないと育たないと知ったディーネが実のために雨を降らせていたからでしょうか……?

クマは倒しましたがモンスターは倒してません。鎮魂歌も演奏してませんわよ!?

あの青年はエイミー様の従兄でしたの!?でも強引な感じがリール公爵夫人に似てますわ。


「事実と異なることばかりです。きっと違う銀髪の方ですわね」


食欲がなくなってきました。


「ちゃんと食器の上の肉は食べろよ。事実じゃなくてもシアが迂闊で助かったよ。最初は全然足取りも掴めなかったから。長期戦を覚悟してたけど三年で見つかって良かったよ」


リオは相変わらず食事に厳しいです。リオが足取りを掴めなかったのなら私の消息はまだ見つかってませんわね。

うん?リオに見つかったってことは……。


「私が生きてることは……」

「国では行方不明になっている。捜索するほど国に余裕はないから、極秘で探してたのは俺達だけ」

「ルーン公爵家は?」

「シアは魔力がなかったけど、水の精霊に愛されていた。水の精霊に愛されたルーン公爵令嬢の声に答えて水の女神が力を貸して海の魔法を鎮めた。国に帰れば聖女認定受けられるかもな。ルーン公爵令嬢が自分の身を犠牲にして王家を守ったことでルーン公爵家の人気がまた上がったよ」


真実とは異なりますがルーン公爵家に咎がないなら良かったですわ。やはりお父様達がうまく動いてくれたんでしょう。


「ルーン公爵家に迷惑がかからず良かったですわ。皆は?」

「元気だよ。落ち着いたら会いに行きたい?」

「聖女認定は嫌です」

「聖女認定されたら俺はシアと結婚できなくなるからさせないけどな」


大神官に認められ精霊に愛される信心深い女性が与えられる称号が聖女です。精霊と国のために祈りを捧げ戒律だらけの自由のない生活。豪華な調度品に囲まれて好物も献上品として用意されます。そして聖女が嫁ぐのは神官家系か王家のみ。私にとって避けたいものばかりですわ。


「絶対にさせないから安心して。国に帰りたい?」

「今はまだ帰れません。いつか影からこっそり様子を見るだけなら大丈夫でしょうか?きっと私のことを覚えてませんわね。セリアだけはポシェットを忘れて出かけたから怒るかもしれませんわ」

「たぶん誰も忘れないだろう。怒られるのは諦めろ」

「仕方ないですわね。もしもいつか会えるのなら楽しみですわ」

「でもさ、当分は俺のことだけ考えて」


耳元で囁かれた声に胸の音が大きくなりました。安全のために離れようとすると腕を引かれて正面から抱きしめられました。

まずいです。

危険な野営中に平常心を保てないなんて冒険者失格ですわ。

甘い笑顔を浮かべた顔が近づき、恥ずかしくて目を閉じると唇が重なりました。息が苦しくなるまえに唇が離れて息を溢すと吐息がかかるほどの距離にリオの顔があります。

熱の籠った銀の瞳から顔を逸らし距離を取ろうにも抱きしめる腕の強さに失敗しました。


「シア、結婚しようか」

「はい?」

「ずっと一緒にいようって約束したの忘れた?」

「約束は覚えてますが、結婚?戸籍ありませんし王国には帰国できませんわ」

「手続きは後で。俺と結婚してくれる?生涯シアだけを愛するよ。絶対に離さない」


甘い声で耳に響く言葉と甘い瞳に見つめられどんどん胸の鼓動が速くなり、思考ができずに自分がおかしくなっていきます。リオの聞いたことがないほど甘さの籠った声に、なにも考えられずコクンと頷きます。


「ありがとう」


リオの指が顎に伸び、そっと持ち上げられ唇が重なる。息を吸うたびに角度を変えて何度も口づけされ体の力が抜けていく。

!?

どんどん口づけが深くなり初めての感覚にふわふわしていきます。何も考えられず水の音が響き、どんどん熱が上がっていくことだけがわかります。もう熱にうなされ駄目ですわ。


ピシャン!?



「やりすぎよ!!これ以上レティに手を出したら許さないわ」


熱が離れ目を開けるとびしょ濡れのリオ。ディーネが私の肩の上から威嚇してます。


「俺の応援してくれるんじゃ」

「レティの味方よ。リオの応援なんてしないわ。まだレティはお嫁にあげないわ。この約束は無効よ」

「シアの了承とっただろ!?」

「雰囲気で押し切っただけじゃない。私は認めないわ」

「さっきは、」


二人が喧嘩を始めたのでリオの腕から抜け出し寝袋に入りました。

片付けは明日にしましょう。真っ暗なので今日はもう休まないと明日に響きます。ディーネとリオの喧嘩している声が響いています。リオと一緒にいられるなんて夢みたいです。

夢でも構いません。

目が覚めてリオがいなくてもこの幸せを胸に生きていけますわ。

大好きなリオとディーネの声を聞きながら目を閉じました。

きっと優しい夢が見れますわ。


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