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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第三章

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第百八話  追憶令嬢18歳

こんにちは。ルリです。

平穏、気楽な生活を目指して謀略を巡らせていた元ルーン公爵令嬢です。

Dランクの冒険者です。18歳になりました。


砂の国の辺境の村でのんびりと過ごしています。

生きるためにはお金が必要なので冒険者として生計を立てています。

今日もお金を稼ぐためにギルドの依頼書が貼ってある掲示板を見ています。

Bランクの危険な薬草探しという魅力的な依頼を見つけました。高額の依頼にはチームで組むという条件が付きますがこの依頼には条件はありません。そろそろランクアップしましょうか。

依頼を受ける前に先にランクアップの手続きです。受付担当のレラさんに用事が終わるのを待ち声を掛けます。ギルドの事務や雑務はレラさんが担当しています。


「レラさん、ランクアップをお願いします」

「ランクの希望は?」

「Cランクでお願いします。試験しますか?」

「依頼の規定数も超えているし、Bランクのダッドも倒しているから試験はいらない。Aランクになる時は試験するけど」

「わかりました。いつから依頼を?」

「明日から」

「わかりました。お願いします」

「後でお祝いしましょう」

「楽しみです。ありがとう」

「ルリは可愛いからお姉さんついつい贔屓しちゃうわ」


明るく笑うレラさんに笑い返します。ギルドは男性ばかりで、依頼者以外の女性は私とレラさんだけ。その所為かうちに料理を作りに来てくれます。ギルドでは私が最年少なので可愛がってくれるのでしょうか?お付き合いは大事なので好意には甘えています。

男装は続けていますが男性とは誰にも認識されていません。以前いた国では少年って言われていたんですが・・。もっと筋肉がつけば男性に見えるようになりますよね。あまり身長も伸びませんし、貧相な体のままなので修行を頑張りましょう。

私は脱貴族の時は家宝のケイトの本だけは持って来たかったのですが・・。余計なことを考えてはいけませんわ。内容は覚えてますもの。

ランクアップに必要な書類も書き終わりレラさんに渡しましたし、帰りましょう。


「ルリ、ランクアップすんの?」

「シオン、お帰り。お疲れ様」

「あぁ。ちょっと待ってて」


汚れているシオンは依頼を終えて帰ってきたようです。

レラさんに報告をしてますが私は帰ってはいけませんか。

肩の上の乗っているディーネに頬を舐められくすぐったくて笑ってしまいます。

今日は祠にお参りしてディーネと過ごしましょう。ディーネの好きなお菓子焼いて可愛い相棒を堪能しましょう。幸せな1日になりますわ。


「ルリ、待たせたな」

「なに?」

「お祝いしよう。ランクアップの」

「いらない」

「俺に時間をくれるって言ったの覚えてる?」

「忘れてましたわ。私のお祝いだとお礼になりませんよ」

「俺がルリと過ごしたいだけだから」

「その言葉は村の女性たちに言ってあげてください」

「つれないな」


シオンはリオに雰囲気が似てます。いつもは明るいですが時々落ち着きを見せたときの笑った顔がリオと重なります。そして生前のリオの得意だったエセ紳士顔も。

さっさと一人に決めてしまえばいいのに。シオンに恋する女性達が可哀想。でも想うだけでも幸せか…。恋には色んな形がありますもの。


「祠に行きたいんだけど」

「好きだよな。よく行ってるもんな。もちろん付き合うよ」


よく行ってる?明るく笑いサラリと言われた言葉に首を傾げます。祠は目立つ所にあるので、見られたのかもしれません。気にするのはやめましょう。知らなければ幸せなことばかりです。


村の祠に備える花を買って歩いていると痛いほど視線が突き刺さります。村で人気のシオンと歩いているからですよね。


「シオン、待ち合わせしよう。離れて歩いてくれませんか?」

「なんで?」

「シオンと歩くと女性に睨まれるから嫌です」

「睨まれなければ、一緒に歩いてくれる?」

「私の隣はディーネ専用です」

「ディーネは俺が抱っこするよ」


肩の上のディーネがさらわれました。なぜかシオンにディーネが懐いてるのが悔しい。


「私のディーネが・・。村の女性だけでなくディーネまで手中に収めるなんてひどい」

「俺はルリもその一員に加わってほしいんだけど」

「ごめんですわ」

「即答かよ」

「悩むまでもないですわ」


シオンの冗談に付き合うつもりもありません。聞いている村人に勘違いされても困ります。

祠に着いたので常備してある掃除道具で綺麗にします。青い花は売ってなかったので赤い花を供えて祈ります。


いつもありがとうございます。どうか皆が幸せでありますように。


頬のくすぐったい感覚に目を開けるとディーネが肩の上に戻り私の頬を舐めていました。

ディーネ、最近本気で猫化してません?

可愛いからいいですわ。

ディーネの頭を撫でると癒やされますわ。


「大丈夫か?」

「はい。終わりました。ありがとうございます」


シオンにじっと見つめられるのは心配されてるんでしょう。冒険者も心配性な大人が多いんですの。久々に令嬢モードの笑みを浮かべます。


「満足しました。シオンはどこに行きたいの?」


「先に食事に行こう。俺、腹減った」


依頼から帰ったばっかりなら空腹ですかね。そういえば今日は依頼に出かけるために非常食を用意してありましたわ。


「あげます」


マドレーヌを渡すと嬉しそうに笑ったシオンが手を伸ばし一口で食べてしまいました。


「生き返る。ルリの手作り最高!!」


マドレーヌで興奮するシオンは相当大変な依頼だったんでしょう。自然の恵みの少ないこの国で甘味は少ないです。


「シオン、今日は休んだら」

「ルリが一緒にいてくれれば充分癒やされるから」

「変なの」


訳のわからないシオンは放って食堂に入りました。

この食堂は安くて美味しくて人気です。私には量が多いのでいつも減らしてもらっていますが。

見慣れない給仕のお姉さんが注文した料理を運んで私の前に置きました。

なぜか今までで一番量が多く盛られています。

食料は貴重なので残すのはダメ。ディーネに頑張って食べてもらう?

お店では動物の飲食禁止だからディーネにご飯を食べさせられない…。

お腹と戦うしかない?


「ルリ、どうした?」


シオンに不思議そうな顔で見られています。

シオンのどうした?はリオに似ています。


「量が多くて…」

「残せば俺が食べるよ」

「そんなに食べれるの?」

「余裕余裕。姉ちゃん、皿ちょーだい!!」


見知らぬ給仕のお姉さんがシオンに笑顔で皿を渡しました。そして立ち去る時に睨まれた目でわかりました。シオンのファンですね…。

やっぱり私は男性にはまだ見えませんか。

ここでも私は女性に嫌われますの!?

シオンには近づきたくないのに、なぜか頻繁に声を掛けられ構われます。

シオンより年下の冒険者は私だけだからですよね…。平穏に暮らしたいのに…。

やはり私には運がありませんわ。

 

「ルリ、ほら」

「ありがとう」


お皿に自分の食べれる分を取り分け、残りをシオンに渡します。


「これだけで足りるの?」

「これでも食べられるようになったんです」

「昔から?」

「昔はもっと食べれませんでした」

「苦労してるんだな」


確かにマナーを覚えるのは苦労はしました。でもそんな日々さえも懐かしいです。頭を撫でられる感覚に目を開けると視線を集めています。振り払うのは目立つので睨みつけます。


「やめてください」

「ごめん、つい」

「もっと自分が視線を集めていることを自覚してください」

「ルリだけには言われたくない言葉だよ」


失礼ですね。

とりあえずさっさとお店から出るために急いで食べましょう。

お金は私が出そうとしたら止められました。シオンが折れないので甘えてご馳走になりました。

「俺に甘えて」っと言うシオンの言葉にお姉さんが顔を真っ赤にしてました。

シオン争奪戦に巻き込まれないために、明日からは絶対にシオンとは村を歩かないとを心に決めました。

人気の男性には近づかないのが一番です。

私は帰りたかったんですがシオンに強引に案内され村の外れに進んでいきます。

小さい野原がありました。砂の国は雨が少ない所為か花や緑が少ない。小さな草原には白や黄色の小さな花が咲いています。どんな環境でも強く咲き誇る草花に命の強さを感じて笑みがこぼれます。


「驚いた?」

「はい。たくさんの花、初めて見ました。綺麗です」

「元気出た?」

「元気ですよ」

「なら良かった。座らないか」


明るく笑ったシオンが木の下に座り隣をポンポンと叩きました。頷いて座ると膝の上にピョンと降りてきたディーネの頭を撫でながら目の前に広がる景色を堪能します。自然豊かな国で育った私は緑が貴重なことは知りませんでしたわ。またルーン領に咲き誇る青い花は他国では珍しい物ということも。ルーン領にはきっと今日も青い花々が咲き誇っていますわね。


「ルリはどうして距離をおくの?」


サラリと問いかけられた言葉に首を傾げます。


「なんのことですか?」

「誰も踏み込ませないだろ?」


人との距離感はそれぞれですわ。それを口に出すのはいかがなものかと思いますわ。わざわざ口に出す必要もありませんね。目の前に広がる生命力の強い草花の前で無粋な話はやめましょう。


「気の所為ですわ」

「その胡散臭い笑み浮かべてるときは警戒して距離をおこうとしてるだろ?」

「うさんくさい?」


無意識に浮かべていた令嬢モードの笑みですか?

うさんくさい?隣を見る迷いなく頷くシオン。


「ああ」


私の令嬢モードの笑みがうさんくさい?いえ気にするのはやめましょう。捉え方はそれぞれですわ。初めて言われた言葉に動揺を隠して笑みを浮かべます。


「それならそれで構いません。」

「怒った?」

「怒ってません」

「怒ってるじゃん。そうやってもっと色んなルリを見せてよ」


女性受けする甘さを含んだ笑みをするシオンの顔に見覚えがあります。私は免疫があるので村の女性のように見惚れることはありません。


「私にはエセ紳士スマイル効かないので無駄ですよ」

「エセ紳士スマイル?」

「女性を見惚れさせる表情のことです」

「ルリも見惚れる?」


ふざけているシオンの冗談に付き合うつもりもありません。私は呼吸を忘れるほど美しい存在を知っていますもの。


「ありえません」

「つれないな。ルリもそろそろ年頃だろ?」

「私はディーネと二人で生きていくって決めてるので」

「人生は長いのに」

「シオンに言われる筋合いないですわ。シオンが素敵なお嫁さんを迎えたらお説教聞いてあげますわ」


シオンの笑顔が消えました。眉が下がり困ったような顔をしています。より取り見取りのシオンにはお嫁さんに心当たりはないんですかね?こんな素敵な場所を知っているならデートのセンスは良さそうですわ。


「鈍いよな。ルリはどんな人がいいの?」

「ディーネだけでいいです」

「参考までに」


シオンはこれ以上モテモテになりたいんでしょうか?目の前に広がる花では満足できないなんて欲深い所がありますのね。


「誠実で稼げる方が人気だと思いますよ」

「ルリ、個人としては?」

「私だけを見て大切にしてくれる人がいいですわ。」

「俺みたいな?」

「ありえません」

「即答は傷つくんだけど。俺、浮気しないよ」

「女性に人気の男性はごめんですわ。苦労しますもの」

「ちゃんと守るし、けじめもつける」


ディーネを撫でていた手の上に重ねられた手に驚いて視線を向けると真顔で見つめられていました。シオンに向けられる瞳に記憶の中のリオの瞳が重なる。守るよって言ってくれた時の顔にそっくり…。目を閉じ、心を落ち着けてから目を開けると恋しい色は一つもありません。似ていても彼は違う。重ねられた手を振り解く。


「それは想い人に言ってあげてください。勘違いなら笑ってくださって構いませんが、私は恋愛も結婚もしないと決めてます。色恋は関わりたくありません」

「つれないな。そんなにりおが大切なの?」


真剣な顔で溢された言葉に驚きました。シオンが知っているはずありません。リオは珍しい名前ではありません。でも私の知るリオは一人だけです。


「話したくありません」

「振られた男なんて忘れなよ」


伸びる手をパチンと叩き落します。


「うるさいですわ」

「思い出すだけで泣きたくなるんだろう?そんな酷い男忘れなよ」

「リオはひどくありません」

「でもルリの傍にはいない。俺ならそんなことしないよ」


リオはずっと一緒にいてくれるって言ってくれました。でも私は掴めませんでした。リオの繋いでくれた手を解いたのは私です。思い出すたびに胸がズキズキと痛んで呼吸が苦しくなります。どんなに自制しても制御できない感情や心を乱す存在は一人だけ。欲しい腕は似ているものではありません。


「リオ以外なんていりません」

「俺と似てるんだろ?ルリが俺といて時々他のやつを見ているのは気づいてた。俺を代わりにしてもいいから」


歪んでいく視界に面影が重なっていく。それでも目の前にいる人を間違えないように視線を逸らさない。


「そんな悲しいこと」

「悲しくないよ。それでルリが笑ってくれるなら。いつか俺を見てほしいけど…」


シアの願いはなんでも叶えるよ。笑った顔が一番だ。耳に響く声さえも間違えそうになります。頬に触れ涙を拭う優しい手の持ち主は違う人。目を閉じたらきっと間違える。胸に縋って目を閉じて泣いたらわからなくなる。でもわかります。私が求めるのは一人だけ。手をパチンと叩き落とし立ち上がる。


「リオの代わりなんていません。似てても別人ですわ。私がリオ以外を見るなんて無理ですわ。失礼しますわ」

「待って!!」


シオンの声を無視して走って家を目指します。これ以上一緒にいれば混乱します。

追いつかれないように、走りにくい道を選び本気で駆けます。

家に飛び込みディーネをギュっと抱きしめる。シオンを見るとつい重ねてしまう面影。余計に自覚しましたわ。

忘れられたらとっくに忘れています。

3年経っても胸の痛みは消えません。リオと一緒だった幸せな記憶も忘れられません。一度だけでいいからリオの腕に抱きしめられたい。シアって呼ぶ声を聞きたい。美しく力を持つ恋しい瞳に見つめられたい。思い出すとさらに涙が溢れます。夢でもいいから会いたい。止まらない涙と一緒に押し寄せるまどろみに身を委ねました。

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