第百六話 追憶令嬢17歳
こんにちは。ルリです。
砂の国のDランクの冒険者です。
砂の国の辺境地の村に住み始めもう半年がたちました。
慣れない環境は疲れますが、拠点があるのは有り難いです。砂の国の前にいた森の国からはとある事情で逃げてきました。森の国のギルドには貴族や王族も足を運びますがここのギルドは安全です。旅人の冒険者は現れても高貴な冒険者は首都ギルドに流れますので。雨乞いをしたので長居するつもりはありませんでしたが、冒険者やレラさん達が親切にしてくださり気付くと時が経っていました。急いで出て行く理由もないのでディーネと話し当分はここでのんびりすることにして庭に種を植えました。
冒険者やレラさんやご夫人達が色々教えてくださったおかげで生活にも余裕がでてきました。シエルやターナー伯爵家で家事を教えてもらったことに感謝ですわ。
私はギルドの掲示板を見て今日も仕事を探します。
「ルリ、たまには一緒に仕事どう?」
「ごめんね。体力ないから迷惑かけないように一人でしたいの」
基本は一人でできる仕事しか受けません。誰の誘いも断ります。友好を深める気もありません。
「そんなんじゃ上のランクを目指せないよ」
「私は生活に困らないだけの稼ぎがあればいいから。誘ってくれてありがとう。」
「おぅ」
名前は知りません。
ギルドにはたくさんの人が出入りしますが私は片手の数の人の名前しか覚えていません。
いつまでいるかわからず、誰とも親しくなる気がないから覚えるつもりがないのも原因ですが。人生は知らなくていいことばかりですから。
掲示板に貼ってあるDランクのウサモン狩りとEランクの薬草採集の2枚の依頼書を取ります。
こないだ矢の作り方を村人に教わったので、矢もたくさんあります。ウサモンなら矢で充分ですわ。
「レラさん、これお願いします」
「わかったわ。そろそろ規定数超えるけど、ランクアップの手続きする?」
ランクアップには規定の依頼数をこなすことと、同ランクの人を試合で倒すのが条件です。
私はBランクのダッドを倒したので、規定数をこなせばBランクまではランクアップ可能。
Cランクに上がれば受けられる以来はBかCかDランクの依頼のみ。私が好きなEランクの依頼は受けれなくなります。
高ランクになればなるほどチームで動く必要がでる依頼が増えます。それは非常に困ります。
「もう少しDランクのままでいいかな。採集好きだから」
「そう?採集人気がないからこっちとしては助かるけど」
「じゃあご褒美にレラさんのご飯が食べたい」
「ルリのためならいつでも作るわ」
掛け合いみたいな軽い会話にも慣れてきました。
レラさんのご飯は美味しいのでまた料理を教えてほしいのは本音です。
ギルドに行く前に出かける装備は整えてあるのでそのままディーネと一緒に森に向かいます。
砂の国は自然が少ないですが木も生えています。フラン王国では見たことのない緑の少ない木ばかりですが。そして緑は少ないですが森と呼ばれる場所もあります。フラン王国なら林と呼ばれそうですが。
フラン王国との大きな違いは魔物やモンスターが頻繁に出現します。魔物とモンスターの違いは私にはよくわかりません。
ウサモンはウサギに角が生えて突進して襲ってくるモンスターです。角は薬の材料になり肉も食べられるので報酬がいいものです。
薬草の採取をしながらウサモンを探します。ウサモンを見つけたので弓矢を構えて矢を放つ。ウサモンは視野が狭いので正面にさえ回らなければ安全です。
「ルリ、ここ危ないわ、遅かったみたい」
木がざわめき周囲を見ると熊がいました。熊の生息する場所ではないんですが。心臓を狙って矢を放つと弾かれました。もう一つの人の気配に目を見張ります。人影を結界で囲み。襲いかかる熊に手を伸ばして魔力を纏い放つ。
「水流斬」
水の刃を熊に向けて放つと熊が倒れました。熊の前で転んでる人のところに急ぎます。
「大丈夫ですか?」
熊に怯えて震えている青年は膝に怪我をしています。
「失礼します」
膝に手を当てて治癒魔法をかける。傷は消えたので震えている青年が現実に戻ってくるまで熊の処理をしてしまいましょう。
剣で熊の毛皮を剥ぐ。真っ二つに切断したので価値が下がるかもしれません。あとは心臓の魔石を採取。魔力持ちの熊は美味しくないから、肉はいらない。魔石を取ると時間と共に熊の死骸も消えていく。砂の国の魔物は死体処理が楽なのが助かります。ただどうして剥いだ毛皮がなくならないのか不思議。気にしてはいけません。
戦利品をマジック袋に入れます。マジック袋はなんでも入る袋です。容量は持ち主の魔力に左右されるみたいですが私の魔力は人より多いのでほぼ無限袋と一緒です。。
旅をしているときに、行商人にもらった魔法アイテムです。運ぶのに力がいらないからすごく助かってます。もう会うことはないですが、いつか再会できたらお金を払いたい。
あの当時は魔石くらいしかあげられる物がありませんでした。
処理も終えました。さて目の前の方はどうしましょう。放っておくのも心配ですわね。
「大丈夫ですか?」
「助けていただきありがとうございます」
「無事でよかったです。どちらにむかわれるのですか?」
「旅をしておりまして、どこか宿をご存知ですか?」
なんでこんな森に入ってきましたの?たぶん知らなくていいことですわ。
「私の暮らす村でよければ案内します」
彼は旅芸人でした。
自分の芸を磨くために色んな国を旅をしています。目的地はなく心の赴くままに。昔は私も憧れましたわ。
村に着いたので、別れようとすると止められました。
「よければお礼を」
「お気持ちだけで結構ですわ」
何度も断ってもお礼をすると言われます。
あまりにしつこいので芸を見せてもらうことにしました。
道端では迷惑になるので広場に案内すると旅人はマジック袋から楽器を出しました。
フルート、バイオリン、立て笛、太鼓・・・。
見覚えのある楽器もあれば見たことのない物がいくつかあります。
バイオリンを持ち美しい響きに耳を傾けると音が変わりました。楽器を変えながら演奏をしています。どの楽器も美しい音色を奏でています。初めて見る演奏方法ですわ。楽器を変える時も音が途切れることはなくうっとりするほどの音色に耳を傾けるとざわめきが聞こえ人が集まってきました。砂の国の辺境の村では大道芸や音楽隊に出会ったことはありません。
一曲弾き終わると人に囲まれていました。子供達がもっと弾きたいとねだると、頷いてまた演奏を始めました。
「ルリちゃん、ルリちゃんも楽器弾ける?」
「バイオリンならたぶん」
「聞かせて、お兄ちゃんばいおりんかして!!」
「邪魔はいけません」
「どうぞ、ご一緒に」
旅人に笑顔でバイオリンを渡され少女に期待の籠った目で見つめられています。これは断れる雰囲気ではありませんね。バイオリンを受け取り旅人の美しい音色に合せて適当に合わせましょう。
フラン王国の曲と曲調が似てますわ。バイオリンに触るのは数年振りですが体が覚えてますわ。バイオリンには思い出が詰まっており懐かしい記憶が浮かび慌ててかき消します。曲が終わり一礼すると拍手が沸き起こりました。
広場に集まる人の中に見慣れた顔を見つけてため息を飲み込みます。冒険者の集団を見つけ後日絶対にからかわれますわ。
そして酒の肴に演奏しろと無茶ぶりされるんでしょう。断るよりも応じる方が早いんですよね。
「お嬢さんお上手ですね」
「貴方には及びませんわ。バイオリンをありがとうございました」
「お礼と出会いの記念に受け取ってください」
バイオリンを返そうにも首を横に振られ受け取ってもらえません。
「こんな高価な物いただけませんわ」
「私は楽器集めが趣味なので、よければもらってください。このバイオリンもお嬢さんのもとにいきたいって」
「ルリ、もらえば?またルリの音楽聞きたいわ」
ディーネが念話で話しかけてきます。
「ありがとうございます。お言葉に甘えますわ」
そして旅人は宿屋に一泊してまた旅に出ていきました。
きっと立派な旅芸人になりますね。
私はウサモンの数が少なかったので新たに狩ってからギルドに行きました。魔力熊の討伐はBランク任務でしたが特別に報酬を頂けました。高額な報酬を頂いたので当分は働かなくても良さそうです。
やはりバイオリンを演奏したことはからかわれました。そして予想通り酒の肴に演奏しました。ここには厳しい指導をする方はいないので気楽でしたが、バイオリンの音色に恋しい音を思い出しました。ズキンと痛む胸を笑みを浮かべてごまかしました。
私が思い描いた平穏な生活がこんなに寂しいものとは思いませんでしたが絶対に口に出しません。にぎやかで楽しそうなギルドの空気に笑みを浮かべて、ダッドがおごってくれた食事を口にします。




