表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

123/207

第九十九話  追憶令嬢15歳

ごきげんよう。

レティシア・ルーンです。平穏な人生を目指す公爵令嬢ですわ。

15歳になりました。


ラウルの畑の件は生徒会が動きました。

貴重な研究の損失として加害者達に慰謝料請求。

加害者は下位貴族も多く十分な金額が集められ来年の予算と修繕費に回りました。

畑には魔道具が置かれ、関係者以外立入禁止。研究生には防犯のため魔石が渡されました。

この魔石は売れないように学園を出たら消える仕組みになっているそうです。

使用後は書類の提出、研究生を辞めたら返却が義務づけられました。

今回の研究の損失がどれだけ大きな問題かクロード殿下が朝礼で話されたので二度とラウル達の畑に手を出す人がいないことを祈るばかりです。

ルメラ様は罪を認めず怒っていますが…。他の方は殿下の裁きに文句を言いません。学園でなければ不敬罪ですわ。

ラウルへの風当たりが強くなるのが心配でしたが、レオ様をはじめ、ラウルを好意的に思う方々がこっそり守ってくださっています。

実はラウルにはファンクラブがありました。小動物のような外見なのに中身は紳士で誠実、優秀なラウルに骨抜きにされた方々の集まりです。ラウルに気付かれずに見守ることが鉄則。

ラウルが知ったら恐縮して困るのが目に見えてますものね。私も入会しようと思ったんですが、リオに却下と言われました。

友達がファンクラブの会員は複雑なので、やめてよかったかもしれませんわ。

私とリオを見守る会潰れないかな…。忘れていても盛り上がっているブレア様達を見ると複雑ですわ。


「ルーン様」


話しかけられ本から顔を上げます。敵意の視線を向けられないのが違和感でたまりません。


「マートン様、なにか?」

「どうしてルメラ様を放っておきますの?貴方がいじめてるって噂を流されてますのに」


不機嫌そうなマートン様はいつもより怖いお顔をしていません。


「関わりたくありませんわ。言葉が通じない方とのやりとりは学んでませんわ」

「ルーン様でも?目障りなんですが」


目の前のマートン様も言葉が通じないご令嬢です。私は同派閥の令嬢は止めますがマートン様の行動には関与しませんわ。

相手をしたいならご自分でお願いしますわ。別に目障りとは思ってませんわ。私は関わりたくないだけですもの。マートン様や取り巻きに令嬢達に噂を流されても面倒ですからきちんとお伝えしましょう。


「人の価値観はそれぞれですわ」

「この状況を放置ですか?ルメラ様が親しくされてる方々の婚約破棄騒動―」


その騒動の中心にいるのはアリス様です。気づいてないのは令嬢として問題ですわ。私は本の続きが気になるのでそろそろいいでしょうか?目の前で婚約破棄騒動の話が続いております。仕方ありませんわ。溜め息を我慢して口を開きます。マートン様以外にも聞こえるように常識を伝えましょうか。


「私はお父様から命がない限り動きませんわ。簡単に破棄できる婚約に価値はないと思います。子供の意思で破棄できる婚約の中の政略なんてたかがしれてますわ。マートン様ならご存知でしょう?」


挑発するように笑みを浮かべ不機嫌そうなマートン様と睨み合います。


「わかりました。令嬢達を宥めようか悩んでましたが見守ります。なんです!?その驚いた顔は?」

「いえ。マートン様が私の意見を受け入れるなんて予想外で」

「失礼ね」


失礼の塊のマートン様には言われたくない言葉ですわ。驚いた顔をしてしまったのは淑女として許されませんが。もうこの話題が終わったなら本の続きを読んでもいいでしょうか?


「お話中に失礼します。マートン嬢、レティシアをお借りしても?」

「構いません。私は失礼します」


マートン様、優雅に去っていきましたが私をエイベルに引き渡さないで欲しかったですわ。もっとお話したいわけではありませんが。エイベルが教室に呼びに来るなんて珍しいですわ。


「レティシア、殿下がお呼びだ」


見上げたエイベルの顔が真剣で嫌な予感がします。殿下の呼び出しはお断りできませんわ。


「わかりましたわ」


無言のエイベルと一緒に生徒会室に行きました。中には椅子に座るクロード殿下と後に控えるリオがいました。


「ルーン嬢、突然すまない。礼はいいから座ってくれないか」

「お役に立てるなら光栄です。失礼します」


笑みを浮かべて礼をせずにソファに座ります。

空気が緊張して肌がピリピリしますわ。正面に座るクロード殿下は笑みを浮かべてますが、感情の読めないお顔です。


「このバイオリンに見覚えは?」


殿下から差し出されたバイオリンを受け取ると裏に名前とルーン公爵家の刻印。

記憶にあるものより傷んでますが…。


「私のバイオリンだと思います」


「本当に?」


ルーン公爵家でレティシアという私と同じ名を持つものはいません。ただし1年生の時に消えたお父様に贈られたバイオリンと同じ物かと聞かれると絶対の自信はありません。クロード殿下の確認に念の為、後に控えているリオに視線を向けます。


「俺も確認した。間違いないと思う」

「はい。私の物で間違いないと思います」

「そう。昨日の放課後と今朝の行動を教えてくれないか?」


感情を隠した声と嘘を許さないと見つめる金の瞳、この探られるような感じは尋問ですか?いつも傍に控えさせるエイベルに私を迎えに出したのは逃がさないため?リオをお傍に置いているのは事前に私に事情を話さないように?


「昨日の放課後は研究棟の畑にラウルに会いに行きました。その後は寮の自室に。朝も寮の自室から教室に向かいました。侍女のシエルと4年生のラウルに確認していただければ証明していただけると思います」

「第二寮には行ってない?」

「はい。行ってません」


殿下の金の瞳に見つめられ、嘘をついていないか確かめられてます。ここで逸らしたら疑われますので静かに見つめ返します。


「君の侍女も第二寮には行ってない?」

「友人に使いを頼むことはありますが、第二寮に用を頼んでませんわ」

「第二寮にいる友人とは?」

「ハンナ・イーガン嬢とステラ・グレイ嬢です」

「わかった。ありがとう」


やはり尋問ですわ。

殿下に尋問されたの初めてです。教えていただけるかわかりませんが、試しに聞いてみましょう。


「殿下、私は何を疑われているんですか?」

「リアナ・ルメラ男爵令嬢より君が部屋に忍びこんで部屋を荒らしたと訴状が」


え?

教えられたことにも口にされた情報にも驚きましたが動揺を隠して令嬢モードの穏やかな顔を作って殿下の瞳を見つめます。感情の色を見逃さないように。


「私が犯人と思われた根拠を教えていただけますか?」

「目撃証言はない。部屋が荒らされ、彼女のバイオリンの裏側に君の名前を刻まれていたのが根拠と」


すごい無茶苦茶ですわ。私は自分でバイオリンに刻印は彫れませんわ。刺繍がやっとですわ。

それでも殿下がルメラ様にイチコロされたなら彼女側につく。道理を曲げるほどの力を持つのが王族ですもの。私の知っていた殿下はこんな理不尽な証言を本気にして自ら動く方ではありません。この段階なら臣下に調べさせても尋問を自らがされることはないでしょう。殿下は多忙ですのでわざわざ貴重な時間を使うとは思えませんがイチコロされたなら。ここで抗議をすれば余計に面倒なことが起きますが一応の確認をしましょうか。


「ルメラ様はバイオリンをどう入手されたんですか?」

「時期は不明だが彼女の部屋の前に置かれていた。贈り物として部屋に保管していたそうだ」


穏やかな殿下の声に感情の色は見えません。

それは落し物ではありませんか?時期は不明ってなんですか?一歩間違えれば泥棒?中身を確認して私の名前に気付かなかったのでしょうか?

突っ込み所は満載ですが、殿下は気にされないんですね。イチコロされると冷静な判断もできなくなるのはよく知ってます。動揺する心を落ち着けるために深呼吸して顔を上げると殿下の後ろに控えるリオが心配そうにエイベルが眉間に皺を寄せて見ています。今はリオがいます。この場で投獄されることはないでしょう。もしも予想通りの答えならルーン公爵邸で謹慎を申し出ましょう。


「わかりました。どうか一つだけ教えてくださいませ。殿下は私を疑っていますか?」


私が彼女の部屋の前にバイオリンを置いて、彼女に盗まれたと訴え自作自演で彼女を加害者と訴えることもできます。事実は状況と言葉と権力でいくらでも形を変えます。真実は人の数だけ存在するもの。寮が違い親しい令嬢のいないルメラ様は第一寮の私の部屋には入れません。高価な私物を部屋に置く生徒が多い第一寮の中に入るための入寮証があります。私はステラとハンナに渡していますが発行には面倒な手続きがあります。そして私の名前入りの入寮証を持つ二人が寮で問題を起こせば私の責任になります。ルメラ様に渡すような令嬢はいないでしょう。

きっとこの件の裏には誰かがいますし、騒いだら負けです。何よりも殿下の意向を確認しないと待っているのは破滅ですわ。まさかクロード殿下にまで処罰されるかもしれないなんて。


「私は中立だ。だがルメラ嬢の証言だけで、物的証拠がないから」


証拠不十分なため私が白とも断言できないということ。それでもこのおかしな状況でも殿下が直接動くならりルメラ様にイチコロされましたのね。道理が通りませんがイチコロされれば道理なんて関係ありません。家よりも彼女を選ぶ人がいたように。そして殿下達も・・。中立と言うなら正しい方法で動くということでしょう。私の罪状を作り、裁判に持ち込み罰を与える。


「殿下のお心を教えていただき感謝致します。私はルーン公爵令嬢として恥じることはしていません。殿下の判断に従いますわ。失礼してもよろしいですか?」

「あぁ。構わない」


感情の色のない殿下の穏やかな笑みに礼をして退室しました。今は拘束されることはなさそうですわ。部屋を出ると、ピリピリした空気から解放されたためか手が震えました。冷たい体を腕で抱き気持ちを落ち着けるために深呼吸します。

過去の私は殿下を信じてましたが捨てられましたわ。

もうすぐ監禁される時期が近付いています。15歳の誕生日に殿下から贈り物を受け取った時はあんな未来を思い描いていませんでした。私は相談していただければ協力しましたのに。

気分が晴れず水が恋しくてたまりません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ